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桃(こうはく)~Hold hands with you~  作者: 4G
第1章 紅葉
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第19話

「ただいま」

「やっぱり自分の家は落ち着くな」

「そうだなー。冬樹、お茶」

「おいっ!いくらなんでもくつろぎすぎだろ」

「帰ってそうそう騒がしいわね…」

「でも、冬樹さんの家は騒がしい方が落ち着きます~」

「まぁ、確かにそうね」

「ちょっとテレビつけてみるか」

「あんな事があったのに、よくのうのうとテレビ見れるな…」

「いや、もしかしたらさっきの出来事が速報になってたりするかもしれないだろ?」

「渋谷の時、何にも報道されなかったのに今回ニュースになるなってことあるのか?」

「まぁ、念のためってことだよ。ところでリモコンはどこだ?」

「あぁ、それならここに」

「………?なぁ、冬樹」

「なんだ?」

「なんでテレビのリモコンがお前のズボンのポケットから出てくるんだ……」

「あぁ、これには深いわけがだな」

「あぁー!冬樹さんだったんですね‼いっつもどこかにリモコンが行ってしまうので、誰かが持って行っているとは思っていましたけど、まさかポケットに隠し持ってるなんて…」

「そこまでしてあたしと紅葉さんにテレビを見せたくないの⁈」

「いやっ!ここ俺の家なのに、俺にチャンネル権がないとかおかしいだろっ‼お前たちのせいで何回アニメを見逃したと思ってるんだ!!!」

「そんな小さなことで怒るんじゃないわよ。もう私たち…家族なんだし」

「そうですよ~!冬樹さんがアニメを録画しているの知ってるんですからね~。あれ消すの大変なんですから~」

「おいそこっ!意味ありげにお腹をさするな!そこっ!アニメが撮れてないと思ったら紅葉さんの仕業だったか」

「冬樹……」

「光春は俺の苦労分かってくれるよな…」

「そんなことより、産婦人科いこうな」

「お前もかっ!」

「まぁ、冬樹をいじるのはこれくらいにして。光春、あんたテレビ見るんでしょ?」

「そうだった、冬樹が騒がしいからすっかり忘れるところだった」

「なんで俺が悪者になってるんだ…」


そう言う冬樹をよそに、光春は冬樹の手からリモコンをひょいっととり上げテレビをつける。


――――――――――――

――――――――――――


こちら怪奇事件の現場となった渋谷です。ご覧ください、商店街のアーケードから吊り下げられていた布製の垂れ幕が根元の辺りから引き裂かれており、こちらの方に落下してしまっています。断面からかなりの力で引き裂かれたものだと考えられます。また、こちらの商店街ではいくつかの店舗の外壁の損壊、窓ガラスの破損など広い範囲に渡って被害が出ています。


警察によりますと、この時間帯多くの人が商店街にいたものの横断幕を引き裂いた犯人の目撃情報はないという事です。こんご店舗の防犯カメラ映像を解析し、詳しい事件の原因と犯人の捜索を行うという事です。




次のニュースです。若者を中心に多くの人が行方不明になっているという事です。警察によりますと、先月初めごろから若者を中心に行方不明者届の提出が急増しているという事です。行方不明者の共通点として、ほとんどがイベントに参加すると言い残し疾走していることが挙げられ、警察では情報提供を求めています。


