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おとぎの店の白雪姫  作者: ゆちば
27/32

第27話 小折花衣里のラブレター?

 八月のおとぎ町は、ある大きなイベントに向けての準備で忙しい。


御伽祭おとぎまつりといって、土地神様に今年一年のお願い事をひとつ、お願いするお祭りがあります」

「ってのは形式的な話で、一般人は出店を楽しむ祭りだよ。大通りも歩行者天国になったりしてさ」


《りんごの木》の定期ミーティングで、りんごおじさんとアリス君が言った。


「うちは今までは参加したことがなかったのですが、今年はアリス君とましろさんがいるので出店を出してみてもいいかなと」

「私は子どもと買いに行くから頑張って!」


 恩田さんは、りんごおじさんに「意見だけは出しますから」と、グーサインをしてみせる。恩田さんがお祭りの日にいないのは寂しいけれど、お子さんに会えるのも楽しみかもしれない。


 そして、議題は何の店をやるかだ。


「はい! かき氷がいいです!」


 ましろは、真っ直ぐにピンと手を挙げた。


「お祭りといえば、絶対にかき氷!」

「かき氷って、氷にシロップかけるだけでしょ? 私、損した気分になるから、あんまり買わないんだけど」

「違うよ、恩田さん! 最近のかき氷はすごいんだよ!」

「それは言えてるっす」


 ましろが熱量高めに言うと、アリス君がすかさずスマートフォンで画像の検索をしてくれた。

 出て来た画像は、果物やアイスクリーム、クリームや白玉など、さまざまなトッピングをまとっていて、器も含めて、まるで芸術作品のように美しいかき氷だった。


「見た目のインパクト重視のかき氷も多くて、SNSにアップする人も増えてます。パフェみたいに豪華できれいっすよね」

「あら、ほんと。きれいでおいしそうね~! いいじゃない」

「僕もいいと思いますよ。かき氷。今年のデザートメニューのために、かき氷機も買いましたし」


 いつの間に買ってたの⁈


 りんごおじさんの言葉に驚くましろだったが、これでみんなの意見がそろったわけだ。


「じゃあ、御伽祭はかき氷のお店に決定だーっ!」


 ましろが拳を天井に向かって突き上げると、りんごおじさん、アリス君、そして恩田さんも「オーッ!」と笑いながら拳を上げた。




 ***

 数日後の土曜日──。

 ファミリーレストラン《りんごの木》は、かき氷屋さん準備をしつつ、今日も全力営業中だ。


「ましろさん、【千夜一夜のカレーライス】、【浦島太郎の漁師飯】、【マッチ売りの少女の七面鳥ランチ】を奥のテーブルにお願いします」

「はーい!」


 ましろは元気に、あっちこっちのテーブルに料理を運んでいた。

 日曜日なので子連れのお客さんが多く、店内はとてもにぎやかだ。そんな中、三十代前半くらいの女の人が、お店の入り口でましろに話しかけて来た。


「ねぇ、君」

「こんにちは! いらっしゃいませ!」

「ごめん、今日は食べに来たわけじゃないんだ」


 黒髪のさっぱりとしたショートヘアで、細身のパンツをかっこよく履きこなすきれいな人だ。スラッとしていて、身のこなしが王子様みたいでキラキラして見える。


 そして、その人は申し訳なさそうに微笑むと、ましろの背丈まで屈んで名刺を手渡して来た。


「これ、シェフに渡してくれないかい?」

「えっ? は、はい……」

「ありがとう。よろしくね」


 女の人はスクっと立ち上がると、颯爽とお店を出て行った。まるで、夏に窓を吹き抜ける風のようだ。


「ましろ。今の、お客さんじゃなかったのか?」


 こちらを気にしてくれていたのか、アリス君は素早く歩いてやって来て、名刺をのぞきこむ。すると、アリス君はとても驚いた顔をした。


「マジか! 今の、小折花衣里こおりかいりじゃん!」

「誰?」


 ましろが聞き返すと、アリス君は名刺の下に書いてあるカタカナを指で何度もなぞった。


「《テーブル・ディ・エスポワ》! 東京で一番人気のフレンチレストランの若き女オーナーシェフ!」

「わぁ! すごい人なんだね!」

「フランスの料理コンテストで三年連続で二位、去年はついに一位を取った、実力が右肩上がりのシェフなんだってさ。しかも、イケメンだっつって女性人気がすごい」

「アリス君、詳しいね」

