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ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい  作者: 凪雨
ロイヤルクラウン編
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ドヤ顔、オリガと試験結果

 sideオリガ


 なんだあの妙な剣士は。 


 今回の試験官を担当する私の第一印象はそれだった。 ザラから女性剣士の入隊希望者が来るという連絡を受け、城下町に入った時から先見眼でその剣士を見ていた。


 歳は二十いかない程度か。 実力は話しにならない。 しかしなんだあの空気は? あんな空気見たことない。



「姉さん。 面白い子が来るみたい」


「見えた?」


「ええ。 私が試験官したかった」



 対となる位置に立つイディスが話しかけてくる。


 珍しい。 イディスが誰かに興味を持つことなど滅多にないのに。 双子の妹だけあってイディスの先見眼も強い。 イディスも何かを感じ取ったか。


 それにしても───。 クロウの奴、実力は間違いないのに先見眼を買われて受付メイドをやっている筈。 あんな妙な者を通すなんて後で説教だ。



「少し、力を見てみる」


「あれじゃ、失神するかも」


「抑える」


「当然」



 私は妙な剣士がクラウン橋に足を踏み入れた瞬間、圧をかける。 クラウン橋はアーチ状になっている為、姿は見えないが、妙な剣士の空気が戸惑い、不安、恐れと様々な渦を巻いているのが解る。 


 やはり力は無いな。 ここで失神するか、恐れをなして逃げ出すか───。



「え・・・?」



「なんだ、あの空気は・・・」



 ありえない。 なんだあの空気は。 奇妙だ。 奇妙すぎる。あの程度の力しかない者ならこのくらいの圧をかけてやれば逃げ出すか最悪気を失う筈。 それがどうだ。 身体が鈍くなるくらいでこっちにやって来るなんて、どういうことだ?  


「何者?」


「解からない。 初めて見る」


「攻める?」


「力は無い・・・筈」



 自分の先見眼に自信が持てなかったのは初めての事だ。 私もクロウと同じく先見眼を買われて名誉あるRCの門兵をしている。 その私がこの妙な剣士の力をハッキリと捉えられない事が悔しく、腹立たしい。 


 クロウの説教は無しにする。 私もまだ先見眼の錬磨が足りないらしい。 だが、この妙な剣士と直接会って見てみたい、話してみたい気もする。


 アーチ状の橋の中央までやってきた妙な剣士は私達を見るや否や急に背筋を伸ばし、歩いてくる。 先程までの圧より少し強めにかけているにも関わらずだ。


「ぜぇぜぇ、ロイヤル・・・クラウン入隊希望者です! はぁはぁ・・・よろしくお願いします!」


 門の中央に立ち、肩で息を切らせながら自信過剰な顔でそう切り出した妙な剣士。 そんな剣士を私はじっくりと観察する。 直接見る事が出来れば先見眼も強くなる。


 なんだこの生き物は。 確かに一般の人間より強い。 だが、私達からすれば話にならない程弱い。 ロイヤルクラウン内の最下層である宿舎兵の力にすら及ばない。 それにこの剣士、まさかとは思ったが先見眼がまるで無い。 私の圧すら途中から感じていない。 この妙な空気がそうさせているのか・・・。 面白い。 こんな人間は初めてだ。


 黙って観察している事を不審に思ったのか再度その妙な剣士が口を開きかけた時、私は先に言葉を発した。


「聞いている」


「はへぇ!?」


 素っ頓狂な声を上げ、戸惑う妙な剣士。 声には出さないが、隣でイディスが笑っている空気が漂った。 


 どうやら私が女だったのが意外だったらしい。 鎧で全身を包んでいる為、見た目には判らないが、この子はそれくらいの先見眼も持ち合わせていないらしい。


「こっち」


 そう言いながら私は門兵やメイドが通る扉を開く。



 前言撤回、久しぶりに楽しい試験になりそうだ。











 自分の強さってどうやったら判ると思う? 答えは簡単。 自分より強いと思う人と一戦交えればいいのよ。 そうすれば自分の力が判るわ。


 うん、何が言いたいかというと・・・


 やっぱり私は強いって事! あんな化け物な試験官さんに善戦するなんて流石私。 無数の斬撃を繰り出しているけど、相手は防戦一方。 上手く防がられているけど私の猛攻の前にオリガさんからの攻撃はないし。 防ぐのが精一杯ってやつね!


