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第7話 形のない贈り物4-4

商会に着くと扉の前でリードが待っている。

両手にはお金が入った革袋を握って扉の前で待っているようだ。

「トレニアちゃんは、悩みがあるって言ってただろ?

俺にはその悩みがわかったぜ。

それは恐らく俺の事だ。トレニアちゃんは俺に一目ぼれをしたのさ。

だから俺は 女遊びは辞めると決意をした」

「何だと?」

「だから 俺ことリードは、女遊びをすっぱり辞めるんだぁ!」


それを言うためにリードはオレを待っていたようだ。

商会の扉を開けるとリードは女たちに宣言をする。


「今月はお前らに倍の給料をやろう。その代わり、今すぐ辞めてくれないか?

俺は好きな女が出来たんだ!!」


沈黙の後に泣き出す女や呆れだす女が現れてはお金を受け取って出ていった。

中には暴れ出してリードに殴り掛かる女も。


「・・してやる!!きー!」


しかし リードは女のコブシをするりと交わしそのコブシは後ろにいたアイビーに直撃をした。


ドッカ!

ベチャ・・。


イヤな音がして下を向いたらアップルパイが床に落ちた。

それだけならまだよかったのだが、女は出ていくさまにアップルパイの入ったカゴを蹴とばしていったのだ。

中身はぐちゃぐちゃになってしまった。


「リード 何で避けたんだ」

「何で殴られてやらなきゃいかん。アイツとは一度もやってないぞ」


やったかどうかなんてどうでもいい。

今からバザーに戻ってパイを買いなおしていたのでは日が暮れてしまう。

子供を一人にしていつまでも家を空けるわけにもいかないので帰ることにした。

それにしてもリードは、今までは問題があったかもしれないが改心をした。

ドアを開けていきなり宣言をするなんて、バカのする事にしか見えないがリードにしてみればあえてバカな事をやってみたのかもしれない。

「リードのヤツ。本気だぜ」


オレもトレニアに一目ぼれをしていただけに親友の真剣な姿を見て

なんだ(ムナ)しい気分になる。

オレはまた失恋したのか?

夕暮れも過ぎてきたな。

そろそろ部屋の明かりをつけてやらないとリコリスが怖がってしまうかもしれん。


ギルドに戻ると冒険者たちがレストランでわいわいと騒いでいる。

一方で武器屋・受付に掲示板は明かりも灯っておらず、寂しい限りに見えた。


ギギギィィ


武器屋のドアを開ける。

すると 薄暗い影が飛び出してきた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。」

「リコリスじゃないか」


わがままに見えたリコリスも一人では何もできないガキだってことだ。

オレと兄貴がギルドで働き始めたばかりの頃と少し重なって見えた。


「なあ (ハラ)空いただろ? 作ってやるぜ」

「あるよ」


「朝のハムエッグか?」

「違うの。こっち、こっち」


リコリスがオレの手を掴んで食卓に連れて行った。

薄暗くてよく見えないがテーブルの上には何かが置かれている。

明かりをつけてみると、それはぐちゃぐちゃの目玉焼きだった。


「お前が作ったのか?」

「うん リコが作った。でも うまく出来ない」


リコリスは涙を流した。

キッチンの方を見てみれば卵の残骸がいくつもあったし、きっとテーブルの上にある目玉焼きが一番うまく出来たものなのだろう。

フォークを握ったが刺さらないほどに硬い。

  

「うん うまい!うまいじゃねぇ~か。カリカリを通り越してパリパリだ。うまいぞ!がははは

そうだ。食べられなければ捨て構わんがぐちゃぐちゃのアップルパイがあるぞ。

食べれそうだったら食べてくれ」


リコリスは小さな手をカゴに入れると一つまみのアップルパイを取り出して口にくわえた。


「うひゃ!あま~い」


飛び切りの嬉しい声をあげて食べてくれた。

まだ 人に気を使える年でもないだろうし、本当に美味しかったのだろう。

でも ひょっとしたら?

神子(カミコ)は普通の子よりも早く大人になるともいうしな。


「そう言えば、以前にソニア姫からもらった紅茶があったな」


大したものではないのだがソニア姫という事で飲むことが出来なかったものだ。


「紅茶?お茶?」

「紅茶だ。大人の飲み物だぞ」

「おとな? おとっな♪おとっな♪ うれしい」


リコリスは大人の味を堪能したようだった。


「なあ リコリス」

「なぁにぃ~?」


「オレは武器屋ったが道具屋も引き継ぐことになって大成功だ。

なあ リコリスは将来の夢とかないのか?」


「リコねぇ。冒険者になりたい。デーモンに勝ちたいんだもん。キャラバンのお兄ちゃんたちもみんな言ってたよ」


「そうか。そんな危ないもんになりたいのか?

神子(カミコ)は特殊な力があるおかげで早く大人になれる。

リコリスの才は、冒険者と相性がいいからいい冒険者になれるだろうさ」


リコリスの目は輝いた子供の目をしていて、オレの言葉を褒められたと勘違いをしたのか、むずがゆそうに肩をくねらせて笑っていた。

笑っていたが。

「だが!お前はまだ小さすぎる。しばらくは、武器屋の見習いとしてここで働かないか?」

「リコねぇ。冒険者になってママねーちゃんを探すの」


移動中の馬車で冒険者はカッコいいとでも吹き込まれたのか、何でもできると思っているようだ。

冒険者になってもな。。

説明をしようと口を開くと外から声がした。


「あの~アイビーさん アイビーさん」

この声は トレニアだ。

アイビーがドアを開けてトレニアを中へ入れると軽く土ぼこりを払ってキリリとした顔でこちらを見た。


移民のキャラバンの人たちは移住先を探している。

トレニアも例外ではなく、仕事を探しているのだ。

そのとき リコリスが叫んだ。

「ママねーちゃん!!」

「ホントに? リコリスじゃない!」


トレニアとリコリスは抱きしめあってなかなか離れなかった。

「ギルドに行けばいるかもって思ったら、ホントにいたのね」

「ママねーちゃん・・。」


二人は感動の再会を果たしたようで、リコリスの部屋で夜遅くまで語り明かしているようだった。

「でも こんな遅くにどうして?」

「アイビーさん、いいえ。アイビー。私はあなたと付き合ってるじゃない?」

「オレ達やっぱり、付き合ってたんだ!」

「なんでそんなに嬉しそうなの?これから迷惑かけちゃうけど私でいいの?」

「武器屋に二言はない。」

「ふふふ 面白いね。アイビー」

「トレニアねーちゃんがママならアイビーはパパ兄ちゃんだね」

「あははは」


こうして夜が更けたのでした。

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