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血の混ざり

 正に氷の女王と呼ぶに相応しい姿の女性。 自らの名をフラウノアと呼び、凄まじい冷気と圧を感じる。 人間じゃない。 一目、見ただけで分かる。 氷の柱から現れた事から人間じゃないのは分かる。 そんな簡単な話じゃない。 この人は、ガデルベルナやヴァレリアーナ、私が見てきた化け物達の中でも、レベルが違う。 


「私の眠りを妨げたのはクズ共だな?」


「・・・フラウノア。 南の大陸の辺境の地を治める者。 別名、氷の女王。 一度、お会いしたかったわ」


「ね。 とんでもない大物が現れたねー」


 瞬間、フラウノアから凄まじい冷気が放たれた。 二人の悪魔、プリミアとイルミディーテは、手を前に突き出し、赤い壁を張った。 しかし、冷気は留まることなく、壁を凍らせると、二人の腕を凍結させていく。


「ああっ・・・!」


「くぁ!!」


 必死に耐える二人の悪魔の一人、プリミアが自身の後ろに顔を向けながら叫んだ。


「ベルナ!! ボサッとしてないでよ!」


「ギッ・・・くはっ」


 ガデルベルナはダメージが限界にきたのか、膝をつき、吐血し始めた。 そんな姿を見て、プリミアは唇を噛みしめていた。


「ほんとに使えない!! イルミディーテ! このままじゃ・・・!」


「わかっているわ! フラウノア! 私達は貴方と争うつもりは無いわ!」


 しかし、そんな言葉も空しく、フラウノアから放たれる冷気が収まる事は無い。 そんな姿を見ながらリースさんが口を開いた。


「流石だね。 別の意味で寒気がするよ。 アンタ、離れるんじゃないよ。 少しでも離れたら一瞬で冷凍人間の出来上がりだよ」


「離れませんよ。 というか、リースさんが離してくれないでしょうし。 それにしても、何というか、レベルが違いますね」


「女王は眠りを妨げる者に容赦しない。 例え、それが誰であってもな」



 凍結が限界までに達し始めているのか、二人の悪魔は徐々に身体全体が氷結していく。 このまま、押し込める。 そう思った時だった。


 フラウノアが放つ冷気に対し、巨大な赤い炎が放たれた。 その赤炎の凄まじさはフラウノアの冷気と相殺してしまった。


「ぷぁ!!」


「ほら、離れない」


「何だ?」


 冷気と赤炎の相殺により、周囲に爆風が巻き起こった。 吹き飛ばされかけた私は、リースさんの手によってその場に留まる事が出来た。




「時間が掛かり過ぎです」


 完全に凍結されかかっている二人の悪魔の前に、一人の女性が立っていた。


 この人、見たことある。 そうだ、ウィンクドレスと戦った時に影から現れた人。 確か名前は───。


「プラムベティ!」


 リースさんが叫ぶと、プラムベティはお辞儀をする。 


「又、お会いしましたね。 今回は貴女方に用はありません」


「そっちが無くてもこっちにはあるんだよ」


 リースさんが私から手を離し、プラムベティに向かって一歩目を踏み出した時、フラウノアが此方へと目を向ける。 ただ、目を向けただけで、私は自分の人生の走馬灯を見た。 死ぬ。 今、動いたら死ぬ。 ただ、それだけが私の中にあった。


