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白狼虎

「リースさん、死んだら私の身体はちゃんとロイヤルクラウンに持ち帰って下さいね」


「バカな事言ってないで歩きなよ。 じゃないと此処で野宿だよ」


「死にます。 そうだ! 私連れて飛べばいいじゃないですか」


「それじゃ錬磨にならないでしょ。 ほら、さっさと歩く」


「・・・鬼」


「何か言った? 誰の為にこんな所に来てると思ってるのさ」


「・・・何でもないです」


 猛吹雪の中、私とリースさんは歩いていた。 それも、三日も。 目印も無く、ただ白銀の世界が広がる中、ひたすら歩いていた。


「寒いです」


「吹雪だしね」


「暖かいお茶が飲みたいです」


「贅沢だね」


「お腹すきました」


「アタシもだよ」


「・・・もー! 疲れました!」


「愚痴ってどうにかなるならいいけどさ、どうにもならないよ」


 リースさんの言葉に私は押し黙った。 私達が何故、こんな吹雪の中、歩いているかというと、それは私の為だった。

 魔族の子供達と出会った後、街で聞き込みをしていると、ある噂が耳に入った。 南の大陸から遥か西。 比較的温暖な気候の南の大陸で、場違いな程、吹雪に覆われた場所があるという。


 その場所は、全てが白銀に覆われ、誰一人近づくことは無い。 そんな場所で一人、小屋を建てて住んでいる人物がいるという。 その人物は昔、南の大陸のある村で鍛冶屋をしていたそうだが、その村が魔物に襲われ、家族を失ったらしい。


 噂では鍛冶の腕は凄まじく、幾本の名刀を作ってきたその人物は、伝説と語り継がれているそうだ。


 なんか本の中にある様な話よね。 頑固なお爺さんがいて、力を認めさせたら刀を打ってやろう! みたいな? そんな話、現実に早々有る訳ないのに・・・。


「それで、そんな腕利きの鍛冶屋さんが本当にこんな所にいるんですか?」


「さぁ? そもそも、その話も飲み所にいた爺さんの話だし」


「えっ。 それは初耳なんですけど」


「言ってないし。 その爺さんが小さい頃に聞いた話みたいだよ」


「ちょっと待ってください。 そのお爺さんが小さい頃、その鍛冶屋さんは御幾つだったんですか?」


「知らないよ。 ただ、かなりの歳だったみたいだね」


 私はリースさんの言葉を聞いて絶句した。 飲み所に居たのがお爺さん、そしてそのお爺さんが小さい頃、鍛冶屋さんはかなりの歳。 それはつまり、今、生きている事があり得ないって事で。


 やっぱりお伽話じゃない。 リースさんって結構騙され安い人なのかしら? 心配になってきたわ。


「帰りましょう、リースさん」


「いいけど? アンタの獲物はどうすんの?」


「うっ・・・でも、その鍛冶屋さんだってもう生きてないですよ」


「じゃあ、誰がこんな所に小屋建てて住んでるの?」


「それは分かりませんけど。 そもそも、酒場のお爺さんの話ですよね? 当てになりませんし・・・


 私が更に口を開きかけた時、雪の中から無数の魔獣が現れた。 私とリースさんを囲むように群れで現れたその魔獣は、牛のような角を持ち、鹿の身体に蛇の様なウロコで覆われた尻尾を持っていた。


「スノウキメラか。 ほら、丁度いい運動相手だよ」


「私、武器無いんですけど!?」


「あれくらい素手で対応しなよ」


「いや、無理ですよ!」


 襲い掛かるスノウキメラの牙や爪を交わしながら、私は声を上げた。 チラッとリースさんを見ると、リースさんには襲い掛かっていない。 


 そうか、勝てないと分かっている相手には襲い掛からない辺り、動物的本能なのね。 じゃない! 武器も無いのにこの数を相手しろっていうの!? それもこんな吹雪の中! やっぱりリースさんは鬼だわ!


「くっ! この!」


「ガウッ!」


 私はスノウキメラの鋭い爪を交わし、横腹に蹴りを放つ。 足が雪に取られる、軸足に力が乗らない。 威力の弱くなった蹴りでは決定打にはならなかった。 それにコイツ等・・・!


「吹雪いて良く見えません! それに雪の中に潜って・・・!」


「先見眼が無いアンタには丁度いい相手だよ。 空気を読めなくても気配で何とかしな」


「そんな事言われても!」


「ほら、余所見しない」


 突然、雪の中から現れた一体のスノウキメラに反応が遅れてしまった。 私は、歯を食いしばり、痛手覚悟で拳を固めた。 


 その時だった。 リースさんが何か驚いた表情で此方を見てるのが視界に映った。 


 (魔族の空気!?・・・まさか!)


「ギャウ!!」


「えっ」


「アンタ・・・!」


 気づいたら目の前のスノウキメラが串刺しになっていた。 それも、私の髪で。


 ええ!? 何? 何なのこれ!? 私何もしていないわよ!?


