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目覚める者達

 

「へえ、真の恐怖だって? 口は回る様になったね」


「私達二人を相手に勝てると思っているのか? 部下共もあの娘にやられているぞ」


「く、くふふ。 くふふふ。 駄族如きが!」


 ガデルベルナが雪原に両手を突くと、椀自白蛇と同等の蛇が無数に現れ、ヴラナとリースに襲い掛かった。


「多いね」


「どうという事はない」


 巨大な白蛇は二人を喰らわんと、暴れ回ったが、二人をその猛攻を交わし続けていた。 二人は視線で合図を送ると、リースが白蛇達を引きつける様に飛び回った。


「ヴラナ! アタシが抑える!」


「承知。 暫く任せる」


 リースは白蛇の周りを飛び回り、追いかけて来た白蛇を別の白蛇にぶつけ、相打ちを行わせたり、直接殴りつけて倒したりと、ヴラナへ向かって来る白蛇の対応を行った。


 白蛇をリースに任せたヴラナは、爆発的な脚力でガデルベルナに接近した。


「っ!」


「隙だらけだな。 言った筈だ。 私達二人を相手にしているんだぞ」


 雪原から手を離し、対応しようとしたガデルベルナだったが、ヴラナの速さに追いつけず、腹部に蹴りをまともに受け、再度岩壁へと叩きつけられた。


「ぐっ・・・く!」


「自ら後ろに飛んで威力を抑えたか。 いい反応だな」


「犬如きが・・・!」


「また余所見? 随分余裕だね!」


「!!」


 上空から白蛇の頭を投げつけられ、ガデルベルナは更に押しつぶされた。 ヴラナが周りを見ると、既に他の白蛇達も倒されてしまっていた。


「流石だな」


「ちょっと特殊なデカイ蛇だしね。 ちょろいよ」




「リースさん! ヴラナさん!」


「終わった? 良くやったね」


「はい! マキさんから刀を貸して頂いて良かったです」


「ほう。 スノウキメラ如きでは相手にならんか」


「任せてください! それより、凄い大きな蛇がいましたけど。 そっちはどうですか?」


「まだかかるね」


「だな」



 スノウキメラの群れを倒し終わった私が二人に近づきながら声を掛けると、二人共崩れ落ちて行く岩壁を見ながら答えた。


「離れていた方がいい」


「そうだね。 アンタじゃ蛇一匹倒せるかどうかって相手だよ。 見るのも錬磨と思いな」


「は、はい」


 力になりたい気持ちはあるけれど、正直いってこんな化け物戦争に立ち向かう勇気も力も無いわ。 悔しいけど、今は二人の言う通り離れて───。


 私が二人の傍を離れようとしたその時、大地が揺れ始めた。 その揺れは徐々に大きくなり、私は立っているのもやっとの状況になった。


「な、なんですかこれ・・・!」


「・・・リース」


「なんだこの空気は・・・。 ガデルベルナ? いや、そんなバカな事が───」





 【サン・・・ユル・・・サン】




「速く離れな!!」


「で、でも、動けなくて!」


「来るぞ!!」



 ヴラナさんの言葉と共に、大地の揺れがピタリと収まり、静寂がその場を包み込んだ。 瞬間───。




 【ギシャアアア!!】




 凄まじい方向と共に、大地の揺れの原因と、悍ましい空気の正体が現れた。





{IMG122953}





「ガデルベルナ・・・この大バカ女! なんでこんな・・・!」


「最早、人で有った事すら無くしたか。 憐れな」


「なん、ですか? これ」


 何なのよこれ。 蛇? 龍? 何でもいい、何でもいいけど───。 


「おええっ!」


 私はその場に嘔吐した。 余りにも強烈な殺意、重圧、憤怒、全ての空気が私達に向けられている。 私には空気は見えない、でも、感じる。 ダメだ。 この化け物はダメだ! 私の中の全ての細胞が逃げろと警告を鳴らし続けている。 それでも身体は動かない。 恐怖で動く事が出来ない。


