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胸騒ぎ

 

「離せよ!」


 リースさんに抑えつけられた子供の頭には、小さな角が生えていた。 それを見た私は驚愕した。 まさかこんな大きな街に、魔物の子がいるとは思っていなかったから。 いや、いくら子供とはいえ、そもそも魔物が街の中にいる事に驚いた。


「やっぱり魔物のガキだったね。 いや、話せるから魔族か。 妙な空気だったし、大方、手練れの奴に見つかって逃げてたって所かな?」


「くそ! 離せ! 離せってば!」


「暴れるんじゃないよ。 それに、そろそろ出て来なよ。 じゃないと仲間がどうなるか分からないよ?」


 リースさんは暗闇にそう言うと、私も感じていた視線がゾロゾロと現れる。 この子を入れて四人。 男の子もいれば女の子もいる。 全員角が生えていたり、尻尾が生えていたりと、明らかに普通の人間ではなかった。 


「兄ちゃんを離せ!」


「はなせ、はなせ!」


「にいちゃー!」


 それぞれに騒ぎ出す子供達。 それを見てリースさんは溜息をつきながら口を開いた。


「アタシに向かって来るって言うなら容赦しないよ。 その覚悟があるんだろうね?」


 リースさんの威圧と言葉に子供達が大人しくなる。 抑えつけられた子供も青い顔でリースさんを見上げていた。 


「リースさん、魔物とはいえ、まだ子供ですから」


「魔族だよ」


「違いが分かりませんよ」


「話せるか、理性があるかで敬称が変わる。 そんな事も知らなかったの? イリーナの座学で教わらなかった?」


「あ、なんか聞いた様な」


「・・・ったく」


 私が呆けた様に言うと、リースさんは呆れながら子供を解放した。 解放された兄ちゃん子は慌てて他の子供達の元に駆けだした。 そして、一緒になった事で四人で此方を睨みつけた。 その視線を見た時、私は悪寒を感じた。


 やっぱり子供でも魔族は魔族なのね。 純粋に人間に敵意を向けている。 だけど、私がこの子達に劣るつもりはないわ。 戦闘になっても絶対に勝てる。 でも、魔族とはいえ子供。 私にこの子達を殺せるかと言われたら───。


「で、こんな所で魔族のガキが何をやってる?」


 リースさんの言葉で私は思案の海から抜け出した。 そうだ。 この子達は人間の街で何をしているのか。 まさか、人間の住む街に潜り込み、そこから人々を殺して回っているのかしら。


「答える気が無いなら・・・」


 パキパキと手の骨を鳴らすリースさんを見て、子供達は完全に怯え始めた。 一番年下であろう女の子の魔族なんて泣きながら兄ちゃん子の後ろに隠れてしまった。 そんな子供達を見て、リースさんは又、深い溜息をついた。


「リースさん、私が話を聞いてみます」


「ん。 それがいいかもね。 アタシは随分嫌われたみたいだし。 ったく、だからガキは嫌いなんだ」


 言いながらリースさんは適当に積まれた瓦礫に腰を下ろした。 ブツブツと文句を言うリースさんは膨れっ面で少し可愛い。 私はそんなリースさんから、子供達へと視線を移した。 リースさん程ではないにしろ、私も相当警戒されている。 当然と言えば当然ね。


 私は出来るだけ刺激しない様に子供達に視線を合わせる為、膝をついて口を開いた。


「ねえ。 君たちはこの街で何をしているの?」


「うるさい! 人間なんかに言う事なんてない!」


 兄ちゃん子が他の子供達を守る様に前に出て凄んで見せた。 年上の責任感からか、他の子達が委縮してしまっている中でも、皆を守ろうとしていた。


 人間と変わらないのね。 誰かを守る為に自分が立ち向かう。 勝てない相手だと分かっていても、ね。 


「そう嫌わないで? 別に私達は『今』君達をどうにかするつもりも無いから」


 私は敢えて『今』を強調した。 この子達が私達に牙を向けるというならば、やはり私はこの子達を仕留めなければ行けない。 


「うるさい! うるさい! 人間め! オレが倒してやる!」


 兄ちゃん子は、鋭利な爪と、牙を向き出しに構えた。 後ろにいた他の子達はそれを見て、オロオロとし始めている。 ようやく泣き止んでいた女の子も又、泣き始めていた。


「無駄死にするつもり? 君、この子達の中で一番年上よね? 君がやられちゃったら後ろの子達はどうなるの?」


「・・・」


「無謀と勇気は違うわ。 私も以前、ある任務に就いていてね。 そこで、とんでもなく強い人と出会ったの。 その人の部下達を倒して、イケるって思ったわ。 調子に乗っていた。 でも、現実は甘くなかった。 私は仲間を何人も失ったわ。 一瞬でね」


 私はゆっくり言葉を紡いだ。 私の脳裏にはあの時の、あの雨が降る暗い森の中の事を思い出していた。 忘れようにも忘れられない。 ヴァレリアーナの手に掛かり、仲間を失ったあの日を。 そして、自分自身すらも忘れたあの忌まわしい日を。


