第31話
どうにか年内に間に合った…
さっきまで地に足をついて走っていたのに、体が宙を舞う不思議な感覚。突然の出来事に何が起こったのか、全く頭が追いつかなかった。俺が、何かに押されて床に倒れ込んだのを理解した時には、目の前に自身を捕食しようと鋭い歯が輪を作るように並び、血生臭い口臭を漂わせる口を大きく開いた、かつてぬいぐるみであった化け物の姿があった。俺はその先の事なんて考えたくなくて、自分の運命から目を背けるように目をぎゅっと瞑った。
「おりゃって!」
死を覚悟した冬樹が目をぎゅっと瞑っていると、近くから雄叫びと共に鈍い音がした。それとほぼ同時に、スカイくんのうめき声と血生臭く、生暖かい風が冬樹の耳を撫でた。恐る恐る冬樹が目を開けるとそこには、血相を変えた葵と、その後ろから追いついてきて床に倒れこんだスカイ君に追加の一撃を繰り出そうと馬乗りになっている光春の姿があった。
「冬樹‼あんた無事なのよねっ。って昨日の傷口がまた開いちゃってるじゃない。とりあえずこのハンカチ使いなさい」
そういいながら冬樹の傷口にハンカチを当てる葵。カバンの中をがさごそ探り始めてカットバンを取り出した、
「あぁ、助かった。あと少し遅かったらあいつの胃袋行だったぜ」
「流石にあの攻撃は想定外だったわね…」
「冬樹、葵!すまねぇ、何発か切り付けられたんだが逃げられちまった」
「いや、少しでもスカイ君に攻撃当てれたんなら上出来だ」
「あぁ、まさかあんな形で遠距離攻撃を当てられるとわな…」
「あの長い…角?頭?は厄介だぞ。さっきみたいにどっちかが犠牲になるの覚悟で特攻攻撃を仕掛けないと、一人ずつじゃ近づくことも出来ないかもしれない」
「まだ、スカイ君の攻撃パターンが全部分かった訳じゃないと思うわ。あの…いやもう角にしましょう角に!あの角には特に注意するべきだと思う」
「葵の言う通りだな。……ところで紅葉さんは?」
「さっき頼んだだろ。昨日みたく武器になりそうなものを探しに行ってもらってる」
「さっきスカイ君に逃げられたって言ってたよな。どっちに逃げて行ったんだよ」
「……土産物屋の方」
「紅葉が危ないっ」
言葉よりも先に足が出ていた葵。そのあまりにも素早い行動に冬樹と光春は一瞬で遅れたが、その俊足を生かしてすぐに葵に追いつくことができた。
「紅葉っ!」
「葵⁉だめですよ、来ちゃ。こいつ長い頭で攻撃してきますから」
「そんな事わかってる!でも、紅葉が死んじゃう」
「大丈夫ですよ!見ててください」
「見ててくださいってどういう事だ…」
「もしかして紅葉さん魔法が使えるとか」
「この状況でなに馬鹿言ってんの!早く紅葉さんを助けてっ」
葵の緊迫した表情に自分たちがいままで少しおふざけモードであったことを猛省する冬樹と光春。すぐにその表情は真剣の代名詞のようになり、アイコンタクトで先ほどの連携攻撃をもう一度することを確認し合う。冬樹が大きく頷くと、冬樹と光春は磁石が反発しあうかのように別々の方向へと走り始めた。
紅葉と対面し、相手方の動きを探っていたスカイ君。集中のあまり、後ろから迫ってくる自身に向けられた殺意に気が付いていない。
(よし、紅葉さんに気を取られて俺と光春が後ろから近づいて来てることに気が付いてないな…。このまま一気に)
次の瞬間冬樹が見たもの、それは自身の目の前にものすごい速さで迫るスカイ君の頭の頭であった。冬樹が気が付いた時には、もうそれを避ける余裕などなく頭の攻撃を冬樹はもろにくらってしまった。続けてそのままの勢いでスカイ君は冬樹の逆サイドにいた光春をも攻撃し、自身を後ろから襲おうとしていた暗殺者たちを跳ねのけたのであった。そして、スカイ君がもう一度紅葉と対峙すると、どさっという重いものが床に落ちる音がした。スカイ君が何が起こったか分からないといった困惑した表情を見せていると、紅葉が口を開く。
「いいですか、私たち人間は道具を使ってここまで進化してきました。けれども、中にはこんな道具いつ使うんだろうという物もたくさんあります。これもその一つです」
そういいながら紅葉が器用に振り回すのは東都スカイタワー名物、長さが4000mmもあるレプリカ日本刀『スカイ丸』である。日本刀は外国人観光客に大人気であり、お土産として購入して帰る観光客も多いがあまりの長さゆえに機内預けができないという伝説もある。
「あなたの武器はその長い頭と、鋭い歯でしょう。先ほどの戦闘を見ていて、近距離と遠距離どちらにも優れたいい攻撃編成だとは思いましたが…、どちらかを封じてしまえばもうそんなのも怖くない」
そう言いながら紅葉がスカイ丸の先で指すのはスカイ君のあたま。スカイ君は恐る恐る両手で自身の頭を撫でてみる。するとそこには先ほどまであったはずの、自慢の角が無くなっていたのだった。スカイ君の顔はみるみる真っ青に…、と言いたいところだが所詮ぬいぐるみなので表情や顔色が変わるはずもなく、その感情を図ることはできない。
「遠距離攻撃を封じられた今、あなたは近距離攻撃をせざるを得ない。けれども私たちはあなたのことを遠距離攻撃、そうこのスカイ丸で袋叩きにすればいい。いいですか、あなたの負けです。スカイ君」
冷酷な表情できらりと光るスカイ丸の先をスカイ君の目先に持ってくる紅葉。そのあまりの迫力に葵、冬樹、光春は声も出なかったという。その恐ろしい紅葉の殺意を一心に向けられているスカイ君は、いよいよ紅葉に背を向け敗走をはじめた。死に物狂いで走るスカイ君、その姿は展望階の中央へと差し掛かった瞬間下へと消えていった。
「あいつ、もしかしてエレベーターホールに落ちたのか…」
「いま中央にいって、下に落ちていったから多分」
「ここって地上4000mの展望階でいいわよね」
「あぁ、なんなら景色見て確かめてみるか」
「…散々見たからいいわ」
「でも4000mから落ちたってことは」
「あいつはもう助からない」
「あたしたちとりあえず勝ったのね」
「「よっしゃぁぁぁ!」」
敵に勝利した少年少女たちはその喜びを爆発させ、今回の勝利の立役者である紅葉の元へと駆け寄った。葵はそのままの勢いで紅葉に飛びついた。
「紅葉!あんた強かったわよっ。まるで別人みたいだった」
「あぁ、いい意味で人格変わってたな。冷酷なお姫様というか、自分の敵はばっさり切り捨てる感じが良かった」
「なんだか褒めらてる気はしないですけど…」
「いや!この上なく褒めてるわよっ。ホントにあんたは強かった!」
「葵にそう言ってもらえると嬉しいです」
「まぁ、何はともあれあれを倒せたんだ。めでたしめでたしだろ」
その時、西の窓からまばゆいほどの西日が展望階を包み込んだ。彼らの、いや今回の勝利の立役者である少女を祝福するかのように。
皆さまよいお年を‼来年は1月14日より投稿…予定です




