表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい  作者: 凪雨
ロイヤルクラウン編
15/57

三美凶

 ロザリーはリースを特別医療室に案内したが、リースは自分一人で中に入ると伝えた。 一対一で話をし、じっくりと観察したいと伝えたリースは、ロザリーの了承を得て一人で部屋の中に入って行った。


 部屋の中ではベッドに横になっている娘がいたが、入って来たリースに気づくと上半身だけを起こして顔をそちらに向けた。


 「邪魔するよ」


 「? 初めまして?」


 「なんで疑問形なのか分からないけど初めましてだね。 アタシはリース。 ここの幹部部隊長をしてるよ」


 「幹部の部隊長の方なんですね。 よろしくお願いします」


 「ん。 しかしシケた部屋だねー。 これじゃ息が詰まるよね」


 「ええ、まぁ。 あの・・・」


 「ああ、別に何かしに来た訳じゃないんだけどさ。 ちょっとアンタと話をしたくてね」


 「はぁ・・・」


 「座らせてもらうよ」


 そう言うとリースはベッドに腰かけジッとその女の子を見つめた。




 sideリース


 部屋に入った瞬間に気づいた。 この子は純粋な人間じゃない。 ふーん、クロウやオリガでも分からない空気と言っていたけど確かにそうだね。 ザラはアタシに似た空気と言っていたがちょっと違うね。 親近感は沸くけど何か他の“混ざり”があるね。


 「アンタさ、自分が何したか覚えてる?」


 「それがさっぱりなんですよね。 起きてすぐにロザリーさんにいろいろ聞かれたりしたんですけど」


 「ふーん、記憶が無いのか」


 「はい。 でも・・・」


 「でも?」


 「夢の中で誰かを見たんです。 初めは母様だったんですけど、近づいたら違う人で・・・」


 「顔は覚えてる?」


 「はい。 凄く怖くなって、その時誰かに後ろに引っ張られた感覚があって、そしたら目が覚めて」


 「ふーん」


 俯き気味に話すその子をみながらアタシは更に注意深く観察した。 妙な空気が漏れ出てる。 半分は冷たい空気、半分は暖かい空気。 それが混ざり合って気味の悪い感じだ。 この薄気味悪さ、嫌な予感がする。


 「アンタさ、小さい頃の記憶ってある?」


 「あります。 同じ歳の村の友達と遊んだりしてました」


 「それから今までの記憶は?」


 「え?」


 「小さい頃から今の歳になるまでの記憶だよ」


 「えっと、私は・・・」


 「・・・」


 「私は・・・」


 空気がおかしい。 さっきより冷たい空気が肥大化していっている。 クソッ、この空気ヤバイ───。


 「うっ・・・うぇ」


 急に嗚咽するとその娘は頭を抱えて震え出した。 この娘、今度は暖かい空気が肥大化した? そういう事か・・・この娘は───。


 「いいよ。 無理に思い出さなくてもいい。 悪かったね」


 「はー・・・はー・・・」


 そう言うとワタシはその子の背中をさすりながら顔を覗き込んだ。 その目は見開き、瞳孔があちらこちらに動き回っている。 最悪の可能性が当たったかもしれない。

  

 暫くそうやっていると落ち着きを取り戻したのか、奇妙な空気を持つ娘が口を開いた。


 「私、何かを忘れています。 でも思い出したくないんです」


 「ん。 ちょっと違うね」


 「違う?」


 「思い出そうとすると思い出させない様にしてる」


 「だから思い出したくなく・・・」


 「違う。 アンタは思い出そうとしてる。 でもそれを思い出させない様にしてるんだよ」


 「よく、分からないんですけど」


 「だろうね。 アタシにくらいしか分からないよ」


 アタシはそう言うとベッドから降り、扉に向かって歩いて行った。 途中振り向くと、不安にさせない様に笑って口を開いた。


 「ああ、アンタ明日には此処を出ていいよ。 アタシが上に言っておくからさ。 それで、出たらアタシの所に来な。 適当なメイドに言えば部屋まで連れて行ってくれるだろうからさ」


 「え、えっと」


 「いいね。 絶対に来るんだよ。 待ってるからさ」


 「はい」


 そう言うとアタシは扉に向かって歩いて行く。 自然に険しくなった顔をその子に見せない様にして。






 「リース様、いかがでしたか?」


 「・・・」


 ロザリーの問いにリースはその場では答えなかった。 入口に立つ二名のメイドに聞かせない様に早足でその場を離れたリースは誰もいない中庭に出ると、付いて来たロザリーに口を開いた。


 「最悪。 アタシの予感が当たったならとんでもない奴を引き入れたよ」


 「そこまで・・・ですか」


 「総督は?」


 「クイーン様と共に外交へ。 後三日は帰りません」


 「今いる幹部部隊長は?」


 「アンナ様とレイメイ様。 後は・・・」


 「アイツはいい。 どうせ引き籠りでしょ。 アンナはともかくレイメイは一戦やらせろってうるさいね。 よし、アンナの所に行くよ」


 「は、はい」


 そう言うとリースは早足でアンナの部屋に向かった。 ロザリーも後を追う様に駆けだした。 リースの顔つきは未だに険しいままだった。






 「邪魔するよ」


 ノックもせずに部屋に入るリースに執務を行っていたアンナは筆を止め、扉に目を向ける。 入って来たリースとロザリーを見て立ち上がると、近くの台に置かれたカップにハーブティーを二つ注ぎ始める。


