第37話
先週は投稿できず、すいませんでした。
「なっ、なんなんですか。あれ…」
声にならない声を絞り出し、目の前で起こっている状況が嘘であってほしいと切に訴えるような目で緑井の横顔を見つめる近藤。そんな近藤が自分に向ける視線に気が付きながらも、眉一つ動かさずクレーマーマダムの最後の一瞬を見届ける緑井。その場に居合わせた者は目の前で起こるあまりにも非常識な光景に混乱し、発狂しながら、次、奴の胃袋に入るのはごめんだというように逃げ惑っている。
脂乗りが良く、肉厚なマダムをぺろりと平らげたスカイ君は、物足りないのか周りをきょろきょろと見渡し次の獲物を吟味し始めた。そして、自身に熱い視線を向けている女二人組を見つけたのであった。次の瞬間、目にも留まらぬ速さで二人の首を狩りに向かうスカイ君。
「きゃぁぁっ!」
迫りくる殺意に、思わず絶叫し目を覆ってしまった近藤。すかさず、緑井は近くにあったお土産物のスカイ丸を抜き取り、思いっきり振りかざした。ここまで刹那の出来事、その場にいた誰もがこの時の状況を詳しく説明しろと言われても不可能であろう。
「きぇぇぇぇっっっ」
緑井が思いっきり振りかざしたスカイ丸は、スカイ君の頬をかすめた。突然の痛みに驚いたであろうスカイ君は奇声を発し、さらにスピードを上げ二人の元に迫ってくる。
(もう、無理…)
咄嗟の反撃も空しく、敵の殺気を増倍させただけの攻撃を悔やむように緑井はぎゅっと目を閉じ、自分の運命を受け入れ、来る激痛に唇をぎゅっと噛み締めてた。しかし、いつになっても痛みは来ない。死を受け入れた獲物をいたぶっているのだろうか、緑井はそんなことを思いつつも恐る恐る目を開けた。
「大丈夫ですか、緑井さん、近藤ちゃん」
目の前には白馬の王子様、いや、青いツナギの短剣つかいが間一髪のところでスカイ君の攻撃を食い止めていた。
「林くん⁈どうしてここに」
「お客さんたちがパニックになってたからなにがあったか聞いたら、ショップに化け物が現れたって。なので、駆け付けたんです。それよりこいつをどうにかしましょう」
林の言葉に反応するように軽く頷き、再びスカイ丸を握りしめる緑井。そして、模造刀を拾い上げ、近藤に手渡し、肩に手を置き、優しく語り掛ける。
「近藤ちゃん、一応握っておいて。戦わなくてもいい、だけどもしも自分の命が危ないと思ったら、この模造剣で戦って」
近藤は緑井の目を見ながら、しっかりと頷いた。緑井はそれをしっかりと見届け、頭をポンポンと優しくなでた後、未だ交戦中の林の元へと駆けた。
「林くん!」
「緑井さん、僕そろそろ限界なので、一旦変わってもらってもいいですか?」
「もちろんよ、林くんスイッチ」
緑井から『スイッチ』という言葉が出てきたのが、あまりにも意外だったのか林は一瞬目を大きく開き戸惑った表情をしたが、すぐに切り替え、勢いよく後ろに下がり一線を退く。それと入れ替わるように、林の真横を長い刀がスカイ君めがけて振り下ろされる。
「緑井さん、そいつ攻撃してくるとき、嚙みつくことしかできないっぽいです」
「遠くから攻撃すればいいのね」
「ただ、他にもなにか攻撃手段があるかも。やばいと思ったらすぐ逃げてください」
「後輩たちの前でそんな無様な姿見せられると思う?大丈夫、やばくなったら林くんが助けてくれるでしょ?」
「もちろんっす」
林の返事を聞き届けると、緑井はスカイ君に反撃の隙を与えないよう、右から左、上から下へとスカイ丸を縦横無尽に振り回した。様々な方向から降り注ぐ攻撃の嵐に成す術なく、スカイ君は攻撃を受け続けている。しかし、長さがありそこそこの重さがあるスカイ丸を振り回し続けるのは大人の男でも厳しい。すぐに緑井の体力は限界になり、攻撃の手が緩み始めた。その隙をお腹を空かせたスカイ君が見逃すはずもなく、攻撃の合間を縫って勢いよく緑井との差を縮める。
