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桃(こうはく)~Hold hands with you~  作者: 4G
第1章 紅葉
32/67

第32話

新年初投稿です!

今年も作品を宜しくお願いします!!

「すっかり暗くなっちまったな」

「ですね~。本当はもう少し早く帰るつもりだったんですけどね」

「まぁ、今日も無事に家に帰れるからいいって事にしようぜ」

「何よ冬樹、急に恰好つけたこと言いだしちゃって」

「いいだろ!俺が恰好つけたこと言ったって」

「なんかあんたがいうと鼻につくのよね」

「そりゃ理不尽だ」

「ふふっ」

「あははっ」

「おい光春、何笑ってんだ」

「紅葉も何笑ってるの!」

「いや、いつもの光景だなって思って勝手に笑いが出ちまった」

「私もです」


そう言いながらくるっと向きを変え、手すりに体を預けながら東京の夜景をうっとりとした顔で眺め始める紅葉。他の皆もそれにつられぞろぞろと眼下に広がる夜景に目を落とす。


「今もこの町のどこかであんな化け物が暴れてるかもしれないんですよね」

「あぁ、俺たちが知らないところで何人の人が犠牲になったかなって分かんねぇよな」

「なぁ、冬樹」

「んっ?どうした」

「今俺たちはあの化け物のこと覚えてるよな」

「なに言ってんだよ、覚えてるに決まってんだろ。昨日も今日も俺たちはあんなのと命を賭けて戦ったんだぞ。忘れるわけないじゃねぇか」

「だよな。だったらさ、あの女の子のご両親は今日の事をずっと忘れられないはずだよな…」

「…っ」


光春のその一言ではっとした冬樹は、反射的に横にいる光春に顔を向けた。焦点がどこかあってないうつろな目、光春は続ける。


「人は肉体が死んでも、心の中で生き続けるって言うだろ。実際その通りなんだよ。いつまで経ってもあの笑顔だけは忘れられないんだよ…。俺はまだ親になったことないから分かんねぇーけどよ、自分の子供が目の前であんな風にもがき苦しみながら死ぬ姿みて次の日何事もなかったかのようにいつも通りの生活できる親っているのか」


いつの間にか女子二人も、いつもとは違うどこか悲観したような表情で話す光春の事をどこか心配した面持ちで見ていた。冬樹は特に何も返答せず、光春が続きを話すのを瞬きも忘れてしまうほどに微動だにせず待っていた。光春は光の川のような車の流れをぼぉっと目で追いながら続ける。


「昨日、渋谷であの惨状を見て、お前たちからあの日あそこで何人もの人が死んでいったって言って、正直吐きそうだった。その無くなって行った人たちの家族の言葉にできない感情が俺には分かるから。でも、周りの人は気にも留めてない、俺はそれがあまりにも気持ち悪かった。渋谷駅だぞ、絶対一人や二人あそこを歩いてた人の家族が犠牲になっててもおかしくないんだ、だけどみんな何事もないみたいに…」


そこまで言うと光春は力尽きたように膝から崩れ落ちそうになった。横にいた冬樹が咄嗟に腕をつかみ、ゆっくりとその場に光春を座らせた。


「光春、ごめんな。昨日お前が渋谷で絶句してたのに俺、気づいてやれなくて」


冬樹はどうにかそれだけを口から絞り出すと、光春の肩に手を置いたままぐったりとうなだれてしまった。後ろからその様子を静かに見守っていた女子二人は、どう声をかけていいか分からずただ茫然とその場に立ち尽くすことしかできなかったという。


「なんで世界はこんなんになっちまったんだ。俺はこんな現実知りたくなかったよ、大切な人を無くす悲しみすら忘れる世界なんて俺は…俺はそんなの現実の世界だなんて認めねぇ」

「光春さん…」

「あたしだってこんなの本当の世界だなんて思ってないわよっ‼あの日から…、あの日から世界がおかしくなっちゃった。ねぇ、あたしたちはいつ元の世界に戻れるのっ⁉ねぇ‼」


光春の悲痛な叫びに呼応するように心の奥に必死に押し込めていた恐怖の感情を爆発させてしまう葵。紅葉は何も言わず、半ばパニックになっている葵のことを抱きしめた。


「でもさ」


ゆっくりと光春の脇に自分の肩を入れ、介護しながら立ち上がる冬樹。先ほどのぐったりとした様子と裏腹にどこか強い意志を感じさせる眼差しを葵と紅葉に向けていた。


「俺たちは、あの化け物と戦えるんだぜ。俺たちだけじゃねぇか、元の現実ってやつを取り戻せるのは。だから…」

「ここで私たちがくよくよしてちゃだめ。そうですよね、冬樹さん」

「あぁ、紅葉さん。その通りだ」

「お前のそのお気楽主義はどうかと思うが、まぁ確かにお前の言う通りだな。元の現実を知ってる俺たちしか、この世界を救えないかもしれないんだ。くよくよするのはやめだ!」