これから、家族の同意が得られた行方不明者の写真と、お名前、特徴を読み上げます。お心当たりのある方は近くの警察署まで情報提供をよろしくおねがいします。


・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・



――――――――――――――

――――――――――――――



「おい!渋谷のニュースやってるぞ」

「えっ⁉」

「なんだよ、あれが怪奇事件扱いか…」

「あっ!ねずみがぶつかって破れた垂れ幕じゃないですか!」

「あぁ、どうしてか分からないけど破けてたって事になってるみたいね…」

「そんなことふつうあり得るか⁉」

「あるわけないだろ。…っ!」

「なんで惨い映像なんでしょうか…」

「ガラスがなによっ!足元で人が死んでるのに…、そんなの無しよ…」

「多分だけど、レポーターにはこの死体が見えてないんだろうな」

「あぁ、冬樹の言う通りだと思う。あの大ねずみに殺された人は、一連の事件を知らない人が見たらきっと見えない死体になるんだと思う」

「そんな…」

「じゃあこの監視カメラになにも映っていなかったというのも…」

「きっと、映ってるんだろうな。今日の一連の出来事が。ただ、何も知らない警察が見たところで、何が起こったのかは分かんないだろうがな」


そういうと、光春はソファーに勢いよく腰かけた。他のみなもそれに続いてソファーや椅子に腰かける。テレビではキャスターが次のニュースを読み上げ始めた。


「光春さん、今キャスターさんが読みあげてる行方不明の人たちって」

「この前冬樹たちが巻き込まれた渋谷の事件、今日の事件。もしかしたら俺たちの知らないところでも起きてるかもしれないけど、間違いなくそこで殺された人たちだろうな」

「共通点がイベント…。光春の言う通りだな」

「ということは、今読み上げられてる人たちはもう…」

「あぁ、残念だけど。きっともう死んでいると思う」

「そんな………っ⁉」

「どうした、葵⁉」

「こ…この親子…」


ソファーから勢いよく立ち上がり、大きく目を見開いた葵が指さすテレビには、幸せそうな父と娘の写真があった。女の子は麦わら帽子を大切そうにかぶっているようだ。


「この麦わら帽子どこかで………ってまさか」

「おい、どっちか説明してくれ。この親子は一体…」

「この親子はね…、あの日、あたしたちが渋谷でハチ公に襲われた日、あたしたちの目の前で裂き殺された親子なの…」

「あぁ、俺もよく覚えてる。あの麦わら帽子、忘れられない…」

「そんなことが…」

「そうか…。やっぱり、行方不明者は事件に巻き込まれて命を落とした人たちってことで間違いなさそうだな」

「あぁ、これを見ちまったらもうなんも言い返せねぇよ」


画面は次のニュースに切り替わったけれど、リビングの空気は少しだけ重いままであった。

この空気に耐えかねて、紅葉が口を開く。


「とっ、ところで!落ち着いたら聞こうと思っていたんですけど、光春さんの身にいったい何があったんですか~?」

「そういえば、そうね。あんた、魂が抜けたみたいだったわよ」

「あの時、俺は冬樹たちの声は聞こえてたし、ものを考えることも出来てたんだ。ただ、体が思うように動かないというか…」

「つまり…、どういうことだ?」

「実は俺もよく分かってなんだけどな。頭の中では大きな声で冬樹たちに返事してるつもりなんだけど、口が動いてない。だから冬樹たちには、俺の言葉が届いてない。って、あぁっ!説明しにくいな!!」

「つまり、意識はあったものの植物人間のような状態で、体の自由が利かなかった…という感じですか?」

「なるほどなぁ…。でも、またどうして急に?」

「俺が思うに、極度の緊張でストレスに体が耐えられなかったんじゃないか」

「確かに、人間って過度にストレスがかかったらだめっていいますもんね!」

「あと、あたし光春が言ってたことも気になってるのよ。光がどうとかって」

「あぁ!そうだ、それも話さなきゃって思ってたんだ。なんというか、ねずみの鼻の辺りがこうぴかぁっ!って光ってたんだ」

「でも、それは光春しか見えてないのよね」

「はい、私たちは見えてないので」

「さっきの金縛りみたいなのはいくらでも説明のしようがあるけど、こっちはちょっとな…」

「そうね…。どうも説明できないものね…」


こうして、皆の考察合戦は熱を帯びていき、いつしか東の空から月が昇り始めているのであった。

前のあとがきで蚊に刺されてないって話した瞬間、4箇所くらい刺されました...今年の蚊は活動時期が遅くないですか?かゆい〜!!!

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