4-3 信頼の問題
「ネーフェのスキルについて、ですか」
カイリィさんは、鸚鵡返しに言う。
場所は移り、カイリィさんの部屋。俺とユイは彼女と相対する。
「言いましたよね、“震源”ネーフェ・パントドンは《即死》スキルホルダーだと」
「……はい」彼女は肯定した。「しかし滅多に使用しません。ネーフェは常に――」
「昨日。使ったんじゃないですか? ネーフェさんは」
俺は言った。
「…………」
彼女は沈黙している。
「これは俺たちと、カイリィさんとの信頼の問題です」俺は続ける。「貴女は、俺の考えに賛同したから、ついてきてくれたんじゃないんですか」
「――貴方の言う通りです。分かりました」カイリィさんは折れた。「話しましょう――ネーフェのスキル、《同性即死》について」
○
「「《同性即死》?」」
「対象はネーフェにとっての同性、つまり男性。発動条件は会話を交わすこと」
ゼラさんの《敵即死》の場合、対照はゼラさんの敵、つまり負の感情を抱く相手。発動条件は、相手が視界にいること、だったか。
それと比べると、対象の数は圧倒的に多いし、発動難度は同じくらいだが彼の方が簡単なくらいだ。
対象が男性――ということは、この世の半分の人間の生殺与奪の権を握っていることになる。
「……会話っていうのは、具体的には?」
自分が男性であることを意識しながら、俺は尋ねる。
「ネーフェの言葉に相手が応答して、その直後にネーフェが何かを返す」カイリィさんは言う。「それが『会話』の定義です」
「そ、そんなの」ユイが声を上げる。「昨日半日のうちに、リドはいくらでも死ねたじゃないですか!」
「ええ。しかし発動させない方法は到って簡単です。つまり、会話させないことです」
カイリィさんは言い放つ。
そうだ、昨日、俺がネーフェさんに話しかけられた時、彼女がそれを妨げたことを思い出す。あれは――俺のための行動だったのか。この人は信用していい。俺はそう感じた。……というかふつうに、昨日の時点でネーフェさんは俺を殺そうとしていたのか?
ここまでの話を統合して――結局、昨日、あの部屋で何が起こっていたのか。
「カイリィさん。昨日はなぜ、ネーフェさんにスキルを使わせたんですか。そもそも相手は誰だったんですか」
彼女は難しい顔をしていたが、ふうと息を吐くと、話し始めた。
○
「セイドンは港町、貿易の場として整備され、貿易の利益により運営される街です。この都市の実権を握るネーフェは、当然この都市で行われる交易を取り仕切っています。
「普段のネーフェの職務は許可証の発行や品物の抜き打ち検査などですが、特に、たとえば中央の商人、今まで貿易をしてこなかった国などとの重要な商談や、中央からの視察の接待などにはこの家が使われます。これは昨日教えましたね。
「昨日の夕方。今まで順調に交易を続けてきたとある国が、言及は避けますが、不当な値下げを要求してきました。ネーフェが言うには、最近上役が替わり、方針が変更になったそうです。それで直談判がしたいとのことだったので、席を設けました。
「さて現在、人の上に立つ者の多くは男性です。これは私が何らかの主張をしたいのではなく、事実としてそうであると言っているのですからね。そして昨日ここに来た者も男性でした――。
「ネーフェのスキルについて、この都市に商売目的で来る者の中に知らない人はいません。対処方法――つまり、会話に女性を介すればいいことも皆知っています。昨日の男性も、女性を一人、妻を連れてきていました。女性が間に入れば、スキルが発動し男性が命を落とすことはありません。ネーフェも、積極的にスキルを使いたい訳ではないので、その場には私とキュラがいました。
「ただし前提として、ネーフェは男性が嫌いです。
「男性である、というだけで基本的には嫌悪の対象になります。ネーフェはその国の前の交渉相手――商船の船長を、男性でしたが珍しく気に入っていたので、昨日の男性は、特に。
「しかもあまつさえ、その男はネーフェの嫌がる言動をわざとかのようにし続けたので、ネーフェはかなり苛ついていて、要求を全て却下すると返しました。
「その時、相手は相手でネーフェの態度に腹を立てていたのでしょう、妻を介さず彼自身で反論しました。それに一同が気づいた時には、もう遅く――
「ネーフェは返答をし。
「男性は亡くなりました。
「ネーフェのスキルについては皆が知っていると言いましたね。その上、ネーフェのスキルによって命を落としたら、それはその死んだ者の責任である、とも考えられています。それはそうですね、対策をすれば発動を防げる訳ですし、そもそも直接話をしに来なければいいのですから。
「これが昨日の顚末であり、ネーフェのスキルが発動した経緯です」
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