第44話
日が少し西日になり、園内の街灯が灯り始める夕暮れ時。楽しかった修学旅行も終わりを告げようとしている。けれども、冬樹たちには最後のお楽しみが残っていた。
「いよいよね。はぁーなんだか緊張してきたわ」
「さっきまでジェットコースターでダウンしてた葵と同一人物とは思えないテンションだな。後半なんて、迷子の子犬みたいにきょろきょろせわしなかったのに今は猿山のサルみたいにせわしない」
「はっ?なんですって」
「冬樹、お前は今回の修学旅行で何を学んできたんだよ。葵の機嫌の取り方を何度練習してきたと思ってるんだ」
「あんたも十分失礼よ」
「まぁまぁ、ここでいつも通りのことしてたら葵が楽しみにしてるショーが始まっちゃいますよ⁈」
「いっけない!あんた達もたもたしてる暇はないわ、開演まで時間がないから急ぐわよ」
そう言うと葵は薄暗くなってきた園内をものすごいスピードで駆けていった。
「こらっ!葵、一人で勝手に言ったら迷子になりますよー!あと私たちの分のチケット勝手に持って行かないでくださいっ!」
「いやぁー、紅葉さんが俺たちの友達になってくれて本当に良かった。なっ、冬樹」
「あぁ、今まで葵のことを怒るというか諫めるというか…。そんな役割を俺と光春はできなかったからし、今までの関係的に葵は自分がしっかりしないとっていうのがあってピリピリしてたというか」
「まぁ、俺たちがいつまでも精神年齢小学生みたいなことしているのが悪いんだけどな」
「だな。まぁそんなわけで葵がいい感じで甘えられる、紅葉さんはそんな存在になってくれたから俺たちとしてはとってもありがたい」
「どっ、どうしたんですか急に…。なんの前触れもなくお二人に褒められるとちょっと怖いんですけど…」
「心配しなくても何もしないよ、ただありがとってだけ」
「お前の話し方がへたくそなんだよ冬樹、なんでそう湿っぽくなるように話すんだよ。絶対わざとだろ!」
「んなわけねぇだろ、俺は至極真面目だ」
「うふふ。やっぱり私は葵と冬樹さんと光春さんのこの雰囲気が大好きです。いつまでも今のままで仲良くお願いしますね」
「なんか紅葉さんがどっか行っちゃうみたいな言い回しだな。えっ、まさか記憶が戻って…」
「あっ、いえいえ。私の記憶はさっぱり消えたままですよ、ただみなさんのやり取り好きだなーって。私も話し方へたくそでしたね」
「まぁ俺ほどではないけどな!」
「あはは。そういうことにしておきましょう。それじゃあ、早いところ紅葉に追いつきましょう。もう姿見えないですし…」
「おい光春、とりあえずお前が先に葵のこととっ捕まえといてくれ」
「おいおいなんで俺なんだよ。お前が行けよ」
「小学校のリレーのアンカーは毎年…」
「…俺だな」
「中学校のリレーも…」
「…毎年出てたな」
「つくしちゃんが駄々こねて家出した時町中を走り回ったのは…」
「…そりゃ俺だろ」
「向かいの遠藤のおばあちゃんが醤油切らしたからってダッシュでスーパーまで行ってあげたのは…」
「…俺dって気持ち悪いわ。なんでそんなことまで知ってんだよ」
「まぁというわけだ。俺よりもお前の方が足に定評があるから、ほいほい早く」
「調子のいい奴め。あとでチュロスとシュワシュワオレンジサイダー奢りな」
「ハニー味のポップコーンもつけといてやるよ」
冬樹が大きな声でそう付けくわえると、すでに走り始めていた光春は空高くに拳を突き上げその呼びかけに答えた。
「さて、私たちはゆっくり追いつきますか」
「あぁ、そうだな」
二人取り残された冬樹と紅葉は人込みに消えていった葵と光春のことを追いかけながら、談笑し始めた。
「紅葉さんとこうやってゆっくり二人で話すのってはじめてじゃねぇか?」
「確かにそうかもですね。いつもは必ず葵か光春さんがいますから」
「だな。紅葉さん、今日一日ごめんな、俺たちがいつもの調子だからドタバタして初めてのワンダーランドあんまり楽しめなかっただろ」
「とっても楽しい一日でしたよ?」
「本当?今は俺しかいないから遠慮しなくてもいいんだぞ」
「いえいえ、本当に楽しい1日でした。ジェットコースターも初めて乗りましたけどとっても楽しかったですし、食べ歩きもいつもはお行儀が悪い事ですけどなんかちょっと悪いことしているみたいで」
「俺も食べ歩き好きなんだよ。歩きながら食べる串とかうまいよな」
「私はチュロスが好きでした!帰る前にもう一度食べたいくらい…冬樹さん?」
「紅葉さん、城前広場の観覧エリア入り口分かるか?そこに向かって歩いててくれ、じゃっ」
「えっちょっ、どういうことですか⁈」
じゃっとただ一言言い残し冬樹は、別の人混みの中へと消えて行ってしまった。突然一人にさせられた紅葉は何がなんだか理解が追いついていない様子でしばらくその場でうろうろしていたが、冬樹がそうすぐには帰ってこないことを悟ると、言われた通り城前広場へと歩き出した。
「紅葉さんーっ!」
「冬樹さんっ!どこいってた…えっ、もしかして今の間に」
自分を急においていった冬樹のことを罵ろうとしていた紅葉は、冬樹が手に持っている二本のチュロスをみるとそれをやめた。
「二人には内緒だぞ?ちょうど俺もお腹空いてたから、食べ歩き。しながらあいつらのこと追いかけようぜ」
「……ふふっ。冬樹さんって不器用で何考えてるかわかんないですけど、可愛いですね」
「えっ?俺が可愛い?」
「女の子の可愛いは男の子には分からないかもですね」
「えっ?」
「まぁいいです。なんだか冬樹さんに尽くされているみたいで気分もいいですし」
「おいおいなんだよそれ。紅葉さんってもしかして女王様気質?」
「かもですね。この雰囲気も相まってかなんだか昔から人に尽くされてた気が…」
「人に尽くされる仕事ってなんだ…」
「まぁ、私の記憶はないので気がするだけですけどね。はむっ、あれっ⁉さっき食べたのと味が違う!」
「さっきのはシナモン、これはストロベリーフレーバー。どうだ、これも旨いだろ?」
「おいしいです!……この気遣いができれば葵も」
「ん?葵がどうかしたか?」
「あっ、いえなんでもないです!」
「そっか…」
「まぁただ一つ言えるとすれば」
「?」
「何事もタイミング、それが勉強でも仕事でも…恋愛でも。プリンセスからのアドバイスです」
「なんだよそれー。ほんとどうしちまったんだ紅葉さん」
「女の子はミステリアスですから!」
そういうと紅葉はいきなり走り始めた、その右手には大事そうにストロベリー味のチュロスが握りしめられている。プリンセスは満面の笑みで黄昏時を駆け抜ける。
投稿頻度の低下をどうにかせねば…




