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ヴラナブラン

 

 私とリースさんは、吹雪の止んだ雪原を進んでいた。 前には白狼のお姉さんが歩いている。 進んでいる時、リースさんが私の耳元で囁いたのが今もずっと頭に残っている。


 (この白狼虎、強いよ。 アタシでもキツイ相手だね。 下手な事するんじゃないよ)


 その時のリースさんの声と、真剣な顔は私に緊張を走らせた。


 あの後、私は白狼虎って言うのについてリースさんに聞いてみた。 なんでも、珍しい魔物らしく、人前に姿を現す事が滅多に無いらしい。 その魔物のダブルってなると、世界でも類を見ないんじゃないかって事みたい。


 歩き疲れてきた私は、隣を歩くリースさんに小声で声を掛けた。


「何処まで行くんですかね?」


「さあ、ね。 何処かに案内してくれるって言うんだからいいんじゃない?」


「食料も渡しましたし、食べられませんよね?」


「さあ? でも、そん時はアンタをダシにアタシは逃げるよ」


「酷い」



「肉は好きだ。 だが、混ざりのある貴様等を喰おうとは思わん。 精々、喰い千切る程度だ」



 小声で話していたにも関わらず、白狼のお姉さんから言葉が返って来た。 お姉さんの犬耳は耐えず動いており、周囲の音を聞いている感じだった。


 あ、そりゃ聞こえますよね。 犬の耳って人間の何倍も良いって聞くし。 失礼な事言ってしまったわ。


「す、すいません。 失礼な事言ってしまって」


「構わん」


 そんなやり取りがありつつも、私達が歩みを進めると、洞窟が見えてくる。 そこは、雪山の麓にあり、白狼のお姉さんは躊躇する事なく中に入って行った。 白狼のお姉さんが洞窟の暗闇に消えると、途端に吹雪が舞い起こった。 たまらず、私は急ぎ足で洞窟の中に入った。


「ふー、急に吹雪が吹くなんてびっくりしましたね」


 私は雪を払いながら隣にいるであろうリースさんに声を掛けたが、返事は無かった。 どうしたのかと思い、辺りを見ると、そこにリースさんの姿は無い。


「リースさん?」


 洞窟の中に私の声が響く。 返事は無い。


「リースさん!」


 先程より大きな声を出したが、洞窟内に響く音が大きくなるだけで、何の答えも返ってこなかった。 不安になった私が外に出ようとしたその時、雪を払いながらリースさんがやって来た。


「リースさん! 逸れたかと思いましたよ」


「あんな近くにいて離れる訳ないでしょ。 ちょっと周りに挨拶してただけだよ」


「挨拶?」


 私が首を傾げながら何の事やらという顔をしていると、リースさんは呆れながら口を開いた。


「気づかなかったの? 此処の周りに何匹か白狼がいたでしょ」


「えっ、全然分かりませんでした」


「アンタ先見眼が無いっていっても、気配くらい分かる様になりなよ。 よくカリテスに勝てたね」


「カリテス?」


「ウィンクドレスの部下だよ。 それも知らなかったの?」


「だって聞いてないですし」


「はぁ。 もういい」


 溜息をつきながら先に進むリースさんは心底呆れていたみたいだった。


 仕方ないじゃない、名前なんて聞いてないし。 大体、私の名前だって勝手にドヤ顔って言ってるリースさんに言われたくないわ。




 洞窟の奥は広い空間になっていた。 天井からぼんやりと、青い光が指している。 そのお蔭か、空間は淡い光に包まれており、薄っすらと辺りが見渡すことが出来た。


「綺麗」


 青い光は、まるで空に輝く星屑の様に見えて、私は思わず声を出してしまった。


「気に入っている所悪いが、灯りをつけさせてもらう」


 白狼のお姉さんの声が聞こえたかと思えば、篝火が焚かれ、洞窟内が一気に橙の光に包まれた。


「客人は久しぶりだ。 ゆるりと休むといい」


 白狼のお姉さんは巨大な白狼を背もたれにドッカリと腰を下ろしていた。 その姿から、凄まじい威厳が感じられる。 そして、背もたれにされている巨大な白狼は寝息を立てて休んでいる様だった。


 いつの間にか、私達の立っている前には、モフモフの白い毛で作られた座布団が置かれていた。 リースさんは何も言わず、そこに腰を下ろすと、私も隣のモフモフ座布団に腰を落とした。


「わっ、凄いモフモフですよ、気持ちいい」


「はしゃぐんじゃないよ。 ヴラナブラン、心使い感謝するよ」


「ヴラナで良い。 おい、客人だ。 もてなしてやれ」


 ヴラナさんがそう言うと、奥の通路から小さな白狼が無数に現れ、その背中に食べ物や飲み物を乗せてやって来た。 落とさないか心配だったが、器用に運んでくると、私達が受け取るまでその場からピクリとも動かなかった。


