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ロイヤルクラウン第五部隊部隊長 アンナ

 

 ロイヤルクラウン第五部隊部隊長アンナは、手練れの宿舎兵三名と、部隊兵二名を連れ、西と東の大陸境へ向かっていた。 理由としては、東の大陸からやってきている魔族、魔物の数が増えており、現存の戦力では厳しい状況にあるという報告を受けた為だった。


「アンナ様、この度の件、申し訳ありません」


「我々が不甲斐ないばかりに・・・」


 連れ立って歩く部隊兵二名は、苦悶の表情でアンナへと言葉を掛けた。 この二名の部隊兵は、大陸境を警備している者だ。 自身の力の無さからアンナを向かわせている事を悔やんでいる。


「あら、どうして謝るのかしら?」


 そんな二人にアンナは優しい笑みを浮かべながら口を開いた。


「毎日、最前線で戦っている貴方達を責める者はいないわ。 むしろ、こっちこそ御免なさいね。 本当は私達がずっと行ければいいのだけど」


「ロイヤルクラウンは最後の砦です。 そこを守護する事こそがアンナ様の使命」


「私達が前線で戦えるのもアンナ様達がロイヤルクラウンに居られるからこそです」


「ふふ。 ありがとう。 でも、遠慮なく言って頂戴。 死んでしまっては行けないわ。 最近、魔物や魔族も活発になって来ているし。 今度、一次的に防衛ラインを一段階下げる話も出ているわ」


「しかし、それでは西の大陸が・・・」


「だから、一時的によ。 心配いらないわ。 ブルデンバウム王国から飛び切りの助っ人が来る予定よ。 到着次第、一気に押し込む手筈になっているの。 それまで、私達で抑えるのよ」


「分かりました。 魔族や魔物共に目にもの見せてやりましょう」


「宿舎兵は如何されますか? 流石に前線には出せないと思いますが」


 部隊兵の一人にそう言われ、アンナは後ろをついてくる宿舎兵達をチラリと見ると、又、直ぐに前を見つめなおし、口を開いた。


「あの三人は頭数に入っていないわ。 今は出来るだけ多くの戦場を経験させる事が大事。 貴方達が面倒を見て上げて頂戴。 見るだけでも良い錬磨になるわ」


「分かりました。 宿舎兵達は私達にお任せください」


「ええ、よろしくお願いするわね」


 (ドヤ顔くらいの力があれば前線に出しても面白そうだったけど、この三人じゃそれもキツイわね)












 



「暇、ですね」


「錬磨でもしなよ」


「今日の分は終わりました」


「ふーん。 おっ、これも美味っ」


 私とリースさんは、マキさんの小屋に戻り、暇を持て余していた。 マキさん曰く、刀が出来るのに数ヶ月は掛かるとの事だった。 そんなに掛かるのかと尋ねると、それでも最短の期間みたい。 つまりは、数か月、私とリースさんは此処で缶詰状態となる訳で。


「数ヶ月ですよ、数ヶ月。 長いですよね」


「文句言うんじゃないよ。 アンタの為に手に馴染んで切れ味も追及するって言ってるんだからさ」


「それはありがたいですけど、はー・・・暇ですね」


「アタシじゃ話相手にもならないって? 失礼だね」


「いや、そうじゃなくてですね。 って言うか、リースさん食べてばかりじゃないですか。 ヴラナさんから頂いてるとはいえ、遠慮したらどうですか」


「遠慮? 何それ?」


「はー・・・」


 干し肉を齧りながらキョトンとした顔で言うリースさんに溜息が出る。 数ヶ月、か。 錬磨しているとは言え、こんな雪山じゃする事も限られてくるし・・・ノーティス、エマ、どうしてるだろう。 こんな時に二人がいたら楽しいんだろうけど。


