ロザリーの心
「何もあそこまで言われなくてもよろしいのではないですか?」
「ふふん。 オリガにはあれくらいが丁度いいんだよ。 イディスもいたしね」
「楽しまれてますね」
「悪い?」
「あまり良い趣味とは言えません」
「真面目すぎるんだよアンタは」
リースとクロウ、エルダ、ザラの四人でロイヤルクラウン城に向かい、そこで丁度門番をしていたオリガとイディスに対してリースは怒気を含んで罵倒した。
しかし、それは本心からではなくからかいを含んだ言い方で 当然オリガもイディスもそれが分かっている為か、二人は頭を掻きながら対応していた。
「たまには肩の力を抜いてほしいんだよアタシは。 クソ真面目に門の前で突っ立ってる暇があったら世界でも歩いて見てほしいね」
「リース様、言葉使いが悪いです」
「あーあー、コイツもクソ真面目すぎてつまんないね」
「私は今のリース様の話し方好きですよ。 なんか身近な感じで」
「あたしもです。 幹部部隊の部隊長とは思えないです」
「お? ほらほら聞いた? クロウ、これがアタシの魅力ってやつだ」
「はぁ・・・。 もういいです」
ふふん。 と胸を張るリースに一歩下がって歩くクロウは心底呆れたように溜息を付いた。 それを横目にエルダとザラはこれ幸いとリースを挟んでいろいろな質問をしていた。 リースも嫌な顔一つせず答えている。
幹部の部隊長と話すことは滅多に無い。 誰もが近づく事すら出来ない程の者達だ。 そんな中リースは幹部部隊の部隊長でありながら親しみやすく話しやすい。 カフェではとんでもない圧を放っていたが店を出ると直ぐにその圧も消え失せていた。
締める所は締める。 緩める所は緩める。 その線引きが上手いリースはほとんど国にいないにも関わらずロイヤルクラウンの中でも人気が高い。 故にエルダもザラも直ぐにリースの事を尊敬し好きになっていた。
四人は話しながらロザリーの部屋に来ると、リースが悪戯な笑みを浮かべながら口を開いた。
「アンタ等先に行きなよ。 アタシは一番最後に行く」
「え? どうしてですか?」
「リース様からお伝えしてもらったほうが・・・」
エルダとザラは頭に?を付けて首を捻っていた。 一人気づいたクロウはまた溜息を付いた。
「国に入る前からリース様の空気が分からなかったのはその為ですか」
「そそ。 気づかれたら面白くないでしょ? それに呼ばれたのはアンタ等だしね」
「本当に悪い趣味ですよ」
「ふふん。 いいから早く行きなよ」
「はぁ」
再度溜息を付き、ノックをすると中からロザリーの声が聞こえる。 「失礼します」 とクロウが部屋に入るとエルダとザラも続いて中に入って行った。 リースは締められた扉の前でニヤリと笑っていた。
「遅い。 いくら急ぐ必要は無いと言っても限度があるぞ」
「申し訳ありません」
「オリガにも同じ件で話を聞く予定になっている。 オリガはアンナ様が聞くそうだがな」
「オリガ様とロザリー様は同階級。 アンナ様が聞かれる事になるのは当然でしょう」
「ああ。 お前達の話は私が聞く。 正直に答えろ」
ロザリーの尋問にクロウを中心に三人共姿勢を正し、直立していた。 エルダとザラに至っては部屋に入ってから、未だに一言も声を発してはいない。
「宿舎兵が暴れた件でしょうか?」
「分かっているみたいだな。 率直に聞く、何故あの娘を通した?」
「戦力になると思ったからです」
「お前程の女があの娘が戦力になると思ったのか?」
「はい」
「本気で言っているのか?」
「はい」
ロザリーの問いに答えるのはクロウのみであり、エルダとザラは完全に委縮してしまっていた。 部屋に入った瞬間からロザリーからの圧は凄まじく、有無を言わさない雰囲気だった為だ。
「空気がおかしい事に気づいたか?」
「はい」
「それで通したのだな?」