「リース!! その娘を連れて逃げろ!」


「バカ言うんじゃないよ!」


「早く行け! お前ではこいつは手に負えん!」



 【逃ガストオモウカ 雑魚カラ喰ライツクシテクレル】



 蛇の様な龍の様な頭の一本が、私目掛けて迫ってくる。 いや、正確には迫ってくる気がした。 私にはその速さが全く見えていなかったから。


「させん!」


 完全な白狼に姿を変えたヴラナさんが、迫りくる頭を抑えつけたが、他の頭が私に襲い掛かった。


「くっ! 私でも一本しか抑えきれん!」


 (何だこの身体は! 氷!? 氷の鱗か!)


「やらせないよ!」


 空に浮かぶ感覚と、高速で移動する負荷が身体に掛かる。 その余りにも強い負荷に、私は目を開ける事も出来なかった。


「アイツ、あんな化け物にされるなんて・・・! クソッ!」


 リースさんの悔しさと怒りが籠った言葉が聞こえる。 元とはいえロイヤルクラウンの仲間だった人。 複雑な心情があるに違い無い。


「リース、さん」


「黙ってな! 舌噛むよ!」



 【余所見スルナ】



「ッ!!」


 急に私の身体に負荷が無くなり、無重力状態になった。 何事かと、私が薄っすら目を開けると、リースさんが私を放り投げた姿のまま、立ち止まっていた。



 【朽チ果テヨ】



「リースさ・・・!!」


 私の目の前で、化け物の頭がリースさんを飲み込んだ。



 




「あぐっ! くう・・・! リースさん!!」


 雪原に放り投げられた私は受け身を取ることが出来ず、身体を強打した。 痛い、でも、今はそんな心配どうでもいい。 リースさん、リースさんが喰われてしまった。


「リースさん!」


 私の呼び声も空しく、リースさんを喰らった頭の一本はそのままユラユラと機嫌が良さそうに畝っていた。


「ドヤ顔! 速く逃げろ! リースは助からん!」


「・・・ハァハァ」


「この空気・・・まさかドヤ顔か!?」


 (何という冷たい空気だ。 魔女とのトレブルと言うのは本当だったのか? この娘・・・!)


 ダメ。 あの時の様な冷たい何かが私を包み込んでいく。 ダメ。 この暗闇に身を投じては。 吸い込まれて行く。 抗う事が出来ない。 底の無い暗闇に私が落ちて行く。


 暗闇に落ちて行く寸前、私の背中を暖かい空気が纏った。 ゆっくりと振り向いた私の前に、光り輝く誰かが立っている。



 『こっちよ』


 母様? 


 『ほら、手を』


 母様なの?


 『ほら』



 伸ばされた手を私は無意識に掴んだ。 その瞬間、私の意識は急激な速度で引き戻された。








 暗い。


 アタシどうなったんだっけ。 


 ああ、そうだ。 ガデルベルナに喰われたのか。 


 アタシも此処までか。


 デカイ口叩いておいてこの様か。 


 そうだ。 あの娘は助かったかな。 


 全く、最後の最後まであんな顔してさ。


 世話ばっかり掛けてさ。 


 少しは強くさせれたかな? アンナとかだったらもっと上手く鍛えたんだろうね。


 だからアタシは育てるのに向いて無いって言ったのにさ。


 情けないね。


 悪かったね、フ──。





 ───さん


 ──スさん


 リースさん


 リースさん! 見て下さい! 私でも倒せましたよ! 『ああ、良くやったね』


 リースさん食べすぎです。 『いいでしょ。 ほら、アンタのも焼けたよ』


 リースさん! 『何? 聞こえてるよ』


 リースさん! 『うるさいよ。 ちょっと休ませてよ』



 リースさん! 『はあ。 どれくらいか振りに眠れると思ったのに。 ふふっ。 ほんと、うるさいね』



 『分かったよ。 もう少し傍で見てて上げるよ』




 

 【サテ 次ハ貴様ダ コ娘】



 

