第四十四話/絶滅因果
絢爛豪華な大広間。グドゥグドァの能力を用いて作り出したここ結界は、発生に数時間単位で掛かる代わりに強度は高く条件設定の難度が緩いとのユリウス談であり、事実、ろくすっぽ呪文を覚えていなかったものだから適当に発生させたとは言え、南都で発生させてテンケツに一撃で粉砕されたユリウスの結界に比べて初心者の僕でもあれこれと調整しながら展開させることが出来た。あれもこれもと欲張ると上手く結界が練れなくなるので足し引きが重要になる結界というものは、正直ちょっと面白いと思ったり思わなかったり。
そんなことを思いながら僕は、迫り出したキャットウォークの高みから苦しみ横たわる女を見下ろしている。女は立つ足に力を籠めるも敵わない様子で、肘をついて必死に身を起こそうと藻掻いているが起き上がれずに、さながら溺れた蟻のように、広間の床の上で暴れている。
こういったみじめな人の姿を見るのはえらく久し振りに感じる。僕は基本的に毒を用いずナイフで仕事を済ませるし、用いたとしても痺れ薬の類いで苦しめる毒は用いないのだから、それもそうか。
「アストライア! アストライアアストライアアストライアァァァァァ!」
声を張り上げるのも苦しいだろうに、女は僕の名前を叫んでいる。もう助からないというに、わざわざ苦しむ道を選ぶだなんて……とは思わないでもないが、それでも最後まで生きる意志に満ち、足掻く姿を誰でもない僕は肯定しよう。
女は、オレガノ・ストロンガーという。
ヴァラキア・アストライアが依頼で一家諸共に殺害したストロンガー家最後の生き残りであり、アストライアが仕事を完遂しなかった事実の生き証人。ヴァラキアの爺さんが手を抜くとも、失敗するとも思えないので某か外部からの干渉があったのだろうとは思うが、今、そんなことはどうでも良い。アストライアは既に無く、しかしてここに残っている。であれば、であるのならば最後のアストライアとして尻拭いくらい承ろう。ヴァラキア・アストライアと同様の手段を用いて、オレガノ・ストロンガーを殺害する。
結界に誘い込み、見事隔離するに至ったオレガノが降り立った広間には仄かに甘い香りを漂わせる毒の霧が香っていた。空気よりも比重の重い毒霧は沈殿し、高所を取っている僕には届かないが、オレガノがどれだけ足掻こうと広間にいる限り毒からは逃れ得ない。
とはいえ、ここにオレガノがいるということはそれ即ち外にアメミヤが取り残されており、うだうだと無駄に時間を浪費するワケにもいかない。あの異常個体をサキハラにぶつけたとて、ソウルには早いだろう。すぐにでも向かいたい心を押し留め、今はただオレガノが吸い込む毒の量を促進させるを考える。
「ここは……⁉︎」
と意識は焦っているものの不用意な動きは見せずにいるオレガノは、遂に見下ろす僕を見つけた。
「芸者風情が……! 今すぐ私を開放しなさい!」
「生憎ですが、そういう訳にもいきませんの。それに、私といた方がきっと貴女のためになりますわ」
「何をほざくかと思えば、貴族らしく享楽に興じろとでも? 笑止! そのような世迷い言、聴けぬようにしてやろう。降りてくるがいい」
「ふふふ、そのように野蛮な行い……嫌だわ。私、芸事を嗜む者ですので」
「嫌味な奴」
周囲を見渡してこの場所への道を探すオレガノであるが、そのようなものは端から存在しない。というか、結界系初心者過ぎて上手く組めずにこの大広間しか作り出せなかったのだけれど、それを言うとカッコ悪いので秘密とする。
人生なんぞカッコ付けて踏み越えるくらいで丁度良いのだ。都合の悪い、カッコ悪さなんぞ捨てて進め。
「——で? 芸者よぅ。アンタは何者な訳よ。こんな空間作れるんだから、普通じゃないでしょ?」
不用意に動きはせずに辺り一帯を観察し終えた様子のオレガノはずばり、僕に問うてくる。
危機管理はしっかりしているようだけれど、しかして空気にまで気が回っていないとは甘いな。今回に関しては匂いもあるのだから気付いて然るべきであろうに、甘々だ。サトウキビに直で噛み付いた時のように甘いわ。
僕と喋り、少しでも情報を抜き出そうって魂胆だろうが、生憎とその場では僕と喋れば喋るだけ不利になるとも知らずに。可愛いね。
