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南へ

 

 私が目を覚まして二日が経った。 その間、面会に来る人が一人だけいたけど、私はじっくりと考える時間を与えられた。 リースさんについていって南の大陸に行く事は決まったが、私を狙って来る者がいる。 それがヴァレリアーナやそれ以上の者もいると話を聞かされていた。 


 私はそれでもリースさんについて行く事を決めた。 私が此処にいる事で皆に危険が及ぶなら私は外に出た方がいい。 私がトレブルっていう珍しい身体で狙って来る事は分かっているけど、それ以外の理由もあるみたい。


 そして今日、ようやく身体がまともに動くようになった。 定期的に具合を見に来ていたメイドさんは私のケガの治りに驚いていたけど、自分では旅をしていた頃からこれが普通だったからそんなに驚く事なのかと不思議だった。


 今、私は旅の準備を整えてリースさんの部屋の前にいる。 ノックをしても返事は無いが、私はお構いなく部屋の扉を開けた。 中では窓の傍に立ち外を見ていたリースさんが果物を食べながら振り返った。


「リースさん、お待たせしました」


「ん。 準備出来た?」


「はい。 行きましょう」


「ん。 その前にちょっと寄り道するよ」


「何処か行くんですか?」


「今回の件で結構ダメージ受けてる奴の所にね」


 リースさんはそう言うと先に部屋を出ていく。 これから旅に出るというのに手ぶらな姿はある意味慣れているからとも言えた。


 リースさんは食べ歩きって言って色々な土地に行っていたみたいだし、それも当然かな? それにしてもノーティスもエマもまだ意識は戻っていないし、誰の所に行くのかしら。



 リースさんについていくと、ある部屋の前につく。 宿舎兵と同じ住居区にある此処は・・・



「入るよ、ロザリー」


「失礼します」


 やっぱりロザリーさんの部屋だ。 そっか、ロザリーさんが育ててきた仲間が何人も・・・。 仲間の皆を思い出し、また、涙が溢れる。 ダメ、私が泣く訳には行かないわ。 


 ノックもせず堂々と中に入るリースさんに続いて私も中に入る。 中ではロザリーさんが政務をしていた。 リースさんを見るとロザリーさんは立ち上がり此方を見つめた。


「リース様。 それに、ドヤ顔か。 身体はもういいのか?」


「はい。 すっかり治りました」


「流石はトレブルだな。 兎に角お前とノーティスとエマ。 三人だけでも命があって何よりだ」


「ありがとう、ございます」


 笑顔で対応するロザリーさん。 ロザリーさんは私が特別医療室にいる時に一度面会に来てくれた。 助かって良かったと安心したロザリーさんの顔はいつもの凛々しい顔と違って初めて見せる表情だった。 その顔を見た時、私はロザリーさんに泣きながら謝った。 これでもかってくらい頭を下げた。 そんな私にロザリーさんは何も言わず、ただ肩をポンポンと叩かれるとそれだけで心が暖かくなった。


 リースさんは笑顔で対応するロザリーさんを見て口を開いた。


「アンタまだ引きずってるの?」


「・・・はい」


「戦場じゃ人は死んでいくよ。 そんな事覚悟してたでしょ?」


「分かっています。 ですが、私がもっと彼女等の強さを引き上げていれば・・・」


「無駄無駄」


 そう言いながらソフォーにドカッと腰掛けるリースさんの横に私は立った。 そんな私をリースさんが手を引っ張って無理やり座らせる。


「アンタさ、相手が誰か知らないでしょ」


「死人使いと聞いています」


「ん。 あれはただの死人使いじゃないよ。 アタシの蹴りを受けて生きてるんだよ? それにアリッサもミストも軽く殺して見せた奴だよ? どうあがいても宿舎兵じゃ無理」


 リースさんの言葉にロザリーさんは俯いた。 ロザリーさんも頭では分かっている筈。 だけど心では中々整理がつかないというのも当然だと思う。 


「アンタがそんなんじゃ宿舎兵の奴等も不安になるよ」


「分かっています・・・」


「しっかりしな。 これから私とこの娘で南の大陸に行く」


「そう・・・なんですか。 分かりました」


「それに他の部隊兵が宿舎兵の錬磨を手伝う様にアルテアが通達するよ。 これでアンタの負担は軽くなる筈だ。 その分一人一人に当てる時間は長くなる。 しっかり見てやりな」


「はい」


 リースさんはそう言うと立ち上がり、ロザリーさんの元に行くと何やら耳打ちをした。 その言葉を聞いたロザリーさんは険しい顔つきになり一言“分かりました”とだけ話した。


「じゃ、アタシ達行くからね。 暫くは戻れないからこの国を頼んだよ」


「はい。 ドヤ顔、良い機会だ。 リース様に色々な事をしっかりと教えてもらえ」


「はい。 ロザリーさんもお元気で」


「ああ。 また会おう」


 ロザリーさんに挨拶した私達は部屋を後にした。


 部屋に残ったロザリーは先程のリースの言葉を深く反芻していた。





 “クイーンは国の為なら仲間の命も何とも思わない奴だ。 何かあったらアンナかアルテアに直接掛け合いな”




「アンナ様・・・か」






「あの、リースさん。 私も会いたい人がいるんですけど」


 私の言葉に察したリースさんは振り向く事もせず、手を上げた。


「ん。 分かった。 正門で待ってるから終わったらおいで」


「はい。 ありがとうございます」


 途中リースさんと別れ、私は一人医務室に向かった。 医務室に入ると、実戦兵を始めてから怪我をした者達が増えたらしく、ダリアの見舞いに来た時より多くの人がベッドで横になっていた。


