6-4 空白
「アジュさん、め、目が三つ」
「インサー!」
アジュさんはすぐに指示を出した。インサーさんは腰の剣を抜き《部分即死》に斬りかかる。同時に、俺の隣からザラさんが飛び出す。《部分即死》は――エステリさんの懐から小刀を取り出し、インサーさんの剣を受けた。流石に受け切れず小刀は弾かれる――が、その勢いをいなして利用し、《部分即死》は走り出した。ザラさんが接近していく。彼の右手はすぐ《部分即死》を掴んだ――と思ったら、《部分即死》は逆にその手を上から掴むと、急に立ち止まり、殺し切れなかった反動をザラさんの腕に加える。めぎ! と鈍い音。ひるまずザラさんは左手を繰り出した。すると《部分即死》は一気にザラさんとの間を詰める。そして顔と顔を近づける――完全装備とはいえ、前が見えなければ歩けもしない。ザラさんは兜の目の部分を押さえよろめく――隙をついてザラさんの手から逃れる《部分即死》――と、ザラさんから距離を取ろうとしたところを、
アジュさんが、一閃。刀の峰で脇腹を打った。体勢を崩した《部分即死》にインサーさんがもう一発、蹴りを入れて地面に転がす。インサーさんはすぐに彼を取り押さえて額の瞳を布で覆った。
隊舎に四人で戻ってきた。アジュさんは、殉職した二名の遺体を回収するよう待機していた隊員に命じ、インサーさんには休むよう言った。俺は応接室、ユイとカイリィさんがいる部屋で待っているよう指示され、彼女は《部分即死》を牢に繫ぎに行った。
「ただいま」
俺はユイとカイリィさんに挨拶する。
「リド! み、見つかっちゃたの?」
「めっちゃ怒られた」俺はカイリィさんを睨みながら言うが、彼女はそんなこと気にも留めず、「それで、どうでしたか。ネタのほうは」と訊く。
俺は溜息を吐く。この偵察は負の面もあったが――正の面もあったのは事実だ。
「《部分即死》には、三つめの目がありました。額に」俺は自分の額に人差し指を立てる。「それで覆いをつけられていても、周囲を視ることができてたみたいです」
「め、目が三つ?」
「……移植する技術があるとして」ユイが驚く一方で、カイリィさんは冷静に思考する。「移植したのは、いつなのでしょうね」
「元から目が三つあったって線は――」
「ないでしょうね。その額の目を、普段は閉じているとしても閉じていることは見て分かります。それに四十年以上捕まっていたのですから三つ目であることを隠していたとしてもいつかは発覚するでしょうし、バレていたなら目の覆いは両目だけでなく額も覆う形でなければなりません。つまり、移植はごく最近の出来事――脱走してからこちらのことだと考えられます」
三つもめがあったら世界はどう見えるのだろうかとか、技術的に可能なのかとか、そういうどうでもいい思考は後回しでいい。今重要なのは、彼は三つめの目を持っていて、それが恐らく今日、手に入れたものだということだ。脱走して、連れ戻されて、再脱走して、今し方、再び連れ戻された。再脱走は恐らく三つめの目を使ってのことだから、移植は脱走中、つまりこの街の中で為された、あるいは、
この建物内で。
《即死》スキルホルダーを管理する組織たる月夜隊が、わざわざ被害を増やすようなこと――というか実際に被害が出ている――をするとは思えない。思えないが――論理的に考えて至った結論である。隊の中に裏切り者がいるのか? 隊の崩壊を目論んでいる間者か何かが潜んでいるのだろうか。何はともあれ、アジュさんや隊長がどう考えているのかを確認するのが先だし、裏切り者がいた場合処理するのは隊の役目である。結局、カイリィさんの言っていた推測から大きく外れる事態にはならなかった。俺に対する態度は少々頂けないが、ついてきてくれてよかったと思う。あ、勿論ユイは俺の死に戻りに必要不可欠だし突飛だが斬新なことを言うのも彼女だ――と俺が自分に言い訳していると、
コンコン、と扉を叩く音。
副隊長だろうか。あるいは隊長か? 俺は「どうぞ」と扉に向かって言う。
「失礼します」
部屋に入ってきたのは――知らない男性だった。
「君がリドークくんだね?」
彼は俺に言った。隊の鎧を身につけているから隊の人間だろう。兜は被っていないが特に見覚えのある顔ではない。短い金髪で、少し垂れ目がちなのが柔和な印象をこちらに与える。ただその声には聞き憶えがあった。この声は確か――そうだ、《部分即死》が繋がれていた牢の――
ぶん、と。
彼は俺に向け剣を振るった。
「――ッ!?」俺はギリギリのところで自分の剣を抜きそれを受けた。目の前の男は少し目を大きくし、
「へえ――人間にしてはいい動きだ」と呟くと、続けて剣による攻撃を繰り出す。俺はそれらに何とかついていくのがやっとでまともに思考することができない。速い。速すぎる。
「リドーク!」
後ろからカイリィさんが叫んだ。
「そいつとは戦わないほうがいい! そいつには――私のスキルが効きません!」
カイリィさんのスキルが、効かない?
一体どうして。彼女のスキルに特に制約があるという話は聞いていないし、現に特に制約がないのに効きめがないから彼女は驚いているのだろう。
スキルが効かない相手。ならば剣を扱える俺ががんばるしかない。
そこへ、扉を開け、隊長と副隊長が入ってきた。「リドークくん……うおっと!?」隊長の鼻先を、男の剣がかすった。「あ、アッシャーくん?」
「隊長殿!」
俺が男の剣を受け続けるなか、カイリィさんが叫んだ。
「その男――吸血鬼です!」
読んで頂きありがとうございます。
面白かったら評価・いいね・感想・レビュー・ブクマよろしくお願いします。




