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桃(こうはく)~Hold hands with you~  作者: 4G
第1章 紅葉
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第14話

「なんか急に雲行き怪しくなってきたわね」

「確かにそうですね~。傘持ってないので降らないでほしいです~」

「なぁまだ買い物するのか…」

「ん?光春なんか言った?」

「流石に言うだろっ!20件目辺りから数えるのやめたぞ」

「そうですね~。じゃあ次行くところが最後ということでどうでしょうか~。お願いします冬樹さん、光春さん~!」

「いいのに紅葉さん。この二人は黙ってついてくるだけなんだから」

「流石に横暴だ!」

「まぁ…、ここまで文句は言いつつついてきてくれたし…。紅葉さんに免じて次で最後にしよっ」


女子の買い物は長いというけれど、葵は特に買い物好きで買い物が長いようであった。冬樹と光春はやっと終わりが見えたことに安堵し胸をなでおろすのであった。女子二人は最後の店を選ぶため冬樹と光春の前を少し早歩きでせわしなく左右に首を振っている。


「ありがとう光春…。葵に唯一立ち向かえるのはお前だけだ!」

「まぁいいって事よ。だけどこれは貸しな、今度昼ごはん奢ってその感謝を形にしてくれい」

「中華にフランス料理、寿司、焼肉、ラーメン、ハンバーガー!なんでも言ってくれ、命の恩人にはいくら返しても返しきれないぜ」

「まっまぁ考えとく」


だんだんと人が増えてきて、活気が増す通り。冬樹たちは揉みに揉まれやっとの思いでどうにか通りの端の方へ移動してくることができた。


「はぁはぁ…、急に人が増えてきたわね」

「もみくちゃですね~、ちょっと暑かったです…」


女子二人は日陰で汗をぬぐい、通りを行き交う人々を傍観しながら目の前の人込みについての感想を言い合っている。一方の男子たちはというと


「おい、紙袋がよれたり破れたりしてないだろうな」

「あぁ、自分の命よりも紙袋。さもないと明日の命はないからね」

「流石冬樹分かってるじゃないかっ!」

「それはこっちのセリフだよ光春っ!」


そうお互いに言葉をかけあいながら手をガシッとつなぐ冬樹と光春。熱い男同士の友情がそこにはあった。


「ひゃっ!」

「どうしましたか葵さん~。……ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


冬樹たちが感傷に浸っていると、そばで女子たちが急に悲鳴を上げた。人込みの注目が一気にこちらに集まってくるのが分かった。


「どっ、どうしたんだ⁈」

「ねねね、ねずみっ!」

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!」

「ねずみ?」

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!」


あまりにもねずみに驚いた紅葉は、飛び跳ねて近くにいた冬樹をがっしりとホールドした。


「なっ⁈」

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!」


(こっ、この感触は…。柔らかなお餅が二つ、腕を優しく包み込む感じ…)


冬樹は突然の出来事に若干驚きつつも、役得で柔らかな感触を楽しんでいた。


「ちょっ、冬樹!なに鼻の下伸ばしてるのよっ!冬樹のむっつりスケベ!変態‼紅葉さんもいつまでもくっついてないで離れる!」


うるさい葵を横目に、紅葉の背中をさすりながら冬樹が足元に目をやると、確かに小さなねずみが通りの端を駆けている。


「確か渋谷とその周りでは昔からねずみが多いはずだよ。ここにねずみがいるのもおかしい事じゃないね」

「光春の言う通りだぞ。ねずみ如きであんまり騒ぐなよ」

「ねずみ如きですって⁈」


冬樹の言葉が頭に来たのか、それともねずみで驚いてしまった照れ隠しなのか葵は言葉を荒げて冬樹に詰め寄った。


「いい、ねずみよ、ね・ず・み‼何がねずみ如きよ!言葉は十分に気を付けて欲しいわ」

「うぅっ、冬樹さんひどいです~」

「なんかごめん…」

「強く生きろ、冬樹」


なぜか理不尽に怒鳴られ、泣かれ、優しく肩をさすられる冬樹であった。気を取り直して一同は通りの散策を続け、長かったファッション街もいよいよ端っこに差し掛かった時、冬樹たちの目の前に人だかりが現れた。


「なぁ冬樹、あの人だかりって何なんだ?」

「さぁ?通りにイベントの告知とか特に貼ってなかったと思うんだが」

「ゲームのゲリライベントか何かかな」


人込みの方からは拡声器かマイクを使っているのだろうか、ひと際大きく女の人の声がしている。何かを説明しているらしいが、集まっている人々のがやのせいで聞き取れない。冬樹が人込みの事が気になって前を見ずに歩いていると、前を歩いていた葵が急に止まったので反応できずにぶつかってしまった。


「なんでいきなり止まるんだよ葵」

「…」

「…葵?」


冬樹が葵の顔色を伺うと、血の気が引いて真っ青になった葵の顔が冬樹の目に飛び込んできた。


「おい、どうしたんだ葵」

「何があった冬樹。とりあえず葵を道の端の方に」

「いや、大丈夫。ちょっと気分が急に悪くなっただけだから」

「それを大丈夫とは言わねーよ」

「冬樹…、あれ」


冬樹のツッコミに言葉を返さなかった葵が指さす先には、あの日渋谷で見たのと似ているステージと、あの時と同じモデレーターが立っていた。


「…っ!なんで…」

「どうしたんだ、二人とも」


光春と紅葉は急に顔色を変え黙り込む二人の身に何が起こったのかさっぱり分からない様子である。


「あれ…、あのステージは」

「ステージ?」

「渋谷で俺たちが襲われた時と同じ」

「NGの特別イベントのためのステージなの………」

「…っ!」


状況を理解した光春は、鋭い眼差しでステージを見つめる。紅葉もただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう、目線を下に落としじっとしている。


