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5.治療

 レジーを拾ったシェーネは、嘘をついたことがないと言えば誰もが信じて疑わないほどに、生真面目な人間だった。そのシェーネがレジーのことを『少年』だと言えば、たとえ女の子らしい顔付きでも声が高めでも、住民たちは中性的な子なのだと疑わずに受け入れていた。けれど、それはシェーネが唯一ついた嘘であった。

 

 ウィルとエミリオを追い出した部屋の中、丸一日寝ていたということもあり、消毒と共に体を拭くことにしたレジーは、アンに手伝ってもらいながら服を脱いだ。薄い体躯の胸元にはサラシが巻かれており、レジーの胸を平にしている。右腕が使えず、つっかえながらレジーはサラシを解けば、潰されていた胸がふっくらと盛り上がった。

 そう、レジーはまごうことなき女であった。


「アン。どう?傷残りそう?」

「残念だけど、残りますね」

 

 実家から飛び出して2年経つが、レジーの実家はいまだに探し続けている。その目を誤魔化すためにレジーは男として暮らしていた。幸い、雪に包まれている街では体型を服で隠していても不自然はない。

 

 レジー達の住む国では18歳で大人としての自由が与えられる。その為、18歳になったらワケありの人でも受け入れてくれるという修道院に入るつもりだ。そのことを知っているのはアンとゴーシュのみである。

 

 ベッドの端に座ったレジーは傷口を消毒してもらいながらアンに問いかける。幸い縫うほどではなかったようだが、傷口は深かったらしい。包帯の下は酷い有様で、レジーは思わず目を細めて顔をそらした。アンは見慣れているのか、平然とした顔で消毒を続けている。


「そっか。まぁ、嫁に行く予定もないからいいや」

「レジーさん……」


 痛ましい目で見てくるアンに、苦笑いでもって返す。理不尽や不条理といったものを嫌うアンがレジーの身の上に憤りを感じていることは知っている。

 

「そんな顔しないで、アン」

「はぁ、なるべく薄くなるように努力しますから」


 ありがと、と笑えばようやくアンも笑ってくれた。消毒が終わり包帯を巻きなおしたあと、手の届かない背中をアンに拭いてもらい再度服を身に纏った。ふっくらとしていた胸元もサラシで平になっている。


「ところで、あのエミリオさんなんですけど」

「うん?」


 消毒用の薬や包帯を箱に戻しながらアンが話し始めた。この家にはリビングを除いて部屋が2つあるため、レジーの体を見られないために、もう1つの部屋にエミリオとウィルに移動してもらっている。建前上は傷口が酷いため、あまりみるものではないと伝えていた。消毒してもらいながらアンには森で拾ってきたことから、エミリオが捨てられていた理由はわからず、帰るところがないことまで話している。


「先生が見たところ、どこも悪いところはなかったんです。でも、眠っているっていうよりも、眠らされている、という感じで」

「睡眠薬とかの類ってこと?」

「いえ、なんといいますか……」


 腕を組んで唸っている様子を見ると、言葉でどう表現したらいいのかわからないのだろう。むむっと眉間に皺が寄せられているのを眺めながらアンの言葉の続きを待つ。


「何かによって眠らされてる?みたいな感じだったんです」

「うーん、そうだとすると」


 表現しきれない、未知のものへの説明で言葉は酷く曖昧だ。助手とはいえ、ゴーシュと共に多くの患者を診てきたアンのその言葉は信用に足るものだ。たとえ、その言葉が指し示すものが不穏だったとしても。


「どうしよう、かなぁ」


 森の奥に捨てられていた理由はわからず、そして帰る場所はないという。

 ワケありなのは予想のついていることだったが、思った以上に込み入っていそうで、ついレジーは頭を抱えた。拾ってきた以上、責任はレジーにあるだろう。


 この街に孤児院はあるけれど、かなり運営は切迫していて割れた窓を直す余裕がないほどだ。そこにワケありの子供を入れるのは躊躇われた。つまり、取れる道は誰か他の預かってくれる人を探すか、レジーが預かるかである。しかしエミリオの先ほどの様子から、レジー以外にエミリオが口を聞くとも思えず、取れる選択肢は決まっているように思えた。

 天を仰いだレジーは唸り声をあげた。


(私もシェーネに拾ってもらって、助けてもらった)


 すべての道具を片付け終えたアンがレジーに向き合う。アンの薄茶色の瞳が、レジーを心配する色を宿していた。


「レジーさんが預かることはリスクがありますし、うちで預かりましょうか?」

「それは……ちょっと、教育に……」

 

 アンはゴーシュと共に暮らしている。酒とギャンブルが大好きなゴーシュと共に過ごしているのだ。エミリオの教育に良いとは決して言えない環境だし、不愛想なゴーシュがエミリオとうまくやれるとは毛ほども思えなかった。


「アン、もし私に何かあったらエミリオを任せていい?」

「安心してください。レジーさんの身に何かあれば私が…追っ払ってあげます」


 ぶんぶんと腕を回す様子に、何を追っ払うかの想像がついたレジーは思わず噴き出した。妖精の祝福を宿したアンに殴られれば、大人であっても骨の2,3本は折れることだろう。

 にへらと笑いかけながら、レジーは2年前を思い出していた。


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