3-1 一歩目/一人目
曽て有ざりし如くならん、即ち我は胎より墓に持ちゆかれん
ヨブ記 第一〇章一九
「そういえば、リドってどこから来たの?」
旅路の途中、ユイが尋ねた。いや、それよりも。
「前から俺のことそう呼んでたっけ」
俺が訊き返すと、彼女は途端に周章し出す。
「いや、えっと、お連れさんにそう呼ばれてたから、あたしも真似しようかと」
「まあいいけど」俺は馭者席に視線を遣る。「国境まであとどのくらいですか?」そう手綱を握るカイリィさんに訊いた。
「すぐですよ。降りる準備をしていて下さい」
「分かりました」俺はユイの方に顔を戻し。「それで、俺の故郷だっけ」
彼女は頷く。
「んー、どの辺かってのはよく知らないけど、山のふもとの小さな村だよ」
「山――ってことは、――どっち?」
「東の方に山脈があって、その尾根に沿って国境が定まっています。貴方はこの国の人間ですよね」
カイリィさんが話に参加してきた。俺は「そうです」と答える。
「ならオイラスから馬車で半日と行ったところですね」
彼女は言った。そういえば故郷を出発して、そのくらいで到着したっけ。道中半分くらいは眠っていたが。
「そうなんだ。どんな村なの?」
「ユイ。話の途中ですが」馭者が俺たちに声を掛ける。「国境です。リドークの村とは反対側の」
「ここからセイドンまでどのくらいなんですか」
馬に水を与えているカイリィさんに尋ねる。国の外に出るのは初めてだったが、特に何があった訳でもなくふつうに通され、拍子抜けだ。オイラスを出る時の方が厳しかった。
「ここですよ」
さて彼女は、そう返した。
「え?」
「セイドンは海岸に沿って東西に長く伸びる街で、その東端は国境と接しています――つまり、ここです」
俺たちは境を跨いで、向こう側(こちら側)の休憩所にいる。既に、第一の目的地に着いていたとは。
「じゃあ、《即死》スキルホルダーはどこに?」
「そう慌てず。まずはこの街について解説しましょう。ユイ、来て下さい」
彼女は花畑で蝶を追いかけていたユイを呼び戻す。
「まず、街は二つの区画に分けられています。南側、海に面している方が、港と、輸出入品を扱う商店街。北側には、特に高度な商談や接待の際に用いられる施設が並びます」カイリィさんは地面に図示しながら説明する。「北側は、とある子のスキルで――」
「こんにちは、とある子です」
カイリィさんが描く絵を囲む――四人目。
その女性は突然現れた。俺は剣に手を遣り――剣が、
ない?
俺は顔を上げる――
「すみません、取り上げさせて頂きました」
存外若い女性だ。年下だろうか? 彼女は含羞みながら、俺の剣を差し出す。
よく見れば、来ているものは――修道服?
「セイちゃん!」
その女性に、カイリィさんは抱きつく。
「ファレノさん! おかえりなさい、お久し振りです」
セイと呼ばれた女性は、そう言って抱擁を返す。
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