「誰だと思います? 出雲阿国越えの超弩級戦艦系芸者は仮の姿ですが」
「何だよ超弩級戦艦系芸者て。どんなジャンルだ」
「多様性の時代ですので」
「多様が過ぎるだろ。様変わりが激しいルーレットかい」
「私、一発屋で終わる気はございませんの」
「無理だろ⁉︎ どう考えても超弩級戦艦系なんて一発屋にしかなれないよ⁉︎」
声を大にして僕の主張を否定する悪意の存在感オレガノは、しかしてその実で吐息を多く吐き、また吸っている。毒は体内に循環し、今に効果を発揮するに至るだろう。
何だかな、などと今になって嘯いたとて意味はないこと。恨むならば、彼女とて僕とて皆等しく産まれを呪う他に救いはない。
「殺し屋、に違いないでしょう? 人を殺して金銭を得るなどと、穢らわしい」
「狩人と変わらないでしょう、御明察の通りではありますがね。あなた方が口先で人を殺すように、私共はこの手で人を害する。何の違いも、ありますまい?」
「開き直って……どうしてそう簡単に人を殺せるんですか、貴女達は」
「開き直って、って……アホくさ。誰もが綺麗に生きてれば食べていける訳じゃないってだけでしょう。少なくとも、私達はそうでしたよ。ま、単純に暴力が好きでやってる人もいるとは思いますけど、そういう人ってやることが雑だから大体すぐに消えますけどね」
オレガノの持つ殺し屋への嫌悪感。
いやまあ、一部の特殊な人間を除いて人々が糞尿を嫌うように殺し屋が嫌悪されるのはそれは当たり前なのだけれど、何だろうか……オレガノに関して言えば、それが病的なまでに発揮されている。潔癖、というべきだろうか。あるいは過去を踏まえて考えればそうなるだけの下地はあるのだし、こんなものなのだろうか。
お生憎様、僕は下地に高貴さを持ち合わせはしないもので復讐心を宿したとてオレガノと同じ気持ちを覚えるには至らない。理解出来ない感情に振り回されて、こうして殺される彼女に憐みを覚えないとは言わないが憐憫で刃が狂うような殺し屋は少なくともアストライアには存在しない。そういうのは、スラムのガキが覚えてる程度の初歩的な感覚だ。
ソウルもその気はあるが、武術の心得がある以上は納得のいく理由を自分で見つけ出すことだろう。僕が何をする必要もない。
「殺し屋……」
噛み締めるように呟いて、キッと貫くような視線を僕に向けるオレガノの顔は血の気が引いて白み掛かり初めており、その身体を確かに毒が回っていると知らしめている。直に指先の感覚がなくなり、立っている力も失い地に這い蹲うことになろう。
「アストライアという殺し屋に心当たりはありませんか?」
「知ってるよ、よくね。さりとて、知ってどうしようって言うのかな? 最早、君はここから出られはしまい。仮に出られたとして、アストライアに手を出すは敵わないとも」
「私が……弱いからですか?」
「うん!」
満面の笑みで答えたら、猫みたいに毛を逆立てて威嚇された。現状で彼女に戦闘能力がある描写が無い以上、そして一階から二階へなんてこの程度の高低差も乗り越えられない点からもアストライアには敵わない。
でも、それ以前の話だろう。
「でも、それ以前にアストライアは解散した。残ったのはアストライアという名前が欲しいだけの阿保二人。それ以外は最早アストライアなんて忌み名は捨てて、どこぞで生きているよ」
「………………そんな。では、毒使い! アストライアの毒使いは⁉︎」
「ヴァラキア・アストライアかな? 奴さんなら、死んだよ。ただでも爺だったからね」
「死ん……だ?」
オレガノが膝を突く。
力みを抜けたのもあるだろうが、もう足腰に力を入れたところで立ってはいられないだろう。毒は既に相当量が血中酸素と共に全身に回っている。嫌な、殺し方をするものだ。
「他には……ヴァラキア・アストライアの他には、毒で人を殺す殺し屋はいないんですか!」
「ふふふ、知らないようだから教えてあげよう。アストライアってのは基本武闘主義の一族なのさ。ヴァラキアの爺も腰を痛める前は毒なんて使ってなかったしな。だからそうポンポンと毒だの何だのを使う奴はいないのさ」