 うわ、凄い訓練されているのね。 もしかして、ヴラナさんが訓練しているのかしら? こういう芸が出来ると街なんかじゃ直ぐに有名になれるのに。 こんな所にいるなんて勿体ないわ。


「ありがとうございます。 これは干し肉ですか?」


「ああ。 美味いぞ。 喰ってみろ」


「頂きます。 あー・・・」


 切り分けられた干し肉に齧りつく寸前、私は見てはいけない物を見てしまった。 それは、ヴラナさんが背もたれにしている巨大白狼の顔の後ろに合る、 山積みにされた骸骨だった。


「・・・あー、あ、わ、私お腹一杯なんですよねー」


「はらへっへるっへいっへはれひょ(腹減ってるって言ってたでしょ)」


 お構いなしに干し肉を口に含んでいるリースさんが私を見ながら言う。 


 何言ってるのかしらこの人。 人間の肉なんて食べる訳ないじゃない。 っていうかこの人、普通に食べてるんですけど。 


「いや、リースさん、コレ・・・」


「ん?」


「だってコレ、人間の・・・」


 私がチラチラ骸骨を見ながら言うと、ヴラナさんはニヤリと笑いながら口を開いた。


「人間の肉は嫌いか?」


「いや、えっと、はい」


「私のもてなしが気に食わないと言うか?」


 笑い顔から一転、眉を顰め、睨みつけられた私は威圧されてしまった。 


 いやいやいや、おかしいでしょ。 いきなり人間の肉を喰えって。 それで、もてなしが気に食わないのかっておかしいでしょ。 もてなしってそうじゃないでしょ。


「いや、そうじゃなくてですね! ちょっと私の好みと違うかなーって、思い、まして」


「ほう」


 ビクビクしながら答える私に、ヴラナさんは膝に手を当て、立ち上がろうとする。


 ヤバイ。 リースさんでもキツイ相手を怒らせてしまった。 どうしてよ、どうしてこうなるのよ。 怒りたいのはコッチなのに。


 涙目でリースさんを見ると、リースさんは知らん顔で干し肉に齧りついていた。


 こういう時、何とかしてくれるのが貴方なんじゃないんですかね。 何が 「美味っ。 こういう味付けは初めてだけど、塩味だけってのも悪くないね」 よ。 食事を楽しんでる時じゃないんですけど?