「や、嘘!? 何これ!」


「アンタ、何をした?」


「何もしてません! 勝手に髪が伸びて、それで・・・うあっ!」


 身体が熱い。 内部から何か燃えるような、血液が沸騰するような暑さに、私はその場で蹲った。


 そして、私の髪に串刺しにされたスノウキメラが倒れ、私の髪は元の長さまで戻って行く。 そんな姿を見て、周りのスノウキメラが怯えだし、遂には雪の中に潜り、いなくなってしまった。


「くあっ・・・はぁはぁ」


 様子がおかしい私を見て、リースさんが近づいてくる。 足音に軽さが無い。 何となく分かる。 私は何か間違いを犯してしまったかもしれない。


「アンタ、もしかして誰かの血を取り込んだ?」


「はぁはぁ。 誰か?・・・あっ」


 そこまで言われた時、私はある事を思い出した。 そうだ、ウィンクドレスの部下の悪魔の女と戦った時、私は歩く事も出来ないくらいの怪我をしていた。 その時、近くにあったあの悪魔の女の身体から、血を取り込み、何とか歩ける程になったんだった。


「はい。 ウィンクドレスと一緒にいた悪魔の女の血を・・・」


 言ったとき、リースさんは私を怒鳴りつけた。 吹雪を避ける為、フードを被っているから顔はハッキリと見えないけど、かなり怒っているのが分かる。


「何てバカな事をした!!」


「だって、そうしないとあの時は死にかけてて・・・!」


「アンタの身体は休んでたら勝手に治っていくんだよ! それを、魔族の血を自分から取り込むなんて! 死にたいの!?」


 かなり怒気を含んで話すリースさんに、私は小さくなった。 でも、あの時はそうしないとリースさんの所に行けなかったんだから仕方ないじゃない。 私だって、あんな女の血、飲むなんて嫌だったのに。


 身体の熱さも収まり、俯く私にリースさんは手を差し出してくれた。 その手を見て、ゆっくりと掴むと、リースさんは私を起こしてくれた。


「はぁ。 他に身体に異常はない? 痛みは? 苦しいとかない?」


「えっ、あ、はい。 さっきまで凄い暑かったんですけど、今は別に何も・・・」


「熱い、か。 もし、少しでもおかしい所が合ったら言いなよ。 分かった?」


「はい」


 リースさんは、諦めた様に言うと、辺りを見回している。 吹雪は止んでいないが、リースさんには先見眼がある。 それで警戒してくれているみたいだった。


「他に魔物はいないね。 ほら、行くよ」


「は、はい」


 何事も無かったかの様に歩き出すリースさんの後を、私は慌てて追いかけた。 そんな私を横目にリースさんは何か考え事をしている様だった。 


 (カリテスっていう魔族の血まで取り込んで本人にはあまり自覚症状が無い。 髪を武器にするなんて珍しい力だけど、この力は使わせない方がいいね。 さっき、髪の力を使った時のあの空気。 あれは魔族の空気だった。 頻繁に使えばいずれ・・・)







 止むことは無い吹雪の中、噂の鍛冶屋の小屋を求めて私達は歩いた。 雪に足を取られて上手く歩けない、疲れも倍以上に溜まる。 それでも、私達は歩いた。 あれから、私達の間に会話は無い。 チラチラとリースさんを見ていたが、フードに隠されたリースさんの顔は見えなかった。


 そんな時、リースさんが足を止めた。


「どうしたんですか?」


「何か来る」


 それだけの会話でも、私にとっては嬉しかった。 だけど、リースさんの声は緊張を走らせるものだった。


「何かって、何です」


「数が多い。 その中に一匹、強いな。 コイツは強い。 離れるんじゃないよ」


 リースさんでさえかなりの警戒を見せている。 何か凄い魔物か魔族がいるみたい。


 何かヤバイ奴が来るの? 私、武器持ってないからまずいかも───。


 その時、吹雪が止んだ。 先程まで一秒も止むことが無かった吹雪が止んだ。 そして、私達の前にそれは現れた。 無数の白狼が突然現れ、私達に対峙する。 私が武器も無く、拳を構えると、リースさんがそれを手で制した。 そんな中、群れの奥から一匹の巨大な白狼が前に出る。 大きい。 他の白狼なんて目じゃないくらいの大きさ。 


 リ、リースさんの言葉の意味が分かったわ。 この白狼。 唯の大きな白狼じゃない。 何、この圧力? じ、冗談じゃないわよ、禍々しさこそ無いものの、肌がピリつく程の圧を感じる。



「立ち去れ。 此処は我々の領域ぞ」


「喋った!」


 私は狼が話したのに酷く驚いた。 しかし、リースさんはさも当然の様に口を開いた。


「アンタは黙ってな。 白狼虎、か。 基本的には群れは成さない一匹狼の筈だけどね。 とりあえず、アンタ等の領域を犯したのは悪かったよ。 アタシ達は人を探しているだけさ。 通させてもらうよ」


