第66話
「うわっ、眩しい」
暗く、狭い通気口から脱出した冬樹の口からは煌々と降り注いでいる日光をどこか懐かしむ声が思わず漏れる。
「はぁ、もうお日様見れないかと思った…」
「大げさだな、って言いたいけど今回ばかりはこうやって外に出れたことが不思議だよ」
「ところで、あたしの携帯って…?」
「ごめん…、取り返せなかった」
「まぁ、あたしたちの命に比べたら携帯なんてね。買い替えればいいし」
「葵がそういうならよかった」
そういえばこんなに携帯を触らないのはいつぶりだっただろうか、そう思うといても立ってもいられず、冬樹はズボンの右ポケットから慣れた手つきでスマホを取り出し通知を確認する。
「…えっ」
「どうしたのよ、腑抜けた声出して」
「光春が…目を覚ましたって、おばさんから」
冬樹からそう告げられた葵はこれまで両肩に乗せてきたおもりがすっとなくなっていくのを感じた。その場にゆっくりとへたり込む葵に冬樹は慌てた様子で声をかける。
「おい、葵大丈夫か?」
「うん、平気よ。なんだか、緊張が解けちゃって足の力が抜けちゃった」
「あぁ、そうだな。特にお前は俺のことと光春のことでいっぱい迷惑かけちまっただろうし」
「ほんとよ、片方は精神病んで引きこもっちゃうし、もう片方は病院送りになっちゃうし」
「面目ない」
「えぇ、でもあたしたちはそれだけのことを体験した。みんな元のあたしたちとは違う」
「というと?」
「これまであたしたち、この世界を元に戻そうって必死に何かと戦ってきたじゃない。でも、この世界で暮らしていく中であたしたちはこれまでよりもずっと互いのことを知れたし、ずっとあんたたちのことを信頼できるようになった。あと、生きたくなった!」
「なんか、葵っぽい感想だな」
「なによ、ばかにしてるの?」
「してない」
まじめな顔で冬樹にそう言われると、いつもとのギャップで葵はついつい狼狽えてしまう。
「なによ」
「早く乗れよ」
「いや、どういうことよ。なんであたしがあんたにおんぶされなきゃいけないのよ」
葵がもじもじしている間に冬樹は素早くしゃがみ、その背中に葵をおぶれるように準備を整いていた。
「腰が抜けて立てないんだろ?早く、光春のところに行こうぜ」
「立てるわよ...ってぇ?!」
冬樹の挑発を買おうとした葵だったが、バランスを崩し倒れそうになってしまった。
「ほらいっただろ、ほら行くぞ」
「なんで倒れた先にちょうどあんたの背中があるのよ」
「そりゃ、お前がよろけた方向が俺がしゃがんでたところだったからだろ」
「そんなこと聞いてない。あと、今あたしの顔見たら殺す」
「えっ、なんか面白い顔でもしてるのか?」
「ぎゃぁぁ!みるなっっ!!!」
「おい!暴れるなって!」
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「よう、光春ぴんぴんしてるじゃねぇか」
「お前こそ、寝たきりになったって聞いてたからどんな面してるのかと思ったら意外と普通だな」
「お前、俺の見舞いに一度も来てないだろ?」
「行ってねぇよ」
「なんであんたたちは顔を合わせたとたんそう嫌味を言いあうのよ」
「だって話すの久しぶりだもん、なっ冬樹?」
「ぐっ…。お前にも迷惑かけたみたいだな、悪かった」
「聞いたか葵、冬樹が俺に悪かっただって」
「あんたがそうやって冬樹にちょっかいかけるから、いつまでたってもあんたたちの乳繰り合いが終わらないのよ」
病院の病室で再開を果たした3人は、顔を合わせた途端教室の後ろでいつも繰り広げているような会話を始めた。
「光春、あんた一人でいろいろ調べてたんでしょ」
「さぁ、何のことだか」
「さすがに今回は言い逃れできないわよ。襲われて入院してるのになんで言い逃れできると思うのかしら?」
「2人にはだまっておいて、ある程度のことがわかったらまとめて共有して驚かせようと思ってたんだよ」
「それが、このざまだ」
「まぁ、そうだな。これまで集めてきた情報も全部襲ったやつに持っていかれちまったし」
「やっぱり、ノートか何かを持っていかれたのね」
「あぁ、でもなんでそれを葵が知ってんだよ」
「あんた、ページを引きちぎってポケットに入れてたでしょ⁈」
「そのページにはなんて⁈」
「RDCって書いてあったわよ」
「よかったぁ、適当にページを引きちぎってポケットに忍ばせたんだよ」
「なにがよかったぁよ。あんたのおかげで図書館に行って、週刊ヌ~の編集部に行って」
「ヌ~の編集部に行ったのか⁈」
「えぇ、それも偶然ね。あんたも行ってたみたいね、田中さんに聞いたわよ」
「あぁ、NGについて書かれた記事を見つけていてもたってもいられなくなって。そこで、RDCのこと聞いたか?」
「あぁ、NGの提供元だって。でもNGについてはそれ以外にわかっていることがないってことも教えてもらったぞ」
「だから、あたしと冬樹でRDCに行ったの」
「はっ?葵、今なんて言った?」
「だから、RDCに行ったの」
「お前ら、あそこがどんだけ危険なところかわかって行ったのか⁈」
「あぁ、分かったつもりで行ったんだが想像以上に危なかった」
そういうと冬樹は、RDCに潜入して書庫を見つけたこと。帰ろうとしたときに化け物に襲われてもうだめかと思ったこと。命からがら逃げだして今ここにいることを掻い摘んで光春に話した。
「お前らってやつは…。生きてたからそうやって笑って話せるし、今後武勇伝として語れるけど、敵の本拠地かもしれないところにのこのことそれも二人で行くなんて…」
「わかった、次はお前も連れて行ってやるから…」
「そういう問題じゃない!はぁ、まぁこの話はこれくらいにして、その書庫で見た書類の写真とか撮ってないのかよ」
「撮ってはいたんだけど、あたしのスマホを化け物から逃げるときに使っちゃって…」
「ん?お前のスマホってあれだよな?」
光春が指さす先、病室の入り口に葵のスマホが確かに落ちていた。
「えっ…。冬樹、あんたじゃないわよね?」
「絶対に違う。だって、俺が逃げるときにも葵のスマホを使わせてもらったんだ。絶対にそんなはずは…」
「まぁ、よくわからないけどスマホが戻ってきたのはいいことじゃないか。さっ、写真を見ようぜ」