 頼りにならない師匠を恨みつつ、私は覚悟を決めた。


「あー! あ、い、頂きますね! わー美味しそうー!」


 もういいわ。 こうなったらどうにでもなれよ。 ああ、母様。 私は遂に人間を食べてしまいます。 こんな悪い娘を許してください。







「・・・美味っ」


「ぷはっ。 でしょ? 塩味だけなのにこの旨味。 凄いよ」


 いつの間にか、私のバックから水を取り出し、瓶から直接飲んでいたリースさんが笑顔で此方を見ていた。


「と、言うかコレ、人間の肉じゃないですよね?」


「違うね。 獣の肉だよ」


「知ってましたね? 知ってて、私の事を放って置いたんですね?」


「普通分かるでしょ。 骸骨があるから人間の肉だなんて考えが浅いね」


「わー、性格わるーい」


「うるさいよ」


 そう言われデコピンされた私が膨れっ面でリースさんを睨むと、ヴラナさんの笑い声が洞窟に響いた。


「ははは。 面白い奴等だな。 いや、揶揄って済まない。 余りに真剣だったものでな」


 この人も性格悪いわ。 初対面で、しかも客人の私を揶揄うなんて。 リースさんといい勝負だわ。


「あ、あはは。 いやでも、コレ本当に美味しいですね」


「気に入ってもらったのなら幸いだ。 さて・・・」


 そこまで言うと、ヴラナさんは座ったまま身体をズイッと前に差し出し、真剣な表情で口を開いた。


「此処に来た事で貴様等の目的は果たした訳だ。 で、どうする?」


「目的は果たしてないよ。 アタシ達は鍛冶屋に会いに来たんだからね」


 ヴラナさんの真剣な表情と言葉に、リースさんが答える。 先程までの、砕けた雰囲気ではない、本物の空気が漂っていた。


「鍛冶屋? そんな者、此処にはおらん」


「アタシ達も噂でしか聞いてないからね。 此処に詳しいアンタがそう言うなら、そうかもしれないね」


「仮にいたとして、どうする?」


「言ったでしょ。 この娘の武器を打ってもらうんだよ」


 ヴラナさんはチラリと私を見ると、暫く私を観察するように見つめると、リースさんに目を戻した。


「何故、その娘に肩入れする」


「アタシの弟子、みたいなもんだからね。 悪い?」


「弟子? ダブルのお前がその人間を見ているのか?」


「この娘はトレブルだよ。 ダブルのアタシが見てやった方がいいって考えでね」


「理に適ってはいるがな。 で、お前達は誰と争っている? 魔族か? 人間か?」


「東の魔女。 それに、その娘達。 部下」


「やはり東の魔女、か」


 巨大な白狼にドッカリと背を預けると、ヴラナさんは溜息をついた。 そんな姿を見て、今度はリースさんが先に口を開いた。


「何か因縁でもありそうだね」


「奴の部下が我々の領土に来た事がある」


「こんな南の大陸の果てまでご苦労だね。 で、それを返り討ちにしたって訳か。 成程ね」


「いや、逆だ。 奴等の仲間になれという誘いだ」


「えっ? 勧誘って事ですか?」


「そういう事だ」


 言いながらヴラナさんは近くにあった果実を食べ始めた。


 まさか東の魔女がそんな事をしてるなんて思ってもいなかった。 私は、チラリとリースさんを見ると、リースさんは何か思案している様だった。


「それで? アタシ達を此処に連れて来たって事は、蹴ったって訳?」


「そうだ。 私も人間は嫌いだが、奴等は気に食わん」


「成程ね。 それで、蹴って終了って訳でもないでしょ」


「当然だ。 奴等は厄介な奴を送り込んできた。 此処は一度、襲われている。 その時、かなりの者が殺られてしまった」


 ヴラナさんの言葉に、次は私が言葉を返した。


「そんな。 でも、まだ沢山の白狼がいたじゃないですか」


「あれは、偵察、観察の白狼達だ。 戦士と呼べるのは私しか残っていない」


 私は悲痛な面持ちで話すヴラナさんを見た。


 そうか、この人も沢山の仲間を失ったのね。 それも、きっと長く共に暮らして来た仲間達を失った。 その心境は痛い程分かるわ。


「アンタの強さから考えると、戦士だった白狼達もかなりの強さでしょ? それが、そんなに簡単にやられるもの?」


「有象無象の魔物や魔族程度ならどうとでもなる。 だが、問題は“奴”だ」


「まさか三美凶?」


「いや、だがある意味、それよりもタチが悪い。 ほんの少しだ、ほんの少し私が此処を離れた隙にやられた。 悔やんでも悔やみきれん」


「三美凶よりタチが悪い奴って?」




白蛇姫(はくじゃき) ガデルベルナだ」



 ヴラナさんの言葉を聞いて、私は誰だろうって程度の感想だったが、リースさんは違った。 立ち上がり、感情を露わにした。



「何で“あの女”が生きている!?」


「知り合いか?」


「知り合いなんてもんじゃないよ。 アイツはアタシが・・・!」


「殺した筈、か」


「クソッ! あの時、木端微塵にしておくべきだった!」


 ここまで感情的になったリースさんを見たのは初めてだった。 明らかに焦りと、戸惑いの空気が漏れている。 先見眼が無い私にも分かる程、肌に感じた。


「奴は、ガデルベルナは最早、普通の魔族ではない。 その身にダブルの力を宿している」


「後天的ダブル? そんな事あり得な・・・ッ!!」


 リースさんが慌てて私を見る。 その時の私を見る眼は、線が繋がったとばかりに、納得した表情だった。 そして、モフモフの座布団に腰を下ろすと、唇を噛みしめた。


「そういう事か。 あの“イカれ魔女”、ガデルベルナを魔族にしたのか・・・」


「何にせよ、だ。 正直、私でも勝てるかどうか分からん。 恐らく、強さは三美凶に匹敵する」


「ついでに性格の悪さは三美凶以上だよ。 ヴラナ、ガデルベルナは多分また、此処に来るんでしょ?」


「恐らく、な。 奴等、自分の配下にならん者は容赦しないらしい」


 ヴラナさんの言葉を聞き、リースさんは決心した様に口を開いた。


「ヴラナ、鍛冶屋がいるんでしょ? 直ぐにこの娘の武器を打ってもらいたい」


「・・・」


「ガデルベルナが来る前に戦力を上げた方がいい。 この娘もある程度は戦える筈だよ。 周りの雑魚くらいはやってもらう。 いいね?」


 リースさんはそう言いながら私を見つめた。 その目を見た時、リースさんの気持ちが伝わった私はヴラナさんに胸を張って口を開いた。


「はい! 任せてください! ヴラナさん、私達も戦いますよ!」


「何故、そこまで我々に肩入れする」


 その言葉に、リースさんと私はニッと笑いながら答えた。


 決まっているじゃない。 困っている人は助ける、そして、私のファンにしていくのよ。 それに───


「「ご飯(飯)の借りは返します(すよ)」」


 リースの提案に、暫く目を瞑って思案していたヴラナさんは、ゆっくりと目を開くと、急に立ち上がり、脇にある通路へと歩き出した。



「ついて来い。 リース、ドヤ顔」


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