「クズの一族⁉︎」
「誰の何がクズの一族だ⁉︎」
つい、ツッコミを入れてしまった。
刹那、オレガノ・ストロンガーの瞳に復讐の炎が灯り、立ち上がろうとしたのだろう。床に手を付いて、そして崩れ落ちた。チャチな表現で糸の切れた人形のように、なんてものがあるけれど、正しく彼女の姿は糸の切れた人形であり、どれだけ本人が動きたいと願ったところで毒に冒された肉体は動くを良しとはしない。
「ユーアーアストライア?」
「の、ノーアイムノット」
目を逸らして否定してみるが、普通に無理だったっぽい。
「アストライア! アストライアアストライアアストライアァァァァァ!」
溺れた魚が見るのは水槽の中の悪夢であるらしく、囲われた一階から見上げて睨みを効かせるオレガノの瞳から視線を逸らすことなく見つめ合う。僕がそんじょそこらの青少年であれば恋に落ちていたが、至極残念ながら僕は殺し屋でありまた同時に恋に恋するお年頃な乙女チックな夢を見ているもので、復讐に身を窶す系女子に惹かれる精神性は養えていない。
「アホくさ。僕って、そうやって反復しまくる表現は好きじゃないんだよね。安易っていうかさ、担い手の頭の軽さが露呈するじゃない?」
「父様を、母様を……殺しておいてェ! なんで貴女みたいな人が生きていられるんですか! 死ね! 死ね! 殺してやる!」
「殺してやるって……それで殺せたとして、僕とあんたに何の違いがあるってのさ。感情論で語るのは別に構わないけれど、今際の際なんだからもう少し頭を捻って物事考えた方が有意義な余生を暮らせると思うよ」
もがき、何とか身を捻って懐に手を刺し入れたオレガノ。
銃器の類いを今更出したとて、照準はブレブレでトリガー引く力も入らない。他の投げ物でも同じに当たりゃしない。詰みだ。
あるいは、某か強力な能力でもあるのならば話は別だが、ディアノ卿に使用せず、またここでも破壊を試みずに僕との会話に終始した点を見るに未所持、あるいは敵を害する能力を持たない又は接近しなければ発動しないタイプと推測される。
まあ仮に遠距離での攻撃が可能なものであれ、密閉の都合上ここと一階との間には結界内のズレを作っておいた。僕やオレガノの目から見れば真ん前にいるように見えるが、実際は空間的なズレが発生しており、視界に見えるのはレンズの屈折的効果を用いて産んだ虚像だ。
ロジックは単純。オレガノがいるのはグドゥグドァの結界、僕がいるのは南都でコーヒーブレイク後に迷い込んだあの結界だ。結界内部に結界を作るとなると結界の持つ処理能力の問題で弱い方が排斥・破壊されるようだが、互いに並列して設置し、設置面のみを混ぜ合わせることで隔絶しながらも同位に存在する結界が構築出来た訳だ。
オレガノに僕は害せない。
結界系、圧倒的じゃないか。
「あーぁ、負けじゃないですか」
害せない、とはわかっていながらも身構えた僕の気も知らずにオレガノが懐から取り出したのは一枚の紙であった。様子から見て羊皮紙だろうか、刻まれた文字はインクではなく焼き目のように見える。
内容は完全には読み取れないが、アメミヤ・アマツユとあることからアメミヤについてなのだろう。生年月日、性別、経歴などアメミヤという人間について一通りの概要が書き込まれている。そして最終段には『サキハラ・キショウにより討死』との一文。
「貴女は? ナニトライアですか?」
「いやそこが変わるんじゃないんだけど……ヴァン。ヴァン・アストライアだ。死ぬまで覚えとけ」
「……ヴァン・アストライアかぁ。ヴォルデの狙ってた」
「え、何て? ヴォルデとな。知ってるんじゃないか、話せよ」
「解毒剤と交換です」
「シンプル知らん」
「そんなもの……使うんじゃないですよ」
這い蹲り、羊皮紙に伸ばされた手にはペンが握られている。いつ出した? 懐からだろう、羊皮紙と共に。だとしたらズレと屈折の角度を理解して隠したのか? たまたま? 偶然は思考に挟むな。何をする? 能力だ。関係あるんだ。下手な動きをさせるな。だが結界はズレている。手が出せない。
いや、待てよ。まず第一に能力は結界の外にまで通じるのか? どんな能力だ? 何が起こる?
