表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/57

白蛇姫 ガデルベルナ

 

 私達はヴラナさんに連れられ、暗い通路を歩いていた。 どれくらい歩いたか、先に小さな光が見える。 光は徐々に大きくなり、暗闇から白銀の外へ抜け出すことができた。


 抜け出た先は、小さな建物が二つ。 周りを岩の壁に包まれ、唯一空が見えるだけで、他には何も無い。 そして、一つは人が住んでいるであろう、木で出来た小屋。 そして、もう一つは何かの作業場の様な石造りの建物だった。


 私達が木造りの建物に近づくと、中から瓶を持った女性が出てきた。



「よお、ヴラナ。 ん? そっちの二人は客人かい?」


「ああ。 バルドンに会いたいそうだ」


「爺さんに? へえ、珍しい人もいたもんだ。 客人! こっちだよ」


「私も挨拶しておくか」


 小屋の中から出てきた女性は私達の事を警戒もせず、小屋の裏へと回って行った。 ヴラナもその後についていく。 私達もその後に続いた。


「全く警戒されてませんね」


「ヴラナがいるからでしょ。 でも、おかしいね」


「何がです?」


「空気が無い」


「あの女の人のですか?」


「いや、まあ、分かるでしょ」


「?」


 歯切れの悪いリースさんと共に、小屋の裏に回ると、そこには小さな石が置かれていた。 女性はその石の頭に積もった雪を払い落としている。


「爺さん、今日は珍しく客人が来てるよ」


「久しぶりだな、バルドン」


 置かれた石に向かって声を掛ける二人を見て、私は察した。 隣にいるリースさんは頭を掻きながら呟いていた。


「やっぱりか。 何となくそんな予感はしてたんだけどね」


「これって、そういう事ですよね」


「これで振り出し、か」


「あんた達、爺さんの知り合いか何かか?」


「え、えっと・・・」


「いや、知り合いじゃない。 ただ、噂を聞いて来たんだよ」


「噂、ね」


 石に瓶の水を掛けながら話す女性の背中は、普通に見るよりも小さく見えた。 ヴラナさんは手を合わせて静かに祈っていた。


「大方、武器を打ってくれってとこかい?」


「まあ、ね。 でも、当の本人が墓の下じゃどうしようもないね」


 また、リースさんはこういう言い方をして。 誤解を招く言い方はして欲しくないんだけど。


「あたしが打ってやろうか」


「えっ?」


 意外な申し出に私は元より、リースさんも驚いた。 女性は此方に振り向き、私達をジッと見つめていた。


「良いのか、マキ」


「別に。 ヴラナが連れて来たんだから悪い奴等じゃないんだろ?」


「しかし」


「良いんだよ。 客人。 此処は寒いから家の中で話そうか」


 言い終わると、マキと呼ばれた女性は一人先に戻って行ってしまった。 私はそんなマキさんの後ろ姿を見た後、先に石に手を合わせた。


「マキが自ら言い出すとはな」


「珍しいんですか?」


「今まで無かった事だ」


「どっちでもいいよ。 作ってくれるって言うんだからさ」


 リースさんは言いながら先に歩いて行ってしまった。 残された私とヴラナさんはそれ以上話すことは無く、小屋へ向かった。





「大したもんが無くて悪いね」


「いえ、ありがとうございます」


 マキさんにそう言われ、私達の前にお茶が出される。 寒い所にいたから、暖かいお茶が嬉しい。 私はゆっくりと口を付けると、その暖かさに包み込まれた。


「それで、何の武器が欲しいんだい?」


「刀です」


「刀か。 素材は?」


「無いよ。 前のは砕かれてね。 破片と柄ならあるけど」


「出しな」


 マキさんに言われ、私は自分のバッグから『相棒』の柄と、砕かれた破片を取り出した。 そして、その破片を見た時、マキさんの表情が変わった。


「こいつは・・・」


「何です?」


「あんた、こいつを何処で手に入れた?」


「母の形見です。 知ってるんですか?」


「知ってる。 こいつは爺さんが打った物だよ。 そうか、あんたあの時きた女の人の娘か」


 その言葉に私は驚いた。 母様を知っている? もしかして、私の事も知っているのかしら。


「母様を知っているんですか?」


「あたしがまだ小さい頃にね。 一度来たことがあるよ」


「それが、この娘の母親だってどうして分かる?」


 ヴラナさんが真っ当な事を口に出した。 そうよ、確かにその女の人がどうして母様だって分かるのかしら。


「分かるよ。 爺さんが最後に打った刀がコイツだからね」


「そういう事か」


「それで? あんたはこの刀の代わりが欲しいのか」


「はい。 出来ますか?」


「難しいね」


 あっさりと言うマキさんに私は思わず椅子からズリ落ちそうになった。 そんな、簡単に諦めて欲しくないんだけど。


「アンタでも出来ないのか?」


 リースさんが口を挟むと、マキさんは腕組みして口を開いた。


「似たような刀なら作れるかもしれないけど、中身は全く空っぽさ。 使ってたあんたが一番分かる筈だよ。 一番大事な素材も無いし」


「そんな・・・」


「この破片を使えないか?」


 ヴラナさんが破片を持ち上げ、見つめながら口を開いた。


「勿論使うよ。 でも、それだけじゃダメだ。 言っただろ? 一番大事な素材が無いってさ」


「何がいる?」


「銀の華。 昔、爺さんがこの刀を打った時に使ったのを覚えてる。 滅多にお目にかかれないけど、この山の山頂付近に生えてるらしい。 まあ、手に入れるのは不可能じゃないかな」


