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4-7 相思


「セイさん――」

「わたしのスキルは」彼女は俺の言葉を無視して言う。「既存の空間を『領域』として区切り、『領域』の内部を監視し、『領域』の内部を自由に移動し――存在しない空間を『領域』として作り出すことができます」

 それがこの部屋という訳か。いやどういうことだろう。カイリィさんが表と裏の狭間に空間を作るのと似たものだろうか。

「なぜネーフェからスキルを奪おうとするのですか」

 彼女は槍を俺に向けながら、低い声で問うた。ネーフェさん? そうだ――彼女はあの部屋の話を聞いていると言っていた。『領域』の内部を監視する――ようやく詳しく説明された。

「セイさんは」俺は応じる。「ネーフェさんがスキルを使い、人を殺すことについて何も思うところがないんですか」

 この家の人たちの中でも、彼女は飛び抜けて温厚だ。その彼女が、何の疑問も持たずネーフェさんのスキルを受け入れているのだろうか。

 彼女は答えず、俺の胸のすぐ前に槍を突き立てる。よく見れば、槍の先は三叉だった。ここで刺されても、俺は過去で蘇生する。しかし――セイさんのスキルに捕まったことは憶えていない。そうだ、『領域』を存在しない空間に作り出すと言っていたが、外からはどう見えるのだろう。そもそも存在しない空間は、どこに存在する?



 その時。



「――リド!」



 白い部屋の天井が、がしゃあああんと盛大に崩れ――ユイが現れる。

 そしてその後ろからは、



「セイちゃん!」



 カイリィさんが飛び込んできた。



     ○



 セイさんのスキルはカイリィさんと似たスキルではないかと考察したが、それは半分正解で半分不正解、といったところだった。新たな空間を作る、という点では同じだが、カイリィさんのスキルに当てはめると、俺たちがいつもいる空間が表だとすればセイさんが作る『領域』は裏なのである。カイリィさんの《二面》は、自分と正反対の自分を作り出すスキルにして、対象の裏を暴くスキル。彼女が、セイさんの『領域』がどこにあるか暴き――ユイが破壊した。ユイは対象がどのようなものか自分が理解していなければ壊せないから、カイリィさんにどんなスキルか訊いたらしい。

 こうして俺はセイさんの『領域』から脱出できた。ゼンさんが言っていたことを思い出す。カイリィさんには、大抵のスキルは通用しない。《即死》スキルくらいしか――いや、《即死》スキルですら、回避できるのではないか? たとえばネーフェさんの《同性即死》。スキルホルダーが女性だったら、スキルの対象は女性だ。しかしカイリィさんは男性であり女性である――もしかしたら効かないのかも知れない。実際に、試す機会はないだろうが。そしてゼラさんの《敵即死》もだ。カイリィさんが敵として認識されたとしても、敵の裏は味方。そう、だからカイリィさんはオイラスに行き、ゼラさんに簡単に接近できたのだ。



 さて、応接室に戻り。

 俺たちは改めてネーフェさんと向かい合う。先程までと違うのは、彼の右隣でセイさんが俯いて縮こまっている点。

 俺は今までの会話、行動を統合して、一つの答えに辿りつく。俺は二人に尋ねた。


「ネーフェさんは、セイさんのために。セイさんは、ネーフェさんのために、スキルを使っているんですね」


 二人は――顔を見合わせた。



     ○



 カイリィさんがこの家に来たのは、十と五年前。それも前半六年間しかいなかったのに、ネーフェさんとはずいぶん親しげである様子を昨日見せられた。ならば、それより前からいて、遥かに長く一緒にいると思われるセイさんとは、もっと親しいのではないだろうか、というのが推測の出発点だ。

 スーシャさんは自身もカイリィさんも男嫌いだと言っていた。それはネーフェさんがそういう少女たちを敢えて選んでいるからであり、セイさんも男嫌い(そう)だと考えられる。


 過去の傷を引きずって今もスキルを使い続けている、と評されているネーフェさんだが、セイさんの襲撃前の会話においては、その割に過去に囚われていないような口振りだった。ならば何に囚われているのかといえば――セイさんに、だ。彼が過去を重く捉えていないが、スキルの不使用を拒否するということは、彼がスキルを使う理由は現在にあるということである。つまりネーフェさんが男を殺すのは、セイさんが男を嫌いだからだ。


 一方、セイさんは常にこの部屋を監視している。この部屋は、昨日商談で使われていた。これはいつもここが使われていると考えていいだろう。そしてネーフェさんはこの部屋でスキルを使う。つまりネーフェさんがスキルを使うことを彼女は知っている。ネーフェさんがスキルを使うさまを、いつも視ている。カイリィさんやスーシャさんも勘違いしていたのだから、セイさんも、ネーフェさんが過去をずっと引きずってスキルを使っていたと思っているはずだ。そしてその解決策は、ゼラさんに対するカイリィさんの策と同じだ――スキルを制限するよりは使わせる方向で。思わぬ形で発露しないよう制御する。だから俺たちの目的が、ネーフェさんにスキルを使わなくさせることだと知って、止めにきたのだろう。


「俺はお前のことを、どうやら全く理解できていなかったみたいだ。随分と、長く共に暮らしたっていうのに」

「わたしこそネーフェのこと、何も分かっていなかったみたいです。ありがとう、わたしに寄り添ってくれて」


 二人はそうして、仲直り(?)をする。これで確実に、ネーフェさんのスキル使用回数は減るだろう。

「結局、セイさんはいつ、ネーフェさんに会ったんですか?」仲よしな様子を見せつけられて少し拗ねているカイリィさんを横目に見ながら、ユイが手を挙げて尋ねた。

()()――()()か?」

「そろそろ()ですよ」



「「「――え?」」」



読んで頂きありがとうございます。


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