「はい」
「受付の責任者はクロウだな?」
「はい」
「あの娘は今回の件で宿舎兵の一人を殺しかけた。 それも錬磨中の事故では無く恐らく故意にだ。 あの娘はもうロイヤルクラウンに置いておけん」
「・・・」
「責任はクロウ。 お前にもあるな?」
「ま、待ってください! クロウさんは悪くありません!」
「そうです! ドヤ顔さんを案内したのはあたしです! 責任ならあたしが」
「私は責任者のクロウに聞いている。 当然お前達にも後で話を聞く」
ようやく声を発した二人に対し、有無を言わさないロザリーの言葉にエルダもザラも俯く事しか出来なかった。 真っすぐにロザリーを見るクロウが口を開きかけたその時だった。
「そんなだからアンタは誤解されやすいんだよ」
「なっ・・・!」
気が付くと部屋の隅に置いてあるテーブルに座り、何処から出したのか果物を丸かじりしているリースがいた。 突然の登場にその場にいた全員がリースを見ると、リースはニヤリと悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「何かいう事があるんじゃないのかな?」
「リ、リース様! お帰りになられていたのですか!」
「ふふん。 空気を消してたから気づかなかったでしょ。 それよりさっきから話を聞いてたけどさ。 ロザリー、この子等は悪くないよ」
「ですが現にあの娘は・・・!」
「仮りにそのドヤ顔ってのが同じ宿舎兵を殺しかけたとしてもさ、故意かどうかは分からないんじゃない? 様子が変だったって話らしいけど?」
「それは・・・」
「空気がおかしかったんでしょ? 聞いたよ。 アタシに似てるんだって?」
そういうとリースは食べかけの果物を再度口に入れるとそのまま話し出した。
「ほれはいひどみへみないとはからはいへひょ?(それは一度見てみないとわからないでしょ?)」
「リース様」
「ん。 まぁ何にせよだ。 一度アタシが見てやるよ」
「元々そのつもりでした。 アンナ様もそのように手配を」
「ありゃ、そうなの? もしかしてイリーナに頼んだ?」
「はい」
「あっちゃー。 じゃ、完全に行き違いだわ。 此処に来る途中イリーナの空気感じたから」
「イリーナ様にすぐ戻るように連絡を・・・」
「いいよいいよ。 アイツもバカじゃない。 それにこんな所で缶詰になるより偶には外を見るのもいいでしょ」
そう言ってニカッと笑うリースを見ながらクロウは溜息交じりに呟いた。
「楽しんでますね」
リースが現れた事により受付メイドの三人には責任は無く、お咎め無しとなった。 部屋を出た後、エルダとザラはリースに何度も頭を下げていたがリースは二人の頭をポンポンと叩くと
『今のまましっかりやりな。 うちに来る人々が最初に見るのはアンタ等だ。 アンタ等が見極めて悪い連中を入れないお蔭でこの国は平和を保ってる。 良くやってるよ。 自信もってやりな。 そして自分の錬磨も忘れない事。 いつか一緒に世界を見て回ろうよ。 そん時はアタシお気に入りのメシ屋に連れて行ってやるからさ』
そう言って二人にニコッと笑って見せた。 そんなリースを見て二人は涙目で再度深々と頭を下げた。 クロウはそんなリースを見ながら笑顔で『楽しみにしています』と口を開き、頭を下げ三人で受付へと戻っていった。
「よし。 じゃーそのドヤ顔?って奴の所に行くとしようかね」
「はい。 案内します」
リースとロザリーが共に歩き出し、ドヤ顔の元に向かっていく。 途中、ロザリーは少し俯き加減に口を開いた。
「私にはあの様な事はできません」
「んー?」
「どうしてあの様な振る舞いが出来るのですか?」
「アンタもクソ真面目だからねー。 しかもクロウやオリガ以上が頭に付く」
「・・・」
「いいんじゃない。 アンタはそのままで」
「え?」