『皆さん、すでに運用を開始しているNG使っていただけてますか⁈』


そんな4人とは裏腹にステージではモデレーターがあの日と同じようにNGについて紹介している。ステージの周りを取り囲む多くの人々。その面々はNGがこれからつくる全く新しい世界を想像し、きらきら輝いている。


「おい冬樹、あの日…、あの日の渋谷ではこの後一体どうなるんだ」


道の端に移動し、遠くからステージの様子を見ている光春が冬樹にそう尋ねた。冬樹はぼぉっとステージの方を見ながら重い口を開いた。


「この後、モデレーターの掛け声に合わせて魔物が現れるんだ」

「でもこの通りには、この前のハチ公みたいな動き出しそうな銅像はないよな」


きょろきょろ辺りを見渡しながら、光春が冷静に考察し始めた。ステージの方では相変わらずモデレーターがステージを盛り上げている。


「とりあえずここから逃げよう。この通りは渋谷のスクランブル交差点みたいに広くないし、もしも魔物が現れたら逃げ場がなくなるかもしれない」

「そうだな…。葵、大丈夫か、少し頑張ってくれ」

「大丈夫ですか、葵さん?立てますか…」

「うん、大丈夫だよ紅葉さん。ありがとう」


3人に囲まれる形でその場にしゃがんでいた葵は、そう言いながら立ち上がった。少し弱っているように見えるが、いつの日かの彼女とは違ってその足取りはしっかりしていて、誰の支えも借りずに一歩前に踏み出せそうである。ぐーちゃんとぴーちゃんの一件が彼女を強くしたのは間違いないであろう。


「それじゃあ急いでここを離れよう」


光春の先頭に、群衆を横目に見ながら通りの出口を目指す一同。その時、群衆のボルテージが上がり、ひと際歓声が大きくなった。


『それでは、今回のスペシャルクエストはこれだぁぁ!』


ボルテージの高まった観客の歓声にも引けを取らないモデレーターの掛け声。冬樹はその言葉の意味を知っているがために、通りの出口を目指す足がまた一段と速くなった。そんな冬樹の足取りの変化を敏感に感じ取った光春は、歩くスピードを冬樹と合わせ声をかける。


「おい冬樹。もしかしてさっき言ってた掛け声って」

「あぁ、今のクエストコールのことだ」


そんな冬樹たちの後ろのステージ上に現れたのは、小さなねずみであった。


「なんだ、スペシャルクエストって言うからかっこいい敵モブがでてくるのかと思ったらねずみかよ」

「期待して損した」

「どうする、帰る?」


盛り上がっていた観客の一部からは、拍子抜けのスペシャルクエストにがっかりする声があがる。帰り支度を始める人もちらほら。冬樹と光春は足早に通りの出口までたどり着いた。しかし後ろを振り返ると、ついて来ていたはずの葵と紅葉の姿が見えなくなっていた。


「おい葵と紅葉さんは⁉」

「さっきまでついて来てたと思ってたんだけど…」


辺りを見回す冬樹と光春。しかし、クエストの開始が高らかに宣言されたイベント会場が近い事もあり、人が密集しているので葵と紅葉の姿を見つけきれずにいた。時折名前を呼ぶが、大歓声にかき消されその声は届かない。他の人からすれば刹那な時間であっただろうが、冬樹と光春にとっては永遠に感じられるほど長い時間であった。


「おい、あれじゃないか」

「どこだっ!」


光春の指さす先には、人波に揉まれながらこちらに向かってくる葵と紅葉の姿があった。

葵と紅葉にも二人の姿が見えたのであろう、二人の姿を見つけた女子二人は安堵の表情になった。


「おーいおーい」


冬樹は体全身を使って居場所を葵と紅葉に伝える。その時、空から何か大きなものがステージ前目掛けて振ってくるのを冬樹は見逃さなかった。その巨大な影は、ステージ前にいた大勢の人をクッションにするかのように着地した。言葉では言い表せないような音が鳴り響き、辺り一面は赤い海となり、通りの至る所に肉片が飛び散った。冬樹の足元に何かが転がってきたので、冬樹は目線を下に落とす。


「…っ!」

「どうしたんだ、冬樹…。うっ」


光春は目の前のあまりの凄惨な光景に吐き気を抑えられずその場で嘔吐する。冬樹の足元には冬樹の事を一点に見つめる胴のない首が転がっていた。踏みつぶされなかった人々も、目の前で起きたことが一瞬理解できなかったようだが、すぐにパニックは人々に伝染していき、収集が付かなくなる。大きな影は足元をしきりに確認して自分がけがをしていないのを確認すると、その喜びを辺りを駆けまわる事で表現した。


『今回のスペシャルミッションは巨大ねずみの討伐です!みなさん力を合わせて頑張ってくださいね』


悲惨な光景を目の前にしてもなお変わらない、モデレーターのハイテンションアナウンスがイベント会場を包み込む。それを合図にねずみはゆっくりと一歩を踏み出したのであった。

次から苦手な戦闘シーンに入るので、しばしお待ち下さい...。

できるだけ早く上げたい!

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