力を持つ者
ダリアは全力で駆けた。 一度も止まらず、振り返る事も無く、ロイヤルクラウンへと進んだ。 遠くで、爆発音が微かに聞こえる。 唇を噛みしめ、それでも止まる事は無い。
恐らく、ミルノア様と残った仲間達は覚悟を決めている。 部隊兵となったばかりの私でも分かる。 未熟な先見眼でも、ミルノア様と残った仲間ではあの魔族の女には勝てない。 速さには自信はある。 だけど、あの中ではミルノア様が一番強く、速い。 そんな中、私をロイヤルクラウンへ向かわせたのは一番戦力にならないから。
「くっ・・・!」
走りながら歯軋りを起こす。 悔しい。 私も部隊兵となった時、いや、ロイヤルクラウンに入った時から覚悟は決めている。 そんな中、敵と戦う事もできない自分に苛立つ。
どれくらい駆けたのか、時間にして数十分は駆けただろう。 流石に息が切れてくる、ここまで離れれば、あの魔族の女も追いつける筈はない。 ミルノア様達が抑えてくれているだろうから。
ダリアはほんの一瞬、駆ける足を止めた。 瞬間、視覚に何かが映った。 赤い花弁が舞い、ダリアの右腕に付着する。 気づいた時には遅かった。
花弁が爆発を起こし、ダリアは吹き飛ばされた。
「うああっ!!」
衝撃で吹き飛ばされたダリアは倒れ込んだ。 右腕に激痛が走る。 そんな中、ダリアは直ぐに態勢を立て直し、左腕で旋棍を構えながら辺りを見渡した。 隙は見せれない、少しでも隙を見せる事、それは死に直結する。
人気は無い。 先見眼でも空気は見えない。 少し目を離し、自身の右腕を見ると、まだ繋がっている事を確認して安堵する。 しかし、痛みでまともに動かすことは出来ない。
「ぐっ・・・! はぁはぁ!」
その時、数枚の花弁が舞い落ちてくる。 ダリアはそれを見ると、旋棍で空気の弾を飛ばした。 花弁は空気の弾に触れたが、ヒラリと舞うだけで爆発はしなかった。
「反応しない!? くっ!」
数枚の花弁を辛うじて交わすと、花弁は地面や周りの木に触れ、爆発を起こした。
「うっ、くっ! 危なかった! とにかくロイヤルクラウンへ・・・!」
ダリアが足を一歩踏み出した時、足に違和感を覚えた。 自身の黒い服に、赤い花弁が付着していた。
(上からの花弁は囮!? しまった・・・!)
爆発を起こした花弁はダリアの左脚に襲い掛かった。
「ああっ!!」
再度、吹き飛ばされたダリアは痛みでまともに動けなかった。 足は繋がっているが、赤い血で覆われ、肉が飛び散ってしまっている。
(これじゃ、もう・・・!)
「うっ・・・ぐうっ!」
仰向けに倒れるダリアの目に、更に容赦なく無数の花弁が舞い落ちてくる。 ヒラヒラと舞う花弁は恐ろしく、そして優雅でもあった。
「ここまで・・・ね」
ダリアは自身に降りかかる最後を感じ、ゆっくり目を瞑った。 もう、動けない。 私もここまで。 フレデリカ、ノーティス、エマ・・・ドヤ顔。 また、話したかったわ・・・。
薄れゆく意識の中、ダリアはふと違和感を感じる。 違う、この花弁、何かが違う。 だが、ダリアはそれ以上何も考えられず、意識を失った。
「うっ・・・」
どれくらい眠っていたのか、ダリアは薄っすらと目を開けた。 そして、一番最初にその目に飛び込んだのは、仲間の姿だった。
「ダリア! 気が付いたのね! アンナ様!」
先にロイヤルクラウンへ援軍を呼びに行った仲間の二人が目に映る。 そして、少し離れた所から一度だけお会いした事がある方が近づいてくるのが分かった。 周りには他の仲間が五名見受けられる。
「何があったか説明してくれる?」
仲間にゆっくり起こされたダリアは、辺りを見渡す。 そこには無数の花弁が落ちており、仲間の一人がその花弁を手にしているのが分かった。
「駄目です! それに触れては!」
「わっ! ちょっ、ちょっと・・・!」
ダリアは仲間の一人の花弁を叩き落とした。 しかし、その花弁はヒラヒラと舞うだけで、何の反応も示さない。