「それとも何? ロザリー様お慕いしてますー!ってキャーキャー言われたいの?」
「その様な事はありません! 第一そんな事に現を抜かしている暇があれば錬磨しろと言いたいです!」
ロザリーが怒りながら否定するとリースはケタケタ笑っていたが、頭に手を回し天井を見ながら口を開いた。
「いいんだよ。 アンタはクソ真面目で」
「ですが、実際私は宿舎兵にも良く思われていないでしょう。 陰口も聞こえてきます」
「だからそれでいいんだって。 いい? クソ真面目な奴がいるからアタシみたいな奴の人気が出るんだよ。 だからそのままでいて?」
「なっ、なんですかそれは!」
「ふふん。 冗談だよ」
「リース様!」
ロザリーの怒気を混ぜた言葉にもどこ吹く風のリースは、ふっと柔らかな笑みをロザリーに向けた。
「ロザリー。 アタシはあんたが好きだ。 そのクソ真面目な所もね。 アタシはアンタが陰口叩かれてるのは知らないけど、それでもアンタの事だからさ、だからっていびるような真似はしないし宿舎兵全員を平等に見てやってる。 あのクロウにも完全には出来ない事だ」
「・・・」
「宿舎兵ともなればまだまだ手のかかるガキみたいなもんだ。 個の主張が激しい奴もいれば全然前に出ない奴もいる。 連携も出来なければ個人の強さもまるでダメ。 そんな奴等を全員見るってのは生半可なもんじゃない」
「はい」
「人はさ、好きになれる奴もいれば、なれない奴もいる。 気に食わない奴、妙に気が合う奴もいる。 それでも立場上平等に扱わなければならない。 それがどれだけアンタの心を蝕んでいるか分かるよ」
「・・・」
「当時はさ、クロウを宿舎兵長に推す声が多かったよ。 実力は同じでもアイツはクールだけど周りからも慕われてたし、アンタは周りとは壁があったしね。 アンタを推したのはアタシくらいだった」
「はい・・・」
「ちっとも成長しない奴。 目を見張る成長をする奴。 様々だ。 皆、夢を見てうちに入る。 そんな奴等を平等に見るには難しい。 いつだったかな、アンタが嬉しそうにアタシに言ってきた事があったね」
「・・・」
「リース様! 私が育てた子が部隊兵になったんです! 私と同じ階級になれました! だったかな。 あの笑顔は忘れられないよ。 その時思ったよ。 ああ、ロザリーを宿舎兵長に推して良かったなってさ」
「っ・・・」
「部隊兵は何十人かいるけどアンタ程人に優しく厳しく気遣い出来る奴はいないよ。 だからさ、いつまでもそのクソ真面目を貫いて欲しいね」
「私は・・・」
「ん。 アンタは間違っていない。 宿舎兵の奴等も分かってる筈だよ。 陰口叩いても自分から抜ける奴がいないって事はアンタを認めてるから。 昔は年に何人か自分から抜ける奴もいたしね」
「・・・はい」
「辛いよね、今の立場はさ。 上からさっさと部隊兵レベルを増やせって言われ、下からは陰口だ。 それでも人に優しく厳しいアンタの事だ、半端な奴は上に送れない。 それで派遣先で死んだりしたらアンタは一生自分を恨むだろ」
「・・・」
「だからアンタも今のままでいい。 アンタが上げた部隊兵が自信を持って今も前線で戦えているのはアンタのお蔭だ。 アンタも自信持ちな。 それでもどうしても心が蝕まれた時はアタシに言いな。 美味いメシでも食いながら話を聞いてやるからさ」
「はい・・・はい」
気づけばロザリーは俯いて涙を流していた。 リースはそんなロザリーの頭をポンポンと叩くとニコッと笑った。 どれくらい経ったか、ロザリーは手の甲で目を拭うとリースを見つめた。
「リース様は、ずるい人です」
「アタシの前ではアンタもまだガキだからね。 ガキの世話くらいしてやるよ」
「ありがとう・・・ございます」
ロザリーにはもう迷いは無く、笑みを浮かべて“前”を見ていた。




