1-25 町で噂のマモノビト! ~おとーさんは人形姫~
スーパーTSヒロインアットコームラブコメディバトルファンタジー開幕!
『魔王』襲来――……
現代日本。突如現れた魔王は異世界侵攻の尖兵として人々を魔物に変え、姿を消した。平凡な中年サラリーマン・安治川大治郎は、オートマタ『人形姫』に魂を移されてしまう。
愛する家族を遠ざけ、一人孤独な戦いに身を投じることを決意した彼を待っていたのは……
ほのぼのホームドラマ?!
フィギュアマニアの息子、ゴスロリ中二病の娘、おっとり動じなさ過ぎる妻。おっさんin少女人形は、家族に愛でられ、いつしかSNSの有名人に。
魔物と化した人々――“マモノビト”のいる非日常は何だか穏やかに回っていく。しかし『魔王』軍侵攻の時は、確実に近づいていて……
変わってしまった姿、変わる世界。だけど変わらない思いがある。ロリ人形おとーさんの愛と戦いの物語。
君には大切な人達を守るため、命をひとつ、奪う覚悟はあるか……?
プロローグ.『魔王』と『人形』
私、安治川大治郎は、どこにでもいるありふれた普通のサラリーマン……だった。
その日、日本中のあらゆる場所の空に、時を同じくして、『魔王』などという冗談のような代物が出現するその時までは――……
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私はとある商社の営業課長で、齢は46。妻と、今年受験生の高3の娘と、高1の息子とマンション暮らしをしている。 子ども達も高校生ともなると会話も減り、なぜかついでに妻との会話も減少傾向だが、格別不仲というわけでもなく。
ありふれた一般的な家庭、それなりに幸せで平穏……だと思う。たぶん。
自分で言うのもなんだが、私は真面目が取り柄というやつで、家庭も仕事も堅実、悪く言えば無難を良しとし、出世街道を華々しく走りもしなければ、さりとてお荷物社員になってもいない。
つまり、普通。顧みれば我ながら普通過ぎるくらい、フツウ。
そんな私は日曜日、休日のささやかな楽しみとして散歩がてら書店を覗き、喫茶店でゆっくり時間を掛けて珈琲を楽しんだ。
買ったばかりの新書にひと区切りがつき、店を出た私は、道行く人達の妙なざわつきに気がついた。周りの人はみなぽかんと空を、同じ方向を見上げている。
何だろうと、人々の視線の先を追うと……
『そいつ』がいた。
「……どこのゲームの中から来たんだ?」
人間、あまりに衝撃を受けると、かえって冷静になるものらしい。私は自分が呆れたように呟くのを聞いた。
巨大な人影が、ビル群の間からじっと我々を見下ろしていた。よく見ると彼の姿は少し透けていて、巨人がいる、のではなく空に映像を投影しているのかもしれない。まあ、それもそれで驚きなのだが。
そして私の呟きに違わず、“彼”は多分に“ゲーム的な人物”だった。
漆黒の長髪。頭にねじくれた二本の角を生やし、病的なまでに青白く、瞳は暗い深紅に沈んでいる。纏う豪奢な装束もまた黒く、冷ややかな威厳を湛え、地上を睥睨している。
名乗りを待つまでもなく誰もが思った。「あ、『魔王』だな」と。
後に報道で知ったことだが、この時、時刻は午後4時少し前。『魔王』は日本全土の首都圏から地方都市、集落、離島に至るまで……つまり“人間”の存在するあまねく場所に、同時に姿を現していたのだという。
周りの人々も「え、何?」「特撮? イベント?」と言い交わしている。若い子達がこぞってスマホを翳しているのは、SMSにでも上げるつもりなのだろう。いい根性だと感心すべきか、今時だな。
そんな下界の反応を蔑むように眺めていた『魔王』は、やがて、満を持して重々しく口を開いた。
「余は『魔王』……『魔王ズーク』――……」
うん。まあ、みんな大方予想はしてた。
「人間どもよ、余はお前達の“世界”に宣戦布告する――……」
それは、途方もなく恐ろしい宣言だったが……そもそも『魔王』氏が観光で来日されるとは考えにくく、居合わせた人はだいたい「まあ、そうだろうな」とは思っていた。
魔王ズークとやらは人間どもの薄い反応に、一瞬「あれ?」という顔をしたが、
「ふはははは! 怖れのあまり声も出んと見える!」
いかにも『魔王』的哄笑で、常識的な解釈で自分を納得させたようだ。
「くくく……だが、安堵するがいい」
「余は神々とは違い、慈悲深き王だ。人間どもよ、余はお前達を根絶やしにしようとは言わぬ。ひと握りではあるが、生かしておいてやろう……」
「ただし……この『魔王』の尖兵としてだ!」
『魔王』がそう叫ぶや、青空は一転朱に染まり、不気味な光が街に降り注いだ。誰もが驚愕の表情を浮かべる、中で、幾人かが突如身もだえ、自身の喉を掻きむしり始めた。
この私も、その一人だった。
何だ、これは……! 体が焼ける……息ができない……! 視界が赤く染まる、思わず歩道に膝を折り、両手をつく。
そんな私の前で、苦しんでいる人達に、異変が起きた。
傍らにいた中学生くらいの少年の、肩がいきなり膨れ上がり、獣のような毛に包まれていく。向こうで中年婦人の顔が鱗で覆われる。あちらでは老人の服を、蝙蝠のような翼が突き破る……
そこここで、苦痛と恐怖の悲鳴が飛び交う。
「ふはははは! 幸運を悦べ、“選ばれし”者どもよ――……」
魔王の嘲笑が、惨劇の上に響く。
我が軍の尖兵……?