「どうしてですか?」


「山頂までどれだけ遠いと思ってるのさ。 それに、魔物だっているし」


「リースさんがいるから大丈夫ですよね」


「錬磨にならないって言いたいけど、今は時間が無いしね。 仕方ないね」


「私もついて行く。 土地勘のある私がいれば少しは可能性も見えてくるだろう」


「え、ヴラナまで行くのかい? うーん、それなら可能性はあるかもしれないけど」


 ヴラナさんが立ち上がると、リースさんと私も一緒に小屋を出た。 外に出ると、リースさんは翼を広げ、私を抱きかかえた。


「あんた、魔族だったのか」


「魔族じゃないよ。 ダブル」


「ヴラナ以外にもいるんだね。 それからそっちの娘」


 マキさんに呼ばれ、抱き抱えられたまま振り向いた私に、マキさんは一本の刀を投げ渡してきた。


「あたしが打った刀だ。 一応持っていたがいいさ」


「軽いですね」


「アンタに丁度いい長さだね。 慣れておきな」


「うーん」


 私としては母様の長刀がしっくりきていたからこの長さの刀は違和感があるんだけど。 それでも、重さは全く違うし、慣れておいて損はないわよね。


「そうですね。 ありがとうございます」


「ああ。 それにしても綺麗な翼だね」


「空を飛べるなんて便利ですよね」


「アタシを便利屋扱いするんじゃないよ。 ヴラナ、アンタも運んであげようか?」


「断る。 山頂には直接飛んで行けば良いって訳ではない。 こっちだ」


 そう言うと、ヴラナさんは一足飛びで崖を登って行ってしまった。 リースさんも私を抱えたまま、空を飛んでヴラナさんの後を追った。








「リースさん」


「言いたい事は分かるよ。 でも、走りもしていないアンタが言ったら叩き落とすからね」


「はい」


 私は心の中で言う事に決めた。


 いや、寒い。 寒すぎるでしょ。 雪原なんかとは比べ物にならないくらい寒い。 兎に角、上空は風が強すぎるわ。 これは確かに山頂を直接目指せばいいって話ではないわ。 リースさん一人ならどうとでもなるみたいだったけど、私を連れて行くとなると話は変わる訳で。 


 白銀の岩石地帯をヴラナさんが先行して、リースさんと抱き抱えられた私はその少し後ろを飛んでいた。 ヴラナさんがいるお蔭なのか、吹雪は吹いていないが、風が寒すぎる。 それでも、リースさんは嫌な顔一つせず、私を抱えて飛んでくれていた。 


 どれ程進んだか、突然、吹雪が吹きつけた。 私は、急な雪の嵐が顔面を叩きつけ始めたせいで、思わず目を閉じてしまった。


「ぷあ! 凄い吹雪ですね!」


 私の言葉にリースさんもヴラナさんも言葉を返さない。 それどころか、私の身体は雪の積もった岩石の上に降ろされた。 その感覚を味わい、私はゆっくり目を開いた。


「リースさん? ヴラナさん?」



 



「あら? あらあらあらぁ? 懐かしい空気があると思ったら。 ワンちゃん、助っ人を頼んだのぉ? 本当に群れるのが好きなのねぇ」


「耳障りな音を出すんじゃない」


「ガデルベルナ・・・!」


 そこには、白蛇を操る和服の少女が立っていた。 ヴラナさんは威嚇するような喉を鳴らし始めていた。 


 この感覚。 分かるわ。 この人も、ウィンクドレスやヴァレリアーナと同じ、化け物だ。 それに、この笑顔。 普通だったら美しい笑顔なんだろうけど、この不気味さは何? この人、薄気味悪い。


「そこにいる小娘ちゃんは初めましてねぇ。 自己紹介しておきましょうか。 私はガデルベルナ。 よろしくねぇ」





 {IMG122580}





「ガデルベルナ。 よく私の前に姿を現せたもんだね」


 いつにも増して、怒気を含んだリースさんの声からは凄まじい圧が掛かっている。 後ろにいる私にさえ、リースさんの背中から怒りの気が目に見える様だった。


「つれないのねぇ。 ベルナって呼んでくれないのぉ? 元、仲間じゃない」


「仲間?」


「あらあら。 小娘ちゃんは知らないのぉ? 私、元ロイヤルクラウンだったのよぉ?」


 その言葉を聞き、私は驚愕した。 こんな薄気味悪い人が元とはいえロイヤルクラウン? ありえないでしょ。


「アンタを仲間だなんて思ったことは無いよ。 あの時まではね。 今度こそ木端微塵にしてやる」


「くふふ。 ワンちゃん、お友達と一緒になれなくて残念ねぇ。 今度は一緒にしてあげるからねぇ」


「黙れ。 仲間達の仇、討たせてもらうぞ」


「ああ・・・いいわぁ。 その殺意。 ゾクゾクしちゃうわぁ。 食べちゃいたい」



 瞬間、リースさんとヴラナさんの足元から雪を破りながら白蛇が飛び出した。 だが、二人は意に介さず、鋭い爪で白蛇の首を切り落とした。 私はというと、あまりの攻防の速さに目がついていってなかった。