「女王さん。 悪いけど此処からはアタシが───」


「待て、リース・・・!」


「誰に言っている。 貴様も此処で死ぬか?」


 ヴラナさんがリースさんを止めようとしたが遅かった。 フラウノアから放たれる凄まじい圧に、リースさんでさえ冷や汗を描いている。 あんな顔のリースさん初めて見た。


「三美凶。 そいつ等は私の眠りを妨げた。 死に値する」


「それは申し訳ない事を致しました。 お詫び申し上げます」


「それだけで済むと思っているのか、クズ」


「部下の無礼の責任は私にあります。 ですから、此処からは私がお相手致します」


「勝てると思っているのか」


「貴方が相手ならこの姿では無理でしょう。 それなりに、力を出させて頂きます」


「面白い。 やって見せろ」


 プラムベティが赤炎を身体に纏い始めた時、ある人物が口を開いた。


「ま、て。 はぁはぁ、責があるのは我だ。 プラムベティ」


「ガデルベルナ。 勝手な行動で迷惑を被るのは此方です。 反省してください」


「わかっ、て、いる。 くはっ・・・はぁはぁ。 すまぬ」


 吐血しながらも口を開くガデルベルナを見て、プラムベティは何か考えている様に見えた。 そんなプラムベティにフラウノアは腕組しながら口を開いた。


「さっさと力とやらを見せてみろ」


「気が変わりました。 私達は此処で失礼します」


「何?」


「プリミア、イルミディーテ。 生きていますね?」


「は・・・はい」


「くっ、ふぅふぅ。 はい・・・」


 プラムディは、後ろで自身の氷を砕いていた二人の悪魔に振り返った。 二人の悪魔はかなり消耗しているのか、肩で息をしながら膝をついていた。


「私の眠りを妨げておいて、逃がすと思うか?」


「眠ってばかりでは世界情勢の移り変わりに疎くなりますよ」


「いい度胸だ、クズ」


 再度、フラウノアから放たれた冷気が悪魔たちを襲った。 しかし、巨大な赤炎の壁がそれを阻んだ。 そして、目の前には既に悪魔たちの姿は無かった。


「やるな。 クズにしては上等だ。 さて───」


 相手がいなくなったフラウノアは私達へと顔を向ける。 冷たい瞳は私達、一人一人の顔を見ていくと、口を開いた。


「ヴラナ。 貴様ならと眠っていればこの様だ」


「すまない、女王。 手を煩わせてしまった」


「何、少しは楽しめた。 ところで、その二人は何だ? そっちはエルフハーピーのダブルか」


 リースさんを見ながら話すフラウノアに、リースさんは前に出て答えた。


「アタシはリース。 ロイヤルクラウンで第四部隊部隊長をしてる」


「あ、私は───」


「クズ、貴様犯されているな?」


 私の顔を見ながらフラウノアが先にそう言った。 そして、私の顎を掴むと、その冷たい瞳を近づけた。


「魔女の血か。 それに、これは近親者の血だな。 母親か。 この空気には見覚えがある。 エスターだな?」


「!」


「か、母様を・・・知っているんですか?」


「知っている。 いい女だった。 そうか、貴様エスターの娘か。 時の立つのは早いものだ」


 私の顎から手を離したフラウノアは小さく息をつく。 その息が綺麗な氷の結晶を生み出すと、空気に溶けて行った。


「知り合いか。 いろいろ話を聞けそうだね」


「エスターについて話す事は無い。 娘、悪魔の力を使った事があるな?」


 どこまで見抜いているのか、フラウノアは再度私に冷たい瞳を向ける。 私が言葉に詰まっていると、リースさんが横から口を挟んだ。


「あるよ。 今後は使わせない様にしようとしてる」


 その言葉を聞き、フラウノアは暫く私を見た後、再度口を開いた。


「逆だ」


「逆?」


「悪魔の力を使わせろ。 身体に馴染ませろ。 使いこなせる様になれ」


「そんな事したらこの娘の身体が───」


「下手に抑制すればするほど身体が蝕まれるだけだ。 その力を使いこなし、馴染ませる事で負担は少なくなる」


「しかし・・・」


「ヴラナ、それとリースと言ったか。 貴様等ダブルなら分かるだろう。 力を抑制しすぎた者がどうなったか」


 フラウノアの言葉にリースさんが反応する。 唇を噛みしめ、拳を握りしめている。


