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桃(こうはく)~Hold hands with you~  作者: 4G
第1章 紅葉
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第17話

一週間に1度のペースがつづいてる...

(あっ、死ぬ)


反射的に後ろへ飛び跳ねる光春。誰しも自分の顔よりも大きな目玉が、目の前でこちらを覗き込んでいれば恐れおののくに違いない。死を目の前に見た光春は、本能的にねずみと距離を取った後、あまりの恐怖に指一本動かせず、ただただ自分の目の前にある巨大な目玉と見つめ合っていた。


「みなさんっ!耳を塞いでください~!!」


その言葉の数秒後、大きな音とともに紙吹雪と紙テープが辺り一帯を舞う。微かに香ってくるのは火薬の匂いだろうか。光春は何が起こったか分からず、ただ茫然と座り続けていた。


「何してるんだ、光春!早く立て」

「あぁもうじれったいわね、冬樹そっちの肩を抱えて頂戴。あたしはこっちを抱えるから」

「分かった、それじゃ一気に紅葉さんの所に」


側でなされる、友たちの会話。体が勝手に立ち上がり、歩き出す。


(なんなんだ、この感じ。俺の体と魂というか精神というかが全く別になっちまったみたいだ。何というか、俺が俺じゃないみたいな…)


「光春、光春っ!!」


(冬樹が俺の名前を叫んでる。聞こえてるのに、聞こえてるって言い返せない)


「おーい、光春―」


(葵が、俺の頬っぺたを叩いてるのか…。結構力任せに叩いてるみたいだけど、痛みがものすごく鈍く感じる…)


ほどなくして、紅葉の元にたどりついた3人は、物陰に隠れた。冬樹と葵はゆっくりと光春の体を壁にもたれかかるように座らせた。


「みなさん、ご無事で何よりです~!」

「紅葉さん、さっきのクラッカーナイスフォロー!」

「あぁ、紅葉さんのフォローがなかったらこいつどうなってたか…」

(紅葉さん、ありがとう。おかげで命拾いしたよ)

「いえいえ~、私のできることをしただけです~。ところで…、光春さんどうされたんですか…」

(いや、俺はちゃんと喋ってるぞ…。いや、届いてないのか。頭ではそう言ってると思っても、体が…口が動いてないのか…)