 おっと、防ぐのはきついと思ったのかしら? 大きく後ろに飛び避けるなんて。



「あなたの攻めはわかった」


「へ?」


「次はこちらからいく。 防ぐように」


「・・・!!!」



 オリガさんは私の視界から消え、気づいたら私は吹き飛ばされ壁に叩きつけられていた。


 痛った・・・! 何されたの今・・・? 身体が動かない。 全身が・・・痛すぎて悲鳴を上げてる。


「ただの蹴り。 早く立つ」


「ぐ・・・う・・・」


「早く」


 冗談じゃないっての! これどっか折れてるんじゃない!? くそう、立てばいいんでしょ立てば・・・! つぅ・・・!


 私は全身の痛みに耐えながらなんとか起き上がる。 オリガさんはそんな私をジッと見つめている。


「刀を離さなかったのは褒める」


「あ・・・ありがとうございますぅ・・・!」


「けど、今の蹴りくらい防ぐ」


「見えなかったんですよ!」


「見えるように動いている」


「見えませんよ!」


「なら、それがあなたの実力」


「・・・」


 私の実力? これが? オリガさんに一撃当てることもできず、蹴りを防ぐことも出来ないのが私の実力? そんな筈ない! 私は強いんだ! 村では一番の強さだったんだ! 世界には私のファンが沢山いて私の活躍を見たがってるんだ! こんな・・・こんなのが私の実力なの・・・? 違う! 違う違う違う!!


「私は・・・強い・・・」 


「?」


「私には世界に沢山のファンがいるんです・・・私は強くなきゃいけないんです」


「何故強さを求める?」


「・・・ファンが」


「ファン?」


「ファンが私を待っているからです」


「何を言っている。 あなたにファンなどいない」


「これからできるんですよ。 私のファンクラブが。 悪さする魔物をばっさばっさ倒して私は大活躍。 いろんな街や国や村の人から感謝されてその名を轟かせる! そして私は世界一の剣士として英雄になるんです!」



 ドヤ顔で胸を張る私。 身体の痛みは大分和らいだ。 


 そうよ、私は英雄になるの。 こんな試験なんかで躓いてる暇なんてないんだから!


「英雄。 子供の夢」


「いいじゃないですか。 目標は大きく高らかにですよ」


「くだらない」


 また消えた! ドヤ顔で宣言したのはいいけどとにかくこの試験を合格しなきゃ意味がない! といっても見えないものは見えないし。 一撃当てれば合格ってどうすれば───。


「うぁ!!」


「これでもまだ言える?」


 オリガさんに顔を掴まれ壁に叩きつけられる私。 あまりの衝撃に後ろの壁にヒビが入り、全身に激痛が走る。


「つぅ・・・! ぐああ・・・!」


「まだ言える?」


「うああっ!!」


 痛い痛い痛い!! 抑えつける手に力入れすぎじゃない!? 死ぬ! 死ぬって!! でもこれだけ接近してるなら・・・! 動け私の手! 


「! ・・・試験の結果を言う」


「へ・・・へぇ・・・? この状況で言います?」


「合格。 良く耐えた」


 そう言うとオリガさんは私の顔を掴んでいた手を放す。 その場に座りこんだ私は全身の激痛を感じながらぜぇぜぇと肩で息を切らした。


「一撃当てる。 よくやった」


「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・はぁはぁ」


 オリガさんに顔を掴まれ壁に叩きつけられた時、私は手にした長刀をチョンとオリガさんの身体に当てていた。 切った訳でもなく、ただプルプルした手で当てただけだけど。


「英雄の夢。 叶えられそう?」


「叶えますよ・・・はぁはぁ。 絶対に!」


 ドヤ顔でそう言う私にオリガさんが笑った空気がした。 そして、ゆっくりと兜を取ると、初めて目を合わせて告げてくれた。


「ロイヤルクラウンにようこそ」


 とんでもない強さの門兵さんはとんでもない別嬪さんでした。 こんな別嬪さんがあんな強さってどういうことよ・・・。 ほんとこの国に来てから驚くことばかり。 でも、合格したんだよね。 やった・・・。


 そう思いながら体から力が抜けたのを感じ、私の視界は暗くなっていった。






挿絵(By みてみん)

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