第56話
日が落ち、人通りがぱったりとなくなった通りは瞬く間に通り去って行った夕立によってしっとりと湿っている。
「ごちそうさまでした」
空になった皿に向かって手をあわせ、手際よく食器をまとめると葵は流しに食器を置き、台ふきを濡らすと食卓を拭きにダイニングにもどろうと足を伸ばした。この時間にはめずらしい着信をしらせる音楽が軽快に部屋中に響き渡る。
「こんな時間に誰よ…。って光春か…」
画面に表示された相手をいると、この時間の着信にも合点納得が行った葵は通話ボタンを押し応答する。
「もしもし、光春?どうしたのよこんな時間に」
「もしもし、あおいちゃん?」
「えっ…、おばさんですか?」
光春が出るとばかり思っていた電話に、光春の母親が出て一瞬戸惑った葵であったがすぐに落ち着きを取り戻し、受話器の向こうの相手を確かめる。
「冬樹くんにいくら電話しても出ないから、葵ちゃんならと思って」
葵の胸騒ぎを覚えた。葵の記憶にある光春の母親はいつも落ち着いていて優しい人であるのに、受話器の向こうにいるその人は取り乱している様子を隠しきれていない。
「おばさんどうしたんですか。光春に何かあったんですか」
「光春が…!!光春が誰かに襲われて…!!」
「光春が…、襲われた……?」
「病院に運ばれたんだけど、意識が無くてなくて…」
そこまで懸命に声を振り絞っていた光春の母親はとうとう泣き崩れ、いくら葵が話しかけても電話の先からはすすり泣く声しか聞こえなくなってしまった。
「おばさん、今から病院行きますから。いったん切りますね」
なんとか光春が運ばれたという病院の名前を聞き出し、電話を切った葵はへなへなとその場にへたり込んだ。
「光春が襲われたって…、それって…」
葵の頭には昼間の出来事がフラッシュバックする。再び現れた魔物たちと襲われた光春。速まる鼓動と荒くなる息が葵をくるしめる。なんとか肺いっぱいに息を吸い込み、次第に落ち着きを取り戻すと急いで二階に駆けあがって冬樹の部屋を力いっぱいノックする。
「冬樹聞いて。光春が誰かに襲われたっておばさんから電話があったの。あたしは病院に行ってくるけど。あんたはいく、どうする」
気を抜くと両肩にのしかかる恐怖に押しつぶされそうになる。葵は、怒鳴り声に近い声で冬樹に問いかけた。けれども、冬樹の部屋から反応はない。
「もういい、あたしはいくから」
それだけを言い残し、葵は玄関を飛び出した。
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「すみません、羽生光春の病室は」
「えっと…、三塚葵さんですか」
「はい」
「羽生さんのお母様からお伺いしてます。ただ…、まず髪と服を乾かしましょうか」
自身をみて苦笑いする看護師にそう指摘され、葵ははじめて自分が傘もささずに病院まで来てしまったことを理解した。看護師が持って来たタオルで、黒く長い髪を拭き、これしかないから申し訳ないけどと病院着を貸してもらった葵は、看護師に案内され光春の部屋へ向かった。
「葵ちゃん、どうしたのびしゃびしゃじゃない」
「夢中で家を飛び出たら、傘さすの忘れて来ちゃって」
病室に入ると、ベットの横に座っていた光春の母親が立ち上がり、葵の格好をみるなり驚いたように目を丸くした。先ほどの電話を切った時より、幾分落ち着いたようだ。
「おばさん、光春は…」
「とりあえず、処置はしてもらったけどまだ意識が戻らないの。後ろから何か棒状のもので強く殴られたみたい…」
「そんな」
それが人間なのかは分からないが何者か、明らかに光春の命を奪うために行った恐ろしい暴力を、静かに目を閉じている友の様子から目の当たりにした葵はあふれ出る涙を抑えきれなかった。
「葵ちゃん、これ」
光春の母親は、ハンカチとともに一枚の紙きれを葵に手渡してきた。
「ありがとうございます。…この紙は?」
「光春のズボンのポケットに入ってたみたいなの。ノートの切れ端みたいなんだけど…。なんて書いてあるかわからないのよね」
しわくちゃに丸められたノートの切れ端を広げてみると、なにやら文字が書かれている。
「R…D?C…。なにこれ」
「葵ちゃん、何が書かれているかわかる?」
「たぶん『NGの開発元RDCって何の略』って書いてあります」
「RDC?聞いたことないわ」
「あたしも、わかんないです」
「そうよね…。私が持っていても役に立たないと思うから、葵ちゃんが持っててくれる?いらないと思ったら捨ててくれていいから」
「…わかりました」
葵はくしゃくしゃになったノートの切れ端を見つめることしかできなかった。
ほんっっっっとに申し訳ありません…としか言いようがありません!!!
とにかくがんばって週一は投稿できるようがんばります…(異桃でのことから信用ないと思うけど…)