「そりゃ、分かっているけど、さ」


「どう、なったんですか?」


 怖いけど、私は聞いてみる。 力を抑制した結果、どうなってしまうのか、今の私には知る権利がある筈だから。 そんな私の問いに、ヴラナさんが答えた。


「暴走する。 ダブルは人間と魔族の血が流れている。 しかし、魔族の血の力は絶大だ。 人間の血はいずれ浸食され、完全な魔族の血となる」


「じゃあ、お二人は魔族・・・?」


「血だけで見るならそうなるな。 だが、私とリースは血を受け入れ、馴染ませている。 魔族の様に人間を無暗に襲ったりはしない」


「私も血を馴染ませたらお二人みたいになるんですよね? なら、大丈夫───」


「バカ!」


 リースさんが叫びながら私の頭をポカッと叩いた。 私は痛みで涙目になりながらリースさんを睨みつけた。


「何するんですか!」


「そんな簡単な事じゃないんだよ! 数えきれない苦痛、心の崩壊を乗り越えた者だけが私達みたいなダブルになれるんだ。 確率は・・・」


「零に等しいな」


 フラウノアが腕組しながら口を挟む。 更にフラウノアは続けた。


「更にこの娘はただのダブルではない。 魔女の血という前代未聞の血だ。 何が起こるか分からん」


「トレブルだよ。 母親の血も入っているから」


「ほう、トレブルと言うのか。 何にせよだ、後はこの娘の精神力とエスターに任せるしかない」


「遅かれ早かれだな。 リース、答えは出たか?」


 リースさんはジッと私を見つめると、小さく溜息をつきながら口を開いた。


「分かっているよ。 血を馴染ませるしかない。 だけど、まだ早いと思うけど」


「遅いくらいだ。 兆候が出た時点で馴染ませるべきだ」


「そうだけど・・・!」


 クシャクシャと自分の頭を掻きながらリースさんは迷っていた。 そして、早口で言葉を放った。


「兎に角、アタシは銀の華を探してくる。 アンタはヴラナと帰りな。 女王様、銀の華を知らない?」


「知っている。 欲しいなら一輪だけくれてやろう。 こっちだ」


 フラウノアは察したのか、リースさんと共に先に歩いて行く。 私はそんな二人の、リースさんの背中を見つめていたが、見えなくなるまで、リースさんは振り返る事は無かった。


「戻るぞ」


 ずっとリースさんを見つめていた私にヴラナさんが声を掛ける。 それでも私は、その場から動かなかった。


「ドヤ顔」


「どうして」


「何だ?」


「どうして、リースさんは嫌がるんですか?」


「甘い女だ」


 ヴラナさんの言葉に私は振り返った。 ジッとヴラナさんを見つめる。 ヴラナさんも私を見つめると、先に口を開いた。


「殺したくないんだ」


「殺す?」


「言っただろう。 血が馴染む確率はかなり低い。 そうなったら暴走するだけだ。 その時、誰が近くにいる?」


「リースさん・・・」


「そうだ。 リースは自分の手でドヤ顔、お前を殺したくないんだ」


「でも、分からないじゃないですか! 私、天才ですから! 魔女の血なんて軽く馴染むかもしれないじゃないですか!」


「・・・」


 私の叫びにヴラナさんは答えなかった。 答えられなかったんだと思う。 ヴラナさん自身もダブル。 低い確率から選ばれた人だから。 


「私もダブルを葬った事がある。 身近な者をな」


「えっ・・・」


「共に育ち、共に笑った者だ。 ある日、様子がおかしくなった。 仲間達を襲い始めた。 説得、捕獲を試みたが無理だった。 気づいた時には私の手は赤く染まっていた」


「・・・」


「魔族や魔物とは違う。 あの感触、血の暖かさ、痛み。 忘れる事は出来ない」


「辛い、ですね」


「それに、リースはドヤ顔を気に入っている。 余計にだろう」


「リースさん」


「ドヤ顔、お前がお前である為に生きたいと思えばいい。 自分が出会った事、人。 全てを心に秘めろ。 強く、自分でありたいと願えばいい。 お前なら大丈夫だ」


 そう言うと、ヴラナさんは先に歩いて行く。 私は小さく頷くと、ヴラナさんの後に続いた。

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