ロイヤルクラウン最高幹部
ロイヤルクラウンには五つの幹部部隊とその長がいる。 各部隊の人数はそれぞれ違ってはいるものの、少数精鋭でありながらもその戦力は一国以上の物とされている。
今、滅多に揃う事のない幹部部隊長の中、四人と総督であるアルテアが円卓に供えられた綺麗な椅子にそれぞれ座り、会議室に集まっている。
「リースがいるなんて珍しいですわね」
「アンナにのせられてね。 久しぶりだねクイーン」
「食べ歩きもいいけど偶には帰ってきなさいな」
「やだよ」
「リース、久しぶりに私とやろうヨ。 いいでショ? ねェ。 いいでショ」
「コイツがいるから嫌なんだよ」
「レイメイ、そういうのは後でやりなさいな」
「だからやらないっての。 アンナ、どうにかしてよ」
「皆仲が良くて羨ましいわ」
黙って幹部のやり取りを聞いていたアルテアがコホンと一つ咳払いすると、皆目だけそちらに向ける。
「始めてもよろしいでしょうか?」
「一人いないけど?」
「彼女には後で報告書を渡します」
「引き籠りを引きずりだすのが一番の議題じゃない」
「放って置くといいヨ。 私が行っても出ようとしないネ」
(昨日珍しく上に来たけどね。 言うと面倒くさいから黙っておいた方がいいかな)
「致し方ありませんわ。 始めましょう」
「それでは、始めさせていただきます。 私とクイーンで北と南に戦力強化の願いと協力を要請しました」
「ん。 それはアンナから聞いた。 で、どうだったの?」
「結果から言うと難しいという事です。 まずロイヤルクラウン程の戦力を見込める国は少ないです。 どの国も自国の防衛で手一杯との事です。 ブルデンバウムは別ですが」
資料を見ながら話すアルテアは疲れが溜まっているのか、溜息をついている。 そんなアルテアを思ってか、アンナが口を開いた。
「魔物の動きが活発化してますね。 此方からの派遣も手が足りていない状況ですし」
「レイメイ、アンタ行きなよ。 やりたいんでしょ?」
「雑魚に用はないヨ。 私がやりたいのは血が騒ぐ命のやり取りネ」
「とんだ戦闘バカだね」
「誉め言葉ネ」
リースとアンナのやり取りにやれやれといった風に、更にアンナが口を挟んだ。
「今は会議中よ。 そういうのは後でやってって言ってるでしょ」
「会議って言っても特に言う事は───あ、一つあるんだけさ」
会議に出る事、否、ロイヤルミュートに居る事自体が珍しいリースがそう言うと、アルテアが少し驚いた表情で口を開いた。
「リースが? 何でしょうか?」
「ん。 今変わった娘を錬磨して上げてるんだけどさ。 その子、育てばいい戦力になると思うよ」
リースの言葉に今度はクイーンが反応した。 リースが誰かを育てる等聞いた事がない為、逸材かと表情も明るかった。
「貴女が錬磨なさっているの? かなりの逸材みたいですわね」
「逸材って言えば逸材かな。 その子トレブルなんだけどさ」
「トレブル? 三つという事? そんな事起こりうるんですの?」
「初めて聞いたヨ」
「実際見た結果だよ。 確かに三つの混ざりがあるんだけどさ、その中の一つがかなり悪くてヤバイ」
リースの言葉にアンナ以外の全員が鋭い目付きになる。 レイメイに至っては良い遊び相手がいるかの様にニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。
「悪い混ざりとは何でしょう」
「東の魔女。 確定はできないけど可能性はかなり高いよ」
先程までの明るい表情とは打って変わって、威圧感すらある鋭い目付きでクイーンは言葉を紡いだ。
「それが本当でしたらその娘、直ぐに粛清するべきですわ」
「言うと思ったよ。 でもダメだよ。 あの娘は私が育てる」
「“それ”が味方になるとは限らないのでしょう? それに、魔女の混ざりだなんて最悪でしかありませんわ」
「私がやるヨ。 楽しめそうヨ」
「ダメよレイメイ。 リースの言う通り、あの娘は育てた方がいいわ」
「アンナ、あなたもリースと同じですのね。 二対二。 意見が分かれましたわね」
「レイメイはただやりたいだけでしょ」
リースはニヤリと笑うレイメイに呆れながらアルテアに目を向けると、アルテアは顎に手を当てて何やら考えていた。 そして、考えがまとまったのか、その沈黙の場を声を発した。
「暴走する可能性はあるのですか?」
「一度実際に。 宿舎兵を殺しかけたと」
「話になりませんわね。 力を付ける前に粛清するべきですわ」
「コントロールが難しいんだよ。 それをアタシが教えていく」
「確実にコントロールできるという事でもないのでしょう? リース、あなたダブルだからって身内に甘い訳ではないでしょうね?」
「ないよ。 そもそも私はこの手で暴走したダブルを何人か殺ってきたんだよ。 今更そんな感情ない」
「分かりました。 リースに任せてもいいですか?」
アルテアの言葉にクイーンが立ち上がり、机を叩きながら抗議の言葉を上げた。
「アルテア様! ただのダブルならいざ知らず、魔女の血を引いて、それにトレブルだなんてどんな事が起こるか分かりませんわ!」
「だからそれをアタシが何とかするって言ってるでしょ!」
「何とかするですって!? どの様にするおつもりかしら!? 結果、国に仇なした時、貴女に責任が取れまして!?」
白熱するクイーンとリースに対し、紅茶を一飲みしたアンナが口を挟んだ。
「私もできるだけサポートするつもりよ。 クイーン。 あなたも一度彼女に会って見てみるといいわ」
「アンナまで・・・。 分かりましたわ。 この件はリースとアンナに任せるとしましょう。 ですが、一つ条件がありますわ」
二対一になった事で分が悪くなったと感じたクイーンは条件を付きつけた。
「言いたいことは分かるけどね」
クイーンの条件を聞く前にリースはジト目でクイーンを見た。
「今後一度でも暴走した場合、分かっていますわね?」
「はいはい。 言うと思ったよ。 じゃ、この件はアタシとアンナに任せるって事でいいね。 アルテアもそう言ってるし」
「私もその子と会いたいヨ。 いいでしョ? ねェ。 いいでしョ?」
「アンタはただ戦りたいだけでしょ。 ダメだよ。 近づいたらアタシがアンタを殺すよ?」
「どっちにしても私にはいい事尽くめヨ」
「アルテア、どうにかしてよ」
「レイメイ。 その子に近づくのを禁止します」
「つまらないヨ。 私も外に行きたいヨ」
「行きな行きな。 そして勝手におっ死にな」
「リース、言い過ぎよ。 レイメイも。 貴女は他に仕事があるでしょう」
「政務なんてつまらないヨ。 私も外に行きたいヨ」
アンナに咎められブーブーと文句を言いながら机に突っ伏すレイメイを横目に、アルテアが口を開きかけたその時だった。 一人の黒服メイドがノック後に会議室へ入ってくる。
「失礼します。 今入った報告をよろしいでしょうか?」
「構いません。 何か急ぎの報告ですか?」
「はい。 南の大陸にある国領の村が一つ。 滅ぼされました」
黒メイドの言葉に会議室にピリッとした雰囲気が流れる。 アルテアは表情を変えず口を開いた。
「現場はどうなっていたか分かりますか?」
「完全に消滅しています。 巨大なクレーターが残されていたと」
黒服メイドの言葉に、ただの魔族や魔物では無しえない行動だと悟ったアンナがリースに口を開いた。
「リース、直ぐには動かないという話じゃなかったの?」
「多分、ウィンクドレスでしょ。 アイツは三姉妹の中で異質だからね。 誰かの命令を聞くような奴じゃないよ」
「何にせよその周辺にいるようね。 レイメイ、行ってみてはどう?」
「いいヨ。 偶には外で運動したいからネ」
「待ってください」
立ち上がりかけたレイメイをアルテアが言葉で制す。 何か思案すると、すぐに黒服メイドに指示を出した。
「現場にいる諜報隊を下げてください。 恐らく村の生き残りはいないでしょう。 その場に留まる事で相手の目に入るかもしれません。 そうなった場合、相手が三美凶でしたら諜報隊では打つ手がありません」
「賢明ですわね」
「畏まりました。 直ぐにそのように手配を」
「レイメイ。 貴女が動くのは諜報隊が戻ってからでも遅くありません。 それに、動く時は幹部部隊長の誰かも一緒に行動してもらいます」
「大丈夫ヨ。 私一人でも問題ないヨ」
「リースの言う通り相手がウィンクドレスなら非常に危険です。 単独行動は認められません」
「そうね。 レイメイ、アルテア様の言う通りよ。 リースは・・・嫌な顔してるから私が一緒に行くわ」
その場で的確な指示を行うアルテアの言葉通りに黒服メイドは早足で部屋を出ていく。
静まった会議室の中、リースが席を立ちながら口を開いた。
「時間がない。 アタシは例の子の錬磨に戻るよ」
「分かりました。 リース、くれぐれもその子の事よろしくお願いします」
「ん。 一人前にはしてみるよ」
そう言うとリースは背を向けたまま手を上げて答える。 クイーンはそんなリースの背中を険しい顔でジッと見つめていた。 そんなクイーンに気づかれない様にアンナはクイーンに視線を送ると、不敵な笑みで小さく笑うのだった。
油断してた。 座学ってもっと楽な事だと思ったのに。 こんなにキツイとは思ってなかったわ・・・。
「聞いてるの? 戦闘では頭を使う事も大事よ」
「はいー・・・でも難しすぎて」
「戦闘状況によるシュミレーションくらい出来ない様では生き残る事は難しいのよ。 ほらさっさとシュミレーションを行って」
「はいー・・・」
イリーナさんは机に突っ伏し、頭から煙が出ている私に手加減することなく次々に問題をぶつけてくる。
錬磨しても地獄! 座学でも地獄! どうしてこうなるのよ! ううう。 誰か助けてー!!