「くっ・・・つう!」
急に動いた為か、身体に激痛が走る。 見ると、右腕と左脚には包帯が巻かれてはいるが、まともに動かす事は出来そうになかった。
「もう、重傷なのよ? この花弁が何なの?」
「・・・違う」
「えっ」
「この花弁じゃない・・・どういう事?」
「説明してくれる?」
混乱するダリアに、アンナが静かに問いただす。 アンナの顔を見たダリアは、ゆっくりと頷くと、今までの話を行った。
「花弁が爆発。 そう」
「ダリア、ミルノア様達は?」
「・・・」
「分かった。 アンナ様、如何されますか?」
「貴方達はダリアを連れて戻りなさい。 ミルノアの部隊はダリアと貴方達二人以外全滅よ。 私は先に行くわ」
「お一人でですか?」
「正直言うとね、此処から先は足手纏いよ。 ミルノアの部隊をここまで壊滅させる相手だと、私も無事じゃ済まないでしょうし」
「アンナ様、この花弁は?」
辺りを見渡しながらアンナが口を開く。
「知っている相手だと牡丹。 自分が作り出した牡丹の華を扱うわ。 物体に触れると爆発を起こす。 一度、戦った事があるけれど、強いわよ」
「御詳しいんですね」
「昔、少しね」
花弁を摘まみながらアンナは更に続けた。
「花弁を武器にする者は珍しいわ。 彼女は人間だけど、極度の人嫌いで滅多に姿を現さないわ。 一度、ロイヤルクラウンへ勧誘した事があるけれど、断られてしまったわ」
「人間なのにロイヤルクラウンへの勧誘を断ったのですか? それに、ロイヤルクラウンへ攻撃してくるなんて」
「彼女の怒りでも買ったのかしら。 ダリアを助けたのも気まぐれか何か、ね。 とにかく、貴方達はダリアを連れて戻りなさい」
「分かりました。 ダリア、私に捕まって」
「はい。 アンナ様、申し訳ありません」
「謝る必要は無いわ。 行きなさい」
一人の部隊兵がダリアを抱き上げると、ダリアはその部隊兵の首に手を回し、しっかりとしがみついた。 それを確認すると、部隊兵の一人が先陣を切って走り始め、ダリアを抱えた部隊兵の周りを宿舎兵の三人が囲む様に走り去って行った。
一人になったアンナはジッと森の奥を見つめると、刀を抜いた。
「出て来なさい。 いるのでしょう」
【・・・】
アンナに言われ、森の奥から一人の魔族が姿を現した。 魔族の周りにはフワフワと赤い牡丹の華が浮かんでいる。 アンナはその魔族の姿を見て、眉間に皺を寄せた。
(・・・牡丹じゃない)
「私がいるから手を出さなかったのでしょう? 貴方はただの破壊魔ではないわね」
【貴方は綺麗?】
「どうかしら? 試してみる?」
アンナがそう言うと、魔族は瞬時に花弁をばら撒いた。 アンナはそれを見ると、距離を取り、斬撃を放った。 しかし、飛んでくる斬撃は牡丹の華が集合した分厚い華の壁に遮られてしまった。
「器用ね」
(やっぱり牡丹の華を扱う。 でも、姿は牡丹じゃない。 どういう事?)
【・・・】
先にばら撒いた花弁が地面に触れると、所かまわず爆発を起こす。 爆風と土煙で辺りが包まれたが、先見眼を持つ二人には関係が無い。 アンナは魔族の後ろに周り込んだが、魔族はそれを分かっているのか、自身の手に華で出来た剣を持ち、アンナと切り結んだ。
(反応も早い)
「やるわね」
【・・・分かりました】
激しい攻防の中、魔族の女は独り言の様に言うと、距離を取ったアンナに対し、華の剣を向けた。 距離は十分に取っている、そこから何が出来るのか。 アンナは警戒を怠らなかったが、突如、それは起こった。 魔族の持つ華の剣が急に伸び、アンナを貫きに掛かった。
「っ!!」
寸でで交わしたアンナは、魔族との距離を一気に詰める為、前に出る。 しかし、その足は花弁に止められてしまう。 舞い散る花弁を交わすため、一度退いたアンナだったが、それが間違いだった。
アンナの目には花弁よりもっと小さい粒子の様な物が辺りを包んでいるのが見えた。
(まさか・・・自分事吹き飛ぶ気?)