 巨大な化け物が私に迫ってくる。 その一撃を飛んで交わした私は、頭の一本を抑えつけているヴラナさんの傍に降り立った。



 【避ケタ? イヤ コノ身体ニマダ慣レテイナイセイカ】



「ドヤ顔・・・か?」


「はい」


「今のを良く交わしたな」


「身体が勝手に動きました。 私の意思では無かったです」


 (身体を包む空気が暖かい物に変わった。 トレブルか。 成程、そういう事だったか)


「やれるか?」


「分かりません。 でも、凄く落ち着いています」


「・・・リースは、ダメか。 空気が観えん」


「生きてます」


 私の言葉に白狼の姿のヴラナさんが振り向いた。 抑えつけていた頭は既に事切れているのか、ピクリとも動いていなかった。


「何?」


「リースさんは生きています。 きっと」


「何故分かる」


「分かりません。 でも、感じます。 リースさんの空気を」


 (空気を感じる? 空気は観る事は出来るが、感じるとはどういう事だ? だが、この娘。 明らかに先程までと違う。 別の何かに生まれ変わった様だ)


「来るぞ。 今度は私でも抑えきれるか分からんぞ」


「大丈夫です」


 私はヴラナさんの前に一歩出ると、刀を構えた。



 【雑魚ガ オ気ニ入リトハイエ 容赦セン 朽チ果テルガイイ】



 リースさんを喰った頭が突っ込んで来るが、私にはその動きが見えていた。 そして、刀を高く振り上げ、待ち構えた。


 そして、私を喰らわんか如く、大きく口を開いた瞬間、私の寸前でピタリと動きを止めた。 



 【ギッ グ グギギ】



 苦しそうに唸る頭の一本に刀を突き刺した私は、笑顔で口を開いた。



「リースさん。 ご飯、私とヴラナさんで食べちゃいますよ」



 【グギアアア!!】



 ボンッと言う爆発と共に、頭の一本が腹から粉々に吹き飛ぶと、飛び散った破片の中から初めてみるリースさんが立っていた。


「言う様になったね。 ったく。 アタシの分も取っときなよ」



{IMG122954}



 尖った耳。 淡い藍色の髪。 そして、優しい緑色の空気を纏ったリースさんは、笑みを浮かべて私達を見た。


「死んじゃったかと思いました」


「そのつもりだったけどさ。 何処かのバカ娘がうるさくてさ」


「誰の事ですか?」


「さあ。 誰だろうね」


 リースさんと二人でクスクス笑い合っていると、白狼の姿から人型に変わったヴラナさんが口を開いた。


「リース、か?」


「ん。 悪いねヴラナ。 お守りしてもらって」


「その姿。 成程。 エルフハーピーか」


「そうみたいだね。 凄く気分がいいよ。 身体も軽い」


「その姿には初めてなったのか?」


「そうだね。 こんな世界があるのかってアイツの腹の中で驚いたよ」


 (死の真際でダブルの力が目覚めたか。 『彼女』と一緒だな。 しかし、彼女程に上手く使いこなす事が出来るか・・・)  


 懐かしい時を思い出しているのか、目を細めるヴラナさんだったが、直ぐにガデルベルナへと、真剣な眼差しを向けた。


「まだ倒しきれていないな」


「再生するだろうね。 アンタは離れてな」


「私も戦います。 大丈夫です」


 その言葉に、リースさんは私をジッと見つめると、小さく笑い、背中を見せた。


「じゃ、アンタは援護。 無理に前に出るんじゃないよ。 ヴラナ。 アタシ達で前に出るよ」


「!」


「ヴラナさん?」


 (錯覚か。 今、リースの背中から彼女の背中を見た気がする。 面白い。 どうやら私と、この二人が出会うのは運命だったようだ)


 笑みを浮かべたヴラナさんは、徐々に姿を変え、巨大な白狼へと姿を変えた。 その姿は、白狼達全てを統べる長としての空気を溢れ出させていた。




 【グギギギ リーズゥ! 喰ッテヤル! 何モカモ! 全テダ!!】



 迫りくる化け物を前に、私達三人はそれぞれに構えた。



「ゆくぞ!」


「任せな」


「はい!」


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