勘違い病を発症するドヤ顔の女剣士
ハーメルン様との重複投稿です。
世界中の人々を私のファンにする。 その為には強く、美しくならなくてはいけない。 それは、言葉にするのは簡単だけど、そこに至るまでの過程はとんでもなく長く、遠かった。
これは、そんな夢を持った一人の女性の物語。
「はひぃ~・・・やっと着いたぁ」
そう言いながら私はボロボロになったマントを脱ぎ去り、背負っていた荷物を地面に降ろした。
旅に出た当初は重かった荷物も今では軽くなっちゃったな。えーと、お爺ちゃんから貰ったカードは・・・有った! 絶対に無くすなって言われてたからバックの奥に入れてたんだよね。 よし、準備オッケー! それにしても沢山の人ね。
私はカードを手に、受付に群がる人々を見渡した。
あれは別の国の傭兵さんかな? 強そうね。 ん、馬車に荷物を乗せた行商人さんに腰の曲がったお婆さんまで。 人が多すぎるわね。 おっ、あのメイドさんの所が空いたかも、こういう所を見つけるのは得意なのよね。 よし!
「入国希望者です! よろしくお願いします!」
私はできるだけハッキリと大きな声で受付の女性メイドの一人にカードを差し出した。
元気な挨拶は当たり前よね。 印象が全然違うし。 何より憧れの所だもん。
「はい。 カードを拝借致します。 我が国にはどういった御用でしょう?」
ふふん、当然決まっているわよ!
ニコリと微笑みながら対応してくれた黒いメイド服を着た受付の女性に私はしっかりと口を開いた。
「はい! 是非ロイヤルクラウンに入隊したいと思いまして!」
私は持ち前の元気さを発揮せんが如くハッキリと答えた。
空気が変わった。さっきまでざわざわとしていた受付場はシン・・・と静まり返った。 そんな空気を感じて私は周りを見渡すと周囲の人々は「何言ってんだコイツ」的な目で私を見ていた。
え? なんかおかしい事言っちゃったかしら?
「ロイヤルクラウンに・・・入隊したいと?」
そこには先程までの笑顔はなく、強烈な視線を向ける黒メイドさんがいた。
怖っわ! 凄い別嬪さんなのに恐ろしい目付きなんだけど!? 眼力だけで人を殺せるんじゃないの?!
「お答えください」
更に問い詰める黒メイドさん。
だから怖いって! 普通の人間なら死ぬって! ま、まぁ? 私は実力があるからビビったり死んだりしないけどね! ほんとだからね!
「はっ、はい! 是非ロイヤルクラウンに入隊したいです!」
だから、その目をなんとかしてくれないかしら! でもあれね、別嬪さんが睨みつけると怖いけど綺麗でもあるってのは勉強になるわね。 村では私が一番美人だったし。
「わかりました。 手続きを行います。 しばらくお待ちください」
黒メイドさんはニコリともせずそれだけ言うと、他の受付をしていた赤メイドさんに私のカードを手渡した。 渡された赤メイドさんはそれを受け取ると門を通って中に入っていった。
ふう、ようやくあの眼力から解放されたわ。 ふ、ふふふ。 流石は憧れの国。 最初からやってくれるじゃない? 私じゃなかったら命の危険があったわね。 でも私はあのくらいじゃ怯まないわよ。
「おいおいおいおい! ロイヤルクラウンに入りたいだって!? 何考えてんだお前!」-----え?おかしい?
「あんたまだ若いんだろう? 命を粗末にしてはいけないよ」----確かに私はまだ19だけど
「驚いたな。 あそこは選ばれた者が集まる所だよ。 君のような子がねぇ・・・」-----私のような子ってどういう意味!?
「獲物は長刀か? 大体お前さんその長さの刀を扱えるのか?」-----扱えるわよ!『相棒』1本で旅してきたの!
そんなやり取りを多数していると先程の赤服メイドさんが戻ってくる。 赤服メイドさんは私に近づくと微笑みながら口を開いた。
「こちらへどうぞ。 ご案内いたします」
ほら見なさい。 分かる人には私の実力は分かるのよ。 これでようやく憧れの国ロイヤルクラウンへ入れるわ! ああ、此処まで長い道のりだったわ。 もう蛙蚯蚓の肉は食べ飽きたし。 国に入ったら美味しいもの食べるわよ。 あ・・・お金足りるかしら?