 私はそんな中で隣合わせで眠る目当ての二人を見つけると、傍に近づいて行く。 二人の姿を見たが、巻かれた包帯が痛々しい。 二人は規則正しく呼吸はしているが目を覚まさない。


「ノーティス、エマ。 私リースさんと一緒に旅に出るわ」


 私の言葉に二人は何も返さない。


 まだ怪我も治ってないし、意識も戻ってないから当然よね。


 私は言葉が返って来ないと分かっていても口を開いた。


「リースさんとの旅だから安心して。 そうだ! 旅のお土産を買って来るわ!」


 反応はない。 分かっていても、私は言葉を続けた。


「きっと強くなるわ。 私天才だから戻ってきた頃にはリースさんくらい強くなってるかも。 それに凄いファンを付き連れて戻って来きたりして? ふふ。 楽しみにしててよ。 じゃ、行くね。 また・・・ね」


 私は二人の手を握ると、一度ギュッと握りしめ、ソッと手を離した。 そして、周りの迷惑にならない様に静かに部屋を後にした。 部屋を後にした私には涙目で天井を見つめるノーティスとエマには気づかなかった。





 門を出ると、そこにはオリガさんかイディスさんのどちらかが一人門兵をしていた。 今日は兜を被っていないとはいえ、双子でソックリな二人を見分ける事は私には出来なかった。 私が会釈し、横を通り過ぎようとすると声をかけられた。


「リース様との旅?」


 この言い方はオリガさんだ。


「はい。 今日はイディスさんはいないんですか?」


「イディスは宿舎兵の錬磨に入る」


「そうなんですね。 イディスさんにもよろしく伝えてください」


 私はオリガさんに一礼すると横を通り過ぎようとした。 その時、オリガさんが戦斧を私の首に突きつけた。 余りの速さに私は反応する事も出来なかった。


「これくらい捌ける様になれ」


「・・・は、い」


 いやいや、いきなり戦斧突きつけて捌けって無理でしょ。 オリガさん自分の強さが分かってないのかしら。 でも、うん。 これがオリガさんなりの言葉なのよね。 それに、オリガさんの言う通りだよね。


「帰ってきたら捌いてみせます」


「楽しみだ」


 そういうと、オリガさんは柔らかい笑みを浮かべた。 初めて見たオリガさんの美しい笑顔に見惚れていたが、暫くして、私はオリガさんに背を向けると正門に向かって歩き始めた。


「早く強くなれ。 私が見込んだお前なら必ず強くなる」







「ん。 来たね」


「お待たせしました」


「久しぶりね」


「おー本当にドヤ顔だ」


「こんにちはドヤ顔さん」


 正門に着くと、そこには私の受付をしてくれた黒服メイドさんと、赤服メイドさん。 そして、その二人とリースさんと仲良く話している紺服メイドさんがいた。 そこに行くとそれぞれが声をかけてくれた。


「お久しぶりです。 同じ国にいるのに中々会わないんですね」


「私達は受付だから」


「ここに詰めることもあるしね」


「ドヤ顔さん、これからリースさんとの旅なんですよね? いいなぁ、あたしが行きたいです」


 赤服のメイドさんが悔しそうな顔で見つめてくる。 あ、そういえば名前まだ聞いてなかったわ。


「あの、まだお名前を聞いてなくて」


「クロウよ」


「エルダ。 よろしくね」


「ザラです。 改めてよろしくお願いします」


 黒髪が綺麗で睨みつけたら目で人を殺せるくらいの黒服メイドさんがクロウさん。 金髪で親しみやすいのがエルダさん。 赤髪のポニーテールで私より小さいのがザラさん。 うん、よし。 覚えたわ。


「私は──」


「悪いんだけどさ、もう行こうか。 時間は待っちゃくれないからさ」


「あ、はい」


 名乗る前にリースさんに急かされた。 改めて荷物を確認して、よし、準備オッケー。 それにしても折角ロイヤルクラウンに入ったのに半年もしないうちにまた外に出るなんて思わなかったな。


「準備はいい?」


「あ、はい。 大丈夫です」


「ん。 じゃ、行こうか。 クロウ、エルダ、ザラ。 留守を頼むよ」


「お気をつけて」


「ドヤ顔、しっかりね!」


「旅の話、聞かせてくださいね」


 三人のメイドさんは口々にそう言うと先を歩くリースさんに深々と頭を下げた。 私も慌てて後についていく。


 正門を出た所でリースさんは此方に振り向いて門を見上げていた。 私もそれにつられて見つめる。


「この門はヴァルハラ門。 ロイヤルミュートに入る唯一の入り口。 周りは高い城壁に囲まれてるから普通の人は此処から入るしかない」


「ヴァルハラ門」


「それなりの使い手なら城壁を跳び越す事も出来るけどね」


 いや、無理でしょ。 こんな有りえない高さの壁どうやって跳び越せっていうのよ。 リースさんみたいに羽がある訳でもあるまいし。


「あの」


「ん」


「どうして今、そんな事を?」


「覚えていて損は無いよ」


「へ?」


「よし、行こうか」


 そう言うとリースさんは踵を返して歩き始めた。


 三ヶ月リースさんと錬磨したけど、こんな事言う人だったかしら。 まぁ、何にせよこれからが旅の始まり。 慣れてるとは言え今回は南の大陸。 私も南の大陸には行ったことはない。


 今回の旅がどの位長くなるのかは分からないけど、絶対に強くなってみせるわ。


「置いてくよ」


「今行きます!」


 私は先を歩くリースさんの後を追って走り出した。



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