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桃(こうはく)~Hold hands with you~  作者: 4G
第1章 紅葉
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第13話

ペース戻しますよ!

「あっ、二人が帰ってきました~」


そう言いながら手を振る紅葉の先には、ハチ公像の様子を見に行った冬樹と光春の姿があった。


「お疲れ様でした~、どうでしたかハチ公の様子は」


戻ってきた二人を手厚く迎える紅葉。けれども、その無邪気な笑顔とは裏腹に冬樹と光春の表情は冴えないものであった。二人の顔色を見て葵が口を開く。


「いっつもバカしてる二人がそんなお通夜みたいな顔しているという事は、なにかあたしと紅葉さんに言いづらいことがあるってことよね」

「あぁ、やっぱりハチ公像はあそこからいなくなっていた」

「それって…」

「紛れもなく冬樹と葵が体験したことは現実だったってことだよ。これで、この瓦礫の山が何か自然災害で生じたものではなくて、ハチ公が大暴れしたときの物だってことでほぼほぼ間違いないだろうね」

「そう…」


冬樹と葵はわずかながら悪夢を見ていたという希望を捨てていなかった。けれどもその希望はこの瞬間儚く散った。続けて冬樹が、


「あとやっぱり、俺たち以外の人はハチ公がいなくなったことに気がついていないらしい」

「それも大きな謎だよね」


4人の間に気まずい空気が流れる。渋谷の街はそんな4人を取り残すかのように、今日もせわしなく人々が行き交っている。


「まぁここで突っ立てても何も始まらないし、冬樹の家に帰ろうか」

「そうだな…」

「途中、寄りたいお店があるんだけどいい?紅葉さんに服買ってあげたくて」

「服ですか⁈嬉しいです~!」

「えぇっ、女子の買い物って長いじゃんかぁ」

「何か言った光春?」

「ナニモイッテナイデスヨ」

「よろしい!それじゃあ行こっか」

「は~い!」


そう言いながら葵の後に続いて元気よく駆け出す紅葉。一方の男たちはというと


「相変わらずあの目力…。あんなので睨まれて、詰め寄られたらちびっちまうよな…」

「とはいいつつ流石だよな。葵に蹴られないだけましだろ」

「お前は蹴られるのか」

「あぁもちろん日常茶飯事」

「お前も苦労してるんだな…」

「お互い強く生きような…」


そうお互いが励まし合いながら、がっちりと抱き合う男二人。人が込み合っている渋谷の街にぽつりと人口密度2人の空間が現れた。人の流れが二人を中心に広がって、また収束する。


