2-2 質疑
「質問。俺のスキルは、死んでも直近の保存時点で生き返る、というスキルなのか?」
『スキル内容に関する確認の質問に対して。
はい。
補足として、要求があった場合に自死を実行することができます。自死を選ぶと、強制的に直近の保存時点にて蘇生されます。』
「質問。死因による蘇生の可不可はあるのか?」
『蘇生条件に関する確認の質問に対して。
いいえ。
蘇生は死因に対する応答ではなく、死亡事実に対する応答です。よって死因に関わらず死亡事実を確認した場合に蘇生されます。
補足として、自死以外の死因は記憶対象ではありません。』
「質問。蘇生に回数制限はあるのか?」
『蘇生条件に関する確認の質問に対して。
いいえ。
蘇生の回数に制限はなく、いついかなる時にも、死亡した際に直近の保存時点において蘇生するという規則は変わりません。
補足として、保存には回数制限があり、手動保存は熟慮した上で実行することを推奨します。また自動保存の時点を変更することはできません。』
夜は更けていく。
俺はスキルと順調に会話を重ね、自身のスキルについての理解を深めていたが――ふと。
今、会話している相手は、本当に俺のスキルなのか、という疑念を抱いた。
「質問。あなたは俺のスキルということで間違いないか?」
『スキルとの同一性に関する確認の質問に対して。
はい。
この応答は、実際の規則に基づいて、スキルホルダーの質問・要求に対する回答・補足を行うものです。
補足として、この応答は、スキルが自意識を持っているためのものではなく、スキルホルダーの質問・要求に対する回答・補足を行うために組み込まれている機能です。』
なるほど。つまりあくまでスキルに関することだけ返してくれるのであり、たとえば挨拶をしても返してくれないということか。
本当に?
「スキルさん、こんばんは」
『失敗報告。
応答の失敗を確認。
「こんばんは」を認識できませんでした。言い間違いである可能性を提示します。』
無理だった。
まあそれならそれでいいだろう。あと訊かなければならないのは――最重要な、俺の記憶についてだ。
「質問。保存時点から死亡時点の間の記憶は、蘇生する時、どうしても保持できないのか?」
『報告強制終了。
保存の仕組に関する確認の質問に対して。
はい。
記憶は保存時点ごとでしか保存できず、保存時点から死亡時点の間の記憶は、保存することができません。』
やはりそうなのか。
先程、自死の場合のみ死因が保存されると言っていた。ならば他の事項も保存してほしいものだが――要求があった場合に自死を実行することができる、と。それはスキルの機能だという風に言っていた。突然与えられる死は、機能ではない。だから記憶できないというのは――まあ、仕方ない。スキルが成長し変化していくのなら別だが、できるのはせいぜいが使い慣れることくらいだ。保存についてはここまでにして、次の質問を――
『――補足として。
他者に働きかけ、外部に記憶を保存することは可能です。』
……ん?
「質問。今の補足、もう少し詳しく」
『補足の詳細に関する解説の要求に対して。
承諾しました。
親密な人物を一人選び、その人物に保存時点から死亡時点の間の記憶を保存してもらうことが可能です。その場合、保存されるのは保存時点から死亡時点の間における、その人物の記憶となります。この人物は自動では選ばれず、現時点で設定されている人物はいません。選択後は、任意の要求、及び対象の死亡により解除・再選択が可能になります。』
これは――現状の打開策になり得るだろうか。
「質問。親密な人物、について詳しく」
『用語に関する解説の要求に対して。
承諾しました。
まず、このスキルとの対話は、顔を突き合わせれば話す程度の顔見知り、知り合いとのようなものであるとします。
ここで用いられる「親密な人物」には、それよりも良好な関係を築いている相手、たとえば家族、友人、恋人などが該当します。家族、友人、恋人などを対象として選ぶ場合には、その人物と相対する必要があります。』
家族――友人――恋人。
故郷を離れた今、家族も友人もいない。
では恋人は?
俺が思い浮かべたのは――
「あ、ありがとうスキルさん。質問終了!」
『失敗報告。
応答の失敗を確認。
「ありがとう」を認識できませんでした。言い間違いである可能性を提示します。
追加報告。
質問の終了を確認。
回答強制終了。
報告終了。』
……うーん。
○
部屋に戻る。クライズさんは眠っていた。俺が出ていたことには気づいていないだろう。
家族。友人。恋人。
クライズさんに任せられるかと問われると――微妙だ。いや、ユイになら任せられると断言できる訳ではないし、そもそもそれは俺の都合で、彼女に訊いてみないことには決められないが――そういえば。
俺の今回の死に戻りの死因は、自死。
自死は、このスキルの機能。
つまり、俺はもう、スキルさんと対話をしていた、ことになる。その時の記憶は残っていないが、そう考えていいだろう。
そして――自死をするだけの、理由があった、ということだ。俺のスキルについて考えて思い至ったが――死。それは本来、不可逆的なもので――取り返しのつかないもの。
取り返すためには――現状、俺のスキルを行使するしかない。
クライズさんの仮説。《即死》スキル。
誰かがこれから命を落とす――クライズさんの話では、既に犠牲者が出ているらしいが、今日の夜、既に自動保存をしてしまっている。亡くなった人たちはもう助けることができない――しかし、これからの被害者は、まだ助けられる。
クライズさんか、ユイか、あるいは。
死の蓋然性が一番高いのは、姫のところに行くクライズさんなんだろうが、今日の受験者ではないし、面接は一人ずつということなので、行っても行かなくても、そちらでできることは変わらないだろう。それにまだ、姫の《即死》スキルが確定した訳ではないし、ユイは昨日――もう日を跨いだだろうか――男共にカラまれた。同様のことが起こらないとも限らないため――明日はひとまずユイと行動を共にして、ユイ以外の誰かが亡くなったなら、ユイに。ユイが亡くなったら、クライズさんに、それぞれ保存を頼むと決める。
明日に供えてそろそろ眠ろう。
と、その前に。
「スキルさん、保存して」
『失敗報告。
手動保存の失敗を確認。
一定の間隔を開ける必要があります。
報告終了。』
半日では無理――ということはやはり、手動保存の周期も一日なのだろう。
俺は寝台に仰向けになり、目を閉じる。
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