第40話
先週はワクチン三回目の接種でぼっくり逝ってました…
葵と紅葉が急に走り出したのに咄嗟に反応できずあれよあれよという間に見失ってしまい人混みの中に取り残された残念な男子二人。二人は茫然としながら暴走列車のアトラクションの前に戻ってきた。
「おい、ジェットコースターで泣きわめく葵を見ようと思ってたのに当の本人がいないんじゃ意味ねぇじゃんかよ」
「くそっ、あそこで逃げられるとは」
「まぁ園内は広いって言ってもたかが知れてる。次見つけたら泣きわめく葵を引っ張りながら園内一周してそのまま乗せてやる」
「まるでパレードみたいだな」
「あほ抜かすな。まぁいい、それより冬樹なんで列に並ぼうとしてるんだよ」
「えっ?だって乗るんだろこれに」
「俺に男と二人でワンダーランドをデートする趣味はねぇよ。早いとこ二人を探しだそうぜ」
「えぇ…」
「それはジェットコースターに乗れないのと俺が言ったことどっちに対する残念そうなため息なんだ?」
「ジェットコースター」
「まぁ、そうだよなぁ。って変なこと言ってる暇はねぇぞ。時間あるって言ってももう昼近いんだし早いとこ探そうぜ」
「そうだな。それよりまずお腹空いたんだが」
「あーまぁお昼時だしな」
光春はそう言いながら辺りをゆっくりと見回す。流石お昼時ということもあって、見渡す限りのレストランには多くのお客さんが並んでいてぱっと手軽に食べられるという感じではなさそうだ。先を急ぎたいがお昼ご飯も食べたい光春が頭を抱えていると、冬樹が近くのワゴンを指さしながら光春に話しかけた。
「なぁ、あのワゴンで売ってる鳥肉?みたいなやつうまそうじゃねぇか。結構大きいし」
「あーターキーレッグか。お昼にしては量が少ない気もするが」
「まぁ、なにも食べないよりはましだろ。よしっ、決まりだ。さっさと買いに行こうぜ」
欲望に忠実な時の冬樹の行動は早い。光春が返事をする間も与えず、ワゴンに歩き出していた。そんな冬樹と長い付き合いの光春はこうなると何をいっても聞かないことなどよく分かっているから渋々という表情で後ろをついていく。
「ターキーレッグ3本お願いします」
「お二人で3本でよろしいですか?」
「あっ、いや。3本全部自分が食べるので後ろのやつの会計は別にしてください」
「おい冬樹…」
「ん?いいだろ、腹減ってるんだし」
「はぁ、まあいいや。俺も買うからあそこの空いてるベンチで待っててくれ」
「いや、歩きながら食いたいからここで待ってるよ。早く買って食べ歩きしながら女子ども探そうぜ」
結局光春もターキーレッグを3本購入し、両手いっぱいにターキーレッグを抱えた男二人組は他の客からの視線を一堂に集めながら園内の散策を開始した。
「にしてもこの肉おいしいな。今まで食べたことない味だけど結構いける」
「確かに燻製した肉って食べた機会少ないよな」
「そだな。てか、なんか周りの雰囲気変わったな」
「俺も思ってたんだよ。急にメルヘンチックになったというか」
「俺ワンダーランド来るとき毎回葵と一緒だからさ、あいつが横でぎゃぁぎゃぁ騒いでた気もするけど何だったけな…」
「ずっと思ってたんだけどさ」
「ん?どした、肉食う手が止まってるぞ」
「そうやってすぐ話を逸らそうとするな。ぶっちゃけ葵のことどう思ってるんだよ」
「傲慢で卑劣な女」
「いやそういうのじゃなくてだな…」
「みなまで言うな、意味は解ってる」
「なら実際どう思ってるんだよ、あれだけ一緒にいて、何も思わないってことはないだろう?」
「確かに容姿は整ってるし、家事はできるし、飯はうまいし、胸もでかい…、はたから見たら完璧だと思うよ葵は。この世を探し回ったってこんなにできたやつはいないって思ってる。でも、近くにいすぎたせいか、好きっていうよりも、居て当たり前っていう気持ちのほうが先に来るんだよ。」
「胸って…。葵に聞かれでもしたら蹴りで太平洋までぶっ飛ばされるぞ。じゃあもし葵がお前のことが好きだと言ったらどうするんだ?」
「おいおいそんな冗談、葵にでも聞かれたらパンチで宇宙まで飛ばされるぜ?まぁ葵が本当に俺のことを好いてくれるなら、その時に考えるさ」
「はぁ、卑怯な奴だな、お前は」
「ありえない話だから考えるのを放棄しているだけだろ?それのどこが卑怯なんだ」
「あー、はいはいもういいよ別に、じゃあ紅葉さんはどう思ってるんだよ、葵みたいに家事とかできないけど、紅葉さんも相当な美人だぜ?」
「も、紅葉さんは最近出会ったばっかりだろ!そんなこと考えるのは失礼だろ」
「なんだ?紅葉さんのことになった瞬間そっぽ向きやがって。もしかしてひとめぼれしたりしてないかぁ」
「うるせぇ!あんまり詮索すると、おまえのターキーレッグが一本なくなるぞ」
「それはやだから奪われずに詮索する方法を模索する!」
「いや、もうこの話は終わりにしようぜ?それよりこの話の代金としてあのポップコーンを所望する」
「えー、今両手がふさがってるんだけど」
「持っててやるよ、早くしないとターキーレッグが一本消えるぜ」
「ちっ、わかったよ何味がいいんだよ」
「そりゃもちろんハニーソルト」
「…はっ?はちみつ塩?」
「日本語に訳すな訳すな。最初はみんなそういう反応するんだよな、でも食ってみなぶったまげるぞ」
「ほんとかよ…」
「はい、早く買ってきて」
「へいへい…」
冬樹にポンと背中を押された光春は、食べかけのターキーレッグをきれいに平らげゴミ箱へと放り込む。それでもまだ左手には2本のレッグが香ばしい香りを漂わせている。あの場ののりで後先考えずにターキーレッグを三本も買った自分を若干恨みつつ、光春は器用にポップコーンを買い、冬樹のもとへ戻る。
「おー帰ってきたか………ぶっ!み、光春…、めっちゃ似合ってるぞ」
友人が戻って来るや否やその姿格好をみて急に爆笑する無礼な冬樹と冬樹が爆笑している自分の格好に冷たい視線を向ける光春。
「なんにも分からないから店員の言う通りにかったらこのざまだ」
「いやー、いいな。ぶっ!その顔やめろって、反則だぞ」
「爆笑しながら写真をとるなどあほが」
彼の首にはプリンセスが描かれたポップコーンバスケットがかかっていた。周りのカップルからの冷たい視線をぐさぐさと受けながら冬樹と光春はワンダーランドをさらにすすんでいくのであった。はちみつの甘い香りが、道行く人の食欲をそそる。