「えっ?えぇっ⁇」
「緑井さん、逃げてください!」
咄嗟の出来事に困惑する緑井と、短刀を構えるも苦虫を嚙み潰したような顔をし、目の前でこれから起こるであろう光景を想像し絶望に支配される林。そんな二人に流れる時間はゆっくりと、永遠に感じられるものであった。
「緑井さんっ!」
若い女性の悲鳴と、化け物の苦しむ声。次の瞬間その化け物の姿は深い竪穴の中へと消えていった。
「近藤ちゃん、ありがとう…」
「みどりいしゃん、うわぁぁぁん」
緑井の顔を見た近藤は少女の様に泣きじゃくった。これが彼らの苦悩と戦いの日々の始まりの物語であることは、まだ誰も知らない。
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「というのが、私たちが奴らに初めて会った日のこと」
「そんなことがあったんですか…」
「あれから、何度も何度も同じようなことがあって、でも一度も完璧に倒せることはなくって、気が付いたらさっき冬樹くんや光春くんと一緒に戦ったみたいなスカイくん軍団が形成されてたんです」
「そうだったんですか…」
「そして、それを緑井さんと林さん以外の同僚のみんなに話しても怖い夢でもみたんじゃないって相手にしてもらえなくて。でもっ!スカイタウンや展望階はありえないくらいボロボロになってるんですよ」
「誰もこの状況に気が付いてない、きっと私たち以外の誰もがこれに気が付いてないんじゃないかって二人と話してたら」
「君たちが現れたんだ。この世界の事を理解できてて、あの化け物と戦う君たちと」
林は、4人の少年少女たちの事を時折頷きながら見回しながらゆっくりと言葉を紡いだ。冬樹たちも互いに顔を見合わせながら、彼らに応える。
「俺たちも、緑井さんたちと同じようにこの世界の事を分かってるのは俺たちだけだと思ってたんです。だから、さっき急にスカイ君と戦いだしたときは驚いたけど心強かったんです」
「君たちも…」
この世界を知る7人。彼らの語り合いは、まだまだ続きそうだ。緑井達3人に見送られ、冬樹たちは帰路につく。その道中、たわいもない会話をしていると葵が急に思い出したようにあっ!と大きな声を出した。
「ところで冬樹、光春。ちょっと聞きたいんだけど」
「んっ?どした」
「お土産代なら冬樹に出してもらえ。俺は今月金欠なんだ」
「まぁ、お土産はそうするわ。じゃなくて、今度の修学旅行一緒に回るじゃない」
「あぁー、不本意だが今回もいつもの面々と一緒だな」
「そこでよっ!ワンダーランドに行くとき紅葉も一緒に行ったら楽しいと思わないっ?」
「おぉー!それは名案だな。確かに紅葉さんが一緒に来てくれるだけでこう明るくなるというか、なぁ光春」
「それだと葵がいても明るくならないって言ってるぞ」
「ちょっ、いやそういう意味じゃなくてだな」
「はいはい、そういうの今いいから。で、一緒に回るの賛成?反対?もちろん賛成よね」
「あぁ、俺は構わないぜ」
「冬樹に同じくだ。別に反対する理由がないからな」
「やったぁー!お二人ともありがとうございます」
「楽しい修学旅行になりそうね」
「だな」
こうして決まった修学旅行の班メンバー。一生に一度の高校での修学旅行。冬樹たちにはどんな思い出の一ページができるのだろうか。
今週の金、土、日は三日連続投稿をします!
今回はその一日目です。楽しんでいただけると幸いです。
時間は23時統一です。




