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桃(こうはく)~Hold hands with you~  作者: 4G
第2章 冬樹
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第52話

数か月ぶりに見る、彼らの悪夢を象徴する生命体。一人が自らの命と引き換えに世界をもとに戻したはずだった、一人は心を病み外との関係を絶った。そんな悲劇の先に彼らを待ち構えていたものはさらなる悪夢の日々なのだろうか。


「どうする、いつもみたいに戦うか」

「バカ言わないで頂戴。冬樹はこんなんだし、前と違って紅葉が…」

「…逃げるぞ、置いていけるものは全部置いてけ!」


光春の力強い指示に葵はこくりと一回だけ頷き、両手に持っていた水などをその場に置き立ち上がった。


「こっちだ」光春は来た道に駆けだしながら葵を手招きする。

「っ!光春止まって!」

「えっ?」


葵の甲高い声に背中を引かれ、光春が足を止めた瞬間、ドスンという音と共に地面が揺れる感覚に襲われた。彼らの目の前には巨大なゴリラが胸を張り、彼らを見下ろしていた。一瞬で分かった。こいつは友好的ではない、自分たちが知っているゴリラではない、そうこれは自分たちを殺しにかかる魔物だということが。


「葵、戦えるか」

「えっ?逃げるんじゃないの」

「これだけの魔物に囲まれたら逃げられないだろ、こいつら倒して家に帰るぞ」

「冬樹はどうするのよ」少し間が開いた後、光春は電柱下のゴミ捨て場をちらりと見る。

「そこにあるゴミ捨て場のカラス除けのネットを被せて隠す」

「そんなの気休めにもならない。これまで4人がかりでもぎりぎりだったのに、たった二人で、それも冬樹を守りながら。まともに戦えるはずないじゃない」

「こいつらは今までのやつらより強くない。とくにこのゴリラは見かけ騙しだ」

「何を根拠にっ!」

「分かるんだよ!なんでか分からないけど分かるんだ。とにかく信じてくれ、3人が無事に生きてここを切り抜けるにはこれしかないんだ」

「……誰か死んだら、あんたどうするつもり」

「誰も死なせない…だからそんな『もし』の話をする暇は今はない」

「かっこつけんな」


葵はカバンの中から、短い果物ナイフを取り出し、光春に手渡す。手渡されたナイフを確認した光春は満足げにほくそ笑み、手早く冬樹にネットをかける。狭いT字路で二方面を塞がれる形、状況はかなり悪い。葵と光春は背中を合わせ、それぞれの正面にいる敵ににらみを利かせる。


「へまするんじゃないわよ。誰も死なせないっていうのにあんたも入ってるんだから」

「葵こそ、武器なくて大丈夫か」

「そんなに心配ならいますぐ馬蹴りしてあげてもいいわよ」

「つい数秒前に言ったかっこいい言葉とやろうとしてることが正反対なんだが…」

「あたしがあの小さいの片付ける」


葵の視線の先には、猫、犬、そしてサルを模した化け物がこちらを威嚇している。皆、普通の猫、犬、サルより2回りほど体が大きく、殺意を体中にまとっている。


「やっぱりやつらは今までのやつらよりはるかに弱い。さっさと片付けてこいつを手伝ってくれ」


光春と視線を合わせているのは、身長が優に2メートルを超えているであろう化け物ゴリラである。明らかに光春を見下している、彼の立ち姿からはそんなゴリラの自信が見て取れる。


「いくぞ!」


光春の掛け声と共に真逆の方向に駆けだす葵と光春。それを戦のコングとみなし、にらみを利かせていた化け物たちも一斉に二人に襲い掛かる。


「とりあえずのパンチ!」 葵が大きく腕を引き、繰り出したパンチは先頭で襲い掛かってきた犬の鼻先に見事にヒットし、えげつない音をT字路に響かせた。イッヌは何が起こったのか思考が追いつかないまま、体が弾丸よりも早い速度で塀に叩きつけられ、そのままご臨終した。


「最近は蹴りばっかりだったけどパンチもまだまだ現役ね」


目の前で仲間が簡単に葬られた様子を見てもなお、殺意に支配された猫とサルは葵を狩り殺そうと飛び掛かる。猫がするどい爪を立て、葵に飛び掛かるが、小柄な葵は軽やかに体を一蹴させ、猫の腹に回し蹴りを決める。

猫は液体であると、少し昔の研究者が発表していた。確かに猫はふにゃふにゃであるが葵の回し蹴りはそれをも凌駕する。猫の体はくの字型に折れ、先ほどのイッヌ同様壁に叩きつけられた。背骨がへしおられてしまったのだろうか。猫はどさっと道路に落ち、その後動くことはなかった。


「さすがに蹴りはぴかいちだけど…。手加減しているとは言え、蹴りをくらってもピンピンしているあいつらの方があたしにとってはよっぽど化け物ね」


ごもっともなことを言う葵にそんなのお構いなしと、サルが飛び掛かるがデコピンで軽くあしらわれ犬猫同様の悲惨な運命を辿って行った。


「お掃除完了ね。あいつの言う通り今までのやつらよりは手ごたえがないというかなんというか…」

「おい、葵!」


倒したばかりの三匹の亡骸を見ながらたそがれていた葵を呼ぶ声がする。後ろをぱっと振り返ると、ゴリラと未だ戦っている光春の姿があった。


「終わったなら加勢してくれ。俺一人じゃ力不足みたいだ」

「分かったわ。あたしの合図で右方向に思いっきり飛びなさい」

「えっ?」

「じゃないとあんたの背骨へし折るわよ」


悪魔のような笑顔で拳に気合をためている(ような仕草をしている)葵と、後ろでえげつない音がしていたのを戦いながら聞いていて、葵の言葉がどこまで冗談なのか分からない光春。


「飛んでっ!」


葵の合図と同時に、ゴリラと組んでいた果物ナイフをパッと離し、命がけで右方向へ転がるように飛ぶ光春。突然、組み合っていた相手が戦いを放棄して転がるように戦線を離脱するとは思っていなかったゴリラは戸惑いの色を隠せないようだ。


「おりゃぁぁぁ」


ゴリラが最後にみたもの、それは自分の体よりはるかに小さい少女が拳を思いっきり引き自分に突進してきている様子であった。


キャラクター紹介

羽生ハニュウ 光春ミツハル

性別:男

誕生日:4月14日


冬樹と葵の幼なじみ。からかい上手だが冷静、一歩引いて状況を俯瞰することができる。妹つくしがいるが、今は一緒に暮らしていないようだ。幼馴染みという立場から冬樹を葵を支える彼の活躍にぜひ注目してほしい


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