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 昼ご飯の礼を言って、俺は宿に戻る。クライズさんは帰ってきていなかった。まだ審査しているのだろうか。意外と長くかかるのかも知れない。俺は剣を持って、辺りを散歩することにした。腹ごなしには丁度いい。

 この街に来て、二日目。使われている言語は故郷と同じだが、どうもまだ、疎外感がある。

 初めて村の外に出た、というのがやはり大きいだろうか。村に通達が来た時、期待に胸をそれは膨らませたものだが、正直クライズさんがいなければ、今頃どこかに売り飛ばされていた可能性もある。まだこの都市のことを、そもそも知らないのもあるだろう。これまでに分かったことといえば、“深窓”と呼ばれる市長の娘のことと、ユイの店のご飯が美味しいこと。あまり治安がよくないこと(だから俺たちが集められた)。そして――蘇生。

 俺のスキル、ということでいいのだろうか。スキルを持っている人はたまにいるが、大抵は子供の時分に発現し、そのスキルを活かせる職業に就いたり、就かなかったり。俺の村には、暗闇を見通すスキル《()()》を持つ者がいたが、彼は昼間は畑を耕していて、夜はたまに趣味の範囲で狩りをする程度だ。個々のスキルの使い勝手にもよるだろうが。

「このスキルの場合――死んでも生き返るとして、いつの時点に戻るかが価値を決めるよな」

 俺は歩きながら独り言ちる。

「たとえば次死んだ時、昨日生き返った時点から進んで、今この時点で生き返ることができれば、これまでの積み重ねが無駄にならない――」




()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()

 ()()()()。』




 例の声だ。

 男性的とも、女性的とも言いがたい。

 人間味がない、とでも表現しようか。

 俺は周囲を見回す。道を歩いている人が少しいたが、俺に話しかけるような距離ではない。 つまりこの声は、俺の中から発せられている。

 今、何と言っていたか――()()。新しい単語。

 直前に俺が考えていたのは、蘇生時点を、俺が生き延びるにつれて、先送りし更新していけないかということ。

 保存とはそういうことなのだろう。次死んだ時は、この時点で蘇生する。

 しかし、昨日の蘇生時点に保存した憶えはない。それが、初回の手動保存の意味か。今までオレは、自分のスキルに気づかず、自動保存だけで済ませていたが、気づいた今、好きな時点で保存できるようである。

「じゃあとりあえず、今の時点で保存し直して」

 次死ぬことがあれば、これ以降保存しなければ次の自動保存時点で生き返ることになるが――自動保存するより前に、死んだ場合。俺が生き返るのは先程手動保存した時点だ。そうするとそれ以降に気づいた、つまり俺が現在考えているような内容を、もう一度最初から考えることになり、効率が悪いというか、勿体ない。




()()()()

 ()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()。』




 ――ええと。

 そんな制約があるとは――というか一定の間隔って。なぜ明言してくれない。

 初回の手動保存だったから、全く手掛かりがない。自動保存の周期も分からないのに、推測のしようがないだろう。

 俺は溜息を吐く。自分がスキル持ちだと分かり、少し興奮していたが、意外と使い勝手がよくないのかも知れない。冷めてしまって、俺はようやくどこまで歩いてきたかと周囲を見渡す。住宅の数はほとんどなくなり、畑が広がっていた。

 ……まっすぐ来たはずだから、まっすぐ戻れば宿に着く。はず。

 まっすぐ戻ればいいのだから、もう少しまっすぐ行ってもいいだろう。まだ太陽は沈みそうにない。審査の準備は、クライズさんが帰ってきてから話を聞いてすればいい。

 俺はスキルのことを忘れ、ただ景色を楽しもう。



     ○



 ――俺は立ち止まる。




 ()

 ()()

 ()()()




 道に沿って歩いていく。




 墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓。




 端まで行ったので、角で折れて縦の列に沿って歩いていく。




 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

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 墓

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 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓

 墓。




「は……?」

 思わず声が出た。

 村単位の墓地――とかいう規模ではない。

 画一的な墓標。

 画一的な並び。

 何かがあった。それは分かる。それだけが分かる。

 この量の死者――戦争か? しかし最近のものではないだろう、俺の村から誰かが徴兵されたとは特に聞いていない。この都市から多く徴兵されたか、あるいは――内紛か。その方がしっくりくるかも知れない。墓は一人ずつに対して作られているようだ。


 俺はそのうちの一つの前に立つ。誰のかは知らない。墓前には白い花が供えられていた。何という種類だったか、村でもよく見たものだ。辺りを見回し、その花が、近くの野原に咲いているのを見つけた。俺は一本だけ摘んできて、隣に供える。これは何の為だろう。意志表示なのか。決意表明なのか。あるいは。



読んで頂きありがとうございます!


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