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1-11 悪役御曹司の作り方

怪獣や怪人が闊歩し、変身ヒーロー達が溢れる世界。そんな世界では定住などは出来ない。移動工房で様々な道具を作る会社の御曹司、人間 天鷲 昇悟はある時異世界の夢を見て、この現状に歯噛みした。そんな姿を見たお付きの爺に突然「力が欲しいか」と問われる。怪しみ躊躇し、様々な葛藤の果て、特別な力を手に入れる。夢の世界をこの世界に実現するために動くべきか、その考えが操られたモノじゃないか悩み、世界を怪人や怪獣、ヒーローと戦いながら進んでいく。その振る舞いは悪役御曹司と言われてもおかしくなかった。

 怪獣が好きだった。

 怪人が好きだった。

 ヒーローが好きだった。


 強くたくましく大きいだけでかっこよく思えた。

 特徴的な能力を使って戦う姿が好きで、この組み合わせならと夢想した。

 画面の向こうで額に汗し、感情剥きだしで戦う姿が好きだった。


 夢を見てた気がする。怪獣も怪人もヒーローもいない世界の自分を。

 この世界にはどれもこれもいるのに。

 この世界にはあんな安全な場所なんてないのに。


「お坊ちゃま、起きられましたか?」


 この世界の僕……いや、俺は天鷲コーポレーションの御曹司だ。

 だがしかし俺自身は何の力もないただの人間でしかない。金は親が持っている。

 記憶の混濁が激しいのか、どうにも自分が持たざるモノに思えて仕方がない。


 御曹司というと屋敷に住んでいる様なイメージが出てくるが、そんな大層な建物をこの世界では作る事などできやしない。夢との常識の混同が激しい。

 今いる場所も地下のシェルター施設だが、ここも安全だとは言い切れない。

 一度怪獣が現れれば数キロ四方に渡って崩壊の危険があるのだ。


「爺。何か起きたか?」


 しっかりした材質で、体にピッタリとくっつく黒いスーツ。

 起きればすぐ行動できる様に準備された身の回りの品。

 避難が寝起きでもすぐに出来る姿。この危険な世界では当然の格好。


 俺の父親の会社はこの身の周りの品々を作る事で財をなした。

 今着ているこのスーツも身の周りの品も含めて、父親の会社の製品なのだ。

 記憶によればこの分野での業界シェア率はほぼ100%だ。

 会社としてみれば競合他社はいないが、自作勢が人に売る事があるので、シェア100%とは言えないのが難点か。


「ヒーローと怪人の争いが1キロ程離れたところで行われております」


 ヒーロー。怪人。どちらも人間とは桁違いの力を持っている。

 人間を助ける行動をとる事が多いからヒーロー。

 ヒーローと敵対し、周囲を気にせず戦うから人間へ被害を出すから怪人。


 その真意を知るモノはきっといない。

 変身前は人間みたいな姿をしていようが、本性は怪物なのだ。

 小さいだけで実態は怪獣となんら変わらないだろう。


「そうか。ここも危険だな。規模的にどれくらい離れればいいと思う?」


 最弱のヒーローであっても1m程のクレーターを作るのは容易い。

 強いヒーローなら500m離れても攻撃の余波で人が死ぬ。

 怪人もほとんど同等だ。化け物共め。


 防護スーツがあるから俺自身はある程度までは耐えられるだろう。

 だがそれも限度がある。わざわざ危険を冒す意味もないし、今は避難しよう。

 あの夢の様な頑丈な建物を作ったところで、1日も持たず壊されるとか空しい。


「遠目での確認なので確実ではないですが、2km程移動すれば問題ないと思います」


 合わせてだいたい3kmか。実際に破片が飛んでくる距離はもっと短いだろう。

 500mとかそれくらいじゃないだろうか? もっと短いかもしれない。

 そこまで大きい戦いじゃないと思う。でもそれは見ていないから言える事か。


 眠り強張っていた体を軽く解す。防護スーツが動き、体のサポートをする。

 死んだ怪獣のバカでかい筋繊維を使って作られた防護スーツは熱くなる程に動きが良くなる。

 ぶっちゃけけっこう熱い。血行が促進されて、寝ぼけ頭もすぐ目が覚める。


「とりあえず移動するか。ポイントまで案内を頼む」


 グローブと靴をつけると爺の先導に従って地上へと這い出た。

 指先のグリップ力が高く、防護スーツの力もありスルスルと出られた。

 垂直に近い壁も簡単に登れるというのがすごい。


 スーツの力もそうだが、地上に出る際の安全確認もやってくれる爺には感謝しかない。

 出口の付近は身を潜められるちょっと広めのスペースがあった。

 地上はやはり出歩く事も危険なのだろうな。


「見てください。今回の争いはあそこですよ」


 嵐だった。マスクをしてレンズを重ねて、人力でピントを調整していく。

 この世界は夢の世界の様には機械が発展していない。機械が羨ましい。

 代わりに怪人や怪獣の残骸を素材にしたモノ作りが発展しているんだ。


 あの夢は本当に夢だったのだろうか? 知らない技術が具体的過ぎる。


 嵐の中に小さな人影が2つ見えた。パワー系と超能力系だろうか?