「どうして冬樹さんと光春さんは抱き合っているんでしょうか~?」

「バカ二人は置いていきましょ」


――――――――

―――――――ー


「うわぁっ!服屋さんがいっぱいです~」

「いいでしょいいでしょ。ちょっと紅葉さんと服選んでくるから二人は店の前で待ってて」

「俺たちに自由はないのか…」

「強く生きような光春」


一通りお決まりの流れをこなした二人は、葵と紅葉が入って行った店ををぼぉっと見つめながら話始めた。


「この前の話の続きだけどさ」

「…ん?この前…、いつのことだよ」

「具体的には今朝だな」

「今朝…?」

「葵と紅葉さんどっちが本命なんだって話だよ。なんだもう忘れちまったのか?」

「ばっ!だからそんなんじゃねぇって」

「んな訳あるか。いいか、思春期の男子が可愛い女子二人と同居生活だぞ!なにも起こらないはずもなくだろ!!」

「実際何にも起こってないけどな」

「葵は怖いけどおねえちゃんキャラでぐっとくるよな。あのたまに睨んでくるあの眼付とかたまらないよな!」

「おーい、キャラ見失ってるぞー」

「紅葉さんの印象は、ほんわかゆるふわ系美女だ!あのどこか異国情緒漂う顔つきと髪の毛。そそるよな!」

「おーい、後悔する前にその辺でやめとけ。もう大分終わってるけど…」

「うーーーん…。優劣つけがたい!で冬樹はどっち派なんだ⁈」

「いい加減にしろ光春」

「いい加減にするのはお前だぞタラシ」

「いや俺の名前タラシじゃなくて冬樹な」

「思春期の男女が一つ屋根の下、なにも起こらないはずもない事もない事もない事もないだろ」

「いやどっちだよっ!」

「いつまでも決めかねて、のらりくらりとしてると背後から刺される…なんて事もあるかもしれないぞ」

「物騒な…。第一あの二人がそんなことするはずないだろ」

「いいか冬樹、ご飯と色恋沙汰には気をつけろ」

「真面目な顔して何言ってんだこいつ。てかご飯と色恋沙汰が同価値ってどういう世界線だよ」

「でっ、結局どっちなんだ。もうはぐらかすのは無しだぞ」

「………あの二人とはそういう関係じゃねぇよ」

「なんだなんだ今の怪しい間は!いいから教えろよ、男と男の約束にするからさ」

「お前の言う男と男の約束ほど信じられない物はねぇよ。はい、この話はおしまいな」

「ぶぅっ、冬樹のけちっ」

「お前はメンヘラ彼女か」

「とまぁ、ふざけた話はこの辺にしておいてここからは真面目な話な」


そう言いながら光春の表情はきりっとした真面目なものになり、目線を店から東京の殺伐としたビル群へと移す。冬樹もつられて目線をビル群のほうへやった。


「紅葉さんのことどう思う」

「おいっ!真面目な話っていうから何かと思えばまだそれかよ。もうその話は終わりって言っただろ」

「お前の頭の中は真っピンクだな。俺が言いたいのは紅葉さんが一体何者かっていう話だよ」

「あっ、そういう話か…。すまん続けてくれ」

「とりあえず今朝聞いた話を整理すると、紅葉さんが道端で寝ているのをお前と葵が助けて保護した」

「あぁ、最初は葵の家に居てもらってたんだけどぐーちゃんとぴーちゃんの一件があってから、葵含め二人をうちに住まわせてるんだ」

「それで、紅葉さんは自分がどこから来たか、どうしてあんなところに一人で居たかを全く覚えていないんだよな」

「あぁ、それに加えて常識っていうかがたまに抜けてるんだよな。スーパーを知らなかったのが一番ショッキングだった」

「つまり紅葉さんについて不可解なことが多くあるって事だよな」

「そういう事だ」

「彼女は一体どこから来たんだ。多分だけど外国の人のような気もするが…」

「俺はてっきりハーフの人って思ってたんだけどな」

「確かにその線も切ることはできないな。ただ、知っていることと知らないことがあるってのも気になる所だよな」

「と言うと?」

「まぁべただけど、記憶喪失の人物が登場する小説を考えてみてくれ。こういう人って大抵自分がどこから来たのか、どうやって来たのか、家族構成はどうなのか、自分の名前は何って言うのかという感じで自分に関することはその多くを忘れていることが多いだろ」

「確かに、言われてみればそうだな」

「例えばの話だからあまり深く考えなくてもいいんけど、冬樹はメタ記憶ってのを知っているか」

「メタ記憶…。なんだそりゃ」

「知っているいう記憶の事なんだけど…、その顔は分かってないな」

「何言ってんだお前、頭とち狂ったか」

「ちげぇよ。そうだな…例えば冬樹が犬苦手って言う事実があるだろ」

「あるな、この間の一件で余計無理になった」

「その事実を冬樹の脳が記憶として保管するだろ。この時そのファイルにラベルとして『犬キライ』と貼ったとしよう」

「バカ丸出しのファイル名は置いといて、記憶を分かりやすいように整理しておくってことか」

「まぁ、そんな感じだ。この時『犬キライ』をどの棚の何段目に収納したか記録する。これをメタ記憶って言うんだ」

「なるほど…、でっそのメタ記憶がどうしたんだ」

「もしも紅葉さんの身に何かが起こってそのメタ記憶を呼び起こせないなんてことになったらどうなる」

「…っ!覚えてるってことを忘れるのか」

「そういう事だ。だから紅葉さんの記憶は完全に失われたわけではないとすると」

「どうにかして紅葉さんの記憶を復活させることができるかもしれないって事か!」

「そういう事だ。まぁ、これは自分たちの都合のいいように紅葉さんの身に起こっていることを解釈したに過ぎないから実際のところは分からないけどな」

「いや、すこしでも希望があるのとないのじゃ大違いだ。サンキュー光春」

「あんたたち何の話してんのよ」

「いやっ、男と男の秘密さ。なぁ冬樹」

「そうだな光春」

「へんな奴ら。まぁ気を取り直して次いこっ!」

「ちょいちょい待ってくれ。この店で結構長い事見てたよな」

「そうなんですけど、あまりいいのが見つからなくて~」

「そういうわけだから口答えしないでついてきてよね♡」

「語尾にハートマークがついてそうなのに、全然可愛くない」

「蹴られたいの♡?」

「滅相もございません」


そんな会話をしながら一同は次の店に移動し始めたのだった。

実家って素晴らしい...

執筆がんばりまする!

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