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10.キミを拾った理由

本日2回目の更新です。


 レジーは朝食を作るべくキッチンに立っていた。しかし、片腕は包帯が巻かれているため使える腕は片腕のみだ。パンを焼くくらいはできるが、スープを作るには骨が折れそうだった。


「うーん」


 昨日から増えた同居人に初日からパンだけの朝食で迎えるというのはやや躊躇われる。悶々と悩んでいると、昔熱を出したレジーにシェーネが作ってくれたものを思い出す。ノクチルカに来た日、極度のストレスと緊張のためかレジーは高熱を出してしまったのだった。

 長く住んだ家と家族から離れ、知らない人、知らない家、知らない土地へとやってきたのだ。その心労は大きく、眠りについても悪夢に魘され、目を覚ましても心細い気持ちになった。けれど、拾ってくれたシェーネにそのことを言うのは憚られた。むしろ高熱を出して床に臥せっていることに罪悪感を感じた。

 そのレジーに、シェーネは怒ることもなくパン粥を作ってくれた。ミルクでトロトロになったパン粥は蜂蜜でほんのりと甘く、奥深くまで温めてくれた。

 一口食べた時は泣いてしまったものだった。


「うん。パン粥にしよう」


 エミリオだって当時のレジーと同じくらいに不安を抱いているはずだ。そうと決めたレジーはミルクとパンを取り出し、意気揚々と調理を始めた。

 

 片手での調理に手間取ったものの、小一時間でパン粥はできた。昨日あの後、アンが率先して片付けてくれたおかげでリビングは綺麗で助かった。木の器によそったパン粥とカトラリーをテーブルに置いたレジーは、2人分の食事が並んでいる光景に懐かしさで胸をいっぱいにさせた。シェーネが先月亡くなってしまってからテーブルに並ぶのは1人分の食事だった。アンとウィルが来てくれたこともあったが、レジーが1人になってしまったのだと寂しくなるのには十分すぎる期間である。

 暖かい紅茶をマグカップに入れたあと、まだ起きてこない新たな同居人の様子をみるためにシェーネの部屋へと向かった。



 そっとドアを開け、中を覗き込むとベッドはこんもりと丸く盛り上がっていた。すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえて来たので、どうやら同居人となった彼は寝坊助のようだ。滑り込むように部屋へと入り、レジーはベッドの中を覗き込む。ドアに向かって丸くなっているエミリオの顔は覗き込めばすぐに見えた。瞼を縁取る白いまつ毛、薄く開いた口元、首元まで布団を引き上げてくるまっている姿はあどけない子供そのものだ。


「弟ができるとこんな感じなのかな」

 

 レジーよりも幼く見えるエミリオは、弟みたいなものかもしれない。ベッドの縁に腰かけ、ぽつりとつぶやいてみたが、妹であるロザリーを思い出しそうになり首を振った。

 レジーの気配を感じたのか、エミリオの瞼がピクリと震えた。

 起こしたかと顔を観察してみるも、その瞼は固く閉ざされていて開くことはなかった。


「しょうがないなぁ。エミリオ、朝だよ」


 ゆるりと頭を撫でるようにして優しく触れる。するとふるりと瞼が震えて、ゆっくりと金色の瞳を覗かせた。


「おはよう」

「--おはよう」


 しばらく瞳は揺れていたが、くあと漏らした欠伸で覚醒したようだ。存外に神経は太いのか、緊張した様子もない様子に、レジーは昔寝込んだ自分を思い出してなんとも言えない気まずさを感じた。ベッドから立ち上がると、エミリオも身を起こしている。

 二度寝の心配はいらなさそうだ。


「ご飯できてるからリビングにおいで。昨日食べたところ、わかる?」

「うん」


 こくり、と頷いたエミリオにレジーは昔着ていた服を渡した。男装しているおかげでエミリオに貸す服はある。好みはわからないが、この際我慢してもらうしかないだろう。なんだったら今日朝食を食べたあと服を買いに行ってもいい。

 しばらく仕事はできそうにないし、服以外にも必要なものはたくさんある。


「ねぇ、レジー」

「ん?」


 あれこれと、今日何をしようかと考えていたレジーは、エミリオの声かけに振り返った。そこには先ほどのレジーのようにベッドに腰かけたエミリオがいた。


「どうして、僕を拾ってくれたの?」


 首を傾げたエミリオの瞳に映しているのは不安だろうか。ただの疑問かもしれない。金色の瞳はレジーを射止めたように見つめていて、目を逸らすことができなかった。


「それは、」


 当たり前の疑問ではあるだろう。

 ワケありの少年で、どこの誰かもわからない。記憶をなくしている事情があるようだし、その事情はおそらくただ事ではないのだろう。

 レジーはそっと口を開いた。


 レジーはシェーネに拾われて、助けてもらった。今こうして笑っていられるのはシェーネのおかげだろう。なのに、先月亡くなってしまったシェーネに何かを返すはもうできない。だからこそ、レジーはシェーネなら見捨てないだろうエミリオを拾った。

 否、それだけではないだろう。

 

 そんなエミリオを拾った理由。

 それは――。

 

「ボクが、寂しかったんだ」


 エミリオは不思議そうに首をかしげるものだから、レジーはわからなくてもいいよ、と声をかけた。

20時頃に更新します。

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