第08話
遅れて申し訳ない...後書きまで読んでいただけると嬉しいです。
「そろそろ持っていくか」
時計の短針が7を指すころ、冬樹はキッチンに立っていた。お盆にご飯や汁物、焼き魚をのせ、器用に左手で持ち上げて階段を登る。
2階にたどり着いた冬樹は自分の部屋の前にお盆をゆっくりと置き、ドアをノックする。
「葵、晩飯もって来たぞ」
そう呼び掛けてみるものの部屋の中から返事はない。
(今日も返事してくれないか…。俺が帰ってきてから1週間以上経つけど、一回も葵の顔見れてないな。会話をした記憶もないし…)
いつもなら、ご飯を置き、返事がなければ足早に1階に戻る冬樹だが、この日はどういう風の吹き回しか、少しドアにもたれかかって座りたい気分になったらしい。ゆっくりと右手をかばいながら冬樹は腰を下ろした。
「なぁ、葵。ちゃんと寝てるか、風邪ひいたりしてないか」
葵の返事はやはりなく、静かな時間が廊下を流れる。
「いつまででもいいぞ」
冬樹はぼそっとつぶやく。これは冬樹の本心からの言葉だったのだろう。本当は出てきてほしい、少しでも顔を見せてほしい。
「葵は、いっつもはこわくてうざったい幼馴染みだよ。蹴ってくるし、カレーは激辛にするし、やることが鬼すぎる…。でも、葵が自分の弱いところをいっつも必死で隠してるのを俺は知ってるんだぜ。たまに、すっごい弱弱しくて、本当に葵か?って疑っちまうみたいに。でも、それも葵だから」
冬樹はそういうと、勢いよく立ち上がり
「だから、いつでもいいんだ。どんな葵だって、葵だから。だから、自分が出てきたいと思ったときに出てきてくれよ」
家の中で、思いっきり叫んだ冬樹は、軽く息を弾ませていた。
「またお盆取りに来るからな」
苦笑いを浮かべ、立ち上がり、冬樹は階段の方へ歩みを進めた。
「…、冬樹っ」
消え入りそうなかすかな声。けれども冬樹がこの1週間、何度も聞きたいと願ってやまなかったその声を冬樹が聞き逃すわけもなく、咄嗟に振り返り、部屋のドアの方を向く。けれども、ドアは開いていなかった。
「葵…?」
体の向きをドアの方へ向きなおし、少しずつドアに近づく冬樹。葵の事が心配で張りつめていた緊張の糸が切れ、きっと内心泣きたい気持ちでいっぱいであっただろうが、涙を押し殺し、ドアの向こう側にいる幼馴染みの次の言葉をじっと待っている。
「ありがとう」
「えっ…?」
「ごはん、いつもありがとう」
「いや、ちゃんと食べてくれてるから少しは俺も安心できてたんだ。どうだ、体は大丈夫か」
「うん」
「そうか…」
聞きたいこと、言いたいことはいっぱいあるだろうが、それが言葉にならない。冬樹はドアの前でしどろもどろしながら、次に何を言おうか考えていた。すると
「冬樹は、腕…」
「あっ、あぁ!まだギプスは外せないけど、日常生活は普通にできるし、大丈夫だよ」
「そう…。ならよかった」
「あぁ、心配かけてごめんな」
「私もごめんね」
再び訪れる沈黙。冬樹と話すことができて少し安心したのか、葵は頬を緩め、ドアに手をつく。冬樹はもう一度ドアに沿わせ、もたれかかって座る。
「ねぇ冬樹」
「ん?」
「ありがとう」
「今度は何だ」
「さっき言ってくれたこと」
「さっき?俺がドアの前で言ったことか」
「うん…」
冬樹は葵に何を言われるかドキドキしながら、葵の次の言葉を待っていた。その時間は冬樹にとって永遠にも感じられたかもしれない。
「うれしかったよ」
冬樹の緊張が解け、肩の力が抜けたのは言うまでもない。
「前に二人で渋谷に行ったよね」
「うん」
「そこで人がたくさん死んだよね」
「…」
「私たちも死ぬ思いをしたよね」
葵は、耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな声で、ゆっくりと、一言一言を嚙み締めるかのようにそうつぶやいた。冬樹は、途中詰まりながらも、自分の胸の内を話し始めてくれた幼馴染みの言葉に耳を傾け続けた。葵はつづけて
「その帰りに紅葉さんと出会ったんだよね」
「あの時はびっくりしたよな」
「紅葉さんと冬樹と3人でご飯を食べたりするときは、渋谷の事、少し忘れられてたかもしれない」
「うん」
「でもっ…」
葵の話は消え入るようだった。またも沈黙が二人の間に流れる。けれども、冬樹は自分から話を振ることを決してしなかった。自分の気持ちを、少しずつ話してくれる幼馴染みの話を遮ったり、幼馴染みの気持ちをあたかも分かっているように代弁するのは、何か違うと冬樹が思っているからだろうか、冬樹は葵がもう一度話し出してくれるのをじっと扉の前で待っていた。
「でも、あの日、私の大事なぐーちゃんとぴーちゃんが化けものになっちゃった」
「そして、私がぐーちゃんとぴーちゃんを殺したの」
「もうどうすればいいか分からなくなっちゃった」
「自分の気持ちもどこかに行っちゃったみたいだった」
我慢していた涙があふれたのか、葵は声を震わせながら、先ほどまでとうって変わって力ずよく大きな声でそう言った。
「冬樹」
「どうした」
「私、悔しかったの」
「目の前で冬樹が吹き飛ばされて、腕を折って」
「動かなかった、冬樹がああまでなるまで動けなかった」
「そんな私が嫌になった」
「冬樹はきっと私じゃなくても、助けるでしょ。でも…‼」
葵は、より一層声を大きくし、涙声で冬樹に必死に訴えた。これが葵の本当の気持ちであることは、冬樹には痛いほど伝わったのではないだろうか。葵はさらに続けて、
「でも…、私、冬樹が死んじゃったらいや…だよっ…!私の目の前で…、私が見てないところでも冬樹が傷つくのもいやっ‼ねぇ、冬樹。ずっと私のそばにいて…、ねっ?」
扉越しでそれこそ表情は分からなかったが、いつもの少し声が低めの葵からは考えられないほど、高くかわいらしい声で葵はそう冬樹に懇願した。
「大丈夫、いままでも、これからだってずっと一緒だろ」
「うん...。ありがと冬樹、これからは私の事を支えてくれる…?」
「まかせろ、幼馴染みだろ!」
(と言ったものの…、心の支えって具体的に何をすればいいんだろうか…?)
刹那の冬樹の思考。頭をフル回転させて冬樹がたどり着いた答えは…
「葵の好きなみかんのゼリー買ってくるなっ!」
冬樹はそう言い残すと言い残すと勢いよく一階に下りて行った。
「幼馴染みかぁ………。冬樹のばか」
そういいつつも、葵の心は少し晴れた。
リアルワールドでの生活が一層大変になっており、執筆活動がいつもより遅れていることについて、本当にごめんなさい。
これから7月から8月の頭頃まではリアルが忙しいため、遅れる可能性が大です。
初めて間もないのにこんな事になってしまって作者は胃がキリキリしております。申し訳ないですが、待っていただければ幸いです。