4-2 裏表
ゼンテ・パントドンさんと、ベンテ・パントドンさん。
昨晩と今朝、無口な女性の右隣に並んでいた二人は、そう名乗った。
ユイの話では俺が死ぬ瞬間はもう過ぎたらしい。朝食前だったそうだが、一体何があったのだろう。気にしつつ、俺たちは朝食後、彼女たちに話しかけた。
「私たちに訊きたいこと?」
ゼンさんは言う。俺は頷いて、「ネーフェさんのことなんですけど」
「何でも訊いて! ネーフェは私たちの父親だから」
俺の言葉に、彼女は元気よく言う。カイリィさんが言っていた、ネーフェさんが孤児を育てているという話。名字が同じ、ということは彼女たちもそうだろう。ならば、まずはいつからネーフェさんと生活を共にしているかを訊こう。カイリィさんは十数年前から九年前までネーフェさんと一緒にいて、それからはゼラさんのところにいた。カイリィさんだけに話を聞いたら、彼女がセイドンにいなかった九年間のネーフェさんの様子が分からない。俺が最終的に知りたいのは、ネーフェさんがスキルを使っているのか、使っているならいつ使っているのか。まずは焦らず質問を重ねよう。
「じゃあ、お二人は、いつからこの家に?」
「どういう意味?」
「え?」
「え?」ゼンさんは腕を組み目を閉じて、むむと首を傾げる。そしてハッと顔を上げると、「ファリちゃんとかセイちゃんに、先に話聞いてるのか!」と言った。
「……つまり?」
俺は促す。
「言葉通りでいいんだよ。ネーフェは私たちの実親。実父」
「「え?」」
「私たちはネーフェの実子。実娘」
「「え?」」
○
二人は双子で、今年十八歳になるという。俺たちの一つ上、ゼラさんの一つ下だ。あまり似ていないが、本人たちがそうだと言っているなら疑いはしない。そもそも嘘を吐いたところで、特に得にはならないだろう。
二人から、というか主にゼンさんから話を聞く。
「ファリちゃんがネーフェに連れてこられたのは、私たちが三歳になる年だから――十五年前。ファリちゃんは当時十二歳。最初は目つきがこーんなに悪くて」ゼンさんは目尻を人差し指で持ち上げる。しかし元々垂れ目がちなのであまり悪くは見えなかった。「でもネーフェと、セイちゃんと、私たちでたくさんよしよししたから、今ではすっかり丸くなったよね」
ゼンさんはそこで隣、というか膝の上のベンテさんに同意を求める。彼女は少し首を縦に揺らした。彼女の反応はずっとその程度だったが、ゼンさんは満足したように話を続ける。
「ファリちゃんがオイラスに行ったのは九年前――この家よりオイラスの方が長いんだね。最初の方は一年に二、三回は帰ってきてたけど、最近は忙しかったのかな?」
俺たちが逆に質問されたらしい。セイさんも三年振りとか言っていたが、なぜなのだろう。ユイを見たが、彼女も首を横に振った。
「そっか、まあ久々に顔見れて嬉しいからいいや。手紙は届いてたんだけどね」
それはネーフェさんが言っていた。そうだ、彼女に訊いてみようか。
「カイリィさんが、どうしてオイラスに行ったか知っていますか?」
「カイリィ……ああ、ファリちゃんね。えっと、ネーフェは情報収集って言ってたかな。ほら、オイラスの姫って、《即死》スキル持ちでしょ」
やはり――最初からゼラさんに仕えさせるために、カイリィさんをオイラスへ。ただの情報収集という割には、二人は仲がよさそうだったが。うん? よく考えると。
「お二人が知っているか分からないですけど、ゼラさんの《即死》スキルは、発動条件がまあ、結構緩くて、そんな情報収集とかで気軽に接触できるような相手ではないと思うんですけど、安全面は考慮していたんですか」特に、九年前は、もっとも緩かった時分だろう。カイリィさんは回想の際に詳しくは言っていなかったが、オイラスに行ったところから、ゼラさんに信用され仲よくなったところまでが、すっ飛ばされている。
「問題ないと思うよ? ファリちゃんには、大抵のスキルは通用しないから」
「「え?」」
それは――どういう意味だ?