「ちょっと待ちな」
「待ちな」
呼び止められた私が振り向くと、そこには腕に自信のありそうな凸凹コンビがニヤついた顔で私を見ていた。
何コイツら。 ははーん、成程? これからロイヤルクラウンに入隊する私のサインが欲しいってとこかしら? あげてもいいけど、そう簡単にあげてちゃ安っぽい女と思われるわね。 とりあえず───。
「なんですか?」
クールに振る舞い、凸凹コンビを観察する私。
ふーん。 私のファン第一号としては全然好みじゃないし野暮ったいけど、ファンは大事にしないといけないわよね。 周りに人もいるし、優しく接してあげますか。
「ロイヤルクラウンに入るそうじゃねぇか。 こりゃちょうどいい。 俺達はつい今しがた入隊を断られてよ。 なんでも人数制限らしんだが」
「そこでだ。 俺達があんたを倒せば代わりに入れるんじゃねぇか? なぁ?」
凸凹コンビはそういうと凸は指を鳴らしながら、凹はナイフを取り出しながら私の方へ歩いてくる。
成程、そっちの方か。 ロイヤルクラウンに入隊したいって人はほんと多いからね。 ここにいるメイドさん達に自分の強さを見せようっていう気ね。 でも、残念ね。 私もロイヤルクラウンに入隊したいのよ。 喧嘩売ってきたのは向こうだし、ひとつ相手になってあげますか。
「仕方ないですね。 そっちから吹っ掛けてきたんです。 覚悟はよろしいですね?」
さて、この凸凹コンビじゃないけど私も自分の強さを周りに見せとかないとね。 どうしよう? 色紙が足りなくなってしまうわね。 ファンが増えて困っちゃうわ。
「てめえを倒せばロイヤルクラウンに入れる可能性があるぜ! てめえはここで伸びとけや!」
「はっはー!」
遅いわね。 私くらいになると動き始めてそれを見るだけで実力がわかるってものよ。 よし、ここは一つ派手にいってファンを一気に増やす事にしますか! よっと!
私は背中に背負った『相棒』を鞘ごと放り投げ、柄頭についた紐を引っ張り長刀を引き抜いた。
「隙だらけだアホがー!」
「死ねぇー!」
「遅い!」
峰撃ちの形で凸凹コンビの急所を一閃した私は空から落ちてくる鞘に向かて『相棒』を向ける。『相棒』が鞘に収まると同時に動かなかった凸凹コンビはその場に倒れた。
「おお~!」 という周囲の驚きと拍手、称賛の言葉を聞いた私は気を良くして口を開いた。
「峰撃ちにしておきました。 その腕じゃどの道ロイヤルクラウンには入れなかったですね。 腕を上げて出直のがよろしいでしょう」
クールに決まった! やばい、私恰好良すぎるわ! ちょっとこれもうファンの数が限界突破するんじゃない!? どうしよう! 色紙はバックに十枚しかないわよ? もっと持ってきておけばよかったわ。
「よろしいですか? こちらへ」
一部始終を見ていた赤服メイドさんは先を歩いていく。
ん? 驚いてない? ちょっと今のは決まったと思ったんだけど? あ、あれか。 ここじゃサイン会するとパニックになるから場所を移動するって事ね。 そっか、ここにいる人達には悪いけど後で整理券とか配られる筈だからその時にまた会いましょうね!
私は周囲の人々に見せつけるか如くドヤ顔で赤服メイドさんについていった。
「凄いですね・・・」
「そうね。 あそこまではなかなかいないわね」
凸凹コンビの服の襟を掴み、ズルズルと引き釣りながら黒服メイドと紺服メイドが話す。
「あれでドヤ顔って・・・」
「ダメよ笑っては。 彼女は真剣よ」
「しかし、どうしてあのレベルの者の試験を受けさせたのですか?」
「黒のカードを持っていたわ。 恐らく、近親者の物でしょうけど」
「黒のカード!? ですが、本人があれでは入隊試験も無理でしょう。 最近きた者の中で最底辺ですよ。 試験管は誰が?」
「今の試験官はオリガ様よ」
「オリガ様・・・先見眼強い人ですからね。 厳しいですね」
「・・・少し休憩にしましょう」
黒メイドはそういうと引きずってきた凸男をゴミ置き場に放り投げた。続いて紺メイドも同じように凹男を放り投げると、パンパンと手を叩きながらクルリと踵を返した。
「クロウさん。 お茶は私が入れますよ」
「ありがとう。 エルダ」
紺メイドのエルダはそう言われると受付場の奥にある休憩所に入っていった。残った黒メイドのクロウは赤服メイドと『ドヤ顔』の彼女の通った門内を見ながら口を開いた。
「そういえば名前聞いてなかったわ・・・。 特徴的だったし“ドヤ顔”でいいかしら」
不定期連載です。