第54話
今日は9月12日だ!!(錯乱)
「多世代型移動通信システム(以下NG)は国内の主な公共交通事業者がその主たる管理システムに採用することを表明している。もちろん、国内の通信事業者も現状の6Gからの段階的移行を表明しており総務省は45年度までの完全移行を事業者に求めている」
新書独特の匂いが充満する店内で、まるで暗唱テスト前の小学生のように一言一句間違えずに読み上げる青年。彼の腰の高さにある棚には、立ち読みした本が山積みになっている。
「はぁ。どの本もこれしか書いてないな…」
手に持っていた雑誌をため息とともにぱたんと閉じた光春は、山積みになった本の山のてっぺんにそれを重ねた。
「通信技術のカテゴリーはほぼほぼ読み漁ったかな」
カテゴリーボードと本の山を交互に見ながら、光春はなんの成果も得られなかったこの数時間を憂いながら、本の山を切り崩し始めた。そしてすべて元の棚に戻し終えたことを確認した光春は、店内をぶらつき始めた。漫画、観光雑誌に資格書など今光春が追い求めている情報とは関係ないカテゴリーの棚を素通りし、店内を何周もし、ついに光春は足を止めた。店内の奥の角の少し薄暗いオカルト本のコーナーである。
「あんまりこういうジャンルの本好きじゃないんだけどな」
若干ためらいながらも、光春は表紙にすこしだけNGと書かれたオカルト雑誌を開いた。
「ほんとおまけみたいな分量だな…。んーなになに、NGにささやかれている噂。毎日大々的に宣伝しているにも関わらず、どのメディアも誰が開発者なのか、開発者の開発秘話といった話、それに開発元の情報を一切記事にしようとしない。これは単に取材力がないのか、それとも何かしらの陰謀なのか…。我々週刊ヌ~は現在独自取材を慣行している。続報を待たれよ…か。確かにさっきよんでた雑誌たちおんなじことしか書いてなくて役に立たなかったもんな」
片ページの端っこに数行だけ書かれた新たな情報を何度も何度も読み返しながら光春は、自分の考察を思い返した。
化け物と戦う時に必ず葵がいたこと。さっきの戦いで、葵には化け物以上の力があること。葵がそばにいると、自分の化け物に対する観察眼が冴えわたる事。そして先日のワンダーランドでの一件。これらをすべて踏まえると、葵には仮想世界に干渉する能力かなにかがあるのではないか。光春はある意味結論に至っていた。
「とりあえず、それっぽい情報をゲットできたんだから行動するしかないか」
光春はその週間ヌ~を購入すると、その裏表紙に書かれた住所に向かって歩き始めた。
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「えぇっと、羽生くんといったかな?もう一度用件を聞かせてもらってもいいかな…?」
「先週発売されたヌ~にNGのことが少し書かれていましたよね。ここに書かれた続報ってのを教えてほしんです」
「んー。情報は僕らにとって商品だからね、タダでそれも急に訪ねてきたどこの馬の骨かも分からない青年に教えることはできないよ」
頭の後ろで結われた長い白髪を手で梳きながら、田中と名乗ったヌ~の編集者は光春に説明した。光春は、何度も同じ説明をさせられ、その度に同じ回答を返されイラついていた。
「だからさっきからその対価として、僕が持ってる情報を差し上げると言ってるんですよ」
「うーん。うちの雑誌は歴史ある雑誌だからね、信頼できる情報筋からしか情報を買わないことにしてるんだよ。過去にそれでガセネタ掴まされて、大変なことになったから」
「分かりました。じゃあ、まずは僕の情報をお伝えしますから、それで信頼できると思っていただけたら、そちらがつかんでる情報を教えてください」
「うーん…。まぁ、あんまり期待しないでね」
光春はさっそく自身のスマートフォンを開き、写真フォルダーを田中の前に差し出した。
「数か月前のNGの稼働開始日以降、たくさんの人が失踪しているのはご存じですか」
「…っ?あぁ、まぁうちの雑誌はそういった神隠し的な記事も扱ってるから時たま読者からの情報提供があるし、ここ数ヶ月そういった類の情報提供が増えているのも確かだけど…。どうして君がそれを」
「これを見てください」
「……。ただの渋谷の風景の様に見えるけど」
「やっぱりそう見えますか…。では、今からお話することを聞いた後に同じ写真をもう一度見てください」
「…じゃあ、このスマホを君の話を聞いている間私の方で預からせてもらってもいいかな。話した後に違う写真を見せられるとも限らないから」
「分かりました。では、お話しますね」
そうして光春は渋谷の事件以降今日まで自身とその友たちに襲い掛かった数々の禍々しい出来事を田中に語った。
「…本当にそんなことが。にわかに信じがたいけどね」
「ですよね。僕は、一番最初の渋谷の事件を実際に体験したわけじゃないんです。友人が体験して、僕もその友人からその話を聞いたんです。最初は信じられなかった」
「とりあえず話はこれで全部かな」
「はい、では先ほどの写真を見てもらってもいいですか」
光春に促され、写真を見た田中の顔はみるみる青ざめていった。
「…これは、一体…」
「先ほどの写真と同じ写真です。最初からその大量の死体が写ってたんです。でも、一連の事件を体験していない人、一連の事件について見聞きしてない人が見ると何の変哲もない写真に見えてしまう。まるで、世界が事件のことを忘れたかのようになってるんです」
「信じがたい、信じがたいが…今その証拠を見せられた手前…信じるしかないね。ただ記事にするには情報が心もとない。それに、その過程だとたとえこのことを記事にしたところで、写真だけを見た人には伝わらないことになるね…んー。そうだ!一つ頼まれてはくれないかね?」
「頼み?」
「今後、その手の事件が起きたら、それについて逐一私に報告してほしんだ」
そう言いながら、田中はどこからかメモ帳を取り出し、メールアドレスと電話番号をすらすらと書き、光春に差し出した。
「これは、情報提供のお願いだ」
「情報提供…ですか」
「あぁ、これは世界の多くの人に知ってもらうべきだ。でも、説得力が足りない。だから記事をかきあげるために君に情報を提供してほしい。もちろんタダとは言わない。私がつかんだNG関連の情報を君に教えることを報酬としよう」
「なるほど、互いに情報提供者同士になるということですか」
「君は賢いね。話が早くて助かるよ」
「わかりました」
「よし、契約成立だ。じゃあ、私からも情報を一つ。NGの提供元はRDCという研究機関だ」
「RDC?聞いたことないです」
「私も今回のNG関連の取材を通して初めてきいた機関だ。でも、分かったのは研究機関の名前だけ、開発者の名前など他の情報は全くつかめてない。まるで…何かの力が働いて情報を隠してるみたいだ」