それは、つまり……
人間を、魔物に変えて手先にするという……?
そして、体が異変に襲われている私も、“選ばれて”しまっ……
「……智香……絵里香、慎、太郎……」
妻と子ども達の名を呼びながら、私の視界は闇に閉ざされ、ただコンクリートに頭を打ちつける痛みだけを感じた。
指一本動かせない暗闇の中で……バキ……メキメキ……バキッ……自分の体が変貌していく恐ろしい音を聞きながら、私の意識はそこで途絶えた――……
**********
……――どれくらいの時間が経ったのか。
目を開いた私は、長い間気を失っていたのか、一瞬の空白だったのか、それすらも見当がつかない。だが、いずれにしても街の惨劇はまだ進行中だ。逃げ惑う人々、そして倒れた人達は次第次第に、ヒトならざるモノに変わっていく……
……私も、か?
ギクリと衝撃、ジワリと恐怖。私は舗道に倒れる自分の体を、必死に動かそうと試みる……動く。身を起こすべく、地面に手をつく。
かちゃっ。
何だ、今の“音”は? コンクリートに、何か固いモノが触れた音。私は自分の手に目を凝らす。
そこにあったのは、“人形”の手だった。
艶やかな陶器のような真っ白な肌。指が、球体のような関節で繋がっている。指先には爪がない。
……え?
動かしてみると、目の前の信じ難いモノは、私の思う通りに動いた。では、やはり、これは私の手……なのか……?
弾かれたように身を起こす。立ち上がる。幸い体は動く。痛みもない。だが……明らかに視線が低い。身長178の私の、視えていた世界とは違う。
全身を見回す。動作が、奇妙にギクシャク、カクカクとする。見たこともない黒い衣装を身に着けている。いや、それより……
腕が、体が、ひどく細くて小さい。
私は阿鼻叫喚、人々がパニックになり、人外が倒れ伏す地獄絵図を見回し、もう遠い昔のことに思える、珈琲を嗜んだ喫茶店の窓に駆け寄る。
「……お前は誰だ?」
ガラスに映る“少女”から、そう問われた。その声は、楽器で奏でるかのように、どこか作り物めいて聞こえた。
……“少女”ではない。“少女人形”だ。
白銀の髪、真っ白な頬、薄い紫の瞳。
その肌は陶器、目は硝子玉。
背丈は小学生といったところ。典型的な魔女の装束、或いはハロウィンの仮装。黒いフードのローブ、内に同じく黒のチュニックを着けている。
私が唖然としながら体を動かすと、少女人形の鏡像もまた、同じ動作を真似る。
ということは……信じがたいが……
これは、やはり、私なのか……
地獄のような街角に独り、私は立ち尽くす。
頭が真っ白になって、今は何の感情も湧いてこない。ただ茫然と見上げた空は、何事もなかったかのように青く、『魔王』の姿もまた既になかった。
まるで悪夢みたいだ。
私は、ただ茫然と、自分の頬をつねってみた。
陶器の肌はつるりとして、私の指がつまめる肉はなかった。
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Interlude:Princess of Doll
கண்ணாடி கண்கள்.
瞳は硝子
மட்பாண்ட தோல்.
肌は白磁
வெள்ளி-வெள்ளை முடி.
髪は白銀
கருப்பு ஆடை.
衣は黒く
உருவாக்கு பொம்மை இளவரசி.
作り物の人形の姫
அந்த இதயத்தில் வாழும் சுடர்.
その胸に灯る炎
அதன் தோற்றம் விரும்பத்தகாதது.
その姿はおぞましく
உங்கள் பக்கத்தில் இருக்க முடியாது.
もう傍にはいられない
ஆனால் முடிந்தால், உங்கள்
だが、もしも叶うなら
கைகளை அழுக்காகப்
その手を汚す
பெற நீங்கள் தயாரா?
覚悟はあるか?
நான் இனி ஒரு நபர் அல்ல.
私は人ではなくなった
நான் ஒரு அரக்கன்.
私はモンスターだ
நான் ஒரு அசுரன் மனிதன்.
私は“マモノビト”だ
நான் ஒரு பொம்மை.
私は人形だ
(நீங்கள் மனிதர்கள்.)
(お前は人だ)
……――நான் மனிதன்.
……――私は人だ
மக்கள் பார்ப்பார்கள்.
人々は見るだろう
ஒரு பொம்மை இளவரசி ஒரு
竜に乗り天翔ける
டிராகன் மீது வானத்தில் பறக்கும்.
人形姫の姿を
மக்கள் பார்ப்பார்கள்.
人々は見るだろう
விரக்தியின் உலகில் ஒரு
絶望に沈む世界の
சிறிய நம்பிக்கை.
小さな希望を
நான் ஒரு அரக்கன்.
私はモンスターだ
நான் மனிதன்.
私は人だ
நான் ஒரு அசுரன் மனிதன்.
私は“マモノビト”だ
நான் பொம்மை இளவரசி.
私は人形姫だ