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41.きっと死ぬまで忘れられない

 レジーがフィリのメイドになり5年の時が過ぎ、レジーは21歳となり、ウィルとフィリはついこの間24歳を迎えていた。ノクチルカにいた使者はフィリの予想通り1ヶ月ほどで王都へと帰っていったが、配達の仕事を再開することをフィリとウィルは許さなかった。女性でも働いている時代ではあるが、フィリが嫌そうな顔で「ちょっと事情があるのよ。意気地無しの言うことなんて聞きたくないけれど」といっていて、レジーは首を傾げるばかりだった。

 フィリにつくメイドであれば、教養が必要だといわれ、レジーは勉学とマナー、それにダンスまで教えられた。5年かけて叩き込まれたそれは、メイドというよりも令嬢としての教養であるとレジーも薄々は気づいていた。


「レジーのメイド姿もだいぶ板についたわねぇ」

「さようですか……」


 フィリの私室は落ち着いた色の調度品が多く、ベッドとソファとテーブルが置かれている。執務はソファに座り行っている。今日もテーブルに並べた税収の資料を見ながらフィリはレジーの入れた紅茶を楽しんでいた。

 フィリとウィルによる領主代行は継続されている。というか、ある日帰ってきたフィリの両親は「3年も務めたんだからもう大丈夫だろう」と言って、領地の隅に居を構えて実質的な隠居生活に入ってしまった。23歳になっても婚約者の一人もいないフィリは文句も言えず、呆れながらも領主代行を続けている。フィリの男嫌いは健在であった。

 

 お仕着せに身を包んだレジーは見違えていた。一介のメイドが使うには勿体ないようなオイルをふんだんに使い、練り込まれたおかげで足の先までツヤツヤとしている。短く切っていた髪も、今やお団子に出来るほど伸びていた。メイドになる前から動き回って働いていたレジーは無駄な肉がついておらず、胸元の膨らみはあまり成長しなかったが、スレンダーな体型を維持していた。男装をやめたレジーは愛らしい顔つきをしており、時折フィリが着せ替えをして遊んでいるほどだ。


「フィリ。何度も言いますが、メイドの私には身に余ることばかりです」

「趣味と実益を兼ねているの。気にしないで」


 5年間の幾度も繰り返したこのやり取りだが、これ以上の回答を得られたことは一度もない。

 

「ウィルが後であなたに話しがあるそうよ。ロザリー様の事らしいわ」

「ウィルが?わかりました」

「あと、これを後で出しておいてもらえるかしら」


 サイドテーブルから取り出した手紙は、5年前から不定期にフィリが出している手紙だった。宛先は「リオ」という人らしく、フィリに婚約者かと聞いたことがあったが、鬼の形相で「二度と言わないで頂戴」と言われてしまった。どうやら男性宛のもので間違いないようだ。


「今はもう下がっていいわ。どうせウィルももうすぐ来るだろうし」

「はい。……あの、フィリ」

「なぁに?」


 身に余るほどの待遇をくれているのはフィリの好意によるものが多い。メイドとして働いている最中のレジーを暖かく見守っている姿を何度も見た。それに、呼び名も「フィリ」から変えないで欲しいと言われている。


「ありがとうございます」

「ふふ、良いのよ。私の初恋の人」

「うっ、そのことはもう……」


 レジーがフィリの初恋を奪ってしまったのは不可抗力とはいえ、罪悪感があった。その事をわかっているフィリはこうして時折持ち出してくる。メイドとなりわかったことだがフィリは親しくなった人にはいささか意地悪をいうことがあった。好意故だと思えば悪い気はしなかった。

 フィリの部屋を後にし、レジーはフィリに与えられた自室へと向かった。休日はノクチルカにある家へ帰っているが、それ以外は屋敷の自室で過ごしている。

 用意されたレジーの部屋はベッドとドレッサー、クローゼットのみというシンプルな部屋だが、クローゼットの中にはいくつかの服とドレスが入っている。メイドとしての賃金から買うものもあるが、不定期に追加される服には時折白地に金色の装飾が入っているものがあり、白い少年を彷彿とさせチクリと胸が痛む。


「さて、と」


 ワンピースを手に取って、お仕着せから着替え始める。白地に金色の刺繍が入ったブラウスと、黒いフレアスカートを身につけた。解いた髪は結っていた跡が残っていて、ひとつに結んで誤魔化すことにした。お仕着せのままでも良いのだろうが、ウィルは変わらず友人と接してくれている。その時にお仕着せのままだとどうにも落ち着かないため、時間があるときは着替えている。

 ドレッサーに座り身だしなみをチェックしていると、鏡にかけている帽子が目に入った。紫の造花のついた帽子は白い少年が残していった帽子だった。

 かぶる勇気はなく、ドレッサーを飾るものとなっているそれにそっと触れれば、苦しくなるほど胸が締め付けられた。

 5年経ってもレジーは白い少年を忘れることはできずにいた。

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