【時間切れ】
魔族の女がそう言うと、魔族の女は自身の手で牡丹の華を握り潰した。 瞬間、自身を巻き込んで爆発が起こる。 爆発は小さな粒子へと引火していき、遂にはアンナや周囲諸共吹き飛ばす大爆発を起こした。
「・・・ふっー」
森ごと吹き飛んだ跡地にはアンナが立っていた。 衣服はボロボロだが、その体には血の一滴も流れていない。 周囲を見渡したアンナは小さく溜息をついた。
「まさか自爆する訳ないでしょうし。 私の身体が固くなかったら即死ね」
(それにしても気になるわね。 牡丹の華を武器にするのは彼女だけだと思ったけど。 姿形は彼女じゃ無い。 どういう事かしら・・・)
アンナを中心に辺りは巨大なクレーターと化しており、アンナは飛び上がると、周囲を先見眼で見渡した。 気配は何も無い。
「逃げられたわね。 時間とか言ってたけど。 はぁ、本当に、オルベルスネーシア。 いい部下持っているわ」
「生きているか?」
今にも潰れそうなあばら屋に一人の女性が姿を現す。 大きな袋を持った女性は何度も来たことがあるのか、朽ち果てた部屋の中に躊躇無く入ると、そう声を掛けた。
「あっ! どれすねえちゃ!」
そう言いながら嬉しそうに一人の魔族の少女が走って来る。 少女はウィンクドレスの足にしがみつき、嬉しそうに顔を上げた。
「生きているな」
そう言いながら少女の頭を撫でると、奥から他にも魔族の子がやって来る。
「ドレス姉ちゃん! 来てくれたんだね!」
「姉ちゃん来てくれた!」
「来てくれたー! 来てくれたー!」
「遅くなったな。 メシだ」
言いながら袋を開けると、少女が目を輝かせながら中から果物を取る。 それを見た最年長であろう魔族の子が声を掛けた。
「コラ! ドレス姉ちゃんにお礼を言ってからだろ!」
「どれすねえちゃ! ありがちょ!」
「僕もー! 姉ちゃんありがとう!」
「ありがと! ありがと!」
「ああ」
食べ物を取り合う魔族の子達を見て、ウィンクドレスは適当な瓦礫に腰を掛けた。 そんなウィンクドレスに最年長の魔族の子が近づいて声を掛けた。
「ありがとうドレス姉ちゃん。 もう食料も無くなりかけてたんだ」
「そうか。 遅くなったな」
「ううん。 最悪、このお金で何か買うつもりだったから」
「金?」
「うん。 ちょっと前に僕、捕まったんだ。 でも、話してみたらいい奴等でさ。 食料もくれたし、お金もくれたんだよ、ほら」
言いながらポケットから金貨の入った袋を取り出す最年長の子を見て、ウィンクドレスは眉を顰めた。
「人間に捕まったのか? それで、金もくれただと?」
「うん」
「・・・どんな奴だ」
ウィンクドレスがそう言うと、果物を頬張っていた少女が話に割り込んだ。
「おんなのひとだよー」
「うん、一人はすっごいおっかなかったけど、もう一人は優しい人だったよ」
「特徴は無いのか」
「うーん、おっかない人は真っ黒なローブみたいなのを着てて、魔族の匂いがした。 もう一人は変な匂いがした。 でも優しい人だったよ」
「・・・そうか。 私は少し寝る。 適当に起こせ」
そう言うとウィンクドレスは座ったまま目を瞑った。 それを見た最年長の魔族の子は、ソッと離れ、他の子達と一緒に食事を始めた。
(魔族の匂いのする奴に妙な匂いの二人連れ・・・か。 あいつ等、か)