「この先には何も居らぬ。 立ち去れ」


「そうは思えないね。 アンタ等みたいな上級な魔物、いや、アンタはダブルかな。 それが目的も無くこんな所にいるなんて思えないね」


「ダ、ダブル?」


 そう言われた巨大な白狼はグルルと声を鳴らした。 そして、たちまちににその姿を変えていった。 巨大な白狼が姿を変えると、そこには一人の女性が立っていた。


「お前もダブルだな?」


「白狼虎のダブルか。 珍しいね」


「お前は、嗅いだことがある匂いだ。 これは、エルフハーピーだな」


「流石だね。 アタシのダブルを分かった奴なんていなかったよ。 アンタ、名前は?」


「先に名乗るのが筋だろう」


「悪かったね。 アタシはリース、こっちはドヤ顔」


 私に目を向けながら言うリースさん。 絶対ワザとだわ。 私の名前知ってる癖に。


「私はヴラナブラン。 リースにドヤ顔か」


「あ、私はですね───」


「どうでもいいけどさ。 この娘の武器が欲しくてね」


 リースさんはそう言うと、私の肩を持ち、前に突き出した。 


「え、ちょ、リースさん!」


 戸惑う私を見て、白狼のお姉さんは怪訝な顔をしながら私の顔に自分の顔を近づけ、匂いを嗅ぎ始めた。


 とんでもない美人。 じゃない! 食われる! 私食われるわ!


「あの、臭いですよ。 ここ三日くらいお風呂入ってないので。 なので美味しくありませんよ」


 なんとか食べられない様に臭いアピールをしてみるが、白狼のお姉さんはそれでも私の匂いを嗅ぎ続けた。


「お前、妙な匂いがするな。 本当に人間か?」


「この子はトレブルだよ。 魔女の血が混じっている」


「何だと?」


 そう言われ、白狼のお姉さんは私から大きく飛び退いた。 え、そりゃ臭いかもしれないけど、乙女としては傷つくんですけど。


「貴様等、何が目的だ」


 明らかな警戒を示す白狼のお姉さん。 そして、それに呼応する様に周りの白狼達も声を鳴らしている。


「だから、この子の武器が欲しいんだって」


「この先に何があるか分かっているのか」


「噂でね。 あ、そうだ。 コレで信じてくれる?」


 言いながらリースさんは自分の懐から一枚の黒いカードを見せた。 それは、ロイヤルクラウンの証でもある物だった。


「何だ其れは」


「ありゃ、ロイヤルクラウンって知らない?」


「知らんな。 食い物か?」


「困ったね。 どうやったら敵じゃないって信じてもらえるかな」


「あの、良いですか?」


「ん。 何かあるの?」


 私は自分のバックをゴソゴソと漁ると、そこから一つの果実を取り出した。 それを、白狼のお姉さんに差し出した。


 食われてたまるかっての! 一か八か私達の食料で勘弁して貰えないかしら!?


「食べてください。 南の大陸の街で買った物です」


「何してんの、アンタ」


 ジト目で見るリースさんを無視し、白狼のお姉さんにズイッと差し出す。 白狼のお姉さんは怪訝な顔をしながら果実を受け取ると、匂いを嗅ぎ始めた。


「確かにこの大陸で取れる果実だな。 で?」


「食べてみて下さい」


 言われるがまま、白狼のお姉さんは口を付けた。 匂いで毒等が入ってない事が分かっているのか、躊躇なく食べ始める。 この寒さで果実の半分が凍ってしまったのか、シャリシャリと氷を食べる様な音をさせていた。


「ああ、懐かしい味だ。 で?」


「毒なんて入ってませんよね」


「それが?」


「つまり、私達は敵ではありません」


 自信満々に胸を張って答える私に、リースさんが私の肩に手をポンと置いて溜息をついた。


「いや、アンタさ・・・」


「何ですか。 貴重な食料を分けたんですよ。 何か可笑しいですか?」


 意図せず発した私の言葉に、白狼のお姉さんは喉を鳴らした。


「ふっ・・・ふふふ。 面白い奴だ。 確かに、貴重な食料を頂いてしまった。 そうなれば、礼をしなければ、な。 良かろう。 私について来い」


 そう言うと、白狼のお姉さんは踵を返し、先に歩き始めた。 周りの白狼達に何か指示を出すと、白狼達は一斉にその場から走り去って行った。


「ほら、流石私ですね」


「えー・・・いや、まぁ。 結果オーライかな」


「素直に褒めてもいいんですよ?」


「調子に乗るからヤダ」


 吹雪が止んだ為、リースさんと私はフードを取ると、先を行く白狼のお姉さんの後を追った。


 フッ、流石私ね。 世渡りの上手さならリースさん以上にあるのよ。 これで私が食べられる事は無くなった訳だし、なんでか吹雪も止んでるし。 まあ、歩きやすくなったからいいわよね。



 


 (エルフハーピーのダブルに奇妙な空気の娘か。 信用は出来ないが、何か下手な動きをすればその時は喰い千切ってくれる)


 先を歩くヴラナブランは遅れてやって来ている二人に気づかれない様に、小さく喉を鳴らした。



挿絵(By みてみん)

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