6-2 澄んだ視界
生き残った者の証言によれば、『目の覆いには触れていない』とのことである。
現場は先程まで俺とアジュさんが訪れていた牢。俺たちが去った後、鍵を締めようとした見張りの片方が、兜を外していたのだが、頭部をやられたそうだ。もう一人の見張りは完全装備をしていたが、恐怖からその場にうずくまっていて、その間に《部分即死》は悠々と牢を出て枷を外し、逃げおおせたという。二人いた見張りの片方が何も危害を加えられていなかったのは、単なる気まぐれか、あるいは。
それよりも目下考えるべきはどう対策するかである。状況からして《部分即死》の目が、覆いを貫通して周囲を認識できるということか。しかし気をつけなければならないのは、亡くなった隊員が裂かれたのは、肌が露出していた部分だということだ。目の覆いは貫通できるが鎧は貫通できない? それとも目と肌を隔てるひとつしか貫通できない? 後者の場合、逃げる前に覆いは外しただろうから彼は裸眼である。つまり兜や鎧を着けていても無駄だ。さらに着込まなければならない。
「お三方はこの部屋にいて下さい。決して鍵を開けないで下さいね」
と、俺が考えを巡らせたところで、ここは隊の管轄である。俺の目的どうこう以前に、これは彼女たちの仕事なのだ。
俺たちは室内に取り残された。
「どうします、これから」俺は言う。
「死に戻る前に、《部分即死》がスキルを使用できた理由を暴くべきでしょう。ひとまずリドーク、ささっと偵察してきて下さい」
「ささっとって。それでスキル使われたらまたやり直しじゃないですか」
「私の考えでは」カイリィさんは言う。「こちらが完全に肌を隠していれば問題ありません」
「えっと、それはどうして」
かなり力強い断言である。それはつまり、これまでの対策を変えなくていいということだが。
「一度目の逃走時、彼は相手の油断を利用し、目の覆いを外してスキルを使用しました。死亡者の肌が露出していた点は前回と今回で共通ですが、前回は目の覆いを外さなければならなかった。そしてそれはまだ半日と経っていない、つい先程のことです。この短時間で、彼のスキルが、視線の貫通ができるよう変質したとは考えにくい。つまり――」
「いや、ちょっと」俺は彼女の話を遮る。「俺はそんな詳細聞いてないんすけど」
「私のスキルに決まっているでしょう」
彼女は呆れたように言った。
相手の裏を暴くスキルーー《二面》か。
「あっ――愚問でした」
「ええ。それでつまり、裸眼で見た肌部分を裂くというところは変わっていないと思われます。ゆえに、今まで通りの対策で構わないでしょう」
「じゃあ、覆いがあってもスキルを使えた理由は――?」
「嘘、なのではないでしょうか」
「え?」
嘘?
「そう言うと聞こえが悪いでしょうか、要は実際と異なる証言を生き残った者がしたということですよ。自覚してか、無自覚かは知りませんが。目の覆いはされていなかった、《部分即死》は今まで通りスキルを使っただけ、それなら簡単に事態を把握できます」
――本当に?
内心、俺はその説明を疑う。ただスキルの効果というのがそうそう変わるものではないというのはそうだし、スキルが変わっていないと仮定するならば、その説は論理的に導ける。
「勿論、実際は変質したのかも知れませんし覆っていた両目以外に外界を視るための感覚器官があるのかも知れませんが、蓋然性の高いものはそうなるでしょう。隊もそう考えているはずです――なので蓋然性の低い事態であることに賭けてリドークには偵察に行ってもらうのです」
「ん?」
――えっと、そういう話!?
「いやいや、それでスキルが変質してたらどうするんですか」
「そうであれば貴方は死に戻るでしょう。それ以外の場合は何とか探ってきて報告して下さい。いいですか、これは隊に捕まった後の貴方の処遇のために――」
「り、リドが行くならあたしも行きます!」
ユイが立候補してくれたが、
「駄目です。わたしはご家族から貴女を道中護るよう頼まれていますので」
「それを言うなら姫には俺に同行するよう命じられてたでしょ! 同行して下さいよ!」
「あれはあくまで移動手段の保障というだけなので……」
「冷たすぎる!」
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