「ごめんなさぁい。 遂、ねぇ」


「アンタの得意技でしょ」


「くだらんな」


「ダブルが二匹。 それに、あの人のお気に入りが一匹。 いいわぁ。 楽しませて頂戴ねぇ」


 ガデルベルナが雪原に手を当てると、私の周りにスノウキメラが数十体現れた。 完全に私を囲む形になり、私はリースさんとブラナさんと分断されてしまった。


「くっ! リースさん! ヴラナさん!」


「雑魚はアンタに任せる! 死ぬんじゃないよ!」


「此方は私達に任せて貰おう」


「はい! 気をつけてください!」


 マキさんに持たされた刀を抜き、私は戦闘態勢に入った。 ガデルベルナは私がどう足掻いても勝てる相手じゃない。 それなら、私は私が出来る事をやるだけ! もう、足を引っ張ったりはしないわ!










「舞地白蛇」



「小賢しい!」


「はああ!」


 放たれた夥しい数の白蛇を切り落としたヴラナとリースはガデルベルナに一気に詰め寄った。 しかし、先程の蛇達より巨大な白蛇が隣を飛ぶリースへ襲い掛かった。


「ちっ! 先に行きな!」


「椀自白蛇」


 ガデルベルナの腕から直接生えた白蛇は、リースを飲み込まんと口を広げ突撃してくる。 その口を両手で押さえ付け、飲まれない様にしていたリースだったが、白蛇の勢いは衰えず、リース諸共遥か後方へと吹き飛んで行った。


「あれだけの威力の蛇だ。 簡単には動けないだろう」


 ヴラナはガデルベルナの懐に入り、鍛え上げた突きを放った。 しかし、その腕はガデルベルナに届く前に、威力を失い、ピタリと止まってしまった。


「残念ねぇ。 ワンちゃん」


 ガデルベルナの白蛇が私の腕に巻き付き、締め上げて行く。 そして、グルグルと巻き付きながらヴラナを顔から飲み込もうとした時だった。 一瞬で白蛇の首が無くなった。



「蛇風情が。 白狼を舐めるな」


「あらぁ」


 ヴラナは逆に白蛇の頭を噛み千切っていた。 その鋭い牙に噛み千切られた白蛇の頭は完全に死に絶えていた。


「それならぁ、これで・・・くぁ!!」


 突然、ガデルベルナが急激な速さで前方に引っ張られていった。 何事かと、ヴラナが視線を移すと、そこには、ダラリと力無く動かなくなった白蛇の頭を引っ張った張本人が立っていた。


「直接腕から生やしたりするからこうなるんだよ!」


「この・・・私の腕を! 無礼者がぁ!!」


 もの凄い速さで引っ張られたガデルベルナは、残った手で、椀自白蛇を繰り出したが、リースに届く前にその機能を失った。


「邪魔はさせん!」


 ヴラナが白蛇の頭を雪の地面へと踏みつぶしていた。 余りの衝撃の為、踏みつぶされた蛇の頭が貫き、クレーターまで出来上がっていた。


「おのれっ!」


「余所見してんじゃないよ! オラァ!!」


「っ・・・!」


 力を貯めたリースの拳が、ガデルベルナの顔面に直接叩きこまれた。 その威力に、ガデルベルナの自らの腕に生やした二匹の白蛇がブチブチと音を立てて引き千切れ、当の本人は岩壁へとめり込んで行った。


 ガラガラと音を立てて崩れる岩壁を見つめながら、リースが口を開いた。


「ナイス。 ヴラナ」


「いい一撃だった。 奴は死んだか? いや、空気は感じるな」


「これくらいで死ぬ様な奴なら苦労は無いんだけどね」


 引き千切れた白蛇を放り投げながらリースは答えた。 そして、チラリと弟子へと目を向けると、既に数体のスノウキメラを倒している姿を見て、ホッと息をついた。


「親馬鹿だな」


「うるさいよ。 弟子ってのも取ってみると案外可愛いもんだよ。 アンタもどう?」


「私には仲間達がいる。 そんな余裕は無い」


「そっちこそ親バカだね」


「否定はせん」





「たかだかハーピーと犬如きが」


 血を拭いながらガデルベルナが雪の中から現れると、ヴラナとリースは眉を顰めながらその姿を見ていた。


 (あれだけの一撃を喰らってダメージが少ない。 流石に魔女の手先なだけはある)


 (口調が変わった。 キレたね。 しかし、コイツ昔より遥かに強くなってる。 三美凶に匹敵するって言うヴラナの言葉も頷けるね)




「無礼者共が。 真の恐怖を見せてくれるわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