「昨日、テレビで見た」


 アリス君は、興奮した様子で名刺の裏をめくると、さらに驚いた顔をした。


「おいおい。メッセージが書いてあるぞ」


 名刺の裏には、手書きでメッセージが書かれていたのだ。


『親愛なる凛悟君へ。明日の十五時、約束の場所で待っているよ。必ず君を手に入れせみせるからね』


 こ、これは、ラブレター⁈


「どっ、どういうこと⁈」

「オレに分かるわけないだろ!」


 ましろとアリス君は、二人であわあわと名刺を押しつけ合った。とてもキザな文面だけれど、これは告白のためにりんごおじさんを呼び出している手紙ではないだろうか⁈


「いやいや、マジかよ! 小折シェフと店長が⁈ どんな関係なんだ⁈」

「ねぇ! これって、勝手に見てよかったのかな⁈」

「ましろさん、アリス君。二人で何を騒いでいるんですか?」


 さすがにうるさかったのか、りんごおじさんがキッチンから飛んで来た。そして、例の名刺に目を留めた。


「それは?」

「えっと、さっき来た人が、りんごおじさんに渡してって」


 ましろが名刺を手渡すと、りんごおじさんはハッとした様子でそれを見つめた。なんだか、嬉しそうにも見える。


「……裏側、見ました?」


 ジロリと、りんごおじさんの視線が突き刺さった気がして、ましろとアリス君は縮み上がった。メガネが光っていて怖い。


「みっ、見てません!」

「見てないっす」


 二人が首を横にぶんぶんと振ると、りんごおじさんはにっこり笑って名刺をエプロンのポケットにしまった。


「そうですか。なら、いいです。さぁさぁ、仕事に戻りますよ~!」


 笑顔が怖い。


 そして、りんごおじさんは再びキッチンへ戻って行った。


「はぁ~っ!」


 ましろとアリス君は、そろってため息をついて、顔を見合わせた。

 やはり、勝手に見るべきものではなかったのかもしれない。けれど、見てしまったからには気になってしまう。


「約束の場所って、どこなんだろ」

「知るわけないだろ。そうだ、明日、店長を尾行するか⁈」

「尾行⁈」


 尾行なんて、刑事ドラマでしか見たことがない。その尾行を、自分たちでやるというらしい。


「そんなことしていいの?」

「だって、気になるだろ。店長が小折シェフの告白をオッケーしたら、どうなると思う?」

「……お付き合いが始まるんじゃない?」


 ましろは、少女マンガの『恋してらびゅーん』を思い出して言った。

 マンガでは、俺様気質なイケメンヒーローが、内気なヒロインに甘いセリフで告白する。それこそ、「お前を手に入れるためなら、なんだってするさ!」と熱く叫ぶ。そして、現在はカップル編が連載中だ。


「そんな単純な話じゃないと思うぞ、オレは」

「どういうこと?」

「《テーブル・ディ・エスポワ》は、東京の! 大人気の! 高級レストランだ! 小折シェフが、そんなすごい店をたたんでおとぎ町に来ると思うか?」

「遠距離恋愛……するんじゃない?」


 ましろが言うと、アリス君は「いやいや~」と首を横に振った。


「『君を手に入れてみせるからね』って、東京に連れて行く気マンマンだろ⁈」

「た、たしかに!」


 そう言われると、ましろも不安になってきた。


 もし、りんごおじさんが小折シェフの告白をオッケーしてしまったら、りんごおじさんは遠くに行ってしまう。《りんごの木》が閉店するどころか、ましろはおとぎ町にいられなくなる。


「わたしは、りんごおじさんについて行けないのかな……」

「そりゃあ、白雪店長と小折シェフの邪魔になるから……。どうだろうな」


 アリス君に微妙な顔で言われてしまい、ましろはしゅん……としてしまった。けれど、アリス君に「叔父さん大好きッ子」と思われるのも恥ずかしいので、言葉だけは強くする。


「わっ、わたしだって、りんごおじさんが誰かとイチャついてるとこなんて、見たくないもん! その時は、大人しく身を引くんだから!」


「大人しく身を引く」なんて、ドラマで見たばかりのセリフを使ってみたけれど、ましろの胸の中は、ひどくモヤモヤしていた。


 とにかく、明日になったら分かるんだから!


 そう自分に言い聞かせて、ましろはアリス君と待ち合わせの約束をしたのだった。




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