「今、私がこうして生きていられるのも運が良かっただけなの。 本当に運が良かった」


 私の言葉に兄ちゃん子は、いつの間にか構えを解き、俯いていた。 小さいながらも頭では分かってるのだろう。 このまま戦っても勝ち目は無いという事が。


「私は最初に、『今』どうにかするつもりは無いって言ったわ。 魔族の君達には人間の言葉を信じられないかもしれない、でも、君がこれからする事は分かった筈よ」


 私の言葉に兄ちゃん子は俯いたままだ。 他の子供達も互いに顔を見合わせていた。 その時、私の後ろで何かを齧る音が聞こえる。



「美味っ」



 ジト目で後ろを振り返ると、リースさんが果実を口に頬張っていた。 こんな時までこの人は・・・。 すると、今度は子供達の方から小さな音がする。 それは明らかに、空腹時のお腹の音だった。


「何だ、腹が減ってたの? そう言えばいいでしょ。 ほらっ」


 リースさんは私のバックから果実を取り出すと、子供達に投げ渡した。 子供達は受け取った果実と私達を何度も見比べていたが、空腹に我慢出来なかったのか、女の子が一番に食べ始めた。 それを見た他の子供達も口一杯に果実を放り込んだ。 夢中になって食べる子供達を見ながら、私はリースさんに声をかけた。


「リースさん、魔族の子供ですよ? 良いんですか?」


「別に? コイツ等が人間を喰ってたら殺してたけどね」


「分かるんですか?」


「臭いでね。 血の匂いはするけど、これは獣から出る血だよ。 人間の血じゃない」


「だから追いかけたんですね。 言ってくれたら良かったのに」


「知らないであんな話したの? アンタ助ける気だったでしょ」


「いえ、なるべく戦闘はしたくないですから。 私、武器もありませんし。 それでも向かって来てたらやってましたよ」


「ふーん」


 果実を食べながら相槌を打つリースさんは、私を横目で見た。 そんなリースさんと目が合った私は、果実を貪る子供達に目を向けた。


 そう、例え子供であってもやらなければならないわ。 





「お前ら人間でもいい奴らだな」


「いい奴らー」


「いいやつ、いいやつ」


「ありがちょ」


 食べ終わった子供達は、最初の敵意は無かったかの様に、大人しくなっていた。 これでようやく真面な話が出来る。 そう思った私は、改めて子供達に問いかけた。


「いいえ。 それで? 君達は此処で何をしているの?」


「お前らいい奴らだからな。 答えてやるよ。 オレたちは自分たちの家をなくしたんだ」


「家を? 何処にあるの?」


「東の国だよ。 あそこじゃ弱い魔族や魔物は狩られるだけなんだ」


「同族でしょ? 何でそんな・・・」


「人間だって人間同士で戦争するでしょ。 魔族や魔物だって変わりゃしないよ」


 リースさんが口を挟み、瓶から直飲みで水を飲むと、更に口を開いた。


「ぷはっ。 つまり、お前等ガキ共は住む所を失って南の大陸に逃げてきた訳か」


「好きでこんな所に来たんじゃない! ここだったら簡単に見つからないって言われたから・・・」


「確かにここは街の中とはいえ、外れにあるしね。 人も滅多に近づかない、か」


「でも、それでも見つかる可能性はありますよ。 それならいっそ森の中・・・あ」


 私は兄ちゃん子の言葉と、此処に住む理由の合点がいった。 そうか、そういう事だったんだ。


「分かった? 南の大陸にも魔物はいる。 ガキ共じゃ喰われて御終いだよ」


「それで此処にいたのね」


「それでも、一つ納得いかない事があるね。 ガキ共、此処にはいつからいる?」


「半年前だよ」


「半年!?」


 私は驚愕した。 半年間、この子供達だけで生き延びた? そんな事、不可能よ。 だって───。


「どうやって生きてきた。 飯はどうしてた。 ガキ共じゃ魔物も狩れないでしょ」


 そう、そこが一番の問題点。 例え魔族であっても、何も食べず生きてきたなんて考えにくい。 問われた兄ちゃん子は俯き、小さな声で答えた。


「秘密なんだ」


「何? 秘密? 今、誰が飯を食わせてやったと思ってる?」


「リースさん、そんな言い方・・・」


「アンタは黙ってな。 大事な事でしょ。 誰かがガキ共を世話してる。 最初の反応から人間じゃないのは分かった。 そうなると、残るのは同族だけ。 そんな奴が街外れとはいえ、人間の住む所に来てるって事になる。 誰にも気づかれず、ね。 それが問題なんだよ」


 リースさんの言う事は分かる。 この街は南の大陸でも大きい方だと思う。 そうなると、必然的に手練れの人もいる。 現に、この兄ちゃん子は街で食料の盗みでも働こうとして、見つかって追いかけられていたって所かしら。 上手く追っ手を撒いたものの、私達に見つかってしまったという事ね。 