 二人の事を思い出す私は、不意に気になった事をリースさんに話した。


「そう言えば、アンナさんとリースさんって仲が良いですよね」


「アンナ? 何でアンナ?」


「えっ、だって、私の錬磨に一緒になってくれてたじゃないですか」


「あー、まぁ、そうだね。 何? アンナが気になるの?」


「気になるって言うか、優しくて良い人ですよね」


 私がそう言うと、リースさんはしかめっ面で口を開いた。


「アレが優しくて良い人? 何処見てたのさ」


「えー? 良い人だと思いますけど?」


「アンタ、アレの本性を知らないからそう言えるんだよ」


「甘党ですよね。 一度、とんでもない紅茶出されましたけど」


 ロイヤルクラウンで錬磨していた時、休憩時にアンナさんが淹れた紅茶を飲んだ私は、余りの不味さに失神していたのを思い出した。 うう、今思い出しても頭痛がするわ。


「甘党な所とか本性とは言わないよ。 まぁ、頼りがいがある所はある。 実質、一番動かしやすいのがアンナだし」


「ほら、やっぱり良い人じゃないですか」


「だからって良い奴ってなる訳でもないよ。 アレはね、アタシが知る限り、最も深入りしたらダメなタイプだよ」


「深入り?」


「アンタは他の部隊長を良く知らないだろうから、分からないかもしれないけどさ。 クイーンは厳格で秩序を徹底して守る」


「あ、それは分かります」


「ん。 レイメイは戦闘狂。 だけど、それ以外は結構まともだね。 政務もこなすし。 何より、口は悪いけど仲間想いだし」


「レイメイさんが来てくれなかったら死んでましたよね」


「ん。 クラウディアは・・・いいや、いつか話すよ。 まぁ、悪い奴じゃない」


「クラウディアさん。 会って見たいですね」


「で、アタシの中で一番深入りしたくないのがアンナ」


「えっ」


 私は頭の上に?マークを出した。 話を聞く限り、一番まともそうなのがアンナさんなのに?


「アンナの事を良く言う奴は多い。 ただ、それはアンナの事を知らないからそう言える」


「アンナさんの事?」」


「ん。 仲間に信頼されてるし、仲間の錬磨も良く見て上げてる。 世話好きで穏やかな表情でおっとりしてる所もあるからね」


「・・・褒めてます?」


「事実を言ってるだけだよ。 ただ」


 そこまで言うと、リースさんは瓶から直接、水を飲むと、その瓶をテーブルにドンッと置いた。 衝撃で私の皿からナイフとフォークが落ちる。


「その分、敵だと認識したら容赦がない。 例えガキだろうが赤子だろうが徹底的に相手が死ぬまで攻撃する事を止めない」


「・・・」


「昔、一度アンナと魔族を討伐しに行ったことがある。 そこは、魔族が暮らす集落みたいな所だった。 アタシは向かってきた魔族を倒した。 そこの魔族達は人間を襲った事があったからね、殺したよ」


「はい」


「でも、そこには魔族のガキもいた。 生まれたばかりであろう赤子もいた。 アタシはそれを見逃そうとした。 まだ、ガキだったし、これから人間を襲わないと誓わせてた」


「あの街の子供達みたいですね」


「ん。 けど、アンナは違った」


「どうなったん、ですか」


 リースはもう一度、瓶から水を飲むと、今度はゆっくりと下ろした。 俯き加減に口を開くリースさんの表情は上手く見えない。


「皆殺し、さ。 ガキは勿論、赤子もね。 アタシは問い詰めたよ、殺す必要があるのかと、ね」


「・・・」


「アンナはいつもの穏やかな表情で言ったよ」



 【どうしていけないの? 魔族は敵よ? 根絶やしにしなきゃ行けないわ】



「アレはさ、そういった感情が無い。 欠落してるんだよ。 死の概念が無い」


「死の概念?」


「死ぬという恐怖がまるで無い。 殺すという躊躇も容赦も無い。 だから、アタシが知る中で最も深入りしたくない」


 そこまで話すと、リースさんは小さく溜息をつき、更に口を開いた。


「だから、アンナは強い。 恐怖も躊躇も容赦も無いからね。 アタシはアイツとはやりたく無い。 考えてもみなよ」


「はい」


「ただでさえ腕の立つ奴が死の恐怖も無く迫ってくる。 そして、躊躇無く容赦無く攻めてくる恐怖。 ある意味、人間じゃない」


 話すリースさんの表情は険しい。 本当にやり合いたく無い相手みたい。


「アンナが優しい? 逆だよ。 アンナは、ロイヤルクラウンの中で一番、冷酷なんだよ」









 (森の中・・・ね。 それに、隠してはいるけれど、この空気。 部隊兵の二人は気づいている。 でも、宿舎兵の子達は気づいていないわね)


「全員、下がりなさい」


 アンナが立ち止まり、一声掛ける。 宿舎兵の三人は何事かと戸惑っていたが、部隊兵の二人は違った。 今までの戦闘経験から直ぐに行動を開始する。 部隊兵の二人は宿舎兵を守る形で前に立ち、武器を構えた。


 【アハハハ。 気づかれちゃったかしらぁ? 手練れがいるって話だったけど、当たりみたい】


 バキバキと木々を薙ぎ倒しながら魔族と魔物の群れがやってくる。 その中で、一際大きな空気を持つ魔族が舌なめずりをしながら群れの前に立った。


「空気で分かるわ。 周りは雑魚よ。 二人共、しっかりその子達を守りなさい」


「はっ」


「お任せください」


 (アンナ様からしたら雑魚かもしれないが・・・)


 (私達とほぼ同格の魔族もいるわ。 宿舎兵達じゃ荷が重すぎる)