 一方が殴れば蜃気楼が如く揺らめき避ける。透過とかかもしれない。

 パワー系が怒ると嵐が強くなるので、この嵐はパワー系が原因だろう。


「お互いに決定打がないかもしれないな。時間がかかりそうだ」


 何か奥の手を超能力系が持っている可能性はある。

 でもそれを出すのはなかなか難しいのかもしれない。

 でなければさっさと戦闘を終わらせているだろう。


 パワー系はたぶん超能力系に絡まれていて、倒せなくてイラつきを覚えている。

 進行方向に何か目的地があったりするのだろうか? 分からない。

 超能力系の方は増援を待っている可能性もあるか。状況が分からない。


「規模的にC級とD級の争いといったところでしょうか? まぁまぁ危ないですのでここから離れましょう」


 パワー系がC級で、超能力系の方がD級といったところか。

 C級で10mクラスの嵐を起こすのだ。上の階級はもっとヤバい。

 夢の俺は彼等が好きだそうだが、俺には理解が出来ない。危険なだけだ。


 そもそも助けてくれるから喜ぶとは言うが、それはご都合だろう。

 そもそも彼等がいるからモノが壊れるのだ。

 この世界の人々は流浪の民になり、持ち運びが出来る工芸品の交換でなんとか文化を築き上げるしかなくなった。それらは彼等のせいなのだ。


「そうだな。人型だし武器の類も見られない。いい素材は得られなさそうだ」


 夢の世界だとコンクリという石の住宅に住んでいたが、あんなモノはこの世界じゃすぐ壊れるだろうな。

 エンカウントしやすいC級ですらこの規模の災害を引き起こすのだ。

 夢見た世界みたいに人の暮らしやすい世界はとても羨ましい。


 いや、夢の世界はどうでもいいんだ。あんな理想郷はここにはない。

 ヒーローに対してカッコいいなんて無邪気に声を上げる事なんてできない。

 ただ伏せて亡骸を漁り、素材を見つけ、自分らで倒せる動物を食らうのだ。


「お坊ちゃま。お坊ちゃまは力が欲しいですか?」


 爺は穏やかな表情で俺を見つめて言った。

 言葉の真意が分からない。装備で強くなる事を示しているのだろうか?

 だとしてもいくら装備を集めても、人間の体では限界があるだろう。


 体に力を与える薬でも投与するのだろうか?

 薬剤は自分の力ではないとか綺麗言は言うつもりない。

 だが寿命を失う前提の力は現状必要なモノじゃない。

 復讐か何か後先を考えない目的のためじゃなければ必要はないんだ。


「微妙だな。逃げ隠れして生きるのは嫌いだが、命をかける程じゃない」


 お手軽な力などはないだろう。

 この防護スーツですら焼け石に水に過ぎないのだ。

 生身の人間の数倍程度では何の役にも立たない。


 十分な力を得るとしたらそれこそヒーローの体を手に入れるとかか。

 それも微妙かもしれない。どんな代償を支払う事になる事やら。

 そんな危ないモノに手を出す理由なんてない。


「そうですか。分かりました。では欲しくなったら教えてください」


 爺は何を隠しているんだろうか? 分からないな。

 そもそも託す力があるとして、何故それを俺に託そうと思うのか。

 色々と考えが分からないところがある。


 俺が夢で見た世界は爺が見せたモノだったりするのだろうか?

 そうだとしても何故爺は俺に見せたかったのか。そこも理解しづらい。

 操りやすい手駒か何かにするつもりなのだろうか?


 あぁ、夢の世界の様にのんびりとしてみたい。

 お茶の間とやらで画面越しにヒーローと怪人のバトルを見たい。

 ヒーローになる妄想で笑いたい。

 どのヒーローが最強だかで持論をぶつけ合いたい。

 ヒーローになって頼られる妄想もいいな。


 だがそれには無法図に暴れまわる彼等が邪魔なんだ。



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