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1-09 超天才おかしいイケメン幼馴染の、遺書の通りに生きてみた。

平凡な大学二年生ミヤコのイケメンで天才で色々おかしい幼馴染が死んだ。

そんな彼の遺書には『三年間でミヤコが幸せになるため』の方法が毎日分綴られていたのだ。


ミヤコは毎日、その遺書通りに行動する。

するとイケメンの彼氏ができた。大親友ができた。教授にも論文が認められた。たまに泣くような出来事もあるけど、それでも着実にミヤコは順風満帆な人生を歩んでいく。


そして三年後、その遺書が終わる時……ミヤコはある大きな決断をするのだが?

 私の幼馴染は変人である。


「ねぇ、ミヤコ。知ってるかい? 人間の体内には三京七千兆個ものミトコンドリアが存在しているんだ。ミトコンドリアは細胞が活動するためのエネルギーを供給してくれている存在……すなわちスライムキングがスライムの集合体であるのと同じように、僕らもミトコンドリアの集合体であると言えるのではなかろうか!」


 だけど、この幼馴染・天空寺ミツイは天才でもある。中学生の頃にはアメリカの有名大学から推薦状みたいなのが届き、高校生の頃にカツっぽい名前の天才組織からスカウト状が届いたらしい。しかし、この幼馴染は頑なに拒否し、今も私と同じどこにでもある中流大学のどうってことない学部の二年生をしている。


 私はそんな幼馴染の顔を見ずに「へぇ」とだけ答える。だって、今制作中のレポートを今日中に提出しなきゃいけないのだ。この一週間すっかりレポートの存在を忘れており、ミツイから「そういやあのレポートを出したのかい?」と言われるまで気づかなかった私が悪い。


 でもミツイよ。今も二人っきりの狭い部室で私相手にお喋りしたいのなら、少しは手伝ってくれてもいいんじゃないだろうか。


 それを幼馴染に説いたら、彼はすこぶるイイ顔で言った。


「このレポート内容は今度の定期考査でもばっちり出るからね。自分で苦戦した分、嫌でも頭に残るだろう? 特にここは覚えておくといい。加点が狙える」


 私の幼馴染はイケメンである。しかも、なぜかいつも微妙に距離が近い。

 だからどんなに見慣れていようとも、顔面の破壊力でいつも言うことを聞いてしまう私である。そりゃあ、イケメンが好きさ。だって十九歳だもん。しかもミツイが「ここは出る」と言ったヤマが外れたことはない。私が浪人せずに大学に入れたのも、十中八九ミツイのおかげである。


 なので今日も愛する(笑)幼馴染さまの言うがまま、二人っきりの部室(なぜか入学当初にミツイが文芸部を立ち上げ、私は無理やり入部させられた。現在部員数二名。なぜ『部』として学校から活動費が貰えているのか不明)でせっせとレポートに勤しんでいた時、ミツイは言った。


「あ、そうそう。僕はあと三十分後に死ぬんだけどね」

「……は?」


 私の幼馴染は奇人である。よく突拍子もなく変な冗談を言う。以前話を聞かれたどっかの研究所のお偉いさん曰く、ミツイは頭が良すぎるがゆえに、未来予知すらできるらしい。そんなバカな。ただミツイが「傘持ってきた方がいいよ」と言ってきた日は、朝どんなに晴れていようとも雨が降るくらいなものである。


 そんなミツイがいつもの調子で言った。


「悲しまないでいいからね。たとえ僕が死のうと、きみの中には三京七千兆個もの仲間(ミトコンドリア)がいるんだ。寂しくないだろう?」

「いやいやいや。あんたは私のミトコンドリアなのかっつーの」


 私が鼻で笑うと、ミツイは嬉しそうに両手を叩く。


「それはとてもいいアイデアだ! 僕は生まれ変わったらきみの三京七千兆一個目のミトコンドリアになろう!」

「気持ち悪いからやだ」


 そうジト目で睨んでから、私は再びレポートのためペンを取るも……もう一度ミツイを見やる。だって、もしももしかしたら……ねぇ?


「死ぬって……マジなの?」

「あぁ。僕の超天才的頭脳は、やはりかなりの負荷がかかっていたようでね。もうすぐ毛細血管が破裂することが判明したんだ。さすがに目の前で幼馴染の死にざまを晒すのは、きみのトラウマになり兼ねないし……司法解剖されるのも癪だからさ。ちょっと自然死を装ってくるよ。この時間ならあの歩道橋でやんちゃな小学生が足を滑らせるだろうからね。最後は華麗にヒーローになってくるかな」

「また……今日の冗談はいつにも増してつまらないね」


 それに、ミツイはいい顔で微笑むだけ。そして、彼は踵を返す。


「それじゃあね、僕のミヤコ。どうか僕がいない世界でも、幸せになってくれ」

「だから、その冗談はおもしろくないってば」

「ははっ」


 その笑い顔を、私は見なかった。だってレポートの期限が刻一刻と近づいているから。ただペンを動かしながら「まったく意味わかんない……」と愚痴るだけ。


 それでも、ミツイが教えてくれたヤマが外れたことはないから。

 私は必死に、彼が教えてくれたページを読み込むことにする。




 そして、その日の夜。

 ミツイのおばさんから連絡が届いた。どうやらミツイは歩道橋から足を滑らせた小学生を助けようとして、本当に死んでしまったという。死亡時刻は、あの三十分後。打ち所が悪く、即死だったそうだ。




