4-6 協力
「それで、話ってのはなんだ。商談か? リドーク」
昨日も来た応接室。昼食を頂き、『保存』をしてからネーフェさんに声を掛け、来てもらった。
こちら側には俺と、ユイと、カイリィさん。あちら側はネーフェさんのみ。向かい合わせの椅子にそれぞれ座っている。例の無口な女性が入室し、茶を出してくれた。
「いえ――」「違う」カイリィさんが割って入ってくる。今は俺が、彼と会話していたというのに――
――?
「…………ッ!」
俺の心臓はようやく危機に気づいたようにばくばくと脈打つ。俺は口を両手で塞いだ。今、会話をするところだった。ネーフェさんと。それが意味するのは、勿論――即死。
ユイがずいと身を乗り出す。「あ、あたしたちは、ネーフェさんの過去について話を聞きにきました」そう俺の代わりに言ってくれた。
彼は感情の読み取りにくい微笑をカイリィさんに向け、「話したのか、オレのスキルのこと」と静かに訊いた。
「ええ」
カイリィさんも静かに答える。
怒っているのかと思ったが、「まあいいさ」と穏やかに言って彼は茶に口をつける。「それで、何を知りたい」
おや。
思っていたより協力的ではないか?
それではこちらも目的を明かしてしまおう。「俺たちは、ネーフェさんがスキルを使わなくてもよくさせたいんです」
その言葉に、彼はぴくりと反応する。「俺に――《即死》を使うなと言うのか」
「はい――」「そ、そうです!」今度はユイが割り込む。そうだった、また忘れていた。気をつけなければ――
「それはできない相談だ」
「え?」ユイは思わず声を上げた。
「オレの過去についてならいくらでも話す。だがこのスキルは手放さない」
彼は頑として言った。
それからは単なる情報の擦り合わせだった。聞いた話を再び聞いて、その過去に思いを馳せた。
「なんだ、そうか」新情報がなく、再確認であったことをネーフェさんに言うと、彼は軽く言う。「というと、ファレノだけでなくユニにも訊いたな。スーシャには訊いたか?」
「そういえばセイさんには結局訊かなかったね」ユイが言った。「一番昔からいるっぽいんだよね?」
「確かに、忘れてた」俺は返す。「ネーフェさん、セイさんはいつからこの家にいるんですか?」
その時。
俺の視界は暗闇に包まれる。
俺は驚いて立ち上がる――次の瞬間、視界が再び明るくなった。
明るくはなったが。俺がいたのは、何もないただ真っ白な空間。直方体の部屋の壁、六面全てに何も置かれても吊られても掛かってもいない。ただ、眩しいくらいに白いだけだ。
これは――誰かのスキルなのか。まずネーフェさんが何かした訳ではないだろう。彼のスキルは《同性即死》。彼がスキルを使ったとしたら俺は死に戻っているはずだし、先程まで彼と話していた記憶がなくなっているはずのため違う。またユイはこのようなことはできない(と思う)し、カイリィさんのスキルも――いや、どうなのだろう。彼女が普段槍をしまっているという空間、なのではないか? しかし今彼女は味方側、俺を閉じ込める理由はない。俺から話しかけていたからネーフェさんのスキルが発動しそうだったということはないし。他には――スーシャさんのスキルはよく分かっていないが、彼女はもう出港したはずだ。そう、この都市は貿易の場として栄えている。町は北側と南側に分かれていて、北側はとある子のスキルで――
とある子?
「リドークさん」
俺の名を誰かが呼んだ。俺は振り返る。
彼女は――セイさんは、俺に槍を向けて立っていた。
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