1-5 二つと三つ
「後ろ倒し?」
「ああ」
俺がまっすぐ歩いて宿に帰ると、クライズさんも帰ってきていた。俺が審査の様子などを質問すると、まずそんな答えが返ってくる。
「理由は説明されなかった――というか、意図的に隠したんだろうが――死人が出たらしい」
「死人って――」
それほど過酷な審査だというのか。
「最初に審査中に死んでも構わないっつー誓約書を書かされたんだが、どうも何かあるな。おい、リド」
「はい」
「お前、何かスキルを持ってるか?」
どきりとした。
「いえ、特には」
俺は誤魔化した。スキルであることには、間違いないのだろうが、現状死んだ時にしか発動しないようである。怪我などに対しては何の効果もない、それは今までの人生から分かる。スキルとは生まれつきのものだからだ。クライズさんが何を意図して質問しているのかは分からないが、気づいたのがつい昨日であるため、後でバレることがあったとしても、ごまかしは利くだろう。このスキルは直接的かつ客観的にはたらくものではない。
「そうか」クライズさんは腕を組む。「実はオレはスキルを持ってる」
「え?」
「《強制起臥》――任意の相手を眠らせたり、眠りから目覚めさせたりできる。昨日の夜、男共を捕まえられたのはこのスキルのお蔭だ」
実際に会った以外にも、いくつかのスキルを、物語で聞いたことがあったが、その中でも特殊ではないだろうか。《強制起臥》。日常生活には使えないが、ここぞという時にあってよかったと思う類い。
「俺がこんなことを訊いたのは、スキル持ちってのがどれくらいの割合で存在するのか知りたかったからだ。俺の故郷にはもう二人いた。大体――四、五百人に一人。お前のトコは?」
隠さなくてよかったかも知れないと思いつつも、「一人いました。村の人口は三百人くらいだったかと」と答える。実際には俺を数えて二人なので百五十人に一人。これは多い方なのだろうか。
「ふうん……なあ、オレの仮説を聞いてくれるか」
「はい」
「この都市の長、の娘。 “深窓”ゼラ・アオイは――何らかのスキルを持ってるんじゃねえか?」
○
「すんません、酒と、水と、今日のオススメ二つ」
クライズさんが注文する。
「あ、リド、今日は自腹だからな」
「はい。えっと、またこの店なんすね」
俺は言った。ユイの家の店。俺が来たのは、これで三回目だ。
「いや、ここより中心寄りの店、覗いてみろよ。桁が一つや二つ余裕で違うぜ」
「ご愛顧ありがとうございます」ユイが酒と水を持ってきて、笑顔で言った。「そういえばリドークのお連れさん、今日の審査はどうだったんですか?」
彼女が俺の名前をよんだことに、クライズさんは耳聡く反応する。
「なんだ、オレがいない間に仲よくなったのか」
「いや、仲よくってほどでは」
「はい、仲よくなりました!」
認識が喰い違っているようだった。クライズさんはニヤニヤしながら、「今日の審査は中止になった。何か問題が起こったらしい」
「そうなんですか。じゃあリドークの審査も延期?」
「うん」
「ところでお嬢さん」クライズさんはユイに視線を遣った。「スキル持ちの知り合いって誰かいねえか。もしくはお嬢さん自身がスキルを持ってるとか」最後は冗談めかして笑いながら言う。
「片っ端から調査していこうとしても、時間かかるっすよ」俺もそれを受けて笑いながら言う。彼はまた、人口当たりの散らばりからスキルというものの希少性を調べようとしている。俺とクライズさんは偶然にもどちらもスキルを持っているが、そう簡単に出会えるものでもないだろう。五百人に一人とは、普通に歩いていて出会えるかどうかくらいの割合だし、ましてや、ユイは――
「し、し、知らないですね! あ、あ、あたしがスキルを? ないない、そんな訳ないじゃないですか! す、スキルを持ってたら、い、今頃億万長者でお城に住んでますよ! あは、あはははは」
……ええ?
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