第18話
戦闘シーンはむずいぃ...
「はぁはぁ…。おーい、そろそろやばいんだけどー…、光春は起きたか…」
「もう大丈夫だ、冬樹!」
「全く心配かけやがって…。起きたんなら追っかけられるの代わってくれよー」
「そんなことより、俺が合図したら走るのをやめて、パイプを思いっきり振りかざしてくれ!」
「なんでだよっ!喰われちまうじゃないか!!えっ…、俺に生贄になれと………」
「んなわけあるかっ!騙されたと思って俺の言う通りにしろ!」
「あぁ、もうわかったよ!これで死んだら幽霊になってお前の事呪ってやるからなっ!道端にバナナの皮置いたり、財布から千円抜き取ってやるからなっっ!」
「やることが姑息ね…」
「冬樹さん、女々しいです…」
「お前が幽霊になったら好きなだけ俺の事いたぶればいい!とりあえず俺の作戦に乗っかってくれっ」
「あぁっ!もう分かったよっ!でも、体力が限界だから合図はできるだけ早めで頼む…」
「この作戦、本当に成功するんでしょうね…」
「分からん…、けどあいつを死なせることは絶対にしない」
「あいつにもしもの事があったら、あんた自身がどうなるかも分かってるんでしょうね」
「………、分かってるつもりだぞ」
「ならいいわ」
「こわっ…」
「ん?何か言った?」
「いっ、いや!何も言ってないぞ。そ、それより紅葉さん!」
「はい~、どうしましたか⁇」
「一つ頼み事されてくれませんか」
「お安い御用です~!」
「今から言うものをできるだけ多く集めてきてほしいんです」
「分かりました~!」
「俺たちができるだけ時間を稼ぎはしますけど、どれだけ持つか…」
「できるだけ早く集めます~」
「それじゃあ…」
「分かりました~!!」
「それじゃあ、作戦を始めよう!冬樹、カウントがゼロになったら思いっきりパイプを振りかざしてくれっ!」
「はぁはぁはぁはぁ…」
光春の救出のために走り始めてかれこれ数十分、ねずみに追いつかれないようにほどほどのペースを保ちながらここまで走り続けてきた冬樹は、体力の限界を当の昔に迎えているようだった。光春の声に、大声で答える元気ももう残されていないようだが、最後の力を振り絞って左手を高くつき上げた
「いくぞ、3…2…1…0!」
「うりゃっ!」
光春のカウントがゼロになったと同時に、冬樹は勢いよく止まり、体全体を使って持っている鉄パイプを振りかざす。もちろん、勢いよく駆けていた獲物が急に止まり、鉄パイプを振りかざしても、その動きに刹那の間に対応することは困難である。大ねずみはそのままの勢いで冬樹に突っ込んだ。その瞬間、鈍い音と共に辺りにねずみの悲鳴が響き渡る。
「よっしっ!」
「あんたの言う通り、あいつの弱点は鼻だったのね!」
「あぁ!これでやつはパニックになってるはずだ。葵、次を頼むぞ!」
「任せといてっ!」
そういうと葵は、こちらの方に涙目で勢いよく向かってくる大ねずみと対峙した。彼女の目にはかつての彼女からは想像もできないほど自信がみなぎっていて、その拳もやる気十分なようだ。
「葵のタイミングで思いっきり鼻先を殴ってやれ!」
「えぇ、言われなくてもそのつもり!さっきあたしの事を吹き飛ばしたこと、後悔させてやるんだからぁぁぁぁぁぁ!」
思いっきり拳を振り上げ、力の限りをねずみにぶつける葵。ねずみにとって、その光景は狂気でしかなかっただろう。葵の拳は、ねずみの鼻にクリティカルヒットし、ねずみは再び進行方向を変えた。
「ナイスパンチ!俺いっつも思ってたんだよな、葵の拳は世界に通用するって」
「いっつも受けてるあんたならではの感想ね」
「葵のパンチなら俺が一番詳しいと思うぞ!」
「まぁ、それはそうだな。それより、冬樹、葵。最後の仕上げを忘れるなよ」
「そうだった…。ところで最後はどうするんだ」
「あれだよ!」
そう言いながら光春の指さす先には、一面に敷き詰められた大量のねずみ取りと、こちらに大きく手を振っている紅葉の姿があった。
「あっ、まさかあんた!さっきに紅葉さんに頼んでたのって…」
「あぁ、そのまさか。ねずみの駆除っていえば昔からねずみ取りを使うって相場が決まってるだろうが」
「お前は昔からそうだったよな…」
「えぇ、形から入るタイプ…」
「うっ、うるさい!!!それより、見てみろ、そろそろ…」
そう言う光春の視線の先では、ねずみが大量のねずみ取りに襲われている光景が広がっていた。金具の音が鳴りやまず、ねずみの悲鳴が轟続けている。その隙に、一同は合流する。
「みなさんご無事で何よりです~!光春さんの作戦、完璧でした‼」
「紅葉さんも大急ぎでこれだけの量のねずみ取りを準備してくれてありがとう」
「いえいえ~、それぞれのお店にねずみ取りが一箱ずつくらいストックされていたのでラッキーでした~」
「この商店街、そんなにねずみが多いのか…」
「なんだか虫が良すぎると思うけれど…、まぁあったんだから良しね!」
「あぁ、そうだな。じゃあ最後のとどめは、葵。任せてもいいか」
「葵以外に適任はいないよな、いつも蹴りをお見舞いしてやれ」
「えぇ、分かったわ」
そう言いながら、葵は勢いよく駆け出し、思いっきり飛び跳ね、空中で形を整えねずみの鼻先に蹴りを入れる。蹴りが決まった瞬間、ねずみの顔は1/3ほど沈み込み、見ていた3人はドン引きした。辺りはまばゆいほどの光に包まれ、ねずみは光の粒となって空へと還って行った。
「葵の蹴りはやばいとは思ってたけど…」
「あぁ、まさかねずみの顔があんなになるなんてな…。葵を本気で怒らせたら、尾てい骨粉砕されるぞ…。怪力お化けかよ…」
「大丈夫よ、流石に人間相手には本気出さないわよ」
「そうだよな…………先帰ってるなっ!」
「待ちなさい、冬樹!!!誰が怪力お化けですって⁉」
「あはは、結局こうなっちゃうんですね~」
「あぁ…」
いつも通り追いかけっこをする幼馴染みたちの後ろ姿を追うように、光春と紅葉も歩き始める。
「まぁ、実際に戦えたのは貴重な経験かな…」
「ん?何かいいましたか~?」
「いや、なにも。早くあの二人を追いかけよう」
「はい~」
ボロボロになった通りを元気にかけていく少年少女たち。彼らがこの絶望の日々を照らす光となるのだろうか。
『あの子も…。今回は予想外に新しい収穫がありましたねぇ。色々と試したくなって、ついつい…。まぁ、面白い戦いも見れたし私は満足!今回は君たちの勝ちということにしておきましょう。また楽しませてくださいよ、みなさん』
次の瞬間、大きな爆裂音と共に影の主は、影をも残さず消えていった。
影の主が去った後には、しばらく紙吹雪と紙テープ、そしてほのかに火薬の匂いが香っていたという。
モチベーションよ、私に戻ってこい!