「あれ。聞いてない? ファリちゃんのスキル」ゼンさんは言う。
「スキル――《審美》、だって」
しんび? とゼンさんは首を傾げた。「違うよ、ファリちゃんのスキルは――むぐ」
その時、ベンテさんがゼンさんの口を塞いだ。
「あ、そうだね! ファリちゃんのスキルはファリちゃんのだからね」ゼンさんは言って、俺たちの方を向く。「ごめんね、後は本人に。他に、訊きたいことは?」
ユイがおずおずと手を挙げた。「セイさんは、いつからここにいるんですか?」
「セイちゃんはねー、私たちが生まれた時からいたよ。いつからかは分からないや。私たちにとっては――母親代わり、みたいな感じかな」
父親代わりの兄たちを持つユイは頷く。セイさんは、カイリィさんがこの家に来た時はカイリィさんより身長が高かったと言っていた。二人は同い年で、セイさんは先に伸びてカイリィさんが後からぐんぐん追い抜いた、ということなのかそれとも、十八年前、あるいは十五年前の時点でセイさんの成長は止まっていた、つまり成人だったということなのか――あの見た目で?
母親代わり――ということは、二人の母親、つまりネーフェさんの妻はいないということか。
「次で最後の質問にします」俺は言う。
「うん。答えられる範囲でね」
「ネーフェさんのスキルについて知っていることを教えてもらえませんか」
俺の言葉に――二人は、目を丸くする。感情が希薄そうなベンテさんも驚いた様子で、二人で顔を見合わせた。
「えっと……」ゼンさんは顔を戻すと、俺たちに訊く。
「本当の話なのかな? その、ネーフェがスキル持ちだっていうのは」
――――え?
「それが君たちの、本当に訊きたかったことだとしたら、ごめんなさい。私たちは何も知らされていない」
ネーフェさんがスキルホルダーだという情報は、誰から聞いた? カイリィさんだ。彼女が嘘を吐いていたのか? それはないだろう、ただ家に帰りたかっただけなら俺たちまで連れてくる必要はないはず。確かにネーフェさんは《即死》スキルホルダーで、カイリィさんは俺とネーフェさんを会わせるためにわざわざセイドンまで同行してくれたのだ。俺たちをスーさんから助けてくれたことがあったし、彼女が俺たちを騙しているという線は薄そうである。何か隠していることがあるとしても。
つまり騙しているのは――ネーフェさん。騙されているのは、ゼンテさんとベンテさん。
「――ありがとうございました」俺は頭を下げる。「ユイ、行こう」
二人をおいて、俺たちは部屋を出ていった。
「リド、どうして急に、ネーフェさんのスキルの話を?」
廊下でユイが問うた。そうだ、彼女には結局まだ話せていなかった。俺の昨日の体験――ネーフェさんの声。鈍い嫌な音。血に塗れたカイリィさん。俺を見ていた少女。
「ネーフェさんも、カイリィさんも、何かを隠している。それがネーフェさんのスキルに関連していることは、ゼンテさんとベンテさんの話と併せて、確実だと思う」俺は歩きながら答える。「だから次は――カイリィさんのところだ」
「『保存』はしてから行く? する前に?」
ユイが尋ねる。俺は立ち止まった。次に『手動保存』できるのは、昼過ぎだ。今はまだ昼前。俺は少し考えて、「すぐ行こう」と返した。
「本丸は――ネーフェさんだから。カイリィさんに話を聞いて、その後ネーフェさんのところに行く前に、『保存』しよう」
ユイは頷き、俺たちは足早にカイリィさんの元へ向かう。
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