2-1 対話
汝いかに思ふか、此の三人のうち、孰か強盗にあひし者の隣となりしぞ
ルカ伝福音書 第一〇章三六
『自動報告。
通算四度目の死亡を確認。死因は自死。
自動蘇生に成功しました。
追加報告。
初回の自死を確認。
報告終了。』
その声を聞いた瞬間。
俺はどっと、冷たい汗をかく。
蘇生した。
つまりは、俺が死んだということだ。
「? どうしたリドーク。体調悪いか?」
クライズさんが声を掛ける。俺は、「大丈夫っす。続けて下さい」と答える。心配されるとは、よほどひどい顔をしていたのだろう。
「そうか、どこまで話したっけ。ああ――“震源”。“忠臣殺し”。“狂信”。一人くらい知らねえか? 存命の《即死》スキル持ちたちだ」
三人――姫を数えて、四人。
多い――あまりに多すぎる。
俺が今回死んだのは、まさか――いや。
死因は自死。
そう、声は言っていた。
俺が自死を迫られる状況に置かれたということだ。
そういえば、俺は今日、昼過ぎに手動で『保存』をした。しかし蘇生時点は夜だった。そして――前回の蘇生時点も、夜だった。
手動の反対は、自動。
どちらの蘇生時点においても、俺は手動保存をしていない、今日の昼が初回であり、その後はしていない。つまり、自動保存。そして、周期はほぼ一日。厳密には違うかも知れないが、実際的に困る差ではない。それよりも、周期が一日ということは、次の自動保存は明日の夜。蘇生時点が今日の夜ということは――俺が自死するのは、今から一日以内、明日の日中。
手動保存の周期も一日であると決めつけるのは危険だが――少なくとも自死するまでの間、俺が手動保存を選ばなかったのは事実だ。保存しなかったのは、できなかったからか、する必要がなかったからか、あるいは――手遅れだったからか。自死を選んだということは、死に戻る必要性があったということだ。これから明日の夜までに、俺が、あるいは俺と関わりのある誰かが、取り返しのつかないことをした。俺はこれから、それを止める必要がある。
しかし、記憶が保持されないのに、一体どうやって?
クライズさんは立ち上がる。「ああ、明日も早起きだ」言って、彼は大きな欠伸をした。
「酒臭いっすね」俺は言う。明日審査だというのに、この男は――
審査。クライズさんが明日の審査に落ちたから、俺は――いや、流石にそれはないか。不合格だったところで、人生が終わる訳ではない。そもそも、自分が不合格になったとしたら、あるいは考慮に入れるかも知れないが、クライズさんはあくまで他人だ。俺が身を削る義理は正直ない。
クライズさんは早くもいびきをかいていた。俺は彼を起こさないように、静かに部屋を出る。
○
「俺のスキルさん、教えてくれ」
街は静かだ。頭上の月は、半分ほど雲に隠れている。
俺はスキルにそう呼び掛けてみた。自分のスキルとの対話。それができるのかは不明だが、どうも俺ではない誰かの声が聞こえて、俺の意識とは別のところで何かをしているようだ。ならばその存在と、意志疎通ができるかどうか、試してみる価値はある。
「このスキルは、どういうものなんだ」
まず知りたいのは、結局このスキルがどういう規則によって運用されるものなのかということ。何度も引くが、俺の故郷の《夜目》のスキルホルダーの人、その瞳に光を当てると、金属板のようなものが奥にあって、それがてらてらと反射する。犬猫と同じ、ということだ。彼はよく自分のスキルを《猫目》とも言っていた。彼が夜目が利くのは、その特別な目のお蔭ということである。翻って、俺の場合。何が引き金なのか、どんな効果があるのか、どんな制限があるのか、それはスキルが発動した時の記憶が残らないため、調べようがない。またスキルの特殊性から、どのような死因でも蘇生できるのか、蘇生回数に制限はあるのかというような、厳密に調べられないものが少なからずある(蘇生できない条件を発見した=死)。
だから、スキルと意思疎通ができる、そのことに賭けるしかない。できなかった場合は――まあ、スキルに頼らずに生活するだけだ。元々知らなかったスキルだ――不幸にも命を落とした時に、生き返れることができれば幸運だった、という心持ち。
『回答報告。
「どういうもの」という点について、具体的な内容が必要です。
報告終了。』
これは――できたということで、いいよな?
しかし気になるのは。
「とりあえず、その『報告』とか『報告終了』とかいちいち言うのって、やめられない?」
『回答報告。
初回の死亡、保存、自死、全てを確認。
報告開始宣言、報告終了宣言をしないことは可能かという質問に対して。
はい。
今後常に宣言を省略しますか?』
スキルはそう返した。
どうだろう、蘇生した時には、宣言を挟んだ方がいい気がする。急に話し始められても困るし、何か重要なことを聞き逃すかも知れないからだ。同様に手動保存した時にも、一拍置いて報告してほしい。というか、それらは間隔が開くのがふつうだから気にならないのであって、質疑応答の際に逐一宣言されると流れるような、つまり実在の相手と会話するような感じがなく話しづらいのだ。
「俺が質問した時だけ、省略してほしい」
俺はそう言った。そういえば、スキル相手には敬語を使うべきだろうか。ここまでと同様に砕けて話し続けていいのか。
『追加報告。
宣言の省略は質問時のみに行ってほしいという要求に対して。
承諾しました。
今後、質問であることを明言された質問に対して回答する際には、宣言の省略を行います。
回答終了。』
これでいいだろうか。
それでは、具体的な質問に入ろう。
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