 「久しぶりね。 イリーナも良くこんなに早く見つけたわ」


 「会ってないよ。 アタシがたまたま此処に食べ歩きしに来たんだよ」


 「あらそうなの? イリーナに悪い事したわね」


 「放って置きなよ。 偶には外に出した方がいい」


 「ふふ。 優しいのねリースは」


 「うるさいよ」


 ソファーにドカッと腰かけるリースの横にロザリーが直立で立っている。 アンナがカップをテーブルに置き、立ちっぱなしのロザリーに微笑みかける。


 「今日二回目ね。 砂糖は減らしておいたから」


 「はっ、失礼します」


 「アンタ今日二回もこの味オンチの茶を飲むの? 死ぬよ」


 「失礼ね。 砂糖は減らしたって言ってるでしょ。 それに私は味オンチじゃなくて甘党なだけなの」


 「あーザラってメイドもそうだったね。 っと、本題に入るよ」


 アンナのハーブティーには手を付けず、リースが険しい顔つきで口を開いた。


 「アンナ、アイツを見た?」


 「研鑽場でね。 貴女も見てきたんでしょう? どうだったの?」


 「アタシの予感だけどね」


 「貴女の予感は確定事項の様なものね」


 「まぁ、ね。 診断って程じゃないけど、最悪だよ」


 リースの言葉にアンナも険しい顔つきになる。 それ程までにリースの予感、言葉には重みがあった。 リースの横に座るロザリーもゴクリと唾を飲み込んだ。


 「でも、クロウもエルダもザラも、それにオリガも責めてやらないでほしいんだけど」


 「ええ。 それは大丈夫よ」


 「ん。 結論から言うとアイツはダブルじゃない」


 「え!?」


 リースの言葉にロザリーが困惑する。 間違いなくダブルだと思っていたロザリーは慌てていた。


 「ダ、ダブルではないのですか?」


 「違うね」


 「でしたら何だと・・・」


 「前例が無いだろうから呼び方は分からないけど、トレブルってとこかな」


 「トレブル。 三つね」


 「三つ!? そんな馬鹿な! そんな者聞いたことが・・・!」


 「だから前例は無いって言ったでしょ。 でも、間違いないよ。 あの娘には三つの“混ざり”がある。 それも先天性じゃない。 恐らく後天性だね」


 リースの言葉にロザリーは絶句し、アンナは顎に手を当てて何かを思案していた。 そんな中、リースは更に言葉を続ける。


 「どっかのバカがあの娘を実験台にしたのさ。 証拠にあの娘には暖かい空気と冷たい空気があった。 先天性の場合そんな事は起こり得ない」


 「暖かい方は分かりませんが冷たい方は分かります。 模擬戦闘でダリアを殺しかけた時、その冷たい空気がドヤ顔の周りを包み込んでいました」


 「暖かい方はあの娘を守っている。 問題は冷たい方だよ」


 「不気味な感じでした。 初めてあの様な空気を目にしました」


 「だろうね。 あの空気を知ってるのはほんの一部だよ。 うちでもアタシとクイーンくらいかな。 アンナも知らないだろうね」


 「その口ぶりだと貴女はその空気に似た人物と会った事があるのよね?」


 アンナの言葉にリースは置かれたハーブティーを飲むと、下を出しながら眉に皺を寄せた。 そんなリースを見ながらアンナは「おかしいわね」と呟いていた。


 「あー、クソ甘かった。 さっきの答えだけど、あるよ」


 「東に居た時に?」


 「ん。 まぁ、ね。 つーか、殺されかけた」


 「リース様が? 御冗談でしょう」


 「冗談じゃないよ。 アタシみたいな唯のダブルならあの娘の事は精々大事にしてやりなで済むんだけどね」


 「唯のダブル? エルフハーピーという稀少種の中でも最上級の稀少性のダブルの貴女が?」


 「誉め言葉として受け取るよ」


 「ふふ。 当然よ」


 「それでリース様。 誰の空気なんでしょうか」


 ロザリーの問いにリースは天井を見上げながら思い出したくない様に、それでも何とか呟くように口を開いた。


 「アタシはさ、東に居た時コイツはヤバイって奴と会ったんだ。 その魔女の名前は二人も聞いた事あると思う」


 「魔女って・・・そういう事。 確かに最悪ね」


 「・・・最悪どころではありません」


 魔女と聞いた二人は同じ者を頭に浮かべた。 ロザリーは手を握りしめ、怒りを抑えている様にも見える。 何人もの仲間達がその魔女の手先の手に掛かってしまっている。 怒りを覚えるのも無理は無かった。