誰に、はアメミヤと見るべきだろう。あの羊皮紙に刻まれている文言はアメミヤについての情報であり、ペンによる加筆がなされるのならば……その通りになる? とかだろうか。ではなぜ今になって? もっと前に『負けない』なり『死なない』なり書き込んでいれば討ち死になんてオチにはならなかっただろう。いやさ、その前にディアノ卿を討つと書き込めばオレガノ自身の目的は果たされるはずだ。
Q.なぜ? A.出来なかったから。
出来なかったと考えるべきだ。特定条件に絞ったとしても、書き込める文言はあるはずだ。であるにも関わらず、羊皮紙には焼き目の書き込みはあれどインクは染み込んでいない。
不可能であるのか。
条件は? 恐らくだが、羊皮紙に記入されている者の死。論理なんざ知らないし、能力に適用して考えたて意味のあるものなのかなんざ知らないが、今になって行動を起こした理由、今でなければならない理由として思い浮かぶのはアメミヤの死。それだけだ。
止める——結界を肉体の一部と認識してベイビー・ボムで爆破? いや、不可能だ。結界なんてものを肉体の一部と認識出来る訳ねぇだろ焦るな。
何かないか? 何も無いな。
かと言って結界を解いて奴を外に排出し止めるなんて、時間がかかり過ぎる。短文なら書き終わるだろ。
止められない。
『遺体 英雄と成す』
酷く震えた子供のような文字で追記されたのは、そんな一文。
この文に於ける『遺体』はアメミヤを指すとして、では『英雄と成す』とは? 英雄と言えば一般に思い浮かべられるのは英雄ケリィ・キセキであるが、『成す』とは何ぞやと。まさかアメミヤをケリィ・キセキにするとも思えない。彼は勇敢でしたよ、なんて一文として付け加えるに体力を使うとは考え難い。蘇生しつつの身体強化とかだろうか? だとしたらソウルが心配になってくる。
「……ヴァン・アストライア…………」
僕を呼ぶ声が、響いてくる。
舌も痺れてきたのだろう。上手く発音出来てはおらず、呼ばれたと認識するに一拍置くことになってしまった。
「何さ。僕としちゃ、もう話すことはないよ」
「……私の勝ちです」
「………………」
毒は呼吸度に体内に取り込まれていく。だが、この毒は体内に蓄積されて死を招く都合、身体不全に陥ってもすぐに死に至る訳ではなくそこから続く呼吸で更に毒素を体内に蓄積しなければ死にはしない。オレガノが動いたのはこれを最期としたが、胸が上下しているところから呼吸が続いているのは明白だ。まだもうしばらくは苦しみながら生きていくのだろう。
「オレガノ……その毒は、ヴァラキアがストロンガー一家を暗殺するに用いた毒なんだよ。アストライアは失敗を同じ手口で取り返す。その手段では失敗するって印象を、残さないためにね。だから、貴女はこの毒で殺す。もう終わったアストライアだけれど、どうか伝統の犠牲になって欲しい。きっとこういうのも、貴女で最後だ」
何を語っているのだろうか、僕は。
彼女の姿を見てか、何か感傷的な気持ちに陥って意味のない話を語っている。本当は死ななくてといい存在である彼女を殺してどうして気持ちが動いているのか、今に至るまでに何人だって殺してきたと言うのに。
アストライアが招いた悲劇が尾を引いているのを見て、何かを感じたのだろうか。言語化は出来ないが、そんな感じなのだろうか。
