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桃(こうはく)~Hold hands with you~  作者: 4G
第2章 冬樹
53/67

第53話

「うわぁ…、敵だけどなんか同情するわ…」


木の棒で巨大ゴリラの亡骸をツンツンしながら、若干引いた目でちらちら葵の事を見ている光春。


「どういうことよ、あたしが吹っ飛ばさなかったらあのままずっとゴリラと組み合ってたか、負けてたかのどっちかよ。感謝しなさい」

「感謝はしてるけどさぁ、えげつないよなぁ」

「それを感謝してないって言うのよ」

「感謝はしてるよ。お前の言う通り、あのまま組み合ってても俺に勝ち目はなかっただろうからな」

「えっ、うん…。急に素直に感謝伝えられると気持ち悪いわね」

「なんだよ、適当にあしらってもだめ、感謝してもだめって。面倒くさい奴だな」

「ごめんごめん、それよりさ」

「ん、なんだ?」

「あんたたちってもしかして化け物?」

「はぁっ?何を唐突に言い出すんだ」

「だって、自分で言うのもなんだけどあたしのパンチとかキックとか強いじゃん」


怪訝そうな光春の顔を見て、道に転がっている死体を指さして回る葵。無言で訴えかけられる、あたしがこいつら素手で殺したのよアピールと確かになぁと頷く光春。


「どちらかというとお前が化け物じゃないか?」

「…まぁ、化け物まではいかなくとも強いわよね」

「で、なんで俺たちが化け物になるんだよ」

「だって、いくら手加減してるからって化け物を殺せるくらい強いあたしのキックとかパンチとか喰らってもぴんぴんしてるあんたたちっておかしいでしょ」

「いや待ってくれ、いつものあれで手加減してたのか?」

「そりゃそうよ、手加減してなかったら」葵は無言でゴリラの亡骸を指さした。

「あぁ、死ぬな…」

「でしょ?だからあんたたちが化け物だって言ってるのよ」


葵はどやぁと胸を張り鼻高にしてみせる。いつもなら鋭いツッコミが飛んできそうだが、ツッコミ担当であるはずの光春ははっと何かに気が付いたような素振りをみせると、腕組みをして熱く熱されたアスファルトに視線を移した。


「光春?」

「ん?ごめん、何か言ったか」

「だから、あんたたちは化け物だって言ってるのよ」

「あぁ、確かにそうかもな」返事はするが、頭では他のことを考えていることがバレバレの光春。すぐに葵から喝が飛んでくる。

「あんたあたしの話聞いてる?ほかのこと考えてるでしょ」

「ちょっと考え事だ」

「あんたって考え事しはじめると、自分の世界に入っちゃうから何言ってもだめね」葵は手をひらひらさせ、話し相手ではなくなった光春から離れ、辺りに散乱している荷物を片付け始めた。

「光春、考え事はいいけどそろそろここを離れましょ。こいつらの死骸がころがってるところにずっといるのは勘弁よ」

「あぁ、そうだな」

「とりあえず荷物は片付けたから大丈夫なはず。死骸は…」

「俺たちにはどうしようもないだろ、自然の摂理だ、カラスとかが何とかしてくれると信じるしかないな」

「あんた、冬樹を抱えてもらってもいい」

「分かった」


ゴミ捨て場のネットをめくると、冬樹は体育すわりの格好でうずくまっていた。当然かのように反応はなく、周りの様子に興味がないといった感じだ。さっきと違うのは暴れなくなったこと、光春はすこし苦労しながらも冬樹を背中にのせ、三人は帰路についた。


――――――――――――――


「はぁ、そんなに時間経ってないはずなのに数日ぶりに帰ってきた感じ」

「まぁ、そんなに手ごわくなかったとはいえ化け物と戦ったからな。そういう感覚になるのも分かる」

「とりあえず冬樹をソファーまで運んでもらってもいい?」

「いいぞ」


おじゃましますと手短に挨拶を終え、光春は冬樹をソファーに横たわらせた。葵はその間に手早く、お茶を用意しソファーの前のローテーブルに人数分置いた。


「もうすぐ秋だっていうのに、外はまだまだ暑いわね」


お茶を飲みながら葵はまだまだ残暑厳しい外について愚痴をこぼしている。光春は出されたお茶を一気にのどに流し込んだ。


「じゃあ俺は帰るから」

「えっ、もう少しゆっくりしていってもいいじゃない」

「行きたい場所があるんだ」

「さっき、あんたが買って来たシュークリームだってあるんだから。ほら、急に飛び出したから食べてないでしょ。なかなか手に入らないんだから食べて帰りなさいよ」


葵は空になったコップを持ちキッチンへ向かおうと椅子から立ち上がった。ここで帰ってしまうと、葵の機嫌が斜めになるなと察した光春は素直にシュークリームを食べて帰る事にした。


「はい、おまちどおさま」


トレイに載せられているのは、アイスティーとシュークリーム。葵は自分用にプリンをお皿に載せている。


「いただきます」


皿の上に綺麗に盛り付けられていたシュークリームはあっと言う間に光春に平らげられ、アイスティーも一瞬で飲み干されてしまった。あまりにも一瞬の出来事に流石の葵も唖然とし、プリンを食べようと右手にもたれたスプーンがプリンを掬ったのはたったの2回であった。


「じゃあ行きたい場所があるから」そういうと光春は席を立ち、そのまま玄関に向かった。プリンを食べる手を止め、葵は光春を追いかける。

「どこに行くのよ」

「ちょっとな」


煮え切らない返事を残し、光春は冬樹家を後にした。ゆっくりと閉まるドアを立ち尽くして見つめる葵。


「なんなのあいつ、変なの」


そういうと踵を返し、葵はリビングへと戻り、残りのプリンをかきこんだのであった。


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