 二人の部隊兵はアイコンタクトで会話すると、攻勢に出るより、防衛する事を確認する。 宿舎兵の三名もそれぞれに武器を構えるが、その動き、目配せはぎこちない。 


 【お前達、後ろのゴミをかたずけなさい。 アタクシはこの女を貰うから】


「ワカリマシタ」


「ギィイ!」


 命令された魔族と魔物が部隊兵と宿舎兵を取り囲む。 アンナは一瞥すると、意に介していない様子で魔族の女へと目を向けた。


「丁度いいわ。 貴方には聞きたい事が出来たの」


 二本の刀を携え、不敵に笑うアンナに、魔族の女は姿を変えていく。


 【答えてあげる。 このネヴァナローナを倒せたらな!】



 

挿絵(By みてみん)





 木々を薙ぎ倒し、周囲を破壊しながらアンナとネヴァナローナは激しい攻防を繰り広げていた。 


「もう少し自然を大切にしたらどうかしら?」


 【そう思うなら逃げ惑うな。 一息に殺してやる】


「そうね。 これだけ離れていればいいかしら」


 アンナが立ち止まると、ネヴァナローナも動きを止める。 周囲は二人の攻防により破壊されており、森な中だったと言われても疑うしかない状態だった。


 【仲間共から離したか。 人間にしては利口だな】


「だって、貴方の技、範囲が広いもの」


 【ククッ。 よく分かったな】


 不敵に笑うネヴァナローナの下半身。 醜悪な顔から紫色のガス状の物を吐き出した。 それらは周囲を汚染し、倒れている木々が腐食され、朽ちていった。


「毒、ね。 それも凄い濃度」


 【人間であろうが魔物であろうが一吸いすれば瞬時に朽ち果てる。 この毒から逃れた者はいない】


 毒ガスをばら撒き続けるネヴァナローナに対して、アンナは軽く息を吐きながら相手を見つめる。


 (確かに、あの毒は厄介ね。 仕方がない、わね)


 刀を構えたアンナは大きく息を吸い込むと、その場から瞬時に消え、ネヴァナローナへと接近する。 だが、ネヴァナローナもその速さに対応し、応戦する。 毒ガスが散乱する中、二人の攻防は激しさを増し、徐々にガスが掻き消えていく。 


 【グッ・・・クッ!】


 徐々に押され始めたネヴァナローナは、醜悪な下半身を振り回し、アンナとの距離を大きくとった。 その攻防は十分近くはあっただろうか、周りの毒ガスは完全に消え失せていた。 ネヴァナローナは離れたアンナに対して、汗を掻きながら叫んだ。


 【ハァ・・・ハァ。 貴様、本当に人間か!?】


「ぷはー。 ふぅ」


 【十分近くだぞ!? そこまで無呼吸で行動できるとは!】


「肺活量には少し、自身があるのよ。 それに・・・」


 【黙れ! 貴様の話等どうでもいい!】


 (コイツにガスは効かんか。 ならば・・・)


 ネヴァナローナは再度、毒ガスをばら撒き始める。 しかし、今度のガスは濃度より視界を防ぐ事を重視しているのか、濃霧の様な形で周囲を包み始めた。 そして、濃霧状のガスによりネヴァナローナは姿を消した。


「今度は視覚、ね。 思ったより多才なのね。 でも」


 アンナの目が瞬時に動き、濃霧の中を切りつけた。 切断された何かは真っ二つにされながら倒れると、周囲のガスが徐々に晴れて行く。


「空気で分かるわ。 まだ、死んでないわよね?」


 切断された何かに近づいたアンナだったが、突如真後ろからネヴァナローナが現れていた。 アンナがゆっくりと振り返った。


 【かかったな! 人間!】


 醜悪な下半身の一つを囮にしたネヴァナローナは、自身の手を変化させていた。 触手と化したそれは、アンナを捉え、地面へと叩きつけた。


 【グクッ! 貴様相手に足一本なら安いものよ! 貴様にガスは効かん! ならば直接注入するだけ!】


 そう言いながら、ネヴァナローナは毒が滴る鋭い牙でアンナの首筋へと齧り付いた。


 【終わりだ!】


 毒液を注入するネヴァナローナだったが、ある違和感を感じる。 そんな中、穏やかな表情のアンナが口を開いた。


「話はね、最後まで聞くものよ?」


 【・・・?】


 (何だ? 何だコレは・・・?)


 徐々にその違和感の正体に気づいたネヴァナローナは、大量の汗を拭き出し始めた。


 (牙が、このアタクシの牙が・・・通らない・・・?)


「私、身体の硬さにも自信があるの。 女性としては嫌になるけれど」


 瞬間、ネヴァナローナの変化した両手の触手と、残った足の一本が細切れと化した。



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