僕は別段賢い人間ではないから、自分の心を十全に理解している訳ではない。何か違和感があるなだとか不調を感じることは出来れども、こんな感じとニュアンスで理解したとて言語には落とし込めない。
言語に落とし込んでは、何であれ嘘が混じる。感情が定型ではなく常に変動しているもので、その一側面を切り取って名前を与えたとてその感情ではないはずだ。過不足が生じるし、少なくとも僕は僕自身の心を完全には理解していない。僕には僕の知らない僕がいて、僕の知らない僕は僕が認識出来ない「 」を持っている。
何かを感じたに違いはない。オレガノに語りかけているのは、それ故だ。
「アストライアが解散したのは、仕事が減って食っていけなくなったからだ。それはようやく世界が安定してきた事実を指し示している。僕らが不要な世界が刻一刻と足音を鳴らして近付いている。こうして僕らという災害の被害に遭うのは、数えて尻からの方が早くなることだろう。慰めって訳じゃないけれど……いや、慰めか。うん慰めだ。長く掛からずに、シャンバラとなる。蒼教は英雄の残した教義をやり遂げるってこった」
パンピーの殺し屋はいくらでもいるが、そういうのは長続きしない。ネームドも個人経営の奴らはテメェ一人食わせりゃいいだけだから変わらない顔ぶれが名を連ねている。だが、僕らみたいな組織の殺し屋連中は皆総じて看板を下ろし始めている。残っている幾ばくかも表に顔のある連中で、メインで殺しの仕事をしている奴はもういない。殺し屋の秋、と考えると滅茶苦茶良い世の中だ。当人以外からすれば。
このまま進めば個人経営組も選別されて、数は半分以下に減るだろう。残るのは一握りの人間で、残った一握りはいずれ公権力に潰される。影は消えるのだ、光が強まれば。
「オレガノ。君と、君の家族は言うなれば生贄になったんだ。僕らを殺すための、生贄に。血の海でしか暮らせない特定生物である僕らの生息域は年々減っており、しかして世間が特定生物を認識するにはそれ相応の事実が必要な訳で、目に見える被害あってこそ人はその生物を危険であると識別出来る。限られた少数が危険を認識していたとて、そんなものに意味はない。広く、浅く、何となくふわっと危ないって知られなければならない。貴族という社会的地位の高い存在が殺されるだなんて、まさにぴったりな配役だろう? 犠牲って言葉は生贄という意味の言葉が二つ連なって成り立っているのは知っていたかな。だが、犠牲の中には義がある。ストロンガーは、大きな役割を担ったと言えるだろう。君の憎しみは、いずれ果たされる。……もう、聴こえていないかな?」
センチメンタリズムな運命を彼女に感じて、恐らく僕らが辿るであろう未来を語ったが、彼女が僕の慰めをどこまで聞き届け、またこれからどこへ行くのかなんて知る由もない。ただ、僕にわかるのは残された彼女の羊皮紙が何かしらの厄災を招いているであろう予想だけであった。
あの羊皮紙を回収したいところであるが、内部には毒霧が蔓延しているため向こうの結界内へはよくよく換気でもした後でなければ入れない。外部で何か起こっているのならば、尚更だ。ピャッと行ってパッと取ってダッと帰ってきたとしても、多少の毒は吸入するし体調はその分万全から遠ざかる。
また、後でと言うやつだ。僕になんて、二度と会いたくもないだろうけれども。
「まあ、何だ……お疲れ様」
彼女の最期を見届けて、僕は結界を後にした。