 お葬式に出ても、全然現実味がなかった。

 遺影の中のミツイは、相変わらず顔だけいいから。今にも「ねぇ、ミヤコ。知ってるかい?」とよくわからない話をしてきそうで……その声が、私の頭の中から離れない。


 だから彼が骨だけになっても、今も後ろから肩を叩いてきそうなのに……後ろには、神妙な顔をしている私の母親のみ。私の母親とミツイの母親が親友だったから、私たちも自然と幼馴染になったの。『いつかこの子たちが結婚したり』なんてよくある妄想話に花を咲かせていたものだ。死んだら結婚できないのにね。




 だから、その翌日にあった定期考査も、うつつ心で参加していた。

 それなのに――試験問題には、彼が教えてくれたあのレポートの内容と、ミトコンドリアについての問題がばっちりと載っていたものだから。


「……ミツイのばか…………」


 私は声を押し殺すこともできず、ただただ答案用紙を涙で濡らした。




 そのあと、私は誰もいない部室へと向かう。さすがに部員が一人になったらこの文芸部も廃部だろう。てか、本当になぜ部員二人だけでろくな活動もしていないのに部室まで貰えたんだろう。本当に……本当に、私の幼馴染は最後まで不思議である。


「片付けないとなぁ……」


 でもなんやかんや便利だからと、私も私物をたくさん置いていたのも事実。

 ロッカーに入りきらない教科書や持ち歩くのが面倒なメイク道具を持って帰ろうと……パソコンデスクの引き出し(お菓子を入れていた)を開いた時だった。


「ん?」


 そこには、見覚えのない分厚い本が三冊入っていた。A4サイズの日記帳のようなものである。その表紙にはそれぞれミツイの字で『遺書』と書かれていた。


「あの……ばかっ!」


 いつの間に、こんなものを仕込んでくれたのだろう。てか、遺書なら自宅に置いておいてほしい。こんな部室に置いておいたって……私しか気づかないじゃないか。


「もう……見ちゃうんだからね」


 そうだ! こんな所に置いておいたあいつが全部悪いんだ。私は悪くないっ‼

 だから、私が一番上の一冊の最初のページを捲ると……そこには、すでに懐かしさを覚えてしまう彼の文字が並んでいる。



 やぁ、ミヤコ。僕の死に答案を濡らさなかったかい? 

 きみの幼馴染ミツイだよ。

 きみが寂しがる必要は全然ない。それでもきみの余生はとても心配でね。

 お節介だが、ミヤコの幸せな人生の一助になればと、遺書を書いてみたんだ。

 どうか次のページの順番通りに、残りの大学生活を送ってほしい。

 さすれば三年後、きみの輝かしい未来を保証しよう!



「……は?」


 いやいやいや。どこからツッコめばいいですか、ミツイさん。三年後というと……この遺書一冊分が一年分の私の人生の指示書だったり? いやいや、まさか~⁉


 そう思いながらページを捲ると……さっそく書いてあるのは、今日の日付。



 二〇二三年一月三〇日。午後一四時〇三分。

 A館三階の中央階段に行ってみよう。そこでミヤコは初めての恋人となる、とてもミヤコごのみの美青年と出会うよ。



「は? まじで?」


 私は慌てて時計を見やる。今は午後一三時五十五分。今から向かえば、ギリギリその時間に間に合うかどうかという頃合いだ。いや、嘘だし。こんなのきっとあいつの冗談……。


 だけど、私は即座に部室を飛び出していた。


 別に、この日記の通りのことが起こってほしいわけではない。

 だけど……あのミツイが書いたのだ。別に、私好みのイケメンというワードが気になるとかではない。断じて違う。だけど、もしも最後にこれを、あいつが私のためを思って書いてくれていたのなら……信憑性くらい確かめてやらないと、あいつが浮かばれないじゃないか!


 部室は不運にも、A館まで少し距離がある。それでもなんとかたどり着き、中央階段近くのエレベーターホールへ向かえば――エレベーターは不幸にも最上階の六階にいた。


 ――あと一分⁉


 息が切れて苦しい。脇腹が痛い。

 それでもなんとか気力で踵を返し、急いで指定の中央階段を駆け上がる。


「よし、三階――」


 その踊り場に足をかけた、その時。


「おっと!」


 いきなり天井が見えた。ふわっとした浮遊感に思考が追い付くよりも早く、私はガシッと誰かに受け止められたらしい。あぁ、足を滑らせて落ちそうになったのか。


「急いでいたようだけど、危ないよ?」


 ちょっと低めのいい声だった。

 そのまま視線を上げれば、無造作の薄茶の髪がとてもよく似合ったお兄さん。だけどその軟派そうな髪型とは裏腹に、タンクトップから伸びた二の腕がとてもたくましい。


 ――マジで、ミツイさんよぉ⁉


 私は驚くほかない。だって「大丈夫?」と苦笑してきたその顔は、まさに私の好みドンピシャのイケメンだったのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] まずタイトルで意表をつかれました。 『遺書の通りに生きてみた』というのが色々と想像させますが、これも新しいと思いました。 遺書を読んで書いた人が何を思い同意きたのかを辿る話や、何が起こって…
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