 そして、そんな手練れがいる中でも気づかれずこの子達を世話できる者がいる。 恐らく、やろうと思えば人間だって狩れるくらいの者が。


「ガキだから空気も小さい。 アタシも傍を走り去ったから分かったレベルだからね。 そして───」


「この子達を世話している者は空気を消せる。 それはつまり、強さにも直結する」


「正解。 完全に消せはしないだろうけど、それでもこの街の手練れが気づかないレベル。 だから、聞いてる。 誰? 答えるまで逃がさないよ」


 リースさんは眼力鋭く、言葉にも剣が立っている。 確かにかなり重要な事になる。 もし、そんな強さの人が街を襲ったら、悲惨な事になってしまう。


「ご飯はありがとう。 でも、でもダメなんだ! 絶対に秘密って言われてるんだ!」


「ごめんなさいー!」


「だめ、だめー!」


「いったらおこられりゅの」


 口々に言う子供達は、どうやって口を割るつもりは無いらしい。 暫く、押し問答が続いたが、リースさんも私も遂に折れてしまった。


「分かった、分かった。 もういいよ。 今の所、街にも被害は無いみたいだし。 それに、アンタが寝てる時に街をザッと見てみたけど、手練れってもウチじゃ部隊兵すらどうかってレベルだし。 対した奴じゃないでしょ」


「分かりました。 それじゃ、この子達はどうします?」


「そうだね。 このまま放って置いたらいつか人間を襲うかもしれないし」


「じゃあ・・・」


 パキパキと指を鳴らしながらリースさんが近づくと、子供達は一斉に尻もちをついた。 リースさんの顔は見えないが、恐らく戦闘時の顔をしているんだろう。 案の定、女の子は泣き出してしまっている。


 しかし、リースさんから放たれた言葉は意外な物だった。


「ガキ共、人間を喰わないって誓える?」


「えっ?」


「どう? 誓える? ついでに、街の人達や他の人間にも迷惑掛けないって誓える?」


「リースさん?」


「誓えるなら、黙っておく。 誓えないなら・・・此処で殺す」


 リースさんの言葉に、子供達はこれでもかという程、首を縦に振り続けた。 


「約束だよ。 破ったら、分かってるね?」


 首を振り続ける子供達を見たリースさんは、伸びをしながら私の方へ向かってきた。


「はー、行こうか。 妙な時間だったけど、なかなか良い話も聞けたしね」


「えっ、わ、分かりました。 あっ、そうだ」


 私は一つ思い浮かび、子供達に声を掛けた。


「ねえ。 君達、これから食料はどうするの? 世話してる人は来ないの?」


「時間はバラバラだけど、毎日来てくれてたんだ。 でも、もう三日は来てないんだ」


「連絡は取れないの?」


「うん」


「困ったわね・・・」


 言いながら私はリースさんをチラリと横目で見た。 リースさんは呆れた顔をしつつ、自分の頭を掻き始めた。


「好きにしなよ」


「はい!」


 私はそう元気良く答えると、鞄に入った食料を全て子供達に渡した。 パンパンに詰められた鞄の食料は四人だとしても子供なら一週間くらいはある筈だ。 子供達は目を白黒させて驚いていたが、誘惑に勝てず、笑顔で受け取ってくれた。


「いい? 食料が無くなる前に、なんとか世話してくれる人に連絡をつけてね」


「もしダメだったら?」


「うーん、そうね。 これを使って食料を買って。 盗みはダメよ。 後、手練れの人に見つからない様に上手くやるのよ」


「やってみる」


 私はお金も子供達に手渡した。 有り金全部って訳ではないが、子供が暫く暮らすには十分なお金だ。 ロイヤルクラウンで給金を貰っていたが、特に使うことなく貯めていた物だ。


「じゃあね、元気でね」


「うん。 ありがとうお姉ちゃん」


「ありがとー」


「ありがと、ありがと」


「ありあとーねえちゃ」


 廃屋を後にした私は、先に出ていたリースさんに近づいた。 リースさんは崩れそうな壁に寄りかかり、眉を顰めていた。


「御人好しも過ぎるよ。 魔族のガキに金まで渡して」


「いいんです。 あの子達なら大丈夫ですよ」


「ふーん。 まぁ、好きにしたらいいって言ったのはアタシだけど」


「はい。 それにしても、まさか魔族の子が人の街にいるなんて思いませんでした」


「そう? 少ないけど意外にいるよ。 身を潜めてね」


「そうなんですか?」


「アンタ、アタシの事知ってるでしょ」


 言いながらリースさんは先を歩き始めた。 私も後を追いかけて行く。


 あっ、そうか。 ダブルのリースさんは人間と魔族のハーフ。 つまり、そういう事なんだ。 人間と魔族の恋・・・か。 はぁ、私も早く良い人見つからないかしら。


 私は険しい顔で歩くリースさんの隣に立ち、中心街へと戻って行った。



 (あのガキ共を世話してる奴、気になるね。 妙な胸騒ぎがするけど、こういう時の勘は当たるから嫌だね、ほんと)













「にいちゃーごはんー」


「ごはん、ごはん」


「食べようよー」


 外を眺めていた兄ちゃん子は他の子供達に急かされたが、それでも外を見続け、小さく呟いた。


「今日も来ないのかな、ドレス姉ちゃん」 

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