「いや、さっきからずっとこの調子で魂ここにあらずというか…」

「そうなんですか…。あれっ、光春さん血が!」

「えっ、どこどこ⁉……いや、これは冬樹の血がさっき抱えてた時についちゃったのね」

「けがしてなくて安心しました~!結構な勢いで吹き飛ばされていたので、ちょっと心配でした~」

「だな。だけど、光春がこの状態じゃあ…」

「単純に考えても戦力は2/3。ただでさえ厳しい戦いなのに…」


一同の辺りに暗い空気が流れる。辺りも暗くなり、まるで彼らの憂鬱そのものであるようだ。


「なんだか暗くなりましたね~」

「そうだな、まだ昼なのに…っ⁉」

「どうしたの冬樹…き、きゃぁっ‼」


空を見上げた彼らが見たものそれは、彼らの事を見下ろし今にも捕食せんとばかりに口を大きく開いているねずみの姿であった。


「やばい逃げろっ!」


冬樹の掛け声と共に、立ち上がり駆け出す3人。それを見計らったかのように勢いよく獲物を捕食しよう顔を振りかざすねずみ。間一髪3人は逃げ切る事ができたようだ。


「はぁはぁ。おーい、みんな大丈夫か?」

「えぇ、あたしは大丈夫よ」

「私も無事です~」

「良かった。………光春はっ⁉」

「……っ」

「冬樹、あんたがこいつを引き付けてっ!あたしと紅葉さんは光春を助けるわよ」

「冬樹さん、これを使ってください!」


そう言って紅葉は鉄パイプを冬樹に投げ渡した。


「よっしゃ、化け物め俺が相手だっ!」


そう言いながら巨大ねずみの横腹辺りにフルスイングで鉄パイプをぶつける冬樹。ねずみは、ターゲットを自分を傷つけた冬樹に定めて追いかけ始めた。


「今のうちに、急ごう」

「はい~‼」


冬樹とねずみが走り去った後、すぐに葵と紅葉はさっきまで自分たちが隠れていた辺りに駆け寄る。


「…っ!」

「光春さん~!無事でよかったです~‼」


ねずみが走り去った後に、葵たちが見たものは、その場に無傷で立っている光春の姿であった。


―――――――――――

―――――――――――


「やばい逃げろっ!」


そう冬樹が叫んだのと同時に、3人は一斉に立ち上がり勢いよく駆け出していった。次の瞬間、俺の目の前には巨大ねずみのあたまが、まるで空から降ってきたかのような勢いで現れた。狙った獲物を逃がさない、そんなすさまじい速さだ。俺は危機一髪、店の軒下に座っていたために喰われずに済んだ。


体が自分の思った通りに動かずただその様子を傍観することしかできない俺は、逃げることも出来ずに自分の目の前で繰り広げられる一連の光景をただただ見ることしかできなかった。


(んっ…。なんなんだこのまぶしい感じ…)


瞬きもできない俺は、ねずみの鼻のあたりから発せられている眩しい光を遮ることができなかった。その嫌な光は、不思議なことにねずみの鼻の辺りのみから発せられていて、周りの景色も、地面も空も、ねずみの他の部位だって一つも光っていなかった。ぼぉっと霧がかかったような俺の頭は、目の前で起きている不思議な現象を理解しようとフル回転する。


なんでこいつの鼻が光っているのか。なぜ、他の部位は全く光ってないのか…。そういえば、俺と冬樹がこいつの胴を殴っても、全然動じないというか完全に舐め切った感じで俺たちを追いかけまわす癖に、葵が鼻にグーパンチをお見舞いした時はめちゃくちゃ動揺したみたいに逃げていったよな…。


今日これまで経験した事、既存の知識、あらゆる可能性、俺個人の主観…。これらが折り重なって、俺の中で一つの考察へと編みあがっていく。


(そうか…!)


俺の頭を覆っていた霧が、瞬く間に消えていく。光春が我に返り、見つめる先には葵と紅葉が立っていたのである。


―――――――――

―――――――――


「無事でよかったわ。もう、あんまり心配かけるんじゃないわよ」


そう光春に声をかける葵。光春は、自由に動くようになった自分の体の感触を確かめるように、手のひらを何度か開いたり閉じたりして見せた。


「光春さん、もう大丈夫ですか~?さっきまで魂ここにあらずって感じでしたけど…」

「あぁ、心配をかけてごめんなさい」

「意識はあったのよね…?」

「みんなの会話はちゃんと聞こえてるし、目だってちゃんと見えてた。ただ、どれだけ体を動かしたくても…ってそれどころじゃないんだ!」

「ちょっ、いきなりどうしたのよ」

「さっき見たんだ、あいつの鼻が光ってるのを」

「鼻ですか…?光ってましたっけ⁇」

「いいえ、光ってなかったと思うけど」

「えっ…、じゃあ俺だけ………?いや、そんなことはどうでもいい。ここからは俺の推測なんだけど、きっとあいつの弱点は鼻だ」

「鼻ですか?」

「あぁ、思い出してみてくれ。あいつは胴を殴られても痛くもかゆくもないって感じだっただろ」

「確かにそうね。冬樹と光春がいくら本気で殴っても全く痛そうじゃなかったし」

「でも、葵が鼻先を殴った時だけは…」

「あっ!尻尾をまいたみたいにターゲットを冬樹さんに変えてました!」

「なるほどね…」

「これが本当に正しいのかっていう確証はないけど、試してみる価値はあると思うんだ」

「そうね」

「そうと決まれば、さぁ反撃を始めようか」


光春が見つめる先には、勢いよく走るターゲットとそれに追いかけられる友の姿があった。

本日も読んでいただきありがとうございます!

今年の夏は雨が多くて大変でしたが、なんと!そのせいか、蚊に刺されてません!

例年は毎回3箇所以上は刺されていて鬱陶しかったので、刺されていない今年はそういう意味では、過ごしやすかったのかもしれないです。でも、雨が長続きで近くの用水路が溢れそうなくらい流れていたのは怖かったですが...。

来年の夏はマスク外して外に外出できたらいいな、と願いつつ執筆活動を頑張りますので(?)、これからも読んでいただけたら嬉しいです♪

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