 「問題はコイツには三人の娘がいてさ。 アンナ知ってるでしょ」


 「当然よ。 現に今私達はその三人の部下の魔物と戦っているんだから」


 「大元もヤバイけどその三人が厄介すぎる。 三人共アタシ達でも勝てない相手だからね」


 「化け物・・・ですね」


 「正直、今こうして平和っぽく暮らせてるのはアイツ等の気まぐれみたいなものだよ。 遊んでるんだよ。 じわじわ首元を締めるようにね」


 「現に東の勢力は増しているし、徐々にだけどその範囲を広げてきているわ」


 アンナの言葉にロザリーは目付きを鋭くし、膝の上で拳を作りながら決意を表明した。


 「直ぐにでも部隊兵を増やせるよう手配を・・・」


 「バカ。 さっきも言ったでしょ。 アンタは今のままでいい。 それにそんな事しても中途半端な奴が戦場で死んでいくよ」


 「ですが・・・!」


 「焦るなって言ったでしょ。 それにアンタが焦った所で人は直ぐに成長しないんだからさ」


 「はい・・・」


 リースの言葉に俯くロザリーを横目にアンナはリースに問いただした。


 「リース。 殺されかけたって魔女にやられたの?」


 「いや。 三姉妹の一人だよ」


 「誰?」


 「言わなきゃダメ?」


 「駄目」


 「はー・・・“オルベルス”だよ」


 「“オルベルスネーシア”三姉妹の長女ね。 よく死ななかったわね」


 「運が良かった。 ダブルのお蔭で生命力があったからね。 “ウィンクドレス” か“プラムベティ”なら何とかなったかもしれないけどね」


 「無理ね。 その二人も私達じゃ勝てないわ」


 「当時の話だよ。 ま、向こうも更に強くなってるだろうけど」


 「当然ね」


 二人の会話にロザリーは冷や汗を流しながら聞き入っていた。 とんでもない名前が次から次へと出てきた為である。 


 東の大陸は陸続きに北・西・南の大陸と続いており、魔物が蔓延り人間は誰一人存在していない事から魔の大陸と呼ばれている。 魔物はその東の大陸からやってきており、北・南の大陸にも屈強な国はあるが、平均的なレベルは低く、西の大陸最大の傭兵国であるロイヤルクラウンはその前線で魔物の侵入を阻止するため日夜戦い続けている。


 “オルベルスネーシア” “ウィンクドレス” “プラムベティ” この三人は東の大陸の三美凶と呼ばれ、美しさ・強さ・人間に対する残忍さから畏敬の念を込めてそう呼ばれていた。


 「強い上に容赦がないからタチが悪い。 まだ積極的に前に出ないから何とかなってるけどね」


 「対策が必要よ。 今回、総督とクイーンは北と南に戦力の強化を持ちかける為に行っているわ」


 「だろうね。 それでさ、あの娘の事なんだけど」


 「ドヤ顔ですか?」


 「ん。 あの娘は早急に育てた方がいい。 トレブルだし魔女の血を受けてるから不安定ではあるけど、上手く育てばかなりの戦力になるよ」


 「一か八かよ。 魔女の血を受けてるなら私達の敵になる可能性もあるわ」


 「それでもだよ。 ハッキリ言う。 このままジリジリと首を絞められるのを待つか賭けに出るかだね。 アタシは何もしないままってのは嫌いだよ」


 「ですが危険すぎます。 賭けに出るのは様子を見てからでも・・・」


 「それじゃ遅い。 さっきも言ったでしょ。 あの娘は魔女の血を受けてる。 実験台にしたのか分からないけど、遅かれ早かれ魔女は三姉妹とその成果を見に来る」


 「そうなったら大陸ごと終わりね」


 「その時、あの娘が戦力になれば結果は分からない。 曲がりなりにも魔女の血を受けてるなら育てば私達以上に強くなるよ」


 「自信過剰すぎます。 あれでは直ぐに死にますよ」


 「自信が無いよりいい。 後はあの娘の持つ暖かい空気を上手く使えれば」


 「守っているの?」


 「そう感じた。 誰の空気か分からないけど恐らく近親者かな。 兎に角、あの娘は直ぐに育てるべきだね」


 「なら適任者は貴女ね」


 アンナの言葉にリースが嫌な顔で答えた。


 「アタシ? 無理だよ。 人を育てた事なんてないし」

 

 「ダブルじゃなくても貴女ならあの娘の気持ちが分かるかもしれないわ。 適任よ」


 「育つ前に死ぬかもよ」


 「そうなったら大陸ごと終わりよ。 いずれはね」


 「・・・はー。 分かったよ。 悪いねロザリー。 あの娘は私が面倒みるよ」


 「私は構いません。 リース様直々に錬磨してくださるなど羨ましい限りです」


 「アンナ、上手くいったらメシ驕りね」


 「お金貯めてて良かったわ」


 そういうとアンナは冷めたハーブティーに口を付けた。 思うところがあるのか、いつもより少ない砂糖のせいか、アンナにはその味が美味しく感じなかった。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