「なんかあんたがいい事いうの…ムカつく」

「お前はさっきから何なんだよ。俺がかっこいいこと言うのがそんなに癪なのか⁈」

「癪って言われれば癪ね…」

「どっちなんだよ…」

「あぁーもうっ!あんたと話してたら調子狂って、くよくよしてた自分がばっかみたい」

「みなさんがどうにか立ち直れたことですし、地上に戻りましょうか」

「そうだな。……てかさ」

「ん?どうした、そんな浮かない顔して。さっきまでの威勢はどこ行ったんだ」

「いやさっき、スカイ君がエレベーターホールに落ちていったじゃんか。俺たちエレベーター使えなくね」

「「あっ…」」

「どうすんのよ!あたし一生土踏めないなんていやよっ!」

「あほか。多分こういう事態を想定して非常用階段が設置されてると思うから手分けして探そう」


光春の冷静な指示で、バラバラに散らばり手分けして展望階から脱出するための非常階段を探す一同。


「あっ、これじゃない⁉」

「おっ、見つけたか。どこだどこだ」

「ここよ。流石に地上4000mにある展望階だから外階段じゃないのね」

「外階段だったら下に着くまで何人か死者出るだろ」

「まぁ、確かにな。よし、じゃあ俺と冬樹が先に行くから二人は後をついて来てくれ。冬樹、化け物たちが派手に暴れまわってるからどこがもろくなってるか分からんから気を付けていくぞ」

「あぁ、言われなくてもそのつもりだ」


こうして地上4000mから地上へと戻るべく長い長い旅を始めた一同。


「にしてもすごいなこの螺旋階段」

「確かによくこんな使われるかもわかんねぇ螺旋階段を永遠作ったもんだ」


永遠とつなぐ竪穴とその淵に張り巡らされた螺旋階段を覗き込みながら感心する冬樹。その時、後ろから何やら長い棒のようなもので片足をとられ、冬樹はバランスを崩した。


「ってあっぶねぇっっっ!おい冬樹、お前俺たちの目の前で自殺する気なのか⁉」

「いや違うって、なにかに足を取られたんだよ………」

「………どっ、どうしましたか冬樹さん…」

「どうしたもこうしたもねぇよ、その手に持ってるものはなんだ紅葉さん」

「えっと…、命を預け合った仲でどうにも情が移ってしまって…。展望階に置いてくることができませんでした。あっ!ちゃんとお金は置いてきました!」

「そういう問題じゃなぁい!!」

「ひぃぃぃっ」


冬樹に怒鳴られ、おびえる紅葉の手に握られていたのはスカイ丸。それも二本。紅葉は先ほどの戦いでよほどスカイ丸が気に入ったのかちゃっかり購入していたのであった。


「ちょっと冬樹!!紅葉のこと怒鳴るなんてあんたどういう神経してんの」

「はぁっ⁉俺は危うく命を落としかけたんだぞ!俺が死んでもいいってか」

「そっ、そんな事は言ってない…」

「まぁまぁ、まだ先は長いんだからそんなかっかしなさんって。紅葉さん、二本持ってるから持ち運びにくいんじゃね?」

「たっ、確かに二本あるのでバランスとるのが難しくてよろよろしちゃってたかもですごめんなさい…」

「だったら一本貰ってもいい?」

「…?はいどうぞ」


不気味な笑顔を紅葉に向けながら手を差し出す光春、紅葉も頭の上にクエスチョンマークを浮かべつつ素直にスカイ丸を一本光春に手渡す。


「えいっ!」


次の瞬間、光春は受け取ったスカイ丸を竪穴めがけて思いっきり投げた。


「あぁっ!スカイ丸ぅぅぅぅ‼」


咄嗟に竪穴を覗き込む紅葉。しかし、そんな彼女の想いは届くことなく、スカイ丸は竪穴の奥深くへと消えていった。


「これで紅葉さんがバランスを崩す事が無くなって冬樹は満足、紅葉さんも一本だけだけどスカイ丸を持って帰る事が出来て満足。どうだウィンウィンだろ」


満足そうに笑顔でそう語る光春。一同はきょとんとした顔で光春の事を見ている。


「まぁ、何というか」

「はぁ、昔からあんたは極端なのよ。誰がわざわざ竪穴に放り込めって言った⁈あたしが紅葉の代わりにもつなり、ここに置いていくなり…。なんで考えうる中で一番極端な方法をとるのっ!」

「…ごめんなさい」


こんな調子で、長い長い螺旋階段でいくつもの面白ろエピソードができたのだが